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柊が最優先で買うものとは……

 緊張が全身を走る。

 

 「もうちょっとこっちに……」

 「わかってる」


 俺は柊と向かい合わせで身を寄せ合っていた。

 

 「まだちょっと見えてるもう少し寄って」

 

 時刻は現在9時。

 準備を終わらせた俺と柊は電車に乗って4駅程離れたところにあるデパートに日用品を買い出しに行くことにして予定通り乗り込む事が出来た。

 近所では、知り合いに見られるかもしれないからあえて遠くに買い物に行くそう決めたのだが、不幸にも電車には柊の知り合いの女子が数名先に乗っていたのだ。

 日曜日に電車に乗って遊びに行くのは想定出来のだが、さすがに朝からはないだろうと言う結論に至り出発したのだが、見事に読みが外れた。

 顔の広い学校のアイドル柊と違って学校でも知り合いは少ない俺は全く気がついてないなかったがな。

 そういうわけであと2駅何とかバレないようにしたい。

 そのために柊が考えたのが俺に抱きつき顔を埋める事で見られないようにするというもの。

 結果、俺はバレたらまずいのと美少女に抱きつかれ胸に顔を埋められる天国と地獄を同時に味わうはめになっている。

 柊も緊張しているのか若干呼吸が激しい。

 胸に柊が吐いた暖かい息が服を貫通して胸に物理的に染みる。

 それに密着しているわけなので全身の色々が容赦なく押し付けられ形や感触が否が応にも伝わってきた。

 柊が全身柔らかいんだなとか今は知りたくなかったぜ。

 なんて煩悩にまみれていると、電車が目的の駅の1つ前の駅についた。

 ドアが開き人が出入りがあった後そのまま閉まるが一向に出発する気配がない。

 しばらくして、予定時刻より早くついたので時間調整のため3分程ここに停車するとアナウンスが入った。

 さすがにこのままこの体勢を続けるのは、柊も限界だろうから車両を移ろう体重移動を始めたその時。

 柊の知り合いの女子達の会話が耳に入ってきてしまった。


 「電車待たせて来るとかついてないよねぇ。やっぱ今日占いの順位悪かったからかな?」

 「え? 何位」

 「8位だけど?」

 「微妙じゃん」

 「それ」

 「ちょっといい?」

 「何?」

 「さっきからこの電車のどこかからさ、ひなっちぽい匂いしない?」

 「出たなアヤのひな限定の犬並の嗅覚」

 「でもさすがにいるわけなくない? ひなって日曜日バイトでしょ?」


 柊とどれくらいの仲か知らないけどその嗅覚は間違ってない。

 なんならシャンプーもボディーソープも普段と違うはずだからそれでも見つけてきたのは恐怖を感じた。

 おかけで下手に動けなくなってしまった。

 

 3分の暇を潰すために俺も、こっそり柊と会話することにした。

 同じ車両内とはいえ、間に沢山人が入ってきたので小声ならバレないだろうと判断した。

 前後の車両から流れ込んできたのだ。

 ずっと黙ってると息が詰まりそうだ。


 「そうなのか?」

 「嘘よ。そう言わないと遊びに誘われる度に断ると大変だからね」

 

 確かに柊の家は友達と遊んでる余裕無さそうだったもんな。

 家賃すら払えないほどに困っていたと聞いた。

 毎週同じ時にバイトしてるっていえば断る手間も省けるもんな。

 学校のアイドルのイメージを守るのは大変なんだろう。


 「苦労してるんだな」

 「東君が言うとほんとに嫌味だから」

 

 金銭面で苦労したことはないけどさ俺が苦労してるって言ったのは人間関係の方なんだけど上手く伝わってないか。

 とはいえ説明しても煽りに思われ関係が悪くなっても困る。

 俺はそっと柊を抱きしめ会話を終わらせた。


 「知り合いがこっち見てるかもしれない少し顔隠すぞ」

 「え? ちょっと……」

 「静かに」


 真っ赤になって柊が大人しくなると、しばらくすると電車が動き出し無事バレることなく駅の改札を通り危機を回避した。

 幸いにも柊の知り合い達は北口の方に俺たちは東口と出口が被らなかったのだ。


 デパートに入った俺は、柊が優先的に買いたいというものを買うために服屋が立ち並ぶフロアにやってきた。

 何を買うかは聞かされてないけれど服のフロアだ気合いは入れておこう。


 やはり女ものの服の店しかないフロアだけあって圧倒的に女性が多く居心地が悪い。

 男女差別ってなくなりつつあるんだよね?

 なのになんでそんな冷たい目で見てくるの?

 すれ違う客や店員は俺の顔を見て睨み、横にいる柊を見てあっ、って顔で納得する。

 

 「柊。服屋めちゃ通り過ぎてるけどどこに行くつもりだ?」

 「一番奥の店。最優先で買わないと行けないから急いで」


 柊に急かさせ途中から腕を引かれやってきたのは男の俺は一生縁のないような店だった。


 「おい、ちょっと待て最優先で買わないと行けないものって」


 店の入り口すぐに置かれた露出の高いマネキンが2体置かれている。

 それはまるで男の侵入を拒む結界のように見え、俺は店前ギリギリで立ち止まった。


 「そうこれよ。早くついてきて」

 「いやいやおかしいってば。金渡すから1人で買ってきてくれればいいだろ?」

 

 そう、この場所はお察しの人もいるかもしれないが女性の下着を取り扱う店、通称ランジェリーショップなのだ。

 当然男の俺が気軽に足を踏み入れていい場所ではないのでこうして入店可を拒否しているのだ。


 「そういう訳にも行かないでしょ? 周り見て」


 俺と柊の距離があいたおかけで店員や他の女性客の鋭い視線が飛んできている。

 ここでは男性客はあまり歓迎されていない。

 変なことをするんじゃないかと思われているのか店員同士のアイコンタクトが飛び始めた。

 確かにここで1人で待つのは精神的によろしくなさそうだ。


 「でも柊と一緒にこの中に入るのは同じくらいまずいだろ? 柊は俺にこれからつける下着を見られたら気まずいだろ?」

 「それはそうだけど、私と東君はこれから一緒に住むんだから、下着を見られたぐらいで一々ビンタしてたら東君が持たないでしょ? これはその練習の一環よ」

 「つまり買う時に見られたんだから今見られても平気って自分に言い訳するってことか?」

 「そ、そうよ! それとも見られる度にビンタされる生活がお好み?」

 「それは勘弁ねがいたいけどさ、そんなに声震わせてるんだから無理しなくても……」

 「いいえ、何としても一緒に買いに行くわ」


 どうも柊の思考は読めない。

 考えられるのは柊さんが露出魔の類で男の俺に買う下着を見せつけて興奮しようとしてるという可能性。

 これはないと思うけど。

 柊は言葉の端々から男子に対しての警戒心を見せるような発言をしている。

 もうひとつ考えられるとすれば下着を見られてもいいと言うぐらいの好感度を獲得してるというものだが、さすがにそれはないだろう。

 昨日の時点で少し親切な同級生止まりだ。

 特に好かれるような事はしてないし。


 「いいわね?」

 「はいっ」


 抵抗虚しく俺はランジェリーショップの中に連れ込まれてしまった。

 何故か柊はイタズラが成功したような満足気な表情でニヤけていた。

 それで勝手に納得する。

 先程の仕返しをしたかっただけなのではないだろうか?

 今俺の顔はめちゃくちゃ恥ずかしさで赤くなってるし。

 

 しばらく色々と見て回ったが、柊に合うサイズはあまりないようで苦戦していた。

 柊の胸は標準より大きので、買いたいデザインを見つけても在庫が無いって事がかなりあったらしい。

 俺は恥ずかしいので極力見ないようにスマホを取り出して用もないのにいじってた。

 柊も俺に選ばせるような鬼ではなかったので、淡々と店員さんと会話して時に試着して数日分の下着を選んでいった。


 「東君?」

 「あっ会計?」

 「違うわよ。少し聞きたい事があって……いい?」

 「うん」

 「参考までに聞くんだけどこの店にあるデザインで1番好きなのはどれ?」

 

 ニヤっとした笑いはこの質問が100パーセントからかうつもりってのはわかるが、男してそう言われると、店をぐるっと1周見てしまうものだ。

 口には出さないものの店に置いてある中で1番薄いレースを使ったつける意味がほとんどないような白いブラに目が一瞬止まってしまった。

 慌てて逸らして誤魔化したがバレただろうか?


 「この中にはないな」

 「今、絶対あの透けてるやつ見てたでしょ? えっち」

 「聞いといてそれはないだろ」

 「あくまでに参考までに聞いただけだもん。襲われないように気をつけないと」

 「人を獣扱いするなよ」

 「今は違うけど、男はいつそうなるか分からないってママが言ってたもの」


 柊ママよく男をわかってらっしゃる。

 こうしてあっさりそういう思い出を口にするあたり柊は少なくとも母親のことは恨んでいないんだと思う。

 

 

 「そんなことないぞ? 柊だってそう判断してるから俺をからかってるんだろ?」

 「獣の素質を測ってるのよ。万が一危険なら防犯グッズも買うために!」


 どうやら俺は全然信用されてないらしい。

 まぁ利害関係の同居だからなぁ。

 

 「スタンガンぐらい買っとくか?」

 「いらないわよそんなの。というかそろそろ会計しないと……ほらお金出して」


 何故かそう言って俺に背を向けてレジに向う柊。

 その少しだけ耳が赤くなっているのは気のせいだろうか?

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