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だって僕はNPCだから 4th GAME  作者: 枕崎 純之助
最終章 『月下の死闘』
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第6話 『東将姫 vs 光の聖女』

「よかろう。では聖女もろとも死ね」


 そう言うとアナリンは腰を落とした。

 僕は咄嗟とっさに金の蛇剣タリオを構えるけれど、その一瞬後にはアナリンの鋭い踏み込みからの横一閃の刀の一撃によって、蛇剣タリオは弾き飛ばされてしまった。


「うわっ!」


 は、速過ぎて反応できない。

 こ、殺される!

  

「散れっ!」


 返す刀で僕ののどを斬り裂こうとしたアナリンの刃が直前で弾かれた。


「させません!」


 それは僕のすぐ脇から差し込まれたジェネットの懲悪杖アストレアだった。

 アナリンの黒狼牙こくろうが懲悪杖アストレアがぶつかり合い、金属音を響かせて火花が散る。

 そのままジェネットは僕を守る様に前に立つと、すばやく懲悪杖アストレアを振り回してアナリンに細かい打撃を加えていく。

 アナリンはこれを全て刀で受け切ると、後方にステップして一旦距離を取った。


「さすがに名を馳せた光の聖女だな。腕前は確かなようだ。だが……幾多のツワモノをほうむってきたそれがしの刃、受け止められるものならば受け止めてみせよ」


 そう言うとアナリンはさらに素早い踏み込みから連続して鋭い斬撃を繰り出してくる。

 目で追うのも追いつかないくらいの速さに、ジェネットは見事に反応した。

 だけど……。


「くっ!」


 ジェネットでさえアナリンの動きについていくのがやっとで、まったく反撃のすきを与えてもらえずに防戦一方となっている。

 聖光霧ピュリフィケーションを放射するヒマさえない。

 他の皆の時と同じく、ジェネットもアナリンの猛攻に圧倒されていた。


 ジェネットの援護をしたいけれど、2人の攻防がすごすぎて僕なんかが付け入るすきもない。

 アナリンと比べてジェネットの優位な点は空を飛べるというところなんだけど、アナリンの斬撃の圧力がすごすぎてジェネットが空中に浮かぶタイミングを取れずにいる。

 地上に釘付くぎづけにされてしまっているんだ。

 ジェネットはアナリンの猛攻に耐えながら苦々しく言った。


「これほどの腕を持ちながら、悪事に身を染めるとは。あなたのやろうとしていることはあさましい強盗行為ですよ」

「聖女の説法は不要だ。強盗であろうと悪事であろうとそれがしはやらねばならぬ。この刀は忠義のために振るうと決めたのでな」

「忠義ですか。その言葉の重みはよく分かります。私も同じですから。ですがあなたに命令を下しているのはその言葉に見合った人物なのですか? 私がもし我が主から悪事に加担することを命じられたならば、きっぱりと断り、主をさとします。それこそが忠義というものでしょう。あなたのしていることはただの盲信もうしんです」


 ジェネットのその言葉にアナリンはわずかに口元をゆがめた。

 それは自嘲じちょうするかのようないびつな笑みだった。


「笑わせるな!」

「くはっ!」


 ひときわ力を込めたアナリンの一撃を懲悪杖アストレアで受けたジェネットは、その勢いを止め切れずに後方へ大きく飛ばされた。

 何とか空中で体勢を立て直してそのまま上昇するジェネットを見上げながらアナリンは言う。


「聖女ジェネット。陽に照らされた道を歩み続ける貴様の言葉はそれがしには響かぬ。それがしが歩んできたのは陽の当たらぬどろの道だ。すでに死人も同然だったそれがしに再び刀を振るう場が与えられた。サムライとしてこれ以上のほまれはない。そのためならばそれがしは……鬼にだとてなろう!」


 そう言うとアナリンは黒狼牙こくろうがをブンッと振るう。


鬼速刃きそくじん!」


 発せられた光の刃が空中のジェネットを襲う。

 直撃型ではなく速射型の鬼速刃きそくじんだ。

 ジェネットは素早く旋回せんかいしてこれをギリギリでかわした。

 だけどそれを避けたジェネットの背後に光りかがやく翼が見えた。


 ら、雷轟らいごうだ。

 雷轟らいごうは主人の加勢をすべくジェネットの背中をひづめで蹴りつけた。


「かはっ!」


 鬼速刃きそくじんを避けたばかりで余裕のなかったジェネットは、この一撃を避けられずに地上に落下する。

 それを待ち受けるのは刀をさやに収めた居合いの型で構えるアナリンだ。


 まずい!

 直撃型の鬼速刃きそくじんは衝撃が物質を突き抜けるんだ。

 防げない!

 僕は反射的にアナリンに向けてEガトリングを連射していた。


「チッ!」


 襲い来る銀色のへびたちをアナリンは素早い刀さばきで次々と斬り捨てていく。

 そのすきにジェネットは地上に何とか着地する。

 僕は彼女と瞬時に目配せをして、すぐにEガトリングを頭上の雷轟らいごうに向けた。

 銃口から発せられた銀色のへびたちに襲われて雷轟らいごうは上空に逃げていく。

 そして僕と入れ替わりにジェネットがアナリンを攻撃した。


聖光霧ピュリフィケーション!」


 かがやく光のきり懲悪杖アストレアの先から噴射されてアナリンを襲う。

 だけどアナリンは黒狼牙こくろうがを頭上に振り上げて剣舞を繰り出す。


鬼嵐刃きらんじん!」


 黒狼牙こくろうがから発生した光の刃がアナリンの体を中心に刃のあらしとなって巻き起こる。

 そしてそれは聖光霧ピュリフィケーションを一瞬でかき消してジェネットにも迫った。

 ジェネットは瞬時に空中へと急上昇し、光の刃から逃れる。

 だけどアナリンはさらに勢いを増して鬼嵐刃きらんじんを放射していく。


 あ、あれは危険だ。

 僕も地面に横たわるヴィクトリアやノアのそばに咄嗟とっさに横たわった。

 すぐ頭の上を光の刃が通り抜けていく。

 くっ!

 これじゃあアナリンに近付くことも出来ないぞ。


 ジェネットは空中高くを旋回せんかいしながら、地上から放たれる光の刃を避ける。

 見る限り鬼嵐刃きらんじんの射程はせいぜい20メートルほどで、遠くなるほどに威力と速度が減衰げんすいしてやがて消える。

 あれだけの距離があればジェネットなら回避は難しくない。

 だけどジェネットの頭上から再び雷轟らいごうが急降下してきた。


「危ないっ!」


 思わず僕が叫び声を上げた時には、ジェネットは雷轟らいごうの体当たりをヒラリとかわしていた。

 今度ばかりはジェネットも予測済みだったんだ。

 二度も同じてつを踏む彼女じゃない。

 雷轟らいごうは勢い余ってそのまま地上に降下してくる。

 すると地上ではアナリンが再び黒狼牙こくろうがさやに戻して居合いの型で構えていた。

 

 僕はそのさやの状態を見てハッと息を飲んだ。

 黒狼牙こくろうがさやに巻かれていた金鎖きんさが解かれていたんだ。

 あれは……。


魔狼まろうの力をとくと見よ。黒狼牙こくろうがれつ!」


 そう言うアナリンの持つさやから薄紅色のもやが立ち上り始め、そのもやの中に見える彼女の容貌ようぼうが大きく変化した。

 アナリンの黒い瞳が薄紅色に変化し、冷然としていたその表情が殺気を帯びた好戦的なそれに変わった。

 そして頭髪の間から赤くかがやく2本の角が生え出して、その姿はまるで悪魔のように変わる。


 以前もアナリンの身には同じ現象が起きた。

 黒狼牙こくろうがれつ

 アナリンの持つ妖刀・黒狼牙こくろうがの力を解放しているんだろう。

 どういう原理なのかは分からないけど、その力がアナリンをまるで別の生き物に変えてしまっているみたいだ。

 そして恐ろしいのは以前にこの状態になったアナリンによって、あの強靭きょうじんな肉体を持つヴィクトリアが一撃で切り裂かれて戦闘不能におちいってしまったことだ。

 

 この状態のアナリンは危険だ。

 ジェネットが……危ない! 


「ハアッ!」


 そのままアナリンは身軽に跳躍ちょうやくしてみせた。

 だけどいくらアナリンの跳躍ちょうやく力が優れているとはいえ、ジェネットのいる20メートルほどの空中までは……えっ?

 僕が見つめる先で、急降下してきた雷轟らいごうがアナリンの体の下に入り込むと、その翼を大きく広げた。


 そしてその翼に足をかけたアナリンを上空へと一気に跳ね飛ばしたんだ。

 二段ジャンプだ!

 空中での強烈な発射台を得たアナリンは高速で一気にジェネットへと迫る。

 

鬼道烈斬きどうれつざん!」


 それはアナリンの大技だった。

 さやから抜き放った刀を横なぎに払うと、鬼速刃きそくじん鬼嵐刃きらんじんの時とは比べ物にならないほど大きな光の刃が発生し、ジェネットを襲った。


「くっ!」


 ジェネットは咄嗟とっさ懲悪杖アストレアを構えたけれど、アナリンの光の刃はそれを真っ二つにへし折ってしまったんだ。

 そ、そんな……ミランダが黒鎖杖バーゲストをへし折られたと同じだ。

 そして光の刃はそのまま体勢をくずしたジェネットの右肩に食い込み……彼女の右腕を肩から切断した。


「ジェ……ジェネットォォォォッ!」


 受け入れがたいその光景に、僕は無意識のうちにのどが張り裂けんばかりの叫び声を上げていた。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 最終章 第7話 『冷徹なるサムライ・ガール』は


明日2月5日(金)午前0時過ぎに掲載予定です。


次回もよろしくお願いいたします。

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