妹・佳純
佳純とは一体……?
26話です
「……佳純が?」
「えぇ。それになんかイメチェンもしてたし、なに企んでいるか知らないけど、気をつけてね」
「……」
「?」
さっきと打って変わって深刻な顔になる南美だった。
そして僕達4人も帰りの電車に乗って、自分達の町内に戻る。
「あー、尾行も大変ねー」
「けどスパイみたいでちょっと遊んじゃう」
「えー、何よそれー?」
僕は前を歩く二人の話を聞きながら、僕の隣を歩く南美を見る。しかし彼女は暗い表情で、茫然としていた。さっきの名を聞いてからずっとだ。
「なーちゃん、なーちゃんってば」
呼びかけても彼女は返事がない。魂が抜けている感じだ。だから僕はさっきより大きな声で彼女の名を呼ぶ。
「なーちゃん!」
「……は、はいっ!?」
「大丈夫か、なーちゃん?」
「光範様……」
彼女はただ不安そうにこっちを見ているだけだった。これは絶対何かある。
「どうかしたか? あれから元気がなくなって。困ったことがあるんなら、相談にのるぞ?」
「……」
しかし彼女は何も言わない。そして大きい声を出したからか、留美も結美も振り替えってこっちを見ている。
「……大丈夫です。何もありませんよ」
彼女は無理にニコリと笑う。何もないはずはないのだが、話したくないのに、無理に訊くのも良くない。
「……分かった。けど困ったことがあるならいつでも言ってくれ。許嫁同士だろ?」
「……はい」
「?」
そして2人と分かれ、留美と部屋に帰る。
「南美さんどうかしたの?」
「さあ、僕には分からん」
「ふーん」
「さ~て考えていても仕方ないし、飯食おう。飯!」
「うん♪」
僕はモヤモヤを抱えながら、彼女とを仕切っている隣の部屋の壁を見る。
◇◇◇
そしてご飯を食べた後に僕は自分の部屋に戻り、いつものようにネットサーフィンをする。しばらくすると、スマホのバイブが鳴る。見るとそこには、『上村南美』と名前が表示されたチャットが届いていた。内容はこうだ。
『私の部屋に来てください』
こ、これは……お誘い!!??
僕は急いで風呂に入り、色んなところを綺麗にし、南美の部屋のチャイムを鳴らした。
「はい……」
「や、やあ。なーちゃん(出来る限り出したイケボ)」
「お入りください」
「うん!」
彼女の部屋に入るのは、彼女がこの部屋に引っ越しした初日以来入ってなかったな。なんというか和風なつくろいの部屋になっているな。うぅ、なんか緊張する。これはど、ど、ど、童貞卒ぎょ……。
「……光範様」
「はひっ!? …ど、どうしたなーちゃん? え、いや~、なーちゃんの部屋に久しぶりに来たが、とても良いつくろいをして……、え……!?」
彼女は僕の顔をじっと見たと思ったら、床に三つ指をつき深々と頭を下げた。
「いままでちゃんとお伝えしてなくて、申し訳ありませんでした」
「え!? いや何の話!?」
「佳純のことです。あの子のことどこまで覚えてますか?」
「えーっと、どこまでって……」
いや、それが全然覚えて……あ、そう言えば、
「時々、なーちゃんの話の中で出てきたような……」
「はい、その子です」
えーと、てっきり南美の小さい頃からよく遊ぶ友達という印象だったが……、
「なーちゃんの友達……違う?」
彼女は頭を横に振る。
「やっぱりまだ気づいてなかったんですね……。私の実の妹です」
「あー、そうか、そうか。妹か~。……え?」
妹……妹? 南美の? いや、確かに妹がいるとは彼女から聞いていた。聞いていたが……、
少し時間を遡って、南美の彼氏を装った事件が解決してからしばらく後の話だ。
「そう言えばなーちゃんに兄弟っていたっけ?」
「え? 覚えてないんですか?」
「えとー……?」
「……」
「なーちゃん?」
「……妹が一人です」
「あー、そうだっけ? 名前は?」
「名前ですか? 名前は~……」
「?」
「秘密です♪」
「えー、なんでさ~?」
「そうですね~。私の家族……も覚えてない光範様がいけないからですよ~」
「えー……。あ、待ってよっ。なーちゃ~ん」
それから僕は色々思い出そうとしたが、名前の「な」の字も思い出せず、もう諦めたんだった。
◇◇◇
「どうして……」
「どうして言わなかったのか……ですね」
「まぁ……」
「私もいまいち分かりません。ただ……」
「……」
「部屋に帰ってずっと自問自答していると、光範様が佳純とも一緒に遊んだことを思い出して、……なんかそれで佳純……になぜか妬いている自分がいて……」
「……」
「それでいままで誤魔化してました。申し訳ありません!」
「……」
「……怒って……ますか?」
「……」
「光範様……?」
「いや、いま言ってくれてすっきりしたよ」
「光範様……」
彼女は僕の顔を見てほっとした顔になる。
「それで、あの……せっかく私の部屋に来たのですから、……その、少し遊びます?」
「いや、ちょっとやること思い出したから今日は帰るよ」
「……そうですか。分かりました」
そして僕は南美に見送られて部屋を出る。部屋に戻りながらあることを考える。彼女の会話と表情の違いに一つの疑念が湧いたからだ。それは、
『じゃあなぜ彼女はあの時に妹の名前を聞いて、あそこまで深刻な顔になったのだろうか』
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