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だって僕はNPCだから 4th GAME  作者: 枕崎 純之助
第三章 『リモート・ミッション・α』

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第9話 『火の雨』

 東将姫アナリンの手から逃れて森の上空50メートルまで上昇した僕は、けたたましく響く音を耳にしたんだ。

 それは何かが割れるような、そして砕けるような音だ。

 地鳴りのようにも聞こえる。

 地面が……揺れている?


「いや、違うぞ。アニヒレートだ」


 森の中にポッカリと開いた焦土《しょうど》の広場に立ち尽くしたままの巨大なアニヒレートの氷像が、グラグラと揺れ始めていたんだ。

 そして再び何かが割れるようにメキメキという音が鳴り響く。

 やがてアニヒレートの体表を覆《おお》っている氷に大きな亀裂《きれつ》が走ったかと思うと、白かったアニヒレートの体が少しずつ赤く変色し始めた。


 そんな……アリアナが全ての力を使い切って必死に足止めをしてくれたアニヒレートがもう動き出すのか?

 アニヒレートの前脚がぎこちなく動き始める。

 それはまさしく冬眠から目覚める熊《くま》のようで、凝《こ》り固まった体をほぐしているみたいに見える。

 いや、実際そうなんだ。

 アニヒレートの体を染める赤い光はより強く濃《こ》くなってきた。

 

「こ、これは……やばいんじゃないのか。アリアナは……」


 最後にアリアナと別れたのはあの焦土《しょうど》の広場だ。

 アニヒレートの背後から大技・乱気流雪嵐《ジェット・スイープ・ブリザード》を放ったアリアナの姿は、すでにそこにはない。

 すでに彼女はあの場から避難しているはずだけど……。

 僕が不安を胸にアリアナの姿を視界の中に探そうとしていると、いよいよアニヒレートが復活の狼煙《のろし》を上げ始めたんだ。


「ゴォォォォン!」


 顔を頭上に向け、まるで天に噛《か》みつくかのように吠《ほ》えたアニヒレートの体からは、いよいよ氷が完全に剥《は》がれ落ちていく。

 そしてその巨体から盛大に白い蒸気が上がった。


「グオオオオオッ!」


 耳をつんざくような雄叫《おたけ》びを上げたアニヒレートは上を向いたままひときわ大きく口を開けた。

 何だ?

 何をするつもりなんだ?

 そう訝《いぶか》しむ僕の視線の先でアニヒレートの体がどんどん赤く輝《かがや》きを増していく。


 そしてまるで熱した金属のように煌々(こうこう)とした光が最高潮に達した瞬間、アニヒレートがその口から猛烈な勢いで火球を吐き出したんだ。

 それは先ほどまでのような青い光弾ではなく、赤く燃え盛る巨大な火球だ。

 そしてそれは空高く舞い上がると、上空でまるで花火のように大きく弾けた。


 ドーンという大きな音と共に巨大な火球は無数の燃え盛る破片に分散して地上に降り注ぐ。

 それは一つ一つが人の体よりも大きく、地面に落下した途端《とたん》に激しい爆発を起こして周囲を燃え上がらせた。


「うわわわわっ!」


 轟音《ごうおん》と衝撃に僕は悲鳴を上げ、空中で逃げ惑う。

 頭上から無数の燃え盛る破片が火の雨となって降って来る。

 必死に飛び回りながら僕は事態がさらに悪化に向かっていることを知った。

 アニヒレートが吐き出した巨大火球は上空で分裂したためか、かなり広範囲に渡ってその破片を落下させていたんだ。

 それは森の西側にそびえる急斜面が特徴的な切先山《きっさきやま》にも及んでいた。

 燃える破片が、まだ積雪が多く残ったままの山の峰《みね》にいくつも落下して爆発したんだ。


 そのせいで急斜面にたまった積雪が土砂とともに斜面を崩《くず》れ落ちてきた。

 その大規模な災害に僕は恐怖で思わず声を上げる。

 

「な、雪崩《なだれ》だ!」


 大雪崩《おおなだれ》はあっという間に斜面を駆け下りてきた。

 かなり傾斜《けいしゃ》のキツイ山だから、雪崩《なだれ》も恐ろしいほどの速さで森に近付いて来る。

 このままじゃこの辺りはすぐに雪と土砂で埋《う》め尽くされてしまう。


 マズイ。

 川に流されてしまったミランダはどうなったんだろうか。

 アリアナは森から無事に脱出しているんだろうか。


 僕が慌《あわ》てふためいている間に森に突っ込んで来た大雪崩《おおなだれ》が燃える木々、焦土《しょうど》、そしてミランダが流されてしまった川をも埋《う》め尽くしてようやく止まる。


「グオオオオッ!」


 眼下の惨状を呆然《ぼうぜん》と見下ろす僕をよそに、アニヒレートは轟然《ごうぜん》と吠《ほ》えた。

 その体が再び赤く染まっている。

 や、やばい!

 第2射が来る!


「ゴォォォォォン!」


 そして無慈悲《むじひ》にもアニヒレートの口から再び大火球が吐き出された。

 それも今度は頭上に向けてではなく、僕の背後に広がる平原に向けて。

 そこにはアニヒレートを迎え撃つために集結してきたプレイヤーたちの軍勢が陣を構えている。

 アニヒレートは彼らを狙《ねら》ったんだ。


 僕はその衝撃的な光景に震え上がった。

 平原に展開していたプレイヤーたちの軍勢のど真ん中に巨大火球が炸裂した。

 地面が大きく爆発し、何十人もの人影が数十メートルも上空に飛ばされるのが見える。

 それはまさに虐殺《ぎゃくさつ》、問答無用の暴力だった。

 プレイヤーたちの悲鳴がここまで聞こえてくるかのようだ。


「ひ、ひどい……」


 アリアナの話では、エマさんが負傷した懺悔主党《ザンゲスト》のメンバーを連れてあのプレイヤーの一団に合流すべく向かっていたはずだ。

 僕はまだエマさんたちが彼らと合流していないことを祈《いの》りながら、傲然《ごうぜん》と熱い息を吐き出すアニヒレートに目を向けた。

 

「このままじゃマズイ……」


 もしアニヒレートがこの森を出て進めば、あの大火球がダンゲルンの街に落とされてしまうことは避けられない。

 そうなれば人々は避難していても街は壊滅してしまう。

 そ、そんなことはさせられない。

 僕は恐怖に強張《こわば》った体に鞭《むち》を入れるように、両手で左右の頬《ほほ》をバシッと叩いた。


「止めなきゃ。アニヒレートを」


 ミランダやアリアナ達でも止められなかった怪物を僕なんかがどうにか出来るはずはない。

 でも、やらなきゃ。

 何か行動を起こさなきゃ。

 ミランダ、アリアナ、エマさん。

 探しに行くのは少し遅くなっちゃうけど、待っててね。


 僕はアイテム・ストックの中からアニヒレートにも効果があるかもしれないアイテムを取り出すと、決死の覚悟で巨大な熊《くま》の魔物に向かっていく。

 アニヒレートは雪崩《なだれ》に埋《う》まった森の中で雪と土砂を掻《か》き分けながらズンズンとダンゲルンの方角へ進んでいこうとしていた。

 僕はその鼻先近くへと舞い降りると、必死にアニヒレートの注意を引くべく声を上げる。


「ア、アニヒレート!」


 アニヒレートからしたら僕なんて羽虫以下の存在だろうけれど、鼻先をブンブンと飛び回るうるさい僕を赤く充血した目でギロリと睨《にら》んでくる。

 うぅ……怖いけど、ビビッてるわけにはいかないんだ。 

 僕はアイテム・ストックから取り出した一本の筒《つつ》の紐《ひも》を引っ張る。

 すると筒《つつ》の中でシューッと音がし始めた。


「紐《ひも》を引っ張ってから5秒で炸裂。3、2……」


 今の僕の大きさからすると両手で抱えるほどの大きさのそれを抱えながら、タイミングを合わせてアニヒレートの鼻先に落とす。

 するとそれはアニヒレートの目の前でパンッと破裂した。

 僕はすぐさまその場から離れるけど、すぐに白い煙と刺激臭、そしてけたたましい音が鳴り始めたんだ。


 僕は必死にその場から離れて飛びながら、後方を振り返ってアイテムの効果を確かめる。

 アニヒレートは不快そうに頭を振りながら吠《ほ》えた。


「グオオオオオオッ!」

 

 効果ありだ。

 不快炸裂弾。

 目潰しの煙幕、鼻が曲がるほどの刺激臭、そして耳をつんざく破裂音。

 視覚、嗅覚、聴覚に訴《うった》えかける嫌がらせのようなアイテムだ。

 相手を混乱させて一時的に足止めをするための物なんだけど、ここでの使用目的は……。


「グガアアアアアッ!」


 怒り狂ったアニヒレートは僕に目を向ける。

 いいぞ。

 そのまま僕を追って来るんだ!

 そう思った僕はダンゲルンと反対の南の方角へとアニヒレートを誘導しようとした。

 

 これが僕の狙《ねら》いだ。

 あとはそのままアニヒレートを……そう思ったその時だった。

 アニヒレートは足元の土砂を後ろ脚で思い切り蹴り上げたんだ。

 それは予期せぬ動きだった。


「ひいっ!」


 雪と土砂が僕に向かって舞い上がる。

 最悪なのは、その雪と土砂の中には、へし折れた木の幹や石礫《いしつぶて》がふんだんに混ざっていたことだ。

 僕は自分に向かってくる雪と土砂を必死に避けようとしたけれど、右往左往しているうちに目の前が青くなった。

 蹴り上げた雪と土砂に対してアニヒレートが青い光弾を放ったのだと、僕は瞬時に悟った。

 そしてそれを避けることは僕には出来なかったんだ。


「や、やば……」


 そう言う僕の視界が青く染まり、体が炎に包まれる中で、ついに僕の意識はブツリと途切れた。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 第三章 第10話 『再び王都にて』は


明日1月9日(土)午前0時過ぎに掲載予定です。


次回もよろしくお願いいたします。

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