魔王倒したら異世界が失業者で溢れて大変になってた
「正直なところ…………空気を読んでいただきたかったですな……」
「……え?」
顔なじみの国王様に渋い表情でそう言われた俺は、わけがわからずただ聞き返すことしかできなかった。
目の前の国王様が大きなため息をつき、言葉を続ける。
「なんだかんだで、勇者殿もご理解していると思っていたのだが……」
「……理解……ですか?」
心なしか国王様の態度が雑になってきている気がする。
今までは……『世界の秩序を乱す魔王を倒せるのは勇者殿だけですぞ』……『全面的に協力いたします』など、とても友好的で丁寧な対応だった。
しかし今、目の前で王座に座りながらこちらを見てくる国王様の態度は、俺の記憶には無いものだ。頻繁に大きなため息を吐き、姿勢は片方の肘掛けに寄りかかっているので少しだらしない。
なにより表情が今までの柔和な笑顔から一変して、眉間に深い皺を寄せた険しいものになっている。
視線も冷ややかに感じる。
俺はわけがわからず、国王様に質問する。
「すみません。たしかに僕は理解していないかもしれません」
「…………」
無言で再度ため息を吐く国王様。
一体なぜこんなにもため息をつかれなければならないのか……?
俺は正直な気持ちを国王様に伝えることにする。
「ご存じの通り、僕は先日、魔王を倒しました。確実に倒しました。その証拠に、この世界から全ての魔物も消滅しました。魔物は魔王が召喚した魔法だったからです。世界の人たちを襲って苦しめていた魔物が全ていなくなり、みんなが平和に暮らせるようになり……。そういった意味では、僕はみなさんの空気を読んで行動できたとも思っているのですが……。空気が読めていないと国王様はおっしゃいましたが、すみません……具体的にどういった事か教えてください」
「…………」
国王様は、すぐに返事をせず無言でこちらを見据えてくる。
どう見ても、世界を平和にしてくれてありがとう……というようには見えない。
正直、俺は今日、沢山感謝されると思っていた。
長い冒険の末、ようやく魔王を倒し、辺境の魔王城からこの王国へ戻るまでに1ヶ月はかかった。
今まで、そこら中に溢れていた凶悪な魔物たちは忽然と姿を消し、魔王城から帰る道中は戦闘をせずに済み、とても楽だった。途中で寄った村や町などの人たちは、魔物がいなくなって喜んでいた。
俺は何も間違えていない……空気は読めていると思うのだが……。
魔王討伐者には、名誉と金品などの褒美を与えると宣言していた国王様のところへ来たので、一応、もらえる物はもらっておこうかな……といった下心がよくなかったのだろうか……。
正直、今までの冒険の結果、俺は死ぬまで遊んで暮らせる資産を確保できているので褒美が無いのならそれはそれでかまわない。むしろ、あまり興味がなかった。
ただ、魔王討伐の報告をして、普通に喜んでいただければそれでいい……と思っていたのだが……。
しばらく沈黙が続いた後、国王様が口を開いた。
「勇者殿は、この城へ来る途中、城下町の様子を見ただろう」
「はい……」
このグランドグラド王国の王城がある、王都バロンは巨大な街で、街の中心の王城へ辿り着くまでに、徒歩だと丸一日かかってしまう程、規模が大きい。
俺は馬車で来たので、さほど苦労はしなかったし、見慣れた街なので、あまり外を観察しては来なかった。
なにかあったのだろうか……?
「なにか異変は感じなかったか?」
国王様が俺に問いかける。
「……すみません。あまり外を見ていなかったもので……」
「そうか……」
国王様は一息つくと、話を続けた。
「勇者殿が街を眺めていれば、すぐに気づけるほどに、今、街は失業者で溢れているのだよ」
「……失業者……ですか?」
「簡単なことだ。このバロンは、魔王城に一番近い都市。故に、魔王城から出現してくる強力かつ多量の魔物と常に戦い続けなければ存続は許されない」
「……はい……」
そして、その魔物が消えたのだから、戦う必要はなくなり……。
「あ……」
俺は国王様の言いたいことを察して、声を出してしまった。
国王様はそんな俺を見ながら話を続ける。
「気づいたようだが……。バロンで強い魔物を食い止めることで、世界に波及する魔物の驚異を軽減させていたのだ。つまり、世界的に見たときに、バロンという都市は世界の最前線の砦だったわけだ。それ故、世界中の腕に自信のある戦士達がバロンに集まり、日々魔物たちと戦いを続け、どうにか世界の秩序は保たれていた」
「…………」
「魔物の驚異から世界を守るため、バロンに世界中の戦士達が集まり戦いを続ける。その戦士達は当然バロンで過ごすこととなる。バロンで住み、バロンで食べ、バロンで生活物資を補充する。傷ついた戦士は、バロンの医療施設が処置をする。より強い魔物を倒すため、よい強い武器が作られ、そして購入される。命を守るため、強力な防具が作られ、そして購入される」
はぁ……、と国王様は一度ため息をつき、さらに話を続ける。
「ほかの国々も、魔物はなるべくバロンで食い止めてもらった方がいいので、物資を積極的に提供してくれる。バロンが提供するのは、世界の安全だ。そういった経緯で、バロンの街は栄えた。『魔物を食い止める街』……としてな」
「…………」
国王様が、ふぅ……と深く一息つく。
俺は黙って話を聞く事しかできない。
国王様はそんな俺を静かに見つめながら話を続ける。
「そして、およそ一月前……魔王は倒された。うむ……。勇者殿によってな……」
「……はい……」
「私も覚えているよ。大臣が駆け込んできてな……。無数の魔物が一瞬で消えました! ……と、血相を変えて報告してくれたのだ」
その大臣とは俺も面識がある。
大抵、国王様の玉座から少し離れた場所に立っていて、事務的な事などわからないことがあれば、すかさず教えてくれていた。
今は、いないようだが……。
「魔物が消えて、一時、街は活気づいた。命がけの戦いから解放されたのだからな。街の者も戦士たちも、みな喜んでいたよ。数日間、盛大な祭りが行われて賑わっていた。……ただ、中にはその後に起こることに早めに気づいて、早々に手仕舞いした者もいたようだが」
「…………」
「勇者殿も理解したようだが、問題は祭りの後から、じわじわと顕在化していった。この街を活気づかせていた『魔物』が消えたのだ。魔物が消えれば、それを討伐する戦士は必要なくなる。魔物同様、戦士達も一気に失業した」
「…………」
「そして、戦士が使う武器防具も必要なくなる。戦士がいなくなれば、戦士が利用していた宿屋や食事処……あらゆる店の売り上げは少なくなる。鍛冶屋への注文は無くなり、武器防具屋での売買も激減。売れない商品をかかえた店は収入がなくなる。……そうして、店じまいをする者や、ひとまず店を休業して他の仕事を探す者……倒す相手を失い無職になった戦士達が溢れているのが、このバロンの現状なのだ」
「…………」
たしかに、魔物討伐で活気づいていた街ならば、魔物が消えればそうなってしまうだろう。
俺も今まで、多くの戦士達と関わってきた。強力な魔物を倒せる者ほど強者と尊敬され、また稼ぎも良かった。俺も魔物を倒してお金を稼ぎ、そのお金で生活してきた……。
しかし、それらの仕事を存続させるために、魔王を倒さず魔物で世界を溢れさせ続ければよかったのだろうか?
それは違うだろう。
「国王様。……つまり、空気を読めとおっしゃったのは、バロン……いえ、グランドグラン国が魔物によって利益を得ている国だから、魔物を消した僕に対して、不利益になることをするな……空気を読め……という事なのでしょうか?」
「…………」
国王様が無言になる。
つまり、そうだということか。
たしかに、国王様の言っている事は理解できる。今後この街を見れば、それが本当かどうかすぐに判断できるだろう。
そして、それは本当なのだろう。
しかし、それと命は比べられようがない。
魔物は淡々と人の命を奪う存在だった。
俺も何度も魔物に命を奪われる人や、体を損傷する人を見てきた。
魔物がこの世界から消えれば、そういった人たちが出なくなる。
そちらの方がいいに決まっている。
「国王様……。失礼を承知で申しますが……。空気を読めていないのは、国王様の方ではないでしょうか」
「…………」
国王様が渋い顔をする。
確かに、環境が一変してしまい、今まで通用していた商売が突然できなくなってしまうのは大変なことだ。
しかし、魔物に限らず、天災でだってそういったことは起こりえるだろう。
そういった国の混乱をうまくまとめるのが、そもそも国王という仕事なのではないだろうか……。
失業者の方たちに新たに仕事を紹介したり、一時的に衣食住を提供して、その間に次の仕事についてもらえばいい。
たしかに、労力はかかるかもしれないが……。
それが手間だからという理由で、魔物を野放しにすれば、その魔物によって多くの命が奪われ、困る人もでるのだ。
優先度の高い問題は、魔物の討伐の方だろう。
「ふぅ……」
国王様が深く息を吐いた。
「その通りだ……」
国王が静かに話を続ける。
「勇者殿に、八つ当たりをしてしまった……。申し訳ない……」
「…………」
よく見れば、国王様の顔色がよくない。
目の下にもうっすらとクマがあり、あまり眠れていないのかもしれない。
国王様はしばらく沈黙した後、俺を見ながら話を始める。
「お詫びに……どうだろう。この国を君に譲ろう。これを魔王討伐の褒美としよう」
「……えぇ!?」
「うむ……。世界を救った勇者への褒美に、金銀財宝だけでは足りぬと思っていたのだが……。国であれば、見合っている気がする」
国王様は、わりと真剣な様子である。
しかし、その様子的に、今思いついた提案だと察する。
「あの……国王様。国王様は、少々お疲れかと思います。すみません……俺の影響で国が大変になってしまって……。魔王を倒せる見込みができた時点で、国王様に相談するべきでした。そうすれば国王様も、事前に国が混乱しないように準備できましたよね……。そこまで考えが至らず……」
「いや、そこまで求める方が間違いというものだ勇者殿よ。そして、私は正気だ。うむ。どんどん私の中で、この国を勇者殿へ渡したい気持ちが強まっている」
国王様はそう言うと、側近の人に大臣を呼ぶように頼んだ。
まさか、国王様は本気で俺に『国』を褒美として渡そうとしているのだろうか。
しかし……。
話の流れ的に、思うところがある。
「国王様。お気持ちは嬉しいのですが、僕は、国を所有したいとは思いませんので……。辞退させていただきたいと……」
「それは本心なのか、勇者殿よ。このグランドグラドの領地は広い。自然に恵まれ作物は豊富に実るし、金山もあるぞ。しかも、唯一の懸念であった魔王城に近いという問題も解決済みだ。良い褒美だと思うのだが……」
「はい。グランドグラドは良い国だと思います。ですが、僕はこれからしばらく気ままに過ごしたいと思っていまして……」
「むぅぅ……」
国王様が渋い表情をする。
「国王様。お待たせいたしました」
大臣が到着した。
「おぉ、大臣よ。忙しいところすまぬ」
「いえ、お心遣いありがとうございます。ところで、いかがなされましたか?」
「うむ。こちらの勇者殿に、このグランドグラドの国を譲りたいと思っているのだが」
「は……ははぁ……。国を……で、ございますか」
大臣が驚いた表情でこちらを見る。
俺はなんともいえず、無言でただ様子を伺うしかできない。
大臣は、少しの間何やら思案し、そして国王へ向き直り話を始める。
「可能でございますよ。国王様がお望みであれば、今すぐにでも」
「そうか。可能だということだ、勇者殿よ。魔王討伐の褒美にこの国を渡そう。どうだ、受け取ってはもらえぬか?」
「……え……、ほ……本気ですか国王様……」
大国を譲るという大事にも関わらず、大臣を含めて国王様たちは割と簡単に事を進めようとする。
俺が困惑していると、国王様は深くため息をついたあと、静かに話し出した。
「私ももういい年だ。少し国が混乱した程度で、勇者殿に八つ当たりをしてしまうほど……衰えを感じたのだ。昔の私は、こうではなかったように思ってな。そしてちょうど目の前に、民のことを大事に扱ってくれそうな者がいるではないか。勇者殿ならば、きっとこの国の混乱を上手く治め、グランドグラドの国民たちが平和に幸せに暮らせるよう導いてくれるであろう。幸い、有能な家臣もこの国には多いのでな。家臣たちが勇者殿を立派な国王になれるようサポートしてくれるはずだ」
「はい。誠心誠意、ご助力させていただきます」
大臣も俺に国を譲る方針に反対せず、話を合わせている。
たしかに、国王の決断には反論しづらいのかもしれないが……。
その大臣が、国王へ進言する。
「魔王を討伐した勇者殿であれば、国民の支持も得られます。ご子息に恵まれなかった国王さまにとって、とても良い後継者であると私も考えます」
「そうであろう」
「……え……あの……」
予想に反して、大臣も国を譲ることに賛成派であった。
なんとなく雰囲気が、俺が国をもらい受ける流れになってきている。
これは早めに阻止した方がいい。
俺も長年、魔王討伐のために自分を追い込んで生活してきており、しばらくは休養したい気分だったのだ。
国王様にはお世話になっていたし、報告の義務もあるだろうし……少しは褒美をもらえて、生活のたしにもなれば……と、安易な気持ちで城へ訪問してしまったが……。まさか、このような展開になろうとは。
少し失礼になってしまうかもだが、ここは早めに、そして強めに断りの意志を示した方がよさそうである。
俺は意を決して口を開く。
「お気持ちはありがた……」
「決まりだな」
俺の言葉をかき消すように、国王様が大きめの声でそう言い放つ。
「え……あの……」
「勇者殿には、魔王討伐の褒美として、このグランドグラド国を受け渡そう。これは国王令である」
「え??」
「かしこまりました。それでは、これより、グランドグラド国は勇者殿のものとなります。勇者殿はグランドグラド国第31代目国王として正式に承継されました。勇者殿。この大臣、勇者殿の良きサポート役となるよう誠心誠意勤めますので、どうぞよろしくお願いいたします」
大臣が事務的にそう言い並べ、俺に深々とお辞儀をする。
「え……あの……?」
俺が戸惑っているのをよそに、国王はおもむろに立ち上がり、玉座から静かに立ち退き、俺の側へ歩いてきた。
「勇者殿。さぁ、あちらへ」
国王様が、玉座へ俺をうながす。
「グランドグラドの民たちを頼みましたぞ……」
国王はそう静かにつぶやき、俺の肩をポンと軽く叩き……そしてそのまま王室から出て行こうとする。
「え……あの……!」
俺の呼び止めにも応じず、国王はそのまま王室から出て行ってしまった。
「ささ、勇者殿。どうぞ、玉座へご着席ください」
今度は大臣が俺に近づき、玉座をすすめる。
「あの……。まだ、僕は国を譲り受けるとは言っていませんよ……」
「はい。承知です。先代王が一方的に勇者殿に国を渡しただけでございます。事実として、グランドグラドは勇者殿を国王とする国ですが、国王である勇者殿がどのように行動なされるかは……勇者殿のご自由でございます」
「…………」
「つまり、勇者殿がこの国を滅ぼそうとするならば、それも可能ではあるということでございます」
「…………」
そんなこと、できるわけがない。
そんなことをすれば、無数の国民が不幸になる。
俺にはそんなことは出来ない。
……そして、国王様はそれを見越して……。
「大臣さん……」
「大臣、……で結構でございます、国王様」
「…………」
大臣の様子はいつも通りである。
以前お世話になった時も、今日も、大臣の様子は同じだ。
淡々と大臣という役職に勤めている。
俺はそんな彼に質問してみる。
「今のこの国の状況はどうなのですか?」
「はい。突然魔物が消滅したことにより、商業的なサイクルが崩れ、失業者が溢れております。早急な対応が必要かと思われます。このまま放置すれば、犯罪者が増加し治安が乱れ、多数の被害が出ることでしょう」
「……そうです……か……」
状況は切迫しているのかもしれない。
国王様は、褒美だ何だといいながらも、この状況を俺に丸投げしたと言われても、たぶん本人も反論はしないのではないだろうか。
魔王を倒し、褒美をもらい、しばらくは悠々自適な生活を送ろうという俺の計画は、まさかの国王様の手によって阻まれた……とでもいうのか……。
そして、変わりに国王様が、これから悠々自適な生活を送るのだろうか……。
「…………」
『はい、国ですよ。どうぞ』『はい、どうも』と受け取れる代物では無いと思うのだが……。
しかし、俺が今置かれている状況は、まさにそれである。
傍らで、大臣が静かに待機している。
今もグランドグラドの国内では、魔物が消滅したことによる混乱が起きているのだろうか……。もしくは、これからひどくなっていくのか……。
ふと、傍らの大臣に、俺が国王令とやらで国を譲れば自由になれるのでは……とも思いつくが、ある一つの要因がそれを俺に躊躇わせる。
目の前の大臣は、仕事こそ完璧に遂行すれども、もうかなりのご老体なのである。国王様も、それなりに老いていた。
安定した秩序を維持するだけならば、ご高齢でも可能かもしれないが、100年に一度あるかないかの異変に対処するには……体力的に大変なのかもしれない……。
国王様も、顔色が悪かったしな……。
目の前の大臣にも、あまり無理してほしくないな……と、ふと思う。
つまり……、そうゆうことなのか。
高齢で体力的にも無理が生じていた国王が、後継者を捜していた矢先に、俺が魔王を倒し世界が一変してしまった。
どうしたものかと国王が疲労していたところに、俺が現れ、ちょっと八つ当たりしちゃったと。
そうしたら、魔王討伐の後処理をちゃんとやれやと俺が偉そうに言ってきたので、国王的には『じゃあお前がやれや』……みたいな……。
「失礼いたします!」
王室のドアが開かれ、大臣と似たような服を着た人が入ってきた。
同じような業務をしている人なのだろうか。
「何用だ」
大臣が、入室してきた人に問う。
「はい……。街の職業斡旋所に、失業者が殺到しており、一部の気性の荒い者が暴動を起こしまして……」
「警備兵で沈められなかったのか?」
「一時的には治めることに成功いたしました。しかし、民衆の不満は高まっております。早急になんらかの対策が必要かと」
「わかった。すぐに対策部へ行こう」
「はい。ありがとうございます。失礼いたしました」
そう言って、入室者は深々とお辞儀をして足早に去っていく。
「勇者殿……」
大臣が俺に向き直り、申し訳なさそうに話し始めた。
「先代国王様が、ご無礼なことをしたのは私も承知しております。勇者殿が受け入れがたければ、このまま気にせずご自由にされるのが良いと思います。無理を押しつけているのは、こちらですので……」
「…………」
さすがの大臣も気が咎めたのか、今までの強引さが無くなっている。
……もしかすると、今までの大臣の強引さは、事前に国王にそうするよう頼まれていたのだろうか……。
まぁ……それは、後々《のちのち》大臣に聞くこととしよう。
「大臣……。本当に俺が国王でもいいのですか?」
「は……。も……もちろんでございます……が……」
「俺は……国王とか……やったことがないのですが……大丈夫でしょうか。できるでしょうか」
大臣が驚きを隠せないと言った様子でこちらを見てくる。
俺も正直、驚いている。
まさか、俺が「国王とかできるでしょうか」と言う日が来るとは……。
「できますとも!」
大臣が嬉しそうにそう言った。
果たして俺に何ができるのだろうか。
今まで魔物と戦い続け、政治や商売についてはたいして知らないこの俺が国王など……。
しかし俺が魔王を討伐して、この国が混乱しているのならば、やはり俺にはその混乱を上手く治める責任もあるのかもしれない。
そう考えるならば、この国が安定するまで……目の前のご老体の大臣でも国王として国を治めることが可能になるほどまでには、出来る限りのことをする必要があるのかもしれない。
こうなってしまったのなら、やるしかない。
出来る限りのことをして……そして、上手くこの国を安定させることができたなら。
その時は大臣に国を譲って……そしてその時こそ自由気ままに悠々自適な生活を送りたい。
「では……。わかりました。できるかどうかわかりませんが、やるだけやってみます」
「ありがとうございます、勇者殿!」
そうして俺は何故か国王になってしまった。
当初予定していた褒美はちゃんともらえた。
しかも予想以上に大きな『国』という褒美だった。
さらに、感謝もされた。
大臣に「国王になってくれてありがとう」という感謝だった。
これも当初の予定と違ったが……。
まさか、魔王討伐して「空気読めよ……」と言われるとは思ってもみなかった。
失業者が大量にでるとは想像もしていなかった。
世界を救うという俺の冒険は、まだしばらく続きそうである。
おしまい