表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だって僕はNPCだから 4th GAME  作者: 枕崎 純之助
第二章 『リモート・ミッション・β』
30/87

第14話 『夜の語らい』

 バルバーラ大陸南部の港町シェラングーンでチームβ(ベータ)と合流中だった僕が妖精の体からログアウトして王都にある司令室に戻ると、神様が待っていてくれた。


「ご苦労だったな。アルフリーダ」

「戻りました。神様。あれ? アビーはどうしたんですか?」


 司令室にいるのは神様1人で、アビーの姿はどこにもない。

 

「アビーはこの尖塔せんとうの下層階にある大部屋で、女性の避難民たちと眠っている」


 神様の話によると最上階のこの部屋を司令室として使っているこの尖塔せんとうは、下の階層に兵士たちの宿直室や訓練場などがあるらしく、神様がすぐにそこを改装して臨時の宿泊施設を作ったんだって。

 アニヒレートの襲撃で焼け出されて家を失った避難民たちのために、神様はすぐに動いてくれたんだ。


「ここならば300人ほどは収容できるからな。避難民全体を考えれば足りないが、少しでも役立つならば使うべきだろう」


 さすが神様だ。

 動きが早い。

 僕はこの人のこういうところを尊敬しているんだ。

 懺悔主党ザンゲストの人達が主としてうやまう気持ちはよく分かるよ。


「女性が安心して眠れるように専用の部屋を設置したから、アビーもそこで眠るらしい。知り合いの女の子がいるとか言っていたな」

「そうなんですか」

「だからアルフリーダ。今夜は男同士、2人きりで楽しもう」


 そう言う神様の後ろには二組の布団ふとんが用意されていた。

 ……へっ?

 お、男同士2人きりで楽しむ?

 キョトンとする僕に構わず、神様は布団ふとんまくら元に立つと振り返って手招きをした。


「来いよ」


 何だ、そのイケメンみたいな声と表情は!

 男同士、布団ふとんの上で何を楽しむってんだ!

 か、神様って僕のことそんな目で見てたの?


 いや、待てよ。

 以前はそんなことはなかった。

 というかそもそも今の僕はアルフレッドじゃなくてアルフリーダで女性の体……ハッ!

 もしや女性の体になっている今の僕を手籠てごめに……。

 そんな!

 いくら尊敬している神様だからってそんなこと!


「神様! 僕はそんなこと……むぐっ」


 突然、僕の顔に何かがボフッと叩きつけられた。

 それは神様が僕に投げつけたまくらだった。

 神様はニヤリと笑うと、もう一組の布団ふとんから次のまくらを拾い上げ、それを頭上にかかげて意気揚々と言った。


まくら投げしようぜ!」 


 修学旅行の夜か!

 男同士2人っきりで楽しむってそういうことか!

 まぎらわしいわ!


「あ、遊んでる場合じゃないでしょう。神様。僕、次は銀の妖精になってミランダたちのところへ行かないと」


 今、彼女たちがどういう状態にあるか気になるし、すぐに行かないと。

 だけど神様はつまらなさそうにまくら布団ふとんの上に放り投げ、自らも布団ふとんにボフッとダイブする。

 

「何だよノリ悪いな。せっかく熱いまくら投げ合戦を楽しもうと思ったのに」


 そう言って子供みたくねる神様に僕はため息をつきながら、足元のまくらを拾い上げた。

 神様は仰向けに寝転がり、僕を見上げて言う。


「アルフリーダ。どうせ少し休憩しないと、次のログインは出来ないぞ。さっきまで妖精状態でいたのが長かったから、一度目より長めのインターバルが必要になる。少なくとも1~2時間は仮眠を取らないと、体への負担が大き過ぎるんだ」

「そ、そうなんですか?」


 何てこった。

 すぐにはミランダの元へ駆けつけられないのか。


「案ずるなアルフリーダ。ミランダ達も今は夜営中だ。全員無事だぞ。だからおまえも体を休めろ」


 そう言うと神様は自分の布団ふとんに入っていく。

 僕は仕方なく兵服のえりゆるめて、もう一つの布団ふとんに座り込んだ。

 休まないといけないのか。

 確かに僕は今、肉体的にも精神的にも疲れていた。

 

「そういうことなら休ませてもらいますけど、寝る前にミランダ達の今の状況を……」

「そんなことより大事なことがあるだろう」

「大事なこと?」


 思わずまゆを潜める僕に、神様はナイショ話をするように声を潜めて言った。


「なあなあ。おまえ好きな子いるの? 教えろよ~」


 修学旅行の夜か!

 ここぞとばかりに恋バナ振ってくる男子中学生か!

 

「も、もういい加減にして下さいよ。僕はミランダ達が心配なんです。彼女たちが今どうしているのか教えて下さい。お願いですから」

「チッ! 分かった分かった。本当にノリの悪い奴だな。まったく」


 ブツブツ言いながらも神様はミランダ達の今までの状況を教えてくれた。


「おまえが例の気球からログアウトした後、2時間ほどで気球は北部都市ダンゲルンに降り立った。ダンゲルンの住民たちはアニヒレートの襲撃に抵抗する気でいたんだが、アリアナが必死に説得したらしくてな。事前の避難誘導には成功したようだ。住民たちは今、続々と近隣の村々へと避難を続けている」

「そうなんですか。よかった」

「説得には苦労したらしいぞ。北部の人間はガンコ者が多くてな。ヨソ者の言葉を簡単には受け入れんのだ。同じダンゲルンの出身者であるアリアナが涙ながらにうったえて、ようやく住民たちは重い腰を上げたようだ」


 そうか。

 アリアナ、がんばったんだね。

 気弱な彼女が必死に住民たちを説得する姿を思い浮かべ、僕は思わず胸が熱くなる。

 ちなみにミランダは避難を渋る住民たちに「あっそ。だったら勝手に死ねば」とブチキレて、火に油を注いだらしい。

 め、目に浮かぶよ。


「今、ダンゲルンでは一般市民が避難するのと反対に、ログインしてきたプレイヤーたちが集まり始めている。兵士ら戦闘員のNPCたちと合同でアニヒレートを迎え撃つ準備が始まっている」

「そうなんですか。でもそれなら今、ミランダたちはダンゲルンにいるんじゃないんですか? 夜営って……」

「いや、ミランダ達は今、ダンゲルン南に広がる森の中だ。アニヒレートがそこまで進撃してきて、そこで活動を停止したんだ」


 活動を停止?

 どういうことか分からずに戸惑う僕に神様が説明してくれた。


 広野といくつかの丘陵きゅうりょう地帯を踏み越えて進んできたアニヒレートは、北部都市ダンゲルンを目前にして、その手前に広がる森林地帯に足を踏み入れたところでピタリと歩みを止めてしまった。

 神様が言うにはあれほどの巨体を持つアニヒレートは膨大ぼうだいな活動エネルギーを必要としていて、定期的に休息してエネルギーを回復させる必要があるんだって。


「眠っているってことですか? じゃあ今がアニヒレートを倒すチャンスじゃないですか」

「ところがだ。アニヒレートは休息中は体が硬化して、一切の攻撃を受け付けなくなる。ヴィクトリアのスキル・瞬間硬化インスタント・キュアリングの拡大版みたいなものだな」

「そ、そんな……」


 おどろく僕に神様は映像を見せてくれた。

 それは森の中で銅像のように固まったままピクリとも動かないアニヒレートの姿だった。

 禍々(まがまが)しい黒と赤のまだらの毛並みは今は灰色にくすみ、その活動を停止していることを如実にょじつに表している。

 

「この現場に駆けつけたミランダ達がアニヒレートに攻撃を加えてみたんだが、まったくのノー・ダメージだった」

「そうだったんですか……ミランダ達はこの現場に?」

「うむ。すぐ近くにキャンプを張って滞在し、アニヒレートの活動再開と同時に攻撃できるように準備している」


 眠っているとはいえアニヒレートのすぐそばでキャンプとか、怖すぎる。

 ミランダたちが心配だな。

 これは僕も早く合流しないと。


「アニヒレートがいつ頃、動き出すか分かりますか?」

「本来は反則なんだが運営本部から情報を取っておいた。今の状況だとまだ数時間は動かないらしいが、明日の夜明け前には動き出す可能性が高いそうだ」

「どちらにしろ、あまり時間はありませんね。強制スリープ・モードですぐに寝ないと」


 このゲームでは度重たびかさなるアップデートにより、僕らNPCも疲労度がたまれば睡眠を欲する機能が付与されている。

 それとは別に自分で睡眠時間を設定して強制的に睡眠状態に入る機能も付いている。


「まあ待て。まだ話は終わっとらんぞ。ジェネットが倒したカイルのことや、おまえの金環杖サキエルで使う聖光透析ホーリー・ダイアリシスのことなど、話しておかなければならんことがある」


 そう言うと神様は布団ふとんに横たわったまま、知っている情報を話し始めた。

今回もお読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 第二章 第15話 『北の森へ』は


明日12月30日(水)午前0時に掲載予定です。


次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ