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姫様見参  作者: さん☆のりこ
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遮光器土偶君の冒険

ご飯の事ばかり考えているシャコウ君(´-ω-`)

「ひょ~、気持ち良いぃ~。何だぁ空気が綺麗なのか?」


 チーが呼び寄せてくれた青カラスの背に跨り、空に躍り出た遮光器土偶<シャコゥ>は・・正確に言うと中に入っているアニィは大層ご機嫌さんだった。

仕事で通っている今の現場は都心だから実家からは通いやすかったのだが、どうも空気が悪くて(近場の他国よりは余程良い様だが)いけない。

現場の天辺、38階なんぞにいる時よりも、空気が綺麗で遠くまで見渡せる様な気がする。



 都心の38階くらいだとたいして高さも無く、周囲のビルに埋没してしまうし、もっと高いビルの窓から休憩中のサラリーマン?とかにジロジロみられて喜ばれちゃったりするので面白くない。

可愛いOLさんなら歓迎だが、男共に『あんなとこに居る、恐そう~駄目!俺玉がヒュンってしそう』とか言われていそうで不愉快なのだ。

こちとらプロなんだから、安全帯(しかもフルハーネスのカッコ良い一品だ)はしっかり着けているし、別段玉なんぞヒュンともしないのだ!

仕事は<御安全>に!これ大事!!




此方は冬で空気が澄んでいるのか、遠くに雪を被った山が連なって見える。


「随分高そうな山だな」


[高いネェ~鳥の仲間にあの山を越えて、向こうで冬越しするのがいるんスヨ。

それがネェ、山を飛び越える為に、体を軽くする必要が有るッテンでダイエットすルンスよ。無駄な脂肪を削ぎ落し、筋肉と根性で風の流れを掴んで命がけであの山の天辺を飛び越えて行くんスヨ~。ワイにはとても出来ないネェ~シティ派だし]


何気にカラスと会話をしているアニィ、細かい事は気にしない性格の様だ・・どうせ異世界、何でも有りだ。アニィが臨機応変なのか、カラスが頭が良いのか・・まぁカラスのお手柄なのだろうが。

ストイックに筋トレをする鳥に親近感を覚えたのか、アニィの好奇心は止まらない。


「そいつらが、そこまで頑張る理由は?」


[あいつら体が大きいんスヨ、夏の間は此処で発生する五月蠅く鳴くルエカとか、畑を荒らすデカイ虫とか、臭い魚なんかを食べるから人間にも歓迎されるんでヤンスけどネェ。冬はいけませんぜ・・食い物も減りますしヨォ、人間も食うに困りヤスから、大きなあいつらは飯の種に猟師に狙われちまう]


毎年ダイエットに耐えられず・・食欲に負けて残留した個体が人間の食卓を飾っていると言う。哀れな話だが、飯を我慢するのは難しい・・気持ちは解る、此処でその鳥に生まれていたら俺もローストされる運命だろう。




[あの山の向こうの地は、姫様の御母君の生まれ故郷でヤス。毎年渡りの時期になると姫様に頼まれて、向こうの地に飛び立つ大きいのの足に秘密の手紙を括りつけて送り出したモンでヤスヨ。今年はどうしヤス?姫様の中身がチェンジしたとか伝えヤンスか?]


「俺は難しい事は判らないんで、キャリさんに報告してから決めるわ」


渡りの最終便はもうすぐとの事で、お早い決断をとカラスに言われた。

カラスは頭がいいと聞いていたが、それにしても不自然に良いんじゃないのか?


「あんたは魔術師の御使い魔、とか言う奴なのか?」


この手の知識は無駄にJKが詳しいのだろうが、アニィはゲームより運動が好きだったからサッパリだ。


カラスはニヒルにフフ・・と笑うと答えてくれなかった、何か秘密の匂いがするかも?山の向こうの姫様の母ちゃんの実家の国は、魔術が盛んな国なのだろうか、連絡を取り合っていたなら何を話し合っていたんだ?この度の姫様の不幸を驚き嘆くのか・・それとも、計画通り・・ふふふ・・となるのだろうか。



かの地は俺達にとって敵になるのか、それとも味方なのか・・この気に食わないメシマズの国をおん出たとして、その行き先にお邪魔するに相応しい国なのだろうか?飯は美味い所なのか・・それが重要だ!


『出来れば海がある方が良い、釣りも俺様の趣味の一つだからな』


親戚が釣り船を経営していて、休日にはアマチュア釣師達を乗せて沖合まで行く。

昼飯用にと釣れた魚で<天ぷら>を揚げるのは、俺様が高校生の時の良いアルバイトだった。

あぁ、天ぷらが食べたい・・白身のキスは美味かった。烏賊も上手いが、身が爆ぜて油が飛び散るから要注意だ。俺は烏賊はフリッターの方が好きだな、スパイスの効いた奴。

玉ねぎの天ぷらも良いな・・コツなしの天麩羅粉を溶いた所に、鳥ガラスープの粉と黒コショウを混ぜて揚げると超美味い!

外で食べるとオニオンリングとかスカした名前で、結構なお値段を取られるから、家で揚げたが方が出来立てで美味いし何たってお安くて良い。

一度飯場の飲み会で、酒のつまみが無くて[おぃ、若いの何か作れや]と言われた時に、大量に作った事が有ったっけなぁ。ビールに合うから、結構受けてたな・・蛋白質の材料は無かったから何か捕って来いとか無茶振りされたけど。夜の山に忍び出て、動物を狩れる気がしない・・奴ら夜目が効くからズルイ。やはり肉はパックで売られていないと無理だ、所詮ひ弱な現代人なのだよ俺様は。


『果たして、俺達は異世界で飯を作れるのか・・』


魚なら捌けるぞ、バイトで仕込まれたからな・・親戚に釣り船屋がいてラッキーだったね。猟師はいなかったな、と言うか俺様の親戚は皆、首都圏に集まって住んでいるから、田舎暮らしの経験は飯場しかない・・コンビニまで13キロもかかる不便な山の中だったが。

この世界に馴染むのには、田舎出身のJKの手腕に掛かっているのだろうか。

異世界サバイバル生活か・・とっても心配だなぁ(主に飯の面で)。




アニィは辛い現実を受け入れられなくて、意識をワザと飛ばしているのか、余計な事(美味い飯の事)ばかりを考えている様だ。


『このカラス野郎も魔法の一種、それとも魔術師自身の変身なのだろうか?』


古い漫画に動物に変身する一族の話が有った様に思うが、あれは確か婆ちゃんの本棚に有った漫画の全集だった。タイトルは何だっけ?俺も動物に変身出来たら楽しそうだなぁ~と思って読んでいたもんだったが。

小学生の俺に、20歳過ぎたら動物じゃ無くて土偶に変身できるぞ・・って教えてやったら喜ぶかな?

・・うん、確実に人生を儚みそうだね。



アニィの葛藤を他所に、王城が有る山を下り城下町に近づいていく。


屋根は瓦葺きの様で、壁は木と漆喰で出来ている様だ。

城の様に頑丈な石組みで作る訳にはいかなかったのだろう、石を集めるのも大変だし、まだ山が近くに有るから木の方が取り寄せ易く便利なのだろう。

ログハウスではない当り、建築の進歩を感じる・・良い傾向だ。

城は戦になれば砦にもなるのだろうし、人を寄せ付けない重厚さが必要なのだろう。

・・陰気臭いがなぁ、朝見ても騎士の幽霊でも出そうな外観だ。

いや、絶対出るだろう・・魂とか言う存在はこうして確かに<ある>のだから。

俺様達が存在するのだ、此処の世界の迷える魂が居たって全然不思議ではない。

首無し騎士とか居たら恐そうだ、この世界の幽霊も足は消えているのか?会いたいような、会いたくない様な、悪霊にでもなっていたらヤバいだろうし。



 さて、城下町も坂を下るにつれて下町になっていくのか、平民が(服装が大変にシンプルなのでそうだと思う、ある意味解りやすい)暮らしている場所に着いたようだ。

朝も早いから母ちゃん達が飯の支度をする時間なのだろうが、どの家の煙突?煙出しの様な穴からは煮炊きの煙・湯気さえも上がっていない・・どんな台所になっているのか?大いに気になるぞ、竈か石窯のオーブンなんかはもうあるのか、これで飯のバリエーションは大きく変わると思うし。

そにしてもJKもバリさんも、チーも碌な飯が作れそうも無いしなぁ・・頼みは婆さんか?醤油と味噌が無いとお手上げな感じもするけど。



「今は冬だろ、平民達はどうやって暖を取っているんだ?寒くは無いのか」


[人間達は熱い水を地下に流して、街の中を温めているんでヤスよ。ほゥレェ良く御覧なさいヤァ、街中には雪が積もっていないでしょう]


「温泉か!凄ぇな街中床暖房か!」


俺様はスーパー銭湯が大好きで、給料が入るとダチと一日掛けて遊びにいったものだ。飯は美味いし漫画コーナーはあるし、500円のモミモミ機械もお気に入りだった。床屋でサッパリと刈り上げて貰って、男前に変身してカラオケもしたし・・もちろん振り付きで歌ったぞ。レパートリーは結構ある、社員旅行と忘年会の宴会の出し物の大トリはいつも俺様だった。コンパニオンのお姉ちゃんにはモテるし、お捻りだって飛んできたものだ・・あれが俺様の最盛期だったとしたら・・うわぁ悲しすぎる。


考えてみればアニィは今現在・・絶賛ハーレム状態なのだが。

メンバーがメンバーなので気付いてもいない、アニィはロリの気は無いのでチーは守備の範囲外、JKは糞生意気な従姉妹のJK(近所在住)を思い起すので軽い敵認定(従姉妹に係ると碌な事が無いのは体験済みなのだ)、バリさんは苦手な女建築士(若め・微美人)に雰囲気がクリソツでかなり御免なさいで、婆さんは問題外・・涅槃で爺様が待っているぞ・・なのであった。



『ああぁ~~~~温泉入りてぇ・・ああぁ~~』


でもシャコウの身体だと溶けちゃうのか?ドロドロか?

だからといって、姫様の身体に入っての入浴は・・18禁?

俺様はR20もOKな年齢なのだが、う~ん倫理的に如何なものか。


煩悩の方は兎も角、偵察飛行と言うお散歩は続いている。


よく観察すると、彼方此方に小さな炊事場な様な場所が有って、母ちゃん達が集まっている。

竈の様な凹みに金属製の穴が開いた(あれだ、スパゲッティなんかを、お洒落なセレブ主婦が茹でる時に使う様なアナアナの開いた寸胴鍋だ)鍋を入れて何かを蒸している。お湯が貯まっている水船みたいな所は野菜を茹でている様だ。


「此処の料理は蒸し料理が中心か、なんかヘルシーだな」


「汁物何かは材料を蒸してから、汁にぶち込む様でスゼ、鳥舌なもので熱いモノは食べられませんから、詳しくは知りませんがネィ]


茹で零す時に流れ出た芋とか、野菜、運よくたま~に肉とかを頂戴するのが、彼らシティ派のカラス達のシノギだと言う。

主食は芋の様で大量に芋を蒸かしている、ジャガイモ系だな・・良かった好物だ。俺はカレーにはゴロゴロしたジャガイモが入っているのが好きだ、お洒落な微塵切りカレーだと食った気がしない・・それもたまには美味いがな。


[腹が空いたんで、少し寄り道してよこざんスカ]


「あぁ、勿論好きにしてくれ、此方は頼んで案内して貰っている立場だからな」


カラスは街はずれの、少しばかり寒い地域に入って行く。


「この辺は寒いんだろうな、俺様の身体に霜が降りている」


[食い物の保管場所が温かかったら、腐っちまいマサァ]


倉庫街の様だ、兵士の姿も見当たらないから王家の管理場所では無いのだろう。

民間・・商人の倉庫か?


此処でJKが居れば、異世界で頼りになるのは<商人>、これお約束!味方に引き込んで、平民から見た国の様子・・姫様の婚礼する国や他国の情報を調べろ!と檄を飛ばす所だろう。

残念ながらアニィは、日々の鍛錬で脳ミソまで筋肉になっている。

一番大事なのは飯で、二番目は筋肉だ・・後の事は考えられない。




 倉庫の高窓に舞い降りたカラスがコツコツと窓ガラスを嘴で突く、何かの合図の様にリズミカルだ・・俺様はリズムには五月蠅い、振り付きダンスをするぐらいだからな。


「やぁ、おはよう・・姫様から連絡は有ったかい」


窓ガラスを開けて顔を出したのは、摩訶不思議な赤紫をした髪を持つイケメンだった。


「・・姫様・・連絡・・?」





思わず口に出したアニィに気が付いたのか、イケメンが振り向いた。


「君は・・」


イケメンの視線に晒されて、アニィの口の中に酸っぱいおよだが出たのは、緊張した為では無く・・たぶん紫蘇の梅干しを思い出したからだろう。


異世界の商人さんは<良い人>で、お約束?


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