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寝不足シンクロ

 「ふぁーあ」


 朝、柊に合わせていつもより早めに登校した俺は、教室に入ってすぐに欠伸が出た。

 寝ずにずっとゲームをしていたのだから、当然寝不足というか寝てない。

 わざわざ寝てないアピールをするのはダサいので口に出したりはしないがこのまま授業を受けたらそのまま1度も起きることなく、1日過ごせる自信がある。


 「また昨日でたアレで徹夜したな? 風馬」


 頬を叩いて眠気を吹き飛ばしているとそこに友人の安田が話しかけてきた。

 安田は高校入学の時からの知り合いで同じゲーム好きという共通点から仲良くなって、そのまま2年でも同じクラスになったので関係が継続している。

 ちなみに性癖は極度の制服フェチ。

 この辺の可愛い制服はもちろん、全国の可愛い制服まで網羅しているらしい。

 語らせると長くなるのであまり触れてはいないが制服を着ていればたとえ60過ぎていても行けると豪語している。


 「そうだが? 安田、お前だって似たようなもんだろ?」

 「否定は出来ないけども、オレは2時には寝た。今日の一発目は寝不足にはきついしな」

 「まじで?」


 なんていつも通りの会話をしていると、教室の前の方の女子達の会話が耳に入ってきた。

 柊を中心とした女子トップカースト。

 今は3人しかいないがもう少しするとあれが5人に増える。

 美少女達が集まって仲良さそうにしているのは陰キャ寄りの男子たちの密かな癒しらしい。

 

 「アレ? ひなっちシャンプー変えた?」

 「えぇ!? あっうん、そうなんだ。アヤの鼻はほんとになんでも嗅ぎ分けるねぇ」

 「うへへぇ。ひなっちに褒められた!」

 「雛ってこの前シャンプー買ったばかりじゃなかった? 安売りのバラの匂いのヤツ。なんかシャンプー安かったってメッセージしてきたもんね? ……でもこれミント系の匂いぽいよね」

 「ひなっちからする匂いならなんでもいい匂いだよ」

 「ぎくっ」


 ミント系の匂いのシャンプーはもちろん俺の家に置いてあったシャンプーだ。

 一人暮らしする時に母さんが一通り揃えてくれたものと同じものをひたすら買い続けている。

 シャンプーの善し悪しなんてよく分からないし。

 それしかないから柊も必然的に同じものを使う事になる。

 柊は無駄な出費は避けようとしていたので昨日の買い出しではシャンプーは買ってない。

 そもそも欲しいとも言われてないし。

 しかしシャンプーの匂いで環境が変わった事がバレそうになるとはな。

 今日の放課後、柊を説得して別のシャンプー買うか話して見るか。


 「今、ぎくって言った?」

 「そんなことないよ、カレン。そうそうこの匂いのシャンプー、ふぁーあ。あっ」

 「まぁ大きな欠伸。目の下にクマもあるし雛もしかして昨日寝てないの?」

 「寝付けなかったの。色々あって」

 「バイト?」

 「ううん違うよアヤ。家の方」

 

 「おーい。風馬!」

 「おおっなんだ安田?」

 「お前柊さんの事、見すぎじゃないか?」

 「そんなに見てたか?」

 「もうガン見だよガン見。もしかして風馬も制服美少女の魅力に気づいたのか? だとしたら熱く語り合おじゃ……」

 「予鈴なりそうだし席につけよ」


 俺は制服美少女より、制服から私服に着替えてくるギャップの方が萌えるわ。

 とか返しても良かったんだが、制服マニアに真正面から喧嘩を売る度胸はない。

 安田のヤツ制服をバカにされた時だけ馬鹿力出すからなぁ。

 

 1時間目の社会の教師は催眠術師のあだ名を持つ中年の男だ。

 ゆっくりとした喋りとひたすらに続く板書で寝る人が続出した事からつけられたあだ名。

 教師の説明をして俺が一体何を言いたいかと言うと……そう寝不足にこの催眠術師はきついってことだ。

 しかもこの催眠術師自分から寝かせる癖に寝るとめんどくさいぐらい起こしてくるし、その場ではあんまり怒らない癖に担任にはしっかり報告するから、放課後担任からネチネチ怒られるのだ。

 担任は妙に説教好きなようで1度説教が始まると長い。

 クラスで最長2時間程熱い説教を食らったやつがいたが地獄だと語っていた。

 なので寝る事は放課後を失わないためにも許されないのだが、今日はまずい。

 眠気で瞼がだんだん降りてくるのを止められない。

 既にカクンカクンと首が動いているのを自覚しているけど、気力だけでは持ちそうもなかった。

 そんな極限状態の中眠気が飛ぶような鋭い大声が教室に飛んだ。


 「あれ? 柊さーん 柊雛さーん。おはようございます。はい集中して」


 同じく徹夜をしていた柊が堂々と机に突っ伏して寝ていたのだ。

 普段柊は授業中に寝ないからか頬にはしっかり枕にしていた腕の形に赤くなっているし腕には机の跡がついている。


 「はっ、すみません」


 柊は恥ずかしそうに身体を起こすと真っ赤になりながら背筋を伸ばした。

 するとクラスからどっと笑いが起きる。

 人気者限定の空気だ。

 これが俺だと一斉に睨まれる。

 それかシーンとして地獄みたいな空気が始まる。


 「眠たいなら立って授業受けますか?」

 「大丈夫です。今ので目が覚めましたから」

 「本当に大丈夫? 言いましたからね? 次寝たら強制的に立って貰います」

 「はい」


 なんて恐ろしい会話を聞いて寝る勇気は出る訳もなくシャーペンを手に刺しながら何とか耐える。

 こうなったら自販機でコーヒー買うか。

 でないと放課後には手がシャーペンの芯で真っ黒になってしまうし、怒られまくる事になりそうだ。

 終わったらコーヒー終わったらコーヒー。

 そう唱えつつ頑張る。

 

 「今日はここまで」


 号令を合図に俺は飛び出した。

 数名のクラスメイトに変な目で見られようとも構わない。

 この時俺は気分は音速だった。

 

 1階にある自販機にたどり着くと小銭を入れてブラックコーヒーを買いそのまま口に流し込む。

 舌に残る嫌味なまでの苦味が程よく目を冴えさせてくれる。

 脳内がだんだんクリアになって行く気がする。


 「東君」

 

 脳が覚めたことで耳も良くなったのか、遠くから小さな声で聞こえた自分の名前に素早く反応出来た。

 振り向くと歩きながら柊がこちらに向かってきている。


 「柊? どうかしたのか?」

 「どうかしたのじゃないわよ。誰かさんのおかけで私も寝不足なのに、1人で美味しくコーヒー飲んじゃってさ」

 「教室内では今まで通りにする決まりだろ? 柊は生活を大きく変えたくないって自分で言ったんじゃん。だから俺がコーヒー飲むけど一緒に行く? とか誘えないだろう?」

 「分かってるわよそんなこと。言ってみただけ」


 柊の顔は不満に満ちていた。

 はぁ。そんな顔されると俺が悪いことしてるみたいだな。


 「わーったよ。コーヒー奢るから」

 「ほんとに? 私カフェラテがいい!」

 「はいよ」

 

 言われるがままにカフェラテを購入し柊に手渡す。

 柊は嬉しそうに受けるとちびちびと飲み出した。

 ブラックコーヒーを飲み一心地ついたところだが、何故か口が大きく開く。


 「ふぁーあ」

 「ふぁーっあ。あっ、今シンクロしたね」


 柊と俺は揃って欠伸をした。

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