姫様の欠片
修羅の世界にようこそ(´-ω-`)
アニィの語りから始まります。
俺様は長年の習慣からか朝は早く目が覚める。
仕事先の建設現場は都心ばかりに有る訳ではなく彼方此方にあるからだ、通勤に不便な遠い場所にも、駅から不便な僻地にもビルやマンションを建てたい輩はいるらしい。
その為、作業する此方も通勤が大変になる。
早起きしなければ始業時間に間に合わない、あまりに遠い現場は作業員用の飯場がプレハブで建てられるものだが・・そうして近所の小母ちゃんが食事作りに雇われるのだ・・飯の上手さは、まぁ時の運だな。そんな飯場では常時先輩に囲まれて生活するのだから、最下層の俺様としては気分が休まら無い・・ので、俺はあんまり飯場は好きではない。
たまに仲良くなった飯炊きの小母ちゃんに、自慢の自家製沢庵を宅急便で送って貰ったりした事も有ったが。此方からはデパ地下のケーキを冷食で送ったりしたもんだ、何か凄く有名なケーキ屋を知っている人で、喜んでいたな・・山奥の砂防工事の現場だったか。
別にサクラが起こしてくれなくても、俺様はちゃんと目が覚める体内時計とでもいうのだろうか?一社会人として遅刻はした事なぞ無いぞ!
別に親方が、激しく恐ろしいからでは断じてない・・たぶんな。
時間厳守それは日本人としての嗜みの一つだ。
まだみんな眠りの中みたいだから・・不思議な事に魂も疲れて眠くなる様なのだ、まだ色々と環境に慣れていないせいなのかもしれないが・・そっと離れる。
中身は(アレで)兎も角も、無防備に眠る美少女は目に毒だからなぁ。
本当に姫様は綺麗な人だ、妖精系とでも言うのかな?
まぁ、眠っている間だけだが・・・。
話す言葉と言うのはかなり重要な様で、いくら顔面が美少女でも喋るのが生意気なJKや仕事・上司モードのバリさん・・婆になっちまうと・・もういけねぇ。
魅力が半減・・いや7割は確実に減ると思う、思考に引きずられるのか顔付きまでトゲトゲしくなるのだ、騎士達も嘸かし驚き絶望しただろうよ。
ゆっくりと人魂風に漂いながら、婆が作ってくれた<遮光器土偶・名付けてシャコゥ>の中に入り込む、おぅジャストフィットだ。
俺様の身体の中にも縄文系の血でも流れているのか、妙にしっくりくるのぅ・・俺様の耳糞はウエットタイプだからな、髭も眉も濃いからルーツは縄文系なのだろうさ。
短い手足を動かして、ラジオ体操などをしてみる・・仕事で朝礼の後にやるからな、もう骨の髄までしみ込んでいるリズムだ。ちなみに俺は第2の方が好きだったりする、動きがダイナミックだからな。
シャコゥは優れものだ、婆には土魔法?のスキルが有るのか、石壁に手を付けると軽く溶けた感じでピッタンコと癒着する、そうして癒着と剥離を繰り返していけば垂直の壁にも簡単にスルスルと登ってしまえるのだ。
うん、気分はヤモリだね・・。
実家の古い家にもヤモリが沢山住んでいて、時々サクラが母ちゃんに献上品として、恭しく持って来るので大騒ぎになるのだ。
サクラはヤモリを決して殺したりはせず、怪我をさせない様に柔らかに・・でも逃がさない様に噛みついて運んで来る繊細な仕事を得意としていた。
母ちゃんに見て見てとアピールするが、口は開けられないのでスリスリと体を擦り付けて来る・・口からヤモリの楓の様な手とか足、灰色の尻尾が覗いているのはシュールな眺めだったな。
そんな御宝なんか全然貰いたくない母ちゃんは、献上品の代わりにチュー何とかと言う名前の、スティックに入った猫用のおやつを下賜するので、献上品と言うより物品の引換?のつもりなのかも知れない。
狩人サクラの口から無事解放され、自由を取り戻したはずのヤモリは、何故か放心したまま動く事も出来ずにいて、仕方が無いから俺様が手で温めながら近くの神社まで運んでやって、餌が多そうな(明りが漏れる窓の傍とか)所に放してやったものだがなぁ・・・。
俺様のいない今、ヤモリの安寧と健康を遠い異世界の空の下で祈ろう。
俺様は割とヤモリが好きだからな、壁によじ登って高い所に行くなんて<鳶職>の様では無いか?
窓までスルスルとよじ登り、明けきらぬ空を見上げるとなんと月が3つも出ている・・多過ぎだろう異世界。あの月の満ち欠けで、潮位も激しく変わるのだろうか、夜釣なんかしたら危険なのだろうか?知識が無いと異世界で生きていくのは難しそうだと思う。
黙って腕組をして考え込んでいたら、隣にネグリジェ♡姿の姫様がやって来た。
「おは~、貴族の癖に早起きだな」
「只今、中身は絶賛庶民が詰まっているからねぇ~。田舎の女子高生のぉ~通学事情を~舐めたらいかんぞ~ぉ、バスや~電車~一本逃したら~遅刻確定なんだよ~、田舎で早起きは~お約束なんです~」
JKの話によると、通学の為の電車は学生ばかりの専用車両の有様で、リア充が(ケッ)朝っぱらからイチャイチャしていたり、早々に弁当を食う奴が居たり、宿題を写している強者・・提供しているのは弱者だそうだが・・かなりのカオスな世界なのだと言う。
ちなみに次の電車には遠くの病院に通う爺・婆達専用なのだそうで、それはそれで喧しいそうだ、耳が遠いから声が大きいらしい。
「ふぇ~っ眺めが良いね~。こうして見るとぉ、この城ってぇ~かなりぃ~高い所にぃ~建てられているんだねぇ~、城下町?が良く見えるぅ。主な産業はぁ~農業なのかなぁ~、畑が広がっているぅ~」
「此処まで生活物資を運ぶのって、かなり大変そうね。頼りは馬かしらね?
山に造られた城から王族が降りて来て、開けて人が集まりやすい良い場所を選んで、防衛を中心に考えた城ではなく、権勢を誇る宮殿を建てる様になったのは・・中央集権国家が確立されて、王政による統制が進み、治安が良くなってからだそうだから。
まだまだこの世界は、群雄割拠蠢く乱世の只中なんでしょうね」
おはよう、キャリさん。
「おれTUEEEEEEEE~~~ってやつ?」
「戦国時代が面白ぇのは小説の中だけだ、戦なんぞされたら、庶民は堪ったものでは無いの」
婆も目覚めた様だ、皆揃って早起きさんのようだな。
不吉な話ばかりしていた大人達だが、チビが起きて来たので口を噤む。
「おはようございます、あの・・皆さま、昨日は私パニックになってしまいって・・大変ご迷惑・ご心配をおかけしました、誠に申し訳ありません。ご容赦頂けると嬉しいです」
ご丁寧なあいさつに、大人一同(JKはこの世界なら成人枠だろう)ビックリする。
一番のチビっ子なのに敬語が嫌味なく使えるなんて、流石に一流の進学校在学生って事だろうか。JKやアニィより日本語が上級の様だ。
「昨日のアレではショックを起こすのも無理の無い事ですよ、今朝の気分はどうですか、少しは落ち着きました?」
「はい・・あの大丈夫です、お気遣い頂きありがとうございます。
あの・・それから・・私、お兄様にお礼を言わなければならなかったのに、遅くなって申し訳ありません。あの事故の時に、大人に突き飛ばされて転んでしまった私を庇って、抱えて逃げようとして下さったのはお兄様ですよね、強い腕で抱えられ持ち上げられた事を覚えています。
お陰様で、私・・車を直視する事無く気絶したみたいで、怖い思いをしないで済みました。本当に有難う御座いました」
チビの魂は、悲しみを堪えている様に(水玉から水が溢れそうな感じで震えている)見えるが、静かに状況を整理して何を話すべきか模索しているようだ・・意志の力が強い子供だ。
「おう、でも結局お互い死んじまったからな、意味なかったな・・礼を言われるのもな・・悪かったな、その・・助けてやれなくて」
「いやいや、そうじゃないぞアニィさんよ。
身体が酷く損じていないだけで、家族の気持ちは多少なりとも救われるものだ。この子の家族はアンタに感謝している事だろうよ」
魂達の会話を遠くから聞こえるラジオの音の様に、キャリさんは心あらずで聞いている。
『そうだね・・身体の大きそうな男が庇っても死んだんだ、それほど大きな事故だったのだろう。それでも、傷は少なかっただろう・・あの子には。では、私の亡骸は?』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『私の遺体は、無残なものだったろうな』
突き飛ばされて、暴走車の真ん前に躍り出てしまった私の身体はいったい。
あの時同じ場所にいて、あの子と自分は正反対の扱いを受けたのだ。
あの事故に特別な感情が無いのか、魂達は呑気に話を続けている。
「あれだけ大きな交差点の事故だったんだから、ほら?監視カメラっての、沢山有ったんじゃないの?アニィの勇気ある行為はバッチリカメラに取られていて、今頃感動のお涙頂戴の話になっているよきっと。高校時代の友達とか先生が出て来て、レポーターの前でインタビューされて
<成績の方は兎も角、性格は良い奴でした・・残念です>
な~んて答えていて、全国ネットでテレビ放送されたりして・・良い写真が提供されていると良いね」
「やかましい、おまえこそ皆が逃げ惑っている中、スマホガン見していて微動だにしない<今時の残念な若者>ってリプレーされているんじゃないのか?今年のダーウィン賞はおまえが受賞するかもな?おめでとう栄光は君に輝く」
へっ!とお互い睨みあう、この2人は精神年齢が同じくらいなのだろうか。
「あ~ぁヤバイ、お母さんスマホの中身を見ていないだろうな・・ロック外して有ったからなぁ。家に有る秘蔵品、見られちゃ困る物はみんな段ボール箱に入れて、張り紙をしておいたんだ<開封厳禁!何も見ずに、黙って捨てて下さい>って。でも家のお爺ちゃん、燃えるごみを捨てに行くのを面倒がって、庭のドラム缶で燃やすんだけど・・開けるよねぇ段ボール箱・・風で飛び散ったらどうしよう~。乙女の沽券が」
JKが悩んでいる、身辺整理は大事でしょう・・。
自分のパソコンは3日間開けないとデーターが消える仕様になってる・・ふっ完璧だ。保険金の受け取りは両親になっているし、多少の慰めにはなるだろう。
それにしても、監視カメラか、奴の犯行が白日の下に晒されれば良いのに。
「あの御免なさい、まだ話の続きが・・」
チビは言葉を選びながら、慎重に昨日の経験した不思議な事を語った。
「私・・昨日、悲しくて沢山泣いて泣いて・・いつの間にか寝てしまった様なんですけど、気が付くと真っ暗な寂しい場所に一人でいました。
其処は本当に静かな所で、闇夜の様に暗くて・・自分の魂?の光だけがぼんやり見えるだけな空間でした。怖くて、此処が地獄なのかな・・と思って・・また涙が出て来て、泣き出してしまったんです。そうしたら、上の方・・空?から・・銀色の小さな雪・・アリンスノーのような、儚げな光がゆっくりと降っていて、ほんの少しなんですけど・・それが、何だか私と一緒に泣いているような感じがしました。しばらく一緒に泣いていたら、泣き声が・・音叉みたいに、何だか同じに・・」
「貴方の泣き声・・悲しみに共鳴したという事なのかしら?」
「そうなんです!共鳴?!そんな感じで気持ちが、心が同じになって。
泣きながら耳を澄まして良~~く聞いてみると、遠くで誰かが泣いている声が確かにして。だから私・・気になって、その泣き声を辿って暗い中を自分の光を頼りに手探りで進んで行ったんです」
「ええ~~勇気あるねぇ、私なら無理だぁ~」
「不思議と怖い感じはしませんでした、泣いている人と私は同じな気がして・・近づくにつれ音がワ~~ンと響いて」
「ねぇ・・もしかして、その人って」
「そうです・・たぶん、この体の持ち主、姫様って方なんだと思います」
そうして、漆黒の闇の様な不思議な空間から<それ>を見つけて
「一緒に行こう」
と、拾って来たのだと言う。
朝目覚めたら、昨日の出来事は夢なんかでは無く、まだ手の中に<それ>が確かに在ったので、本当の出来事だと思ったと言う。
見せてもらうと、チビの魂の手?(ミヨ~ンと手の様に魂が伸びている、こうしてみると魂って雲で出来ているスライムみたいだな)に小さな虹色の水晶の様な欠片が乗っていた。
「これってぇ~なんかぁ~、凄いぃ~悲しみがぁ~感じられるねぇ、なんなんだろう~」
「この体の持ち主、姫様の魂の欠片じゃろうて、魂が砕かれてバラバラに飛び散ったんじゃろう」
みんな黙り込んで、欠片を眺める・・虹色はして綺麗だが、確かに寒色系が多くて悲しそうな感じに見えた。
「ねぇ~、何だかぁ~変なぁ~話しだとぉ~思わない?
大事なぁ~お姫様ならぁ~、こんな不便なぁ塔なんかにぃ監禁するようにぃ~閉じ込めてぇ~おくのは不自然でしょ~。騎士達は姫様はぁ~優れた貴婦人だとかぁ何だとかぁ言っていたけどぉ~、そんな優れた人物がぁ~王族と生まれながらぁ~、お決まりのぉ~政略結婚?を拒んでぇ~自死するなんてぇ~、それこそぉ~ラノベではあり得ない設定でしょうよぉ~」
「何か隠し事があるんじゃろうな、姫様だけが知る・・密命を受けているとか、そんな後ろ暗い恐ろし気な事が」
「たとえば?」
婆が言うことにゃ・・・。
戦国時代、政略結婚華やかかりし頃<嫁入り>はそんな夢がある、お花畑の物語りでは無かった。花嫁は他国に乗り込んで行く自国を代表する大使の様な者で、付きしたがってやって来る家来達は、今でいう大使館の随行員のような者達だ。当然武官や影の者だっているだろうし、実家に婚家の情報を密かに流していたりするものだ。
かの有名な信長の妹、お市の方様だって、兄信長に危機を伝える為にワザワザ陣中見舞い(敵の罠に対するヒント付き)を贈ったりして。
それで九死に一生を得た信長が、その後怒り狂って婚家に攻めにやって来て、舅も旦那も戦で負けて自害しちゃうし、捕虜になった長男は殺されて、二男・三男は出家とか・・終いには旦那と舅の頭蓋骨は骸骨の盃にされちゃった~ってオチだったんだけど(諸説あり)。
聡明な姫がただ・・友好の為にだけに嫁がされる訳はないのだろう。
「たとえば・・初夜の褥で王の寝首を掻けとか、毒杯を飲ませろ位な事は命令されていても可笑しくないでしょうね」
「言う事なんてぇ~聞かなきゃ~良いじゃぁね?]
「誰か、人質とか・・弱みを握られていたとしたら・・どうじゃ?」
「誰かを犠牲にしない為に、災いの種である自分を葬り去った?」
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平和な国から突然、戦国時代な様な裏切り上等当たり前、下剋上?待ってました!!親・兄弟でも殺し合いまっせ、などと殺伐とした世界に放り込まれてしまったとしたら。
・・・・ どうしよう ・・・・
魂達が全員揃って暗澹な気持ちになっていると、チビの手の中の<魂の欠片>が悲し気なピーーンとした音を奏でた。
「ねぇ、この欠片が姫様の魂の一部だとしたら・・全部探し出して集めたら、姫様の魂が再生して蘇ったりしないかしら?」
「何だそりゃぁ、龍玉的な発想は?」
「は?龍玉って何よ」
「バリさんはぁ~アニメや~漫画なんかぁ~読んでないんだよぉ~、そんな話ぃ~知らなくてぇ~真面目に言ってぇいるんだよぉ」
「この姫様は何だか知らんが隠し事が多い様に思えるの、この体の中には不思議な力がぎょうさん詰まっている様に思えるが・・此処の者達は知らんようだしな」
「実はモノクロよりぃ~魔力がぁ~有ったりしてぇ、それを悪用されない為にぃ~」
「自分の魂さえもバラバラに破壊して、飛び散らせた?とか・・」
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「ねぇ!もし姫様の魔力が強かったら、私達の事を元の世界に戻してくれるかもしれないよ。しかも、時間を遡って事故の起きる前とかにさぁ!」
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JKは興奮しているようだが、流石に無理がある話だと思う・・が、さしあたってする事も無い・・。
魂達は取り敢えずその作戦で行こうか?と話し合った。
「おら・・わくわく・・して来たぞ?↺」
アニィが場を和ませようと冗談を言ったら、何故かJKにどつかれた。
昔のお嫁様は大変だぁ~(*´Д`)