光範、ミスをする
南美との話の食い違いが起きて……!?
33話です
南美は怪訝な表情を変えずに、ただ僕を眺めていた。
「や、だって昨日……」
「昨日、私は学校からアパートに戻ったきり、外に出ておりませんよ?」
「え!?」
そ、そんな馬鹿な! 昨日は確かになーちゃんと夜の散歩をしたはず……!?
「でも……」
「さぁ、寝ぼけてないで、起きて下さい。お食事出来てましたよ」
「そうよ。ミー兄、早くリビングに行こー」
「お、おう……」
二人にそう諭され、僕はまだ腑に落ちない状態のまま朝ごはんを食べに行った。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……。
「さて本日のHRはいよいよ待ちに待った学生の大切な行事である体育祭、文化祭だ! それを成し遂げるためにはまず役割を決めて、各自が責任を持って、体育祭、文化祭を懸命に取り組んでいこう! じゃあみんな張り切ろー!」
「おぉー!!」
クラスの委員長でまとめ役である峰岸君が壇上から拳を握り締めながら熱く喋って、クラス中のみんなが盛り上がる。
「では皆さん高校2年生での体育祭、文化祭に相応しい節度を持って、心に残るように頑張っていきましょ~」
「はーい♪」
一方副委員長である南美が峰岸君とは対照的に優しく接すように言うから、男子達が息を揃えて返事をする。
そして実行委員がそれぞれ決まり、今日の授業は終わった。
「あーあ、まさか文化祭の装飾係に選ばれるとは……」
「私とも一緒にするのですから、良いではありませんか」
「あぁ、それは…、まあね……」
しかしやはり昨日の引っかかる。夢ではなく僕は確かに彼女とデートした。しかし彼女の表情から嘘をついているとは到底思えない。一体どういうことだろうか。まさか……、と思い後ろを振り向くと佳純がニコニコした表情で僕に笑顔を返してくる。
まさか……ね。
そして夜、自分の部屋で本を読んでいる時だった。とんとんとノックの音が聞こえた。
「はーい」
「光範様…」
「あぁ、なーちゃん。どうかした?」
「文化祭のことについてです…」
「ん?」
「もしかしてお困りごとがありませんか?」
「え? ……それはあるけど」
「やはり! なんについてです?」
「壁に貼るリボンの買いつけとかだよ。普段買わないからどこに売ってるか皆目分からなくて……」
「もし宜しければ私が買っておきましょうか?」
「本当かい!?」
「えぇ、明日にでも買っておきますわ」
「いやー、助かるよ! これが文化祭で使う僕の担当分の飾りのリストだっ。一応〆切は明後日までだから頼む」
「はい、分かりました」
「あ、じゃあもし良かったら、明日僕も付いていく……」
「こういうのは私としての務め。一人で十分ですので、光範様はアパートで待ってて下さいな」
「え? あ、うん……」
「では、光範様~。また明日~」
「うん、分かった……」
僕は誰もいないドアにぽつんと眺めて手を振るだけだった。
そして時はぐるぐると過ぎて、あっという間の明後日の放課後、
「はーい、装飾班集まってー」
南美の号令とともに装飾班は集まる。別の女子が各担当で買ったものをまとめて整理していると、
「あら?」
一人の女子が不思議そうに声を上げる。
「どうかした?」
「岸田君の分だけまったくないわ」
「え? なーちゃんに頼んでたはずなんだけど?」
「え?」
南美は目を丸くしてこっちを見る。まるでなんのことか分からない目で。
「な、なんのことか存じ上げないのですが……?」
「へ!? な、なんだって!?」
僕はこの現状に焦って、つい南美に詰め寄った。
「だ、だって一昨日の夜、僕の部屋に来て、買っておくって言ってくれたじゃないか!?」
「私、一昨日の夜は光範様のお部屋には近づいてませんけど……」
「な、なにいーー!?」
いや、確かに絶対に来た! しっかり我が脳裏に深く残っている! し、しかし南美の目も嘘をついたようには見えない。一体どうなっとるんだ???
「おい岸田っ、許嫁だからって南美さんに責任を押しつけて、自分は責任逃れするつもりじゃないだろうな!?」
「い、いや……まさかそんな……」
「そうよ、そうよ! 南美ちゃんが許嫁だからってちょっと甘えてんじゃない!?」
「いや、違うよ……!?」
装飾班の彼らが睨みを効かして僕を見る。困った、一体どうすれば……。
「お待ちなさい!」
と、むかいから大きな声を上げたと思ったら、キリッとした南美が彼らに向かって放った声だった。
「光範様が貴方達にご迷惑をかけた分、光範様の許嫁として深く謝ります。申し訳ありません……」
「な、南美さんっ」
「そ、そうよ。南美ちゃんが謝ることではないわ!」
「……しかし今から私と光範様が買ってくれば済む話です。そして今あるもので装飾は出来るので、余った人達は各自準備に取りかかって下さい」
「……はい、分かりました」
(なーちゃん……)
僕は一度でも南美を疑った自分に恥じた。南美が僕を陥れることをするはずがない。じゃあ、あの南美はいったい誰だ?
そして僕は食い違いか起きた前後の南美のことを思い出し、なにか違和感のようなものがなかったか懸命に考え始めてみた。しかしまだこの時はどこからか見ている彼女の目線には一切気づかずに……。
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