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家に連れ帰って見た

 自宅であるマンションに連れて帰ってシャワールームに柊をぶち込んだもののここでひとつ大きな問題が発生した。

 着替えだ。


 ついノリとステーキ肉争奪タイムセールに勝った勢いと僅かばかりの親切心で家まで連れ込んでしまったものの、俺の家に女物の服はない。

 正確には柊のサイズにあう女物の服がない。

 両親と一緒に海外で生活をしている妹が、去年の夏休みに帰ってきた時に着ていた服を置いていったので、それがあるにはあるが小6の子供服だ。

 高校生の柊では着ることはできないだろ。

 柊は特に高校生としても大きい部分があるし。

 夏服だから布面積も少ない。

 風邪をひかないよシャワーに入れてもそれではあまり意味が無い。


 「どうしたものか」


 柊の服は絶賛洗濯中だ。

 外で1晩過ごした制服とスカートかなり汚れていてたのでそのまま乾燥させるわけにはいかず、そのまま濡れた下着共々洗濯機の中に入っていて今、柊がシャワーを終えてしまうとバスタオルのみで過ごして貰うことになる。

 柊が着替えのひとつでも持っていれば良かったが、連れてきた段階で持っていたのは、水没したスマホと金曜日に学校持っていったカバンだけ。 中身は筆記用具とノート。

 教科書類は置き勉をしているらしく学校にある。

 そのノートも雨に濡れて使い物にならなくなっていた。

 

 ひとまず、柊に着せても問題の服はないかとクローゼットや普段使っていない倉庫部屋を漁ってみたが、家電の空き箱とかしか見当たらない。

 いくら洗濯しているとはいえ俺が着た服を着るのは嫌だろうから使ってないものを探す。

 しかし、あまり外に出ないから服を買う習慣が全くないので、未使用の服はなかなか見つからない。

 唯一あったものは、高校入学の時にまとめて買ったLLサイズのワイシャツ。

 成長するという期待を込めて大きめのを買ってもらったが、高二の今でも大きすぎて使ってないので使われることなく余っていた。


 「裸ワイシャツかぁ。乾くまでなら大丈夫かな?」


 あくまでも乾くまで。

 他に未使用の服はないし仕方ない事だ。

 そう言い聞かせてタオルと一緒にバスルームの前に置いておいた。


 それから約束通り食事の支度に取り掛かる。

 と言ってもタイムセールで買ったステーキ肉を半分に切って焼くだけだ。

 男の一人暮らしなんて大抵そんな凝った料理はしないし出来ない。

 これでもコンビニ飯生活だった去年よりは成長してる。

 いい感じにステーキが焼けて火を止めて盛り付けようかと言うところでバスルームの電気が消えた。

 どうやら上がったようだ。

 シャワーでさっぱりしたのかかすかに鼻歌が聞こえる。

 だが、その鼻歌がパタリと途切れた。


 「え? なにこれ?」


 遠くから聞き取りづらくはあるがなんだが不満げな声が聞こえてきた。

 何か不備があったのかもしれないと思い俺はバスルームに向かった。


 「どうかしたか?」

 「どうしたも何もなんなのこれ? ワイシャツしかないんだけど? 下置き忘れたなら持ってきてくれるとありがたいんだけど?」

 「我が家で俺が着たことの無い服だが? さすがに知り合い程度の男が着た服は着づらいだろうと思っての配慮だ。だから下の服はないぞ?」

 「その配慮、1周回って変態じみてるんだけど。

裸ワイシャツフェチなの? だとしたら絶対着ないわ」

 「フェ? そんなことは断じてないぞ? おぉう。俺はどちらかといえば……って俺のフェチの話はどうでもいいんだよ。柊が気にしないというのなら妹が小学生の時に着ていた服か俺が今日寝る時に着ようと思ってたTシャツと短パンがあるが?」

 「妹さんって身長いくつ?」

 「確か130……後半ぐらいだったかな?」

 「それ実質一択じゃないの。もう、東君の服でいいから持ってきてくれる?」

 

 怒られるぐらいなら最初から確認すれば良かった。

 そう思いながらTシャツと短パンを取りに行く。

 

 着替え終えてテーブルについた柊をじっと見つめる。 


 美少女が自分の服を着ている。

 しかもノーブラノーパンで。

 なんかよく分からないけどグッとくる。

 自分にこんな変な癖があるとは思わなかった。

 ステーキを食べ始めた俺は目の前の柊を見ながらそんな事を思いながら食事をしている。

 これで髪とか濡れていたら危なかったな。

 チラ見しながらそんな事を考えながら食べていたが、2人で無言の中食べていればあっという間に無くなる。

 とくにものすごい勢いで食べている柊に若干驚く。

 

 「何よ?」


 俺の視線に気がついた柊は口に食べかすをつけながらこちらを見上げた。

 普段完璧な学園のアイドルが見せる子供ぽい表情にグッと来ない男はいない。

 変な欲望に飲まれそうになったので自分のかかとでもう片方の足の脛を蹴る。

 痛みで何とか正気を取り戻す。

 落ち着け東風馬。

 俺は変な事をするために家に連れてきた訳じゃない。

 あくまでも親切心だ。


 「すごい勢いで食べてたからほんとにお腹空いてたんだなぁと」

 「そうよ。金曜日のお昼に食べたきりだから1日何も食べてなかったわ。ありがとう」


 柊は食べ終わると俺の分の皿まで自分のところに手繰り寄せて席を立った。


 「皿洗いぐらいさせてもらうわ」

 「お、おう」


 キッチンに美少女が立っている。

 それだけの事だし妹も夏に来た時は同じ事をしたはずなのに、なんでこうも違うんだろう。

 この安心感? とでも言うべき感情。

 見ているだけでほっこりする。 


 「そんなに見てなくてもこれぐらいちゃんと出来るから課題でもやってたら? 数学出てたのやってないんじゃないの?」

 「残念だったなその課題なら既に終わらせてある」

 「へー意外。てっきりやってこないタイプかと思ってたわ」

 「それってバカにされてるのか?」

 「そういうつもりじゃないわよ。でも頭いいイメージはないけど……」

 

 なんて会話をしながら皿洗いをしている柊を眺める。

 一人暮らしが1年以上も続いているせいかそれだけの事が楽しいと思った。

 

 皿洗いを終わらせて一息つくと、沈黙が部屋にみちる。

 少し離れた所から洗濯機の音が動いている聞こえるだけ。


 「それで、家がないってどう言うことか聞いていいか?」


 しばらく見つめあっていたが、気まずさに耐えかねうっかり口が滑った。

 


 「え? あぁそうね。空腹で死にそうな所を助けて貰ったしポテチ食べなが話しましょうか」

 「すぐ用意するよ」


 すっかり忘れていたのり塩味のポテチを開けて、テーブルの上に出す。

 もしかしたら柊はめちゃポテチ好きなのか?

 

 「何があったんだ?」

 

 「えーとね。はぁ。去年ね、私のママが再婚したんだけどその新しい父が酷い人でね、すごく借金をしていたみたいなの。しかもかなり支払いが遅れてたみたい。それで家賃も半年ぐらい前から滞納していたらしくて金曜日に家に帰ったら鍵が開かなくて、大家さんに確認したら強制退去を執行したとかで、詳しく聞いたら2ヶ月前から手紙を出してたのに無反応だったからしたとしか教えて貰えなくて。携帯料金も払えてなかったから連絡出来なくて、心当たり探したんだけどどこにもいなかったの。だから心折れてあのベンチで座ってたってわけ」 


 長いセリフを言い切ると柊はふぅーと一息ついたようにため息を漏らしポテチをつまんだ。

 もしかしたら再婚してからお菓子をあまり食べてなかったのかもしれない。

 そう思うと全部食べていいよと言いたくなる。

 世の中にはこんなに酷い話もあるのか。

 しかし引っかかることもある。


 「そうか。少し気になったことがあるんだがいいか?」

 「何?」

 「そんなに困ってるなら友達の家に泊めてもらうは出来なかったのか?」


 俺の知る限り柊雛という少女は男女問わず人気の学園のアイドル。

 当然毎日友達と呼べる人間と過ごしていいるのを見ている。

 俺の目から見ても仲のよい親友と呼んでもいい程の信頼関係があるように思えた。

 柊が困っていたら迷わず助けてくれるはずだ。

 だから困っているなら真っ先に頼ってもいいはずだと思いそれが引っかかった。


 「アヤもカレンもここからだと家遠いし、それに電話番号知らないから連絡のしようもなかったの! 今どきはメッセージアプリでしか連絡しないし。あとこういうの友達に知られるの恥ずかしいし。だからよ」

 

 最後の恥ずかしいってのはとてもよく共感出来る。

 友達だからこそ弱みを見せたくないイメージを崩したくないってうのは俺にも覚えがある。

 親が金持ちで俺もおぼっちゃまだと思われたせいで大して興味のない玩具をイメージを崩さないためだけに買って貰ってたなぁ。

  

 事情を聞いたところ柊をこのまま外に出したらまたホームレス生活が始まることは誰でも察しがつく。

 シャワーを貸して助けてしまった以上最後まで面倒を見るのが筋ってもんだろう。

 しかし俺には柊の両親を見つける力も別に部屋を借りて住まわせてあげることもできない。

 未成年だからそこまではできない。


 「なぁ。柊さえ良ければうちに住まないか?」

 「何言ってるの? そんなの」

 「警戒するのもわかるが落ち着いて聞いて欲しい。柊は今両親がどこかに行ってしまって連絡がつかないんだろ? そして恥ずかしいから今のホームレス状態を友達にも知らたくない。つまり今まで通り生活がしたいってことでいいよな?」

 「そうなるのかな?」

 「なら公的機関に訴えて施設に入るのも望まないってことだろ? ならうちに住むのが1番のいい選択だ」

 「だからどうしてそうなるの? やっぱりそういう目的なの?」

 

 柊は胸をガードするように腕を巻き付け見られ、見られる部分を減らすように縮こまる。


 「そういう訳じゃない。まず俺と柊は学校では接点がないからバレにくい。それに客間があるから部屋を分ければプライベートも確保出来るだろ?」

 「でもそれで東君になんのメリットがあるの? まさか純粋な人助けなんて言わないわよね?」

 

 柊はまだ俺を信頼しきっているわけではないのか両腕で胸を隠すように組み疑いの眼でこちらを見ている。


 俺は俺で人と会話できる生活が楽しい事を思い出したのでそう出来たらいいぐらいのつもりで提案したのだが、柊はまだ俺を信用している訳じゃないのだろう。

 いきなり一緒に住もうとか言い出したら警戒心して当然ではあるけどさ。

 とにかく説得するには、柊の警戒を得ようなメリットを言うしかない。

 

 「メリットは……そう家事の手間が減るってことだ! 見ての通りこの部屋はマンションの最上階まるまるだから広すぎてひとりじゃ掃除も手が回らない。だが、ここにもう1人いれば楽になる。一人暮らしって意外とやらないといけない家事があって疲れるんだよ」


 これは事実で料理を作ればその後の洗い物はだるいし洗濯も洗濯機かけて干して畳んでとやらないといけないことは多いし、ひっきりなしに何かしらの支払い期限が迫ってくるし1人だと大変なのだ。


 「ふーん。そうなんだ。うん。そうだね。確かに1人じゃ掃除しきれないもんねこの家。それならメリットかも。いいよ私ここでお世話になる」


 そんなわけで同居することになった。

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