チェリーボーイが笑うなら
蝉が鳴いていた。
夏の暑い日差しと生温い風、そして穏やかな彼女の表情。その表情は変わることはなくずっと僕を見つめている。僕は彼女に微笑んで床に寝転ばせた。
「大丈夫さ、安心して君は僕のものだから」
「・・・・・・」
僕の彼女は話すことはできない。しかし言葉にしなくても伝わる、彼女は喜んでいる。
それはそうだろう、僕と一緒にいられるんだ嬉しく無いわけがない。
「ね、嬉しいよねリカ?」
「・・・・・・」
しゃがみ込んで彼女の気持ちを心で受け取る。
うん、うんうん。なるほど。
やっぱり彼女は喜んでいる。
僕は彼女のために掘った穴に彼女を運ぶことにした。
彼女の肩を力一杯引っ張る、綺麗な下半身に泥がついてしまっているが仕方ない。僕は腕に力を込める。
彼女の身体は思っていたよりも軽く、冷たかった。
ずるずると彼女の為に掘った穴を目指して運ぶ。下半身が泥まみれになった彼女もとても魅力的だ。
穴の近くまで彼女を運んで気持ちを確認するために裸体の彼女の胸部に耳をあてる。
うん、えっ、うん。なるほど。
少し恥ずかしいらしい。
何が恥ずかしいのだろう?
僕には理解できなかったけど、とにかく彼女は恥ずかしいらしい。
僕と一緒にいられることに恥ずかしさを持っているのだろうか、謙虚な人だ。
「恥ずかしいことなんかないさ、リカはとても綺麗だから」
「・・・・・・」
耳をあてる。
うん、あーうん。なるほど。
裸体でいることが恥ずかしい、僕と一緒にいれることはとても嬉しいだって。
確かに、裸体にしたのはあんまりだったかな。でも僕はリカの裸体を恥ずかしいとは思わない。
ふくよかな乳房と引き締まったお腹、そして毛の薄い性器。とても素敵じゃないか。
服を着て隠すなんてそんな勿体ないことはできない。
さて、そろそろ彼女を僕のものにしよう。
彼女を転がすように穴に落とす。丸く深く掘った穴なので彼女がどんな姿勢なのかは良く見えないがそれは別にいいか。
大切なのは心が繋がってることなんだから。
スコップで彼女がいる穴に土を被せて蓋をしていく。今日は真夏日でとても暑く汗が止まらなかったが彼女が僕のものになると考えるとそんな疲労感は夏の青空に消えていくようだった。
シャツに汗が滲み額から汗が滝のように吹き出る。
「ふぅー、よしっ!」
彼女の穴は土で完全に塞がりこれで彼女は僕のものになった。
これで、夜寂しくなってもここに来れば寂しくないし彼女が他の男に身体を委ねることもないし彼女が僕のことを嫌いになることもない。
これが愛の完成形だ。
僕だけが彼女を愛しているんだ。
それから僕は彼女と暮らし始めるようになった。僕は童貞で彼女の身体に触れたことは無かったが彼女を僕のものにしたことで彼女の心には沢山触れることができた。
仕事で疲れたときは彼女に愚痴を言い、晴れの日には天気の話をし、彼女の好きだった音楽の話もした。
そこに言葉は無かったけど、話はした。
話はした?
いや会話というより心で連絡を取ったと言ったほうが正しいのかも知れない。
うん、そっちのほうが正しい。
とりあえず僕とリカは幸せに暮らしていた。
しかし1週間ほど経ったころ、僕の家にある人が訪ねてきた。
「警察の田中と申します、原崎 梨花さんのことでお話が聞きたいんですけど…」
「リカなら僕の心の中にいます」
「はい?」
「リカは僕の心の中にいるんです」
僕がそう言うと警察の田中さんともう1人の警察の人は目を合わせて
「とりあえず署でお話を聞かせてもらえますか?」
と言った。
物分かりの悪い人だなぁと思ったけど僕は仕方なくその人達のあとを着いていった。