↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だって僕はNPCだから 4th GAME  作者: 枕崎 純之助
最終章 『月下の死闘』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/87

第15話 『縁《えにし》の力』

「予想していたよりもずっと早い。アナリンがもうすぐ時間歪曲回廊(わいきょくかいろう)を抜けて出てくるわ」


 アナリンが出てくる……。

 エマさんのその言葉に僕は息を飲み、拳を握り締めながらモニターを見る。

 アナリンの前方には空中に浮かぶカヤさんのおぼろげな姿が見えるけれど、今やそれも頼りなく消えかかっていた。

 

「カヤさんが……」

「カヤおばあちゃん。そろそろ限界みたい。それにしてもあのサムライのお嬢さん、底なしのスタミナね。どれだけ魔物を斬り続けてもまったく疲れを見せていないわ」

「そ、そんな……アナリンが王女様の部屋にたどり着く前に何とかしないと」


 そうしなければ、王女様はすぐにアナリンによって連れ去られてしまうだろう。


「お姫様のことも心配だけど、その前にこっちの心配をしないと」

「えっ?」

「姫様のいる寝室《しんしつ》にたどり着くには、このバルコニーを通ってそこの外階段から上に上がらないと行けない造《つく》りになっているのよ」


 えっ……じゃあもうすぐアナリンはここを通るってこと?

 や、やばすぎる!


「な、何でそんな造《つく 》りに……」

「仕方ないじゃない。ここはお客様をお招《まね》きする城じゃなくて、侵入者を排除する闇《やみ》の魔女の根城なのよ」


 そうだった。

 敵が玉座の間までなかなかたどり着けないように工夫が凝《こ》らされているんだ。

 

「今のミランダにアナリンの相手をすることは出来ないわ。本当はアニヒレートを倒してから、アナリンの相手もするつもりだったんでしょうけど……」


 アナリンが予想外に早くこの城の罠《わな》を突破してくる。

 このままだとミランダはアニヒレートとアナリンに挟《はさ》み撃ちにされてしまう格好になってしまう。

 それだけは避けなきゃ……。

 僕は決然と口を引き結ぶとエマさんに目を向けた。


「エマさんは今のうちに王女様のいる寝間に向かって。最悪の場合に備えて、王女様を逃がせるように準備を。僕は……。ここでアナリンを迎え撃つから」

「オニーサン……」


 エマさんはわずかに言葉に詰まってじっと僕を見つめた。

 翡翠《ひすい》色のその目に浮かぶのは深い憂慮《ゆうりょ》の色だ。

 僕はそんなエマさんに左手首を差し出した。


「大丈夫。僕、女抱え込み過ぎてるから」


 そう言うと僕は精一杯の強がりを込めて笑って見せた。

 そんな僕の左手首をエマさんはそっと握る。


「ジェネット。みんな。オニーサンを守ってあげてね。あと、オニーサン。このお城の城内図を渡しておくから」


 いつもの妖艶《ようえん》な笑みとは違う、シスターらしい慈愛《じあい》に満ちた表情でそう言うと、それからすぐにエマさんは外階段を王女様の元へと向かった。

 階段の途中で彼女は一度だけ振り返ると手を振ってくれた。


「オニーサン! 私からのプレゼント、大事に使ってね!」


 そう言うと彼女は自分の豊か過ぎる胸を指差して、それから階段を上って行った。

 さっきの出来事が鮮明に甦《よみが》って来て、僕は恥ずかしさのあまり自分の胸の辺りを拳でドンドンと叩いた。


「はぁ……っと。こんなことやっている場合じゃない。アナリンがもうすぐここに来るんだ」


 僕はすぐさまメイン・システムを操作してアイテム・ストックの中を探る。

 ここにアナリンが来たら一番危険なのは今動くことの出来ないミランダだ。

 ミランダの存在を隠さなきゃならない。

 そう思った僕が取り出したのは保護色マントというアイテムだった。


 僕はミランダの目の前に恐る恐る出ると、彼女の視界を塞《ふさ》ぐようにその瞳に手をかざす。

 だけどモニターを見つめているように見えるミランダはまったく反応せずに闇狼《ダーク・ウルフ》を操っている。

 やっぱりそうだ。

 今、ミランダは闇狼《ダーク・ウルフ》の目で全てを見ているんだ。

 自分の目でモニターを確認しているわけじゃない。


「だったらこれが使えるはずだ」


 僕は取り出した保護色マントをミランダの座る玉座の上にすっぽりと覆《おお》うようにかぶせた。

 すると周囲の景色と同化してミランダの姿が見えなくなる。

 もちろんこれはただの目くらましだ。

 ただ見えないだけで、消えてしまったわけではなく、ミランダは今もここにいる。

 だからこの場所を攻撃されてしまえば、その危害はミランダに及ぶ。


「後はミランダを巻き添えにしないよう、戦いの場所を移すだけだ」


 僕は先ほどエマさんから受け取った案内図を自分のメイン・システムにインストールする。

 これで僕はこの城内でも迷わずに行動できるぞ。

 僕はふと背後を振り返ると、モニターの中で戦う闇狼《ダーク・ウルフ》の姿を見つめる。

 そしてそこにいるはずの今は見えないミランダの姿を思い浮かべた。


「ミランダ。僕もがんばるよ。君もどうか無事で」


 そう言うと僕はバルコニーから通路へと入っていく。

 目指すはアナリンが出てくるであろう時間歪曲回廊(わいきょくかいろう)の出口だ。

 僕が持つアイテムを駆使してそこに罠《わな》を張って、アナリンを待ち伏《ぶ》せする。

 そのために使うアイテムを頭の中で必死にリストアップしながら僕は廊下《ろうか》を全力で走り続けた。


 そうしてほどなくすると、数十メートル先の廊下《ろうか》の突き当たりに大きな鉄拵(ごしら)えの扉《とびら》が見えて来たんだ。

 おそらくあれが時間歪曲回廊(わいきょくかいろう)の出口だ。

 あそこの手前に罠《わな》を仕掛けて……。

 そう思ったその時、僕の左手首がいきなり熱くなった。


「ん?」


 僕はその場に立ち止まる。

 見ると左手首にある5つのアザのうち、白、青、赤、金の4つが急に強い光を放ち、熱を発し始めた。

 手が……僕の意思とは無関係に震えている。

 何かを知らせるかのように……ハッ!


 弾かれたように顔を上げた僕は即座に45度右を向くと、左右の蛇剣《タリオ》を抜いて目の前で交差させたんだ。

 そんな僕の目の前で廊下《ろうか》の壁がいきなり崩《くず》れ去った。

 そしてその壁の向こうから現れた人物が僕に向かって突進してくる。

 僕の構えた剣にガツンと強い衝撃が走った。


「よくぞ反応したものだ」


 冷たい声でそう言ったのは、今まさに僕の頭上から黒い妖刀・黒狼牙《こくろうが》を振り下ろしたサムライ少女・アナリンだった。

 そ、そんな……壁を壊して?


「くっ!」


 僕の左手首に光る4つのアザのうち赤いそれがひときわ強く光る。

 僕はヴィクトリアの力を用いて両足を踏ん張ると、アナリンを押し返した。

 後方に押し戻されて立ち止まったアナリンはこちらを睨《にら》み付ける。


「貴様と魔女ミランダ。どちらもその体を八つ裂きにしてやる。あのような奇怪な場所に誘い込み、某《それがし》を愚弄《ぐろう》した落とし前をつけてもらおう」


 アナリンの顔は冷然としていたけれど、その言葉には明確な怒りが滲《にじ》んでいた。

 時間歪曲回廊(わいきょくかいろう)での出来事がよほど腹に据《す》えかねたんだろう。


 それにしてもあれだけの数の敵と戦い続け、時間の歪《ゆが》められた回廊《かいろう》を長く走ってきたというのに、アナリンは息ひとつ切らしていない。

 こんなに早くここにたどり着いたってことは相当急いで来たはずなのに。

 少しでも消耗していてくれれば……そんな風に願った僕は甘かった。

 罠《わな》を張る時間も与えてもらえなかったし。


 だけど、今ここを通すわけにはいかない。

 王女様の元にはエマさんが駆けつけてくれている。

 そしてこの廊下《ろうか》の先にあるバルコニーにはアニヒレートと戦い続けるミランダがいるんだ。

 保護色マントでその姿を隠してあるとはいえ、絶対安全とは言えない。

 だから……僕がここでアナリンに屈してしまえば、皆が黒狼牙《こくろうが》の餌食《えじき》にされてしまう。


「アナリン。絶対にここは通さないぞ」

「そんなセリフは某《それがし》の刃を受け止めてからほざくことだな」


 そう言うアナリンの握る黒狼牙《こくろうが》が緑色の光を宿す。

 鬼速刃《きそくじん》だ。

 空中に飛ばす速射型なら受け止められるけど、衝撃が物質を突き抜ける直撃型はそうはいかない。

 ノアの金の鱗《うろこ》で強化された天樹の衣(トゥルル)が僕を守ってくれるけど、それでもダメージは免《まぬが》れないだろう。

 根本的にアナリンのこの攻撃を防ぐ手だてはない。


 かと言ってアナリンの振るう刀をこちらの剣で受け止めずに完全に避けるなんて、とても出来ることじゃない。

 ジェネット達の力を借りている今の僕でも無理だ。

 アナリンもそのことが分かっているから、僕に考える暇《ひま》を与えずに襲いかかって来る。


「鬼速刃《きそくじん》!」

「くううっ!」


 アナリンの振るう黒狼牙《こくろうが》を蛇剣《タリオ》で受け止めるたびに、彼女の刃から発生した衝撃が僕の体を痛めつける。

 旧モデルの蛇剣《タリオ》だったら問答無用で報復ダメージをアナリンのライフゲージから削《けず》り取ることが出来たんだけど、金銀の新モデルになってから蛇剣《タリオ》は僕が受けたダメージ量を剣に蓄積《ちくせき》して、それで攻撃した敵に同程度のダメージを与える仕様に変わっていた。

 だから僕がこの剣でアナリンに斬りつけることが出来て初めてダメージを与えられるんだけど……。 


「ハアッ!」

「ううっ……くっ!」


 アナリンの猛攻の前に相変わらず僕は防戦一方だった。

 たったひと振りの反撃をする間さえ与えてもらえない。

 このままじゃ僕のライフが減り続けるだけのジリ貧状態から抜け出せないぞ。

 蛇《へび》を使って小細工《こざいく》しようにも、先刻の戦いで金と銀の蛇《へび》はアナリンに首を斬られて消えてしまっている。


 アイテムを使う暇《ひま》もない。 

 ど、どうすればいいんだ!

 ノアの鱗《うろこ》に守られているとはいえ、僕のライフは着実に削《けず》り取られていく。

 

「紛《まが》い物の貴様にいつまもで防がれる一刀ではないぞ!」


 アナリンはそう言うと一層激しく斬撃を繰り出してくる。

 くぅぅぅっ!

 もう全てを防ぐ余裕がない!

 こちらが攻撃を浴びてでもアナリンに一撃を浴びせなければ、この状況は1ミリも変えられない!


 そう思って僕が必死に攻勢をかけようとした瞬間、アナリンが開けた壁の穴《あな》から、いきなり何かが噴き出して来たんだ。

 僕とアナリンの間に舞ったそれは……大量の桜の花びらだったんた。

 それはほんの一瞬のことだったけれど、不思議と僕にはスローモーションのように感じられた。

 

【若者よ。おまえさんの歩んできた道は間違ってはおらぬ。じゃからこそ多くの者がおまえさんに寄り添うのだ。縁《えにし》の力を信じるがいい】


 耳に響いたように感じられたそのしわがれ声は、カヤさんの声だった。

 そしてその一瞬だけ、アナリンが僕を斬り裂こうと繰り出した黒狼牙《こくろうが》が止まったように見えたんだ。


「くおおおおっ!」


 僕は反射的に右手の金の蛇剣《タリオ》で黒狼牙《こくろうが》を弾き、その勢いでわずかにのけ反《ぞ》ったアナリンの腹部目がけて銀の蛇剣《タリオ》を突き出した。

 動きが止まったかのように見えたアナリンは、これをギリギリのところでかわす……はずだった。

 だけど……。


「うぐっ!」


 銀の蛇剣《タリオ》の刃がアナリンの脇腹をこするように斬り裂いたんだ。

 

「くっ……おのれ!」


 それでもアナリンは引き下がることなく、剣を突き出した姿勢の僕に向けて素早く黒狼牙《こくろうが》を振り下ろす。

 狙《ねら》いは銀の蛇剣《タリオ》を握った僕の左腕だった。


「いかに強固な鱗《うろこ》に覆《おお》われていようと、その細腕一本斬れぬ黒狼牙《こくろうが》ではない!」


 その太刀筋《たちすじ》は先ほどのアナリンの言葉通り、伸び切った僕の左腕を狙《ねら》っていた。

 き、斬られる!

 そう思った瞬間、僕は恐怖のあまり息が詰まって呼吸が出来なくなってしまった。


 な、何だこれ。

 苦しい!

 息が吸えない!

 それだけじゃなくて体が動かない。

 そんな苦しみの中で僕は見た。


 僕の腕や体がまるで銅像のような鈍色《にびいろ》に変化していたのを。

 そしてアナリンの振り下ろした黒狼牙《こくろうが》は、僕の腕に当たると火花を散らして弾き返されたんだ。


「なにっ?」


 アナリンは驚愕《きょうがく》の声を上げた。

 一方の僕はすぐに自分の身に起きた現象に気が付いた。

 アナリンの刀をも弾き返すほど体が硬質化し、その間は身動きが取れず呼吸も出来なくなる。

 これは物理攻撃および魔法攻撃をすべて跳ね返すヴィクトリアの防御スキル・瞬間硬化《インスタント・キュアリング》だ。

 先日の戦いではこれでヴィクトリアはアナリンの鬼嵐刃《きらんじん》に耐え抜いていた。


「ぷはあっ!」


 呼吸が元に戻った僕は動けるようになった体でそのまま金の蛇剣《タリオ》をアナリンに向けて横凪《よこな》ぎに払った。

 彼女はこれをやすやすと黒狼牙《こくろうが》で受け止める。

 だけどインパクトの瞬間、僕の腕に強烈なヴィクトリアの力感が溢《あふ》れてきて、僕は力任せにアナリンを押し込んだ。


「くああああっ!」

「ぐっ!」


 アナリンは後方に飛ばされて着地するけれど、銀の蛇剣《タリオ》で切り裂かれた脇腹は赤い血で染まっていた。

 その顔から冷静さは失われていないけれど、脇腹の痛みのせいかアナリンはわずかに目元を歪《ゆが》めている。


 戦える……戦えるぞ。

 僕は1人じゃない。

 皆の助力をこの身に感じながら僕は2本の蛇剣《タリオ》を強く握り締めた。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 最終章 第16話 『苦しみの果てに』は


明日2月14日(日)午前0時過ぎに掲載予定です。


次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。