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地獄の買い出しは続く

 ランジェリーショップから出た時には俺の精神は限界を迎えていた。

 女だらけの空間に男は俺1人という辛さもあるが、さっきからちょくちょく柊がイタズラというか反撃というかを仕掛けて来るせいだ。

 電車で不自然に抱きしめたことのは悪かったと思う。

 しかし、あれ以上会話を続けていれば買い出し前に喧嘩になっていたかもしれないからあれでいいはずだ。

 

 「もー、次いくよ? というか本番はここからなんだから」


 ところが柊があまりそういうのを気にしている様子はなく、買い物が楽しいのか若干はしゃいでいるように見える。


 「はいはい。そんなに慌てなくても商品は逃げたりしたないだろに」

 「何言ってるのよ。時間は有限なのよ? 全く東君ってば早く早く!」

 

 腕を引っ張り急かす姿は高校生と言うより子供だ。

 ちょっど今やってきた親子のお父さんも娘に腕を引かれて服屋に入って行くのが見えた。

 そのお父さんも俺と同じように困ったような少し嬉しいような表情をしている?

 余計にその子と柊が少し似てるせいか余計にそう思えるのだ。


 「もう勘弁してくれよ」

 

 腕を引っ張られ、到着した店は先程のランジェリーショップとはまた毛色が違う女の子向けの服屋だ。

 さっきのが大人向けのセクシー路線が強めだとしたらこっちはどちらかと言うと中高生向けの服屋なのだろう。

 大人が着るには少し子供ぽい印象のデザインのファンシーな服屋だ。

 実際こんなヒラヒラした服を来て歩いているやつ見たことないけどな。


 「ねぇ東君。私今これしか着る服ないって知ってて意地悪言ってるの?」


 顔が怖いっす。

 柊はどうしてもここの服を着たいのか1歩も動けく気配がない。

 ファッションに疎い俺は服なんて着れればなんでもいいと思うタイプなので、こういうブランド服を着ることはほとんどない。

 しかし女子は女子でファッションに並々ならぬこだわりがあるのかもしれない。

 柊にとって服が重要だと言うなら、ここは男らしく寛容に認めてあげるべきだろう。


 「いや、いいんじゃないか? うん。なんかこう……な? うん。いいよ」

 「全然いいって思ってないでしょ? 顔に出てるから」

 「あーすまん。こういうの疎いから。あれとか全く良さがわからん」


 指をさしたマネキンは天使のコスプレみたいなデザインの服。

 羽をモチーフにしたであろうスカートは無駄にモコモコしていて歩きづらそうだ。

 服ってが歩行の邪魔になるとか論外だろ。

 そう思ってしまう。


 「いいよ。私もちょっとノリで見てみたかっただけだし。それじゃあ改めて隣、行こ?」


 そんなわけで一旦のボケを挟まれやっきて来たのは普通の女子向けの服屋である。

 店内は照明ピカピカで目が痛い。

 しかも店員がめちゃくちゃ話しかけて来る。

 俺にじゃなくて柊になんだけど。

 美少女を着せ替え人形にしたい店員は多いのか、最初1人の新人らしき店員だったのが、手の空いたその先輩が加わって、最終的に店長がやってきてちょっとしたファッションショー状態だ。

 試着室から柊が出てくる度におぉと、歓声が上がっているが、俺は何がどうなってるのか理解出来ないので完全に蚊帳の外だ。

 途中何度か柊から助けて欲しそうな顔でこっちを見ていたが、彼氏さんも彼女さんの可愛い姿見たいですよね? と圧をかけられ黙っているしかなかったので許して欲しい。

 

 「これもすごくお似合いですよ!」

 「あははっ、ありがとうございます。私そろそろ」

 「店長在庫ありました! これどうですか?」

 「いいじゃないの! 是非これも着てみてくれないかしら? 着てくれたらさらに割引させてもらうわ」

 「わ、割引ですか!? もちろんです」 

 「こんな美人な子に来てもらえればいい宣伝になるわぁ。ちょっとちゃんと撮りなさいよ!」

 「す、すいません」

 

 柊は柊でよく分からないうちにすっかり手懐けられて着せ替え人形受け入れてるし。

 しかもいつの間にか撮影会になってるし。

 なんだこれは?


 地獄のファッションショーは1時間半程続いたが、おかけで服の代金が半分ほどになった。

 どうやら柊に服を着てもらいその写真を宣伝使わせて貰う代わりに服の代金を安くしてくれたらしい。

 蚊帳の外なんで会話の流れから推測だけなのだが。


 「ふぅー、なんかいっぱい着替えたからお腹空いちゃった」

 

 安く服が買えて嬉しいのかランジェリーショップから出てきた時よりさらにテンション高く柊は言う。


 「まぁあれだけ動いたら腹も減るよなぁ」

 「そうなの。もうお腹ペコペコだよ」


 1時間ぶっ続けで、早着替えとファッションショーをしていたのだからお腹が空かないわけは無い。

 まだ11時半と昼食をとるには少し時間的には早いが、柊がもう空腹の限界を迎えそうなので、昼食をとることにした。


 「それじゃあ昼メシにするか」

 「賛成! あっそれなら私行ってみたい店があるんだけど……」



 デパートの最上階にはレストランが密集するエリアがあるのだが俺たちはそのデパートから出て、近くの牛丼屋に来ていた。

 お昼前だと言うのに席の半数程が埋まっていて、店員は忙しそうにデーブルを拭いたり空いた食器を片付けたりしている。


 「なぁ? ここまで来ておいて言うことじゃないが、ほんとにレストランじゃなくていいのか? 遠慮しなくても良かったんだぞ?」

 「私は純粋にこの牛丼と言うクラスのみんながよく話題にする食べ物を食べてみたいの。何故かみんな私と遊ぶ時には絶対行こうとしないんだもん」 


 そいつらの思考は何となく共感できる。

 女子同士で牛丼を食べようなんて思考になることはあまりないし、男子は男子で学園のアイドルと遊べるチャンスと張り切るから牛丼よりはファミレスとかの値段が高い方に見栄を張ってでも連れていくのだろう。

 俺も好きな女子と万が一遊んでいる時に飯の流れになったら牛丼屋に行こうとは思わないし。

 そうなると学園のアイドルとは縁遠い場所と言える。

  

 「いいならいいんだけど」

 「早く店の中に入ろうよ」

 「ここ食券式だから」

 「あっ、し、知ってたもん」


 この反応は券売機を知らないのか?

 電車に乗った時は普通に切符買ってたし知らないわけはないと思うんだけど。

 少し疑問が浮かんだ所にぐーっとお腹のなる音がした。

 今この場にいるのは俺も柊のみ。

 俺はまだ空腹ではない。

 まぁこれ以上は追求するは可哀想なのであえて言わないが柊はお腹を抑えて顔を真っ赤にしている。


 その後券売機で牛丼並と大盛り生卵つきを注文して席に着く。

 すぐに店員に半券を持っていかれ素早く並盛がやってくる。

 毎回疑問に思うんだが、並盛の牛丼ってなんでこんなに出てくるの早いんだ?

 

 「おぉーこれが牛丼! 匂いが染みる」


 鼻をヒクヒクさせ匂いを嗅ぎまくる柊だが一向に食べようとしない。


 「食べないのか?」

 「こういう時は揃ってから食べるべきでしょ? というか私は一緒に食べたいもん」


 天然でもそういうことは言うんじゃありません。

 さすが学園のアイドル。

 無自覚に人を堕とそうとしてくる。

 

 「俺の方が食べるの早いから先食べててくれないと俺が待つことになるんだが? 昼メシ食べた後も買い出しは続くんだしさ」

 「う、うん。それじゃあ先にいただきます……」


 露骨に落ち込む柊。

 だが午前中で買えたのは柊の服類のみだ。

 まだベッドとか食器と買わなければならないものは山ほどある。

 明日から5日間学校で買いに行く暇はないから今日中にすべて終わらせる必要があるから時間を無駄にできない。

 決して一緒に食べるのが恥ずかしい分けではない。

 少し遅れてやってきた大盛りの牛丼。

 横に小皿に盛られて生卵。

 いつも頼む時の俺の定番なのだ。

 トレーが机についた所で先に食べていた柊の箸が止まる。


 「卵?」

 「そうだが?」

 「かけると美味しいの?」

 「まぁな」

 「ずるくない? なんで教えてくれなかったのさ?」

 「初めてぽいからそのまま食べた方がいいんじゃないかと思って」

 「つぎ! 次来る時は私も卵かけて食べるから絶対だから」


 よく分からんが、また牛丼屋に来る約束をすることになった。

 柊って卵とか好きだったんだな。

 覚えておこう。


 昼食を食べた後、デパートに戻り食器や寝具といったものを買ったのだが、ベッドは重すぎて後日配送ということになり、柊には悪いが届くまで床にタオルで我慢してもらうことになりそうだ。


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