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だって僕はNPCだから 4th GAME  作者: 枕崎 純之助
最終章 『月下の死闘』
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第25話 『予想だにしなかった結末』

「リ、リード……」


 僕はそこに現れるはずのない人物の姿を見つめ、呆然ぼうぜんつぶやきをらした。


 上級兵士リード。

 彼は王城の兵士であり、優秀なサポートNPCとして活躍をしていた人物だ。

 以前に僕はミランダとジェネットを守るために彼と戦い、からくも勝利を収めた。

 その後、リードは運営本部によってゲームへの反逆行為の罪に問われ、そのプログラムを凍結されて拘束されていたはずだ。

 罪人となった彼はその後、更正プログラムを受けていたはずだと思ったけど、どうしてここに……。 


「リード。なぜここに……どうして天烈を!」

「ハッ! また正義漢ぶってやがるのか。ヘドが出るぜ。てめえの偽善者面ぎぜんしゃづらを見てるとよ。天馬ペガサスがどうしたって? 俺の仕事に邪魔だからぶっ殺しただけだ」

「し、仕事?」

「ああそうさ。それにしても相変わらずマヌケ面だな。モグラ野郎。以前の借りをここで返してやりたいところだが、今日はその仕事中でな。そこのサムライ女はもらっていくぜ」

「何だって?」


 どうしてリードがアナリンを?

 一体どこに連れていくつもりなんだ?


「何の権限があってあなたがそのようなことを? あなたは服役中のはずです」


 毅然きぜんとした態度でそう言うのはジェネットだ。

 彼女もリードのことは知っている。

 リードはそんなジェネットを見下ろすと、その顔にいやらしい笑みを浮かべる。


「これはこれは。シスター・ジェネット。そのウザイ性格もお変わりないようで何より。権限? ハッ! そんなもんあるわけねえだろ。脱獄囚だつごくしゅうのこの俺に」


 だ、脱獄囚だつごくしゅう

 運営本部の牢獄ろうごくから逃げてきたってこと?

 そんなこと一NPCに出来るわけがない。

 どういうことだ?


 僕の仲間たちも一様に怪訝けげんな顔をしている。

 その時だった。

 リードがいるのとは反対の方向、中庭側の方角から別の女性の声が響いてきたんだ。


「その男の言っていることは本当ですわ。ワタクシたちは脱獄囚だつごくしゅう


 反射的に振り返った僕が目にしたのは、中庭の向こう側にそびえ立つ城壁の上にいる1人の女の子だった。

 その姿を見て真っ先におどろきの声を上げたのはアリアナだった。


「ア、アディソン!」


 そう。

 そこに立っていたのは、かつて敵として戦った暗黒双子姉妹の妹。

 暗黒巫女(みこ)のアディソンだった。


「お久しぶりですわね。アリアナ。ご挨拶あいさつ代わりに熱い溶岩マグマはいかがですか?」


 そう言うとアディソンは彼女の自慢の武器である吸血杖ラミアーを振り上げた。

 するとすぐに地響きが聞こえてくる。

 僕はアディソンのスキルを思い出した。

 暗黒呪術・溶岩噴射マグマ・スプラッシュ

 激しい揺れがこの城を襲い、中庭の地面が裂けて真っ赤な溶岩が吹き出してきた。


「うわっ!」

「アルッ!」


 強い揺れに思わず僕は倒れ込みそうになり、ミランダにえり首をつかまれて支えてもらう。

 ジェネットやアリアナは倒れているエマさんと王女様を抱え上げ、ヴィクトリアとノアも警戒の構えを見せる。

 そんな中、むせ返るような溶岩の熱に耐えきれず顔を背けた僕は見たんだ。

 後方に倒れているアナリンの体に黒いむちが巻き付いたのを。

 そのむちは一瞬でアナリンの体を巻き取って運び去ってしまう。


「ああっ! アナリンが!」


 僕の声に皆が反応してそちらを見る。

 アナリンをむちで巻き取ったその人物は、いつの間にかリードのとなりに立っていた。

 あのむちは……。


「ハッハッハ! 回収完了!」


 高らかな笑い声を響かせたのは、暗黒双子姉妹の姉・魔獣使いのキーラだったんだ。

 アニヒレートとの戦いでモンガラン運河に落ちたまま行方ゆくえ不明になっていたキーラがまさかここに現れるなんて……。

 そしてさらに僕をおどろかせたのは、彼女の首に装着されていたはずの運営本部の首輪が消えていたことだ。


「ふぅ~。自由の身ってのはいいもんだな」


 キーラは清々したといったように自分の首をでながらそう言った。

 その様子にジェネットが不審そうに言葉をらした。


「あの首輪は自分では外せないはずです。一体どのように……」


 するとジェネットの言葉をさえぎるように大きな声が辺り一帯に響き渡ったんだ。


『よくぞ務めを果たしてくれました。わたくしのかわいい新たな眷属けんぞくたち』


 それは静かな口調にもかかわらず、この世界中に響き渡っているんじゃないかと思うほど、明瞭に聞こえる女性の声だった。

 そしてその声が響き渡った途端とたん、アディソンが溶岩噴射マグマ・スプラッシュの術を停止した。

 それからすぐに僕らの頭上に警告のコマンド・ウインドウが開いた。


【システムダウン:バルバーラ大陸の全機能を停止】


 シ、システム・ダウン?

 その表示が出た途端、周囲の景色が一変した。

 朝焼けに染まる空も、朝露あさつゆれた大地も、遠くに見える山々も、全てが消え去ったんだ。

 ただ唯一そのままの状態で残っているのはこのミランダ城だけだった。

 それ以外の世界は灰色の無機質な空間と化していた。


 こんなことは初めてで、僕だけじゃなく他の皆も困惑の表情を浮かべている。

 そんな中、上空に突然、1人の人物が姿を現した。

 それは銀色にかがやくローブを羽織り、紫色の長い髪の毛を左右に結んだ1人の女性だった。

 その女性が現れた途端とたん、僕は背すじがゾワッと粟立あわだつのを感じて思わず顔をしかめた。


 ミランダ達も同じように感じたらしく、全員が緊張の面持おももちで戦闘態勢を取る。

 くっ!

 この状況で新たな敵なんてカンベンしてもらいたい。

 もう皆ボロボロで、とても戦える状態じゃない。

 そうくちびるむ僕だけど、その女性はフッと口元をゆがめて笑った。


「そんなに身構えなくともよろしくてよ。今日はただ荷物の回収とご挨拶あいさつうかがっただけですの」


 そう言うとその女性は優雅に空中からミランダ城のくずれた円塔の上に降り立った。

 顔立ちの整った美しさを持つ女性で、その口元に薄笑みを浮かべるその表情は妖艶ようえんそのもの。

 綺麗きれいな人だけど、そこにいるだけで禍々(まがまが)しさをただよわせた危険なニオイのする人物だった。

 毒のある美しい花みたいなその女の人は、あでやかな笑みを浮かべて両手を広げた。


「わたくしは西将姫ディアドラ。ほまれ高きトリスタン大王様の旗下きかたる四将姫が1人。この度は東将姫アナリンがお世話になりましたわね」


 せ、西将姫……ディアドラ。

 それに四将姫って……アナリンみたいなNPCが4人もいるってこと?

 トリスタン大王ってのはどこかのゲームのボスキャラなんだろうか。

 突然のことに混乱する僕のとなりで、ミランダが不機嫌そうに声を上げる。


「フンッ。要するにサムライ女の仲間ってわけ。カタキ討ちにでも来たんでしょうけど、返り討ちにしてやるわ!」


 ミランダのその言葉を聞くとディアドラは目を丸くして、それから愉快そうに笑った。

 

「フフフ。仲間? カタキ討ち? 随分ずいぶんと面白いことをおっしゃいますのね」


 キーラからアナリンの身柄を受け渡されたリードが、ディアドラのとなりひかえるように立つ。 

 キーラやアディソン、リードは彼女に従っているのか?

 もしかして彼らを脱獄させたのはディアドラなんだろうか。

 そんなことが本当に出来るかどうかは分からないけれど。


「この野蛮やばんなサムライは四将姫の恥さらし。これ以上、恥の上塗りをされては困りますので、早々に引き取りに参上した次第ですのよ」


 そう言うとディアドラはリードに抱えられたアナリンの黒髪を無造作につかんだ。

 アナリンに向けるその目は侮蔑ぶべつの色に満ちている。


「まったく。困ったものですね。アナリン。大王様から名誉ある将姫の位をたまわりながら、何たるブザマな姿。やはり刀を振るうしか能のない蛮人ばんじんに将姫の名は重過ぎたのでしょう」


 そう言うとディアドラは僕らの方に向けて手をかざした。

 攻撃が来る!

 そう思って皆、身構えたけれど、ディアドラのねらいは違った。

 

 僕らの前方の床に落ちている、折れて活動を停止した黒狼牙こくろうがが宙に浮かび、ディアドラの手元に飛んでいく。

 ディアドラはそれをつかみ取ると、薄笑みを浮かべて僕らを見下ろした。


「これで用事はオシマイです。では皆様。名残惜しいですが、わたくしたちは失礼いたしますわ。またいつかお会いしましょう。ごきげんよう」


 ディアドラはそう言うとパチリと指を鳴らした。

 途端とたんに僕の体に強烈な重力がのし掛かってきて動けなくなってしまう。


「くっ!」


 か、体が重い!

 まったく動かせない。

 周りの皆も同じようで、そこから一歩も動けないみたいだ。

 そんな僕らに一瞥いちべつもくれることなく、ディアドラは上空へと浮かび上がっていく。


 その頭上、灰色で無機質な空に突如として真っ黒いうずが現れた。

 それを見たジェネットが即座に声を上げる。


「あれは……脱出路です!」


 それが見えるとアナリンを抱えたリードやキーラもディアドラの後について上昇し始めた。

 あの2人は飛べないはずだけど、よく見ると同じ胸当てを装備していて、その背面から光の翼が現れていた。

 飛行装備だ。


「くそっ! 逃げられちまうぞ!」


 ヴィクトリアが怒声を上げながら懸命に腕を動かして羽蛇斧ククルカンを投げつけるけれど、それは空中で重力に押し返されてあえなく地面に落ちた。

 ヴィクトリアの腕力と念力をもってしても、あれが精一杯なのか。

 他の皆も立っているのがやっとだ。

 そんな中、ミランダが怒りの声を上げた。


「戦いもしないで帰るですって? ナメてんじゃないわよ!」


 彼女は動けないながらも、その口から黒炎弾ヘル・バレットを吐き出した。

 轟然ごうぜんと放たれた黒い火球はディアドラを正確にねらったんだ。

 だけどディアドラはフッと振り返ると、片手を伸ばして黒炎弾ヘルバレットを軽々とつかみ取ってしまったんだ。


「なっ……」

「まあ。かわいらしい花火ですわね」


 すずしい顔でそう言うと、ディアドラは手につかんだ燃え盛る火球にフッと息を吹きかけて、それを消し去ってしまったんだ。

 まるでロウソクの火でも消すかのように簡単に。

 そ、そんな……ミランダの黒炎弾ヘルバレットが。

 唖然あぜんとする僕らを見下ろしてリードやキーラ、アディソンが空へと昇っていく。


「じゃあな! モグラ野郎! 次に会うときはてめえをはかめてやるよ!」

「アタシらにおなわをかけやがった忌々(いまいま)しいこのゲームともオサラバだぜ! ザマーミロ!」

「いずれ御礼参りにはきっちりうかがわせてもらいますので、首を洗ってお待ちなさい」


 僕らが成すすべなく見送る中、彼らは空高く舞い上がっていき、真っ黒なうずの中へと消えていった。


 こうして破壊獣アニヒレートの出現にたんを発した一連の騒動は、最後の最後に予想だにしなかった結末を残して幕を閉じることになったんだ。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回でいよいよ最終回となります。


終幕 『それでも守れたもの』は


明日2月24日(水)午前0時過ぎに掲載予定です。


ここまでお読みいただきまして、深く御礼申し上げます。

最後までよろしくお願いいたします。

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