謎の赤紫蘇野郎
「君は摩訶不思議な姿だな、悪しきものなのかい?」
『悪しきもの?いきなり失礼な言われようだな』
・・・いえいえ、俺様は只の土偶なんですが。
土偶が何の為に作られたのかアニィは知らない、たぶん縄文ファンの婆も詳しい事など知らないだろう。古代の事など、確かな事は誰にも解らないのだから。
梅干しの赤紫蘇頭野郎が、興味深そうにアニィに手を伸ばして来た。
『恐いもの知らずだなこいつ、この俺様が世界を滅ぼす恐怖の大王だったらどうするんだ』
・・まぁ、別段そのような御大層なパワーは持ち合わせちゃいないのだが。
伸ばされた手から逃れる様にバックステップをふんで、姿の割には身軽にアニィは飛びのいた、気軽に触れないで頂きたいものよ!気分は高根の花のお嬢様だ。
赤紫蘇野郎の手が空をきって、フリーズした状態でお互いの間に気まずい雰囲気が流れる、シャコウが意思のある物体だとは思っていなかった様だ。
戸惑っている目で見つめて来る赤紫蘇、こちらとしても俺様が危険な敵だと思われると先の行動がやりにくくなる。害意が無い所を見せる為にも、ここはひとつU〇Aでも踊っちゃおうか?イケルと思うぞ遮光器土偶のU〇A。
どんな時でもウケる事を忘れない、子供の時からお笑い系でクラスのお調子者だったからな、界が変わろうと性格は変わるモノでは無し。
苦しい時にこそ笑いを求めようではないか!立ち上がれ、そして笑え!
やせ我慢、これぞ日本人の美徳である。
アニィのダンスがウケたのか、赤紫蘇はクスクス笑いながら此方を見ている。
「君は面白い子だねぇ、踊りが上手だね・・顔も良く考えると可愛いかもしれない事も無くも無い」どっちやねん。
赤紫蘇は捕まえる事は諦めたのか、無害な者をアピールする為にか、手を後ろに組んで顔だけ前に乗り出してそ~っと近寄って来た。大きな顔だな、スイカぐらい有りそうだ。それだけ今の俺様が小さい訳だが、身長7cmだっけ?オマケに付いているビニール製の人形くらいか。
「ふ~ん、君の中から姫様の残滓が感じられるけど、君を作ったのは姫様かい?」
・・センスが謎すぎる・・・
ボソッと言ったのが聞こえたぞ、シャコウの悪口を言うな!
アニィは結構シャコウ君を気に入っている、愛嬌が有って良いではないか、ちょっと宇宙人みたいで笑える・・もしかして昔地球に来た異世界人の姿だったりして。
カラスは食欲の方が大事なのか、2人の会話に口を挟むことなくウマウマと餌を食べ続けている。良いな、ちくしょうめぃ・・朝ご飯を食べる前に出て来てしまったからな、何気に腹が空いて来ている。
魂になった今でも毎日の習慣は抜けきらず、身体?は食事を求めて来るのだ・・くそっ!ご飯が食べたいぞ!ほかほかの白いご飯。
あぁ・・俺様は永遠に飯を食えないのか、泣けてくるぜ。
最も、激マズの城のディナーなどは、超御遠慮申し上げたいのだが。
「君は姫様の何?どうしてここに来たのかな?もしかして、僕に会いに来てくれたのかぃ」
『いや?・・カラスに連れられて来ただけだし』
さて困った、脳筋のアニィは難しい事を考えるのは御遠慮している。
建設業界の社畜として働くアニィには常々言われている事が有った、曰く<ほうれんそう>を忘れるなと。判断に迷う難しい事は自分で適当に誤魔化して片付けるのでは無く、上司や現場監督、とにかく偉い人に<報告・連絡・相談>するのが社畜の道としてベストな道なのだそうだ。
建設現場は安全第一だし、異世界だってそれは同じだろう。
どんな言葉や行動が赤紫蘇の地雷となって、皆を巻き込むヤバイ事故や事件に繋がるか判らない。そんな難しい事は俺様の得意分野では無いからな。用心用心・身の用心だ。
この赤紫蘇だって姫様の事を知っている話振りだが、姫様に起こった不幸は知らなかったみたいだし、何処まで近しい関係なのだか判らない。
迂闊な事を喋ったら駄目な様な気がするぞ、本能的に拒否感が有る・・別に赤紫蘇野郎が女にキャーキャー言われそうなイケメンだからでは決してない。
珍しく仕事や趣味以外に頭を使ったアニィは疲弊して来た。
もう、お家帰りたい・・サクラがいる、あの懐かしい俺様の実家へ。
「生き物の暖かさは感じない、君はゴーレムかな?でも核は違うね・・術が錬成された魔石ではない。わずかだが生きているモノの息吹を感じる・・そう、魂か」
赤紫蘇イケメンは一人で話して、一人で納得している・・独り言が多いと、なんか危ない人みたいだから止めた方が良いよ。アニィは割と親切な奴なので、そんな風に赤紫蘇を観察していた、観察しているのは何も赤紫蘇だけでは無いのだ。ジロジロと見つめ返してやる、シャコウの目がカッと開いたら恐そうだが。
「私が知っている魂に比べると、何か異質な感覚がする・・そうか、魔力だ・・魔力が感じられない・・いま、君が纏っている魔力は・・そう姫様のモノだ」
ブツブツ呟いている赤紫蘇、目はじっとシャコウから離さないのでアニィは少しばかり居心地が悪くなってきた。にらめっこは苦手なのだ。
『男に見つめられても嬉しくもないぜぇ、JKだったら喜ぶだろうが・・アァ、立場を交代して欲しい』
アニィの葛藤を知ってか知らずか、赤紫蘇は何やら うんうん と頷くと魂ならこれが嬉しいのでは・・と何やら部屋の奥の方に移動していった。
絶好な脱出のチャンスだったのだが、唯一の出入り口の窓はしっかりと閉められていて、シャコウのパワーでは残念ながら開けられなかった。分厚い不透明な擦りガラスは非常に重く出来ており、尚且つ頑丈だった。パンチをくれたら間違えなくアニィの手の方が破壊されるだろう、素焼きの様な素材・・もろいよ土器は。金属や石・土壁だったらお友達なので、上手い事溶け込んで誤魔化しながら(忍者の隠遁の術の様だな)逃げられるかも知れないのに、なぜか此処の造作は木だったのでそれも出来ない。俺様は鉄筋鳶だからな、大工さんではないのだ・・その辺の棲みわけが素人には解りにくいらしいが。
頼みのカラス様はまだお食事中だ、自分が食べられない時に他鳥が食っているのを見ると無性に腹が立つ。こいつローストしてやろうか、此処ではスチーム料理だったか、鶏肉は唐揚げが好きだ・・スパイスの効いた奴が良い。それからレモンは後から搾り掛ける方が好きだ、ちなみに残った皮まで喰うタイプ。
困り果てたアニィが窓の桟をウロウロと行ったり来たりしていたら、赤紫蘇が皿に何かを入れて持って来た。
「これはどうかな?聖魔石と純水だ。
聖なるエネルギーの塊と、穢れを払い浄化する力が込められた水だからね、魂にはご飯の代わりになるんじゃないかな?君お腹がすいているんだろう、さっきから鳥の餌ばかり気にしている。此処の世界では、神の身許に人を送る時に純水で清めるからね、魂と純粋は相性が良いはずだ」
赤紫蘇は良い奴なのか、気遣いが出来る男なのか。
俺様がビビらない様に窓辺にそっと<何やら供物>を置くと、ゆっくりと下がってベットの縁に腰かけて観察を続けている。
『そんな葬式に使う様な水、触れたら俺様昇天しちまうんじゃないのか?もう体は亡くなっているんだろうけど。
でも・・なんか、これって良い匂いがするな。美味そう・・?』
アニィは罠の前に餌を置かれた野生動物の様に、注意深く皿の中身を見つめ、香りを嗅いだり(鼻が何処に有るかははなはだ謎だが)して、3歩進んで2歩下がる行動を繰り返している。
気持ち的には、餌に釣られ罠に嵌るアホな動物と一緒にするなよ、馬鹿にするな!俺様は知的な霊長類!人類様なのだぞ・・とか思いつつ。
次の瞬間・・アニィはチョビっと魔石を齧っていた・・美味し。
梅干しは、蜂蜜入りの甘いのが好きです(*'ω'*)