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姫様見参  作者: さん☆のりこ
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宣告

アニィsideからのお話です。

 何が辛いって、飯が不味い事ほど辛い事は無い。


味が無い・・まったく塩気が無い食事の不味さは想像以上だった。

よく死んだ婆さんが言っていたっけ、<美味い、不味いも塩加減>なんだと。

かように塩とは、重要な物なのだ・・身体にも必須栄養素だしな。

この世界に否応も無く紛れ込んで、何回目の溜息だろうか・・幸せなど猛ダッシュで逃げ去って行ってしまった様だ。





 俺様は建築現場の高所で働く作業員をしている、専門用語?で言うところの<鉄筋鳶>って奴だ。ビルなんかを作る時にクレーンで吊るされた鉄筋を、でけぇボルトで止めたり溶接するのが主な作業だ。足場を組んだりするのも出来るぞ、俺様はオールマイティな鳶だからな。

真夏の現場はそれこそピーカンで、常に太陽にジリジリと焦がされながら働いているから、熱中症の対策は上の方からも五月蠅いほど注意されている。汗を大量にかくのだから経口補水液は必需品だし、塩飴など舐めながら体温と体液の調節に気を使いながら、上手くいかないと眩暈や脱力を起こしてしまうからな・・働いているものだ・・それなのにだ。


この世界に肉体労働者はいないのか、塩分の補給は大事だろう?

騎士なんかはどうだ?肉体系労働者だろうよ?

あいつら、こんな飯で満足しているのか?


・・・・・あぁ・・辛い、途轍もなく凹む。

こんなにショボくれて、人生が嫌になったのは初めてだ。


仕事でチョンボして、親方にドヤされた時でも・・・

通っている総合格闘技のジムで、先輩に稽古を付けられて・・ボロクソに殴られて口の中が切れて痛くて、飯が食いにくくて参った時でも・・・

中坊の時に出来た初めての彼女、似非天然の明美に二股掛けられたあげくに、こっぴどくフラれ仲間に慰められて余計に惨めになったあの日でも・・

赤点を取り過ぎて留年の危機に陥り、先公から呼び出しをくらった母ちゃんから

「ドアホに出す金など勿体ない、退学して今すぐ働け!」

と真顔で言われてしまった・・あの木枯らしが寒かった、夕暮れの高校前のバス停で壮絶な親子喧嘩をした後でも・・・

従兄弟のとこのチビとリバーシをやって、5分と掛からずに全部引っ繰り返されて全滅した時でさえ・・


俺は、こんなにも絶望していなかった・・。


何故なら、いつもならちょっと街を歩けば美味い飯屋があって、それなりのお値段で美味いものが食えたからだ。あの街にはパラダイスが溢れていた、元の世界ではいつでも気軽に天国への階段を昇れたのだ。

どんなに絶望して悲しくっても、ホカホカのご飯と肉系のオカズさえ有れば、人は簡単に幸せに浸れると俺は確信している。涙と一緒に味噌汁をすすり、口いっぱいにオカズを頬張れば、胸の奥から温かいポカポカした何かが溢れ出てきて・・悩んでいる事なんか、もうどうでも良いや!と思えて来るものなのだ。

これは経験に基ずく真理である!異論は認めない。


腹が満たされれば・・また明日から頑張ろう・・そう思えた。


家に帰り、熱い風呂に入って、俺様の部屋が在る二階に上がる。

そうして俺様の匂いがする<心のオアシス>布団(大事な毛布)に潜り込めば、すぐに心地よい睡魔がやって来て安らかな夢の国へと誘うのだ。

グースカピーと熟睡すれば、あっという間にまた朝がやって来て、


「ご飯できたよ~」


と母ちゃんが呼ばわる声が階下の台所から聞こえて来る。


そうすると穿たれたままに放置してある襖の穴から、猫のサクラが潜り抜けてやって来る。サクラは俺様にゴロゴロと甘えたくて、襖に穴をあけた我が家の破壊神なのだ。

サクラはヨッコイショと俺の寝ている布団の上に乗っかると<ナ~ゴ・ミャ~ゴ>と五月蠅く鳴き始める、俺が起きて飯を食べ終えないとサクラは朝飯にありつけないシステムになっているからだ。寝坊助だった中坊の俺を起こす為に、母ちゃんがサクラに課したミッションだ・・かれこれもう10年は続いているかな?

雪が積もった寒い日の公園で、箱の中で震えていた目ヤニだらけだった汚くて痩せっぽちだった捨て猫、それがサクラ(♀)だったが・・今ではマルマルと肥え太り、拾ってやった俺様に敬意も払わずに、母ちゃんばかりに懐き、俺様を下僕認定しているふざけた猫なのだ。


仕事熱心な工作員猫サクラは、俺がいつまでも起きないとザラザラとした舌で舐め舐め攻撃をして来る。ところがどっこい、俺様の顔も朝には髭でザラザラなのだ・・ザラザラ同士では勝負はつかん、ザマアミロ。

最後には腹が減っているサクラが、俺の顔面に怒りの猫パンチをさく裂させて決着が付くのだが。俺が降参する真似をして渋々起きると、姉さんぶっている老猫のサクラは、手のかかる弟をせかす様に足の間をすり抜けながら俺様を台所へと誘う、早く来いとばかりにニャーミャーと鳴きながら。 


挿絵(By みてみん)


 母ちゃんの作ってくれる飯はとても美味い、親子三代<鳶職>の家系なので、肉体労働者が欲する塩分濃度を良く解ってくれている。母ちゃんの卵焼きは最高だ、ウチの味は出汁を利かせた卵に青ネギがドッサリと入っていて、真ん中にとろけるチーズが入れてあるのだ。

凄ぇ美味くてそれだけで、飯3杯は軽くいけるぞ・・。


食べたい・・もう一度食べたいよ・・・母ちゃんの卵焼き。


俺様が帰らないから<サクラ>はどうしているだろう、猫メシは食っているだろうか・・俺の布団を温めようとして、中に潜り込んではいないだろうな。

俺は、何人たりとも自分の<心のオアシス>である布団には入れない主義だ。

トラウマが有る訳でも、二股女・明美のせいでは無い・・と思うが、とにかく聖地なので不可侵を貫いている。サクラは惚けているが、俺様の布団にコッソリ潜り込んでいるのは解っているんだ、毛布に抜け毛が沢山ついているからな・・俺の事が好きな訳では無くて、毛布が気に入っている事はお見通しなんだぞ。

俺が居なくても、毛布が有れば良いだろうさ・・。



    *******



母ちゃんの卵焼きと、ついでにサクラを思い出して悲しくなっていたら来客だと告げられた。昼間の・・召喚の間だったか?・・感じの悪い派手なキンキラ男達の中で唯一モノクロだったデロリとした服を着ていた男が部屋にやって来た。

確か魔術師長とか言う召喚実験の責任者だったか?

侍女の小母さん(これは大変に失礼な発言だったと後に解った、彼女は十分若く結婚適齢期のお嬢さんらしい。どうも此方の人達は老けて見えるからな、アラヒィフは行っていると思ってたぜ。後でJKに聞いた所、老け顔のそれも異世界トリップではお約束なのだそうだ)が、ウキウキいそいそと新しくお茶の用意を始めている。


『なんだこの黒光りするGの様な男に接待とか、この世界ではこんな奴がモテるのか、お買い得の一品なのか?』

『それを言うのならぁ~、将来が~有望な~最良物件でしょお~』


JKに感想を聞いた所によると、コモドギャルゴン?とか言う名の、黒を多用するブランドが好きなような、スカした感じの老け顔の優男・・中の下・・との事だ。

・・・・・JKの評価は厳しのう。

その中の下が、いきなり爆弾を落としやがった。



「どうでしたか、我が国の食事は?美食で名が通っているアトモスヒィア王国に招かれて、皆さんは幸運でしたね」


            【あぁ~っ?☈】


俺だけの非難の声ではないぞ、全員一致で出た魂の叫びだ。

室温も一気に下がった様に思う、侍女さん達は蒼白な顔をして腕を擦っていた。


「・・もしかして・・御口に合いませんでしたか?」


もしかもクソもあるか、美食の国だぁ聞いてあきれらぁ。


モノクロは慇懃に言いながらも、この味が解らないとは・・とんだ田舎者だな、とか思っているのが見え見えな態度だ、明らかに此方を馬鹿にしている。

まぁ、本当に美味い物を食った事のない奴に、いくら説明しても解らんだろうがの・・百聞は一見に如かず・・こいつに牛丼をつゆだく半熟卵・紅ショウガ多めで食わしてやりてぇ。


しょっぱなからモノクロとは分かり合えんと見切りをつけた俺様は、面倒なお話合いはバリさんとJKに丸投げして大人しく隅っこの方に引っ込んでいた、結論だけ聞かせて貰えれば十分だしな。



 モノクロは姫様が亡くなった経緯を淡々と話し、それゆえ生じる国家間の混乱回避の為に仕方がなく<魂の召喚>を行なった事。

アトモスヒィア王国としては、召喚に応じ協力してくれる魂には相応の感謝を贈り、今後の生活を保障するなど・・そんな事を、ごく事務的に話していた。

召喚を行なった本人なのに、余りに他人ごとなので笑えて来る。

死にぞこないの貧しい魂を救ってやった、恩人だとでも思っているのか・・笑止!



「はぁ?死んだ魂を招いたって・・じゃぁ、私死んだの?まったく覚えが無いんだけど!まさかあんた達魂が欲しいからって、無理やりに異世界に干渉して人殺しをしたんじゃないでしょうねぇ!!」


JKの怒髪天に恐れをなしたのか、腰も引き気味に慌てて良い訳をするモノクロ。何か弱っちそうだな、こいつ。


「滅相も有りません、次元が歪むから此方と其方でタイムラグは出るでしょうが、狙いすませて人物を特定し選ぶ事など出来ませんよ『それが出来たら、もっとましな魂をお連れしますよ』貴方達は、身体が損なわれた死後も、魂として生きながらえる幸運に恵まれたのですよ」


当然喜び感謝されると思い込んでいたのか魔術師長のジェリコとか言うオッサンは困惑していた、王宮に一室を賜り侍女まで付けて貰って破格の待遇では無いのかと思っていそうなのが見え見えだ。



「しんじゃったのぉ~~~~~おか~~さ~~ん」


子供が泣き出した、此処では麗しの姫様が、周囲の視線も気にせず平民の子供の如くワーワーと泣いている図なのだが。


対処に困ったのかモノクロは

「今日はこの辺で」とか言ってサッサと退散していってしまった。



 


 オロオロするばかりで使えない侍女達にも下がって貰い、魂達だけになって・・つまりは姫様1人部屋に取り残されてポツネンと座り込んでいる。


「今日は疲れたじゃろう、もう休むと良いこれからの事は明日考えよう・・なぁお嬢ちゃん」


婆臭い魂に促され、子供仕様の姫様はベットに潜り込みシクシクと泣き続けてている。

無理も無い話だ、いきなり死んだと宣告されて、異世界にいらっしゃ~い・・では心の落ち着けようも無いのではないか。あちらの世界だって魂が落ち着くのを待つように、7日法要とか?良く知らないが49日がどうとかが有るんだろう?

泣く子供に寄り添い、抱きしめて?魂だからくっつき合って?慰めているのは婆さんの様だ・・二人はしばらくそっとしておいた方が良いだろう。婆に任せて此方は情報と感情の整理だ。





「それにしても~驚いちゃった~、死んだなんてぇ~ちょっともぉ~自覚が無かったものぉ・・事故でも有ったの?」


「驚くのはこっちよ、貴方だってあの交差点の横断歩道の前にいたのでしょう?ダンプが突っ込んで来たのに気が付かなかったの、皆パニックになって逃げようとしていたのに」


「スマホ見ていたからね、集中力には自信があるんだ~」



花の女子高生と名乗った通称JKは、あの日親に黙ってコッソリ単身で上京して来ていたのだそうだ。

お気に入りのゲームが2・5次元の舞台になって、前から見たいと熱望していたのだが、今回幸運にもやっとチケットを手に入れられたので、狂喜乱舞してはるばる某県から深夜の高速バスでやって来たのだと言う。バスでは前の席に座った親父がリクライニングを倒し過ぎて、狭くてムカついたのだが・・楽しみな舞台の事を考えると、どんな不満でも弥勒菩薩の心?で許せそうな気がしていたのだそうだ・・実際興奮して眠れなかったし。長居移動時間の間は、ずっとスマホで関連の動画を見ていた。


「最低・最悪!せめて舞台を見た後だったなら、満足して成仏できたかも知れないけど~。ただいまの気分は修羅の国だわぁ、血刀振り回して事故を起こした賊を成敗してやりたいぃ~~~」


乙女の煩悩は深く、美形を求める心は御仏の足にも縋る餓鬼の様なんだと自分で言っている。


「私はぁ~帰れるのなら~彼方の世界に帰りたい~、身体は既に火葬されていて~帰る所がぁ~無いとしても~たとえ魂だけでもぉ・・・」


「おめぇ・・今、魂なら舞台の楽屋とか入り放題、お気に入りの役者にストーキングして、プライベートもバッチリのぞき見・・なんて考えていただろう。サイテーだな」


ぐぬぬ~~と唸るJK、どうやら図星だった様だ。


「そう言うあんたはどうなのよ!本音を言いなさいよ本音を。透明人間は全人類の憧れよ、大昔からの鉄板ネタじゃない!

・・・ハッ!でも神にお仕えするキャラもいるから、お祓いされてしまうかも」

「悪霊退散ーって、ぶった斬られるんじゃねえの?」


え~~~~~~~そんなぁ~~とか、JKは一人でブツブツ言っている。

人気役者も大変だな、2次元なら文句も言わないのだろうが。劇場に幽霊話が多いのは、不埒な考えのファンが多いせいなのだろうか?


「・・俺も出来れば元の世界に帰りたい・・此処の不味い飯を一生食い続けるくらいなら、俺は消滅してでも元の世界に帰る事を望む」


バリさんはどうする?


急に聞かれて答えに詰まってしまう・・。

奴の枕元に夜な夜な化けて出て、嫌みや心抉る言葉の一つも言ってやりたいような気もするが

『あんたがフォロー役ばかりで芽が出ないのは、メインを任せる程の実力も機転も無かったからだよ・・とか?」

咄嗟の行動は本心だろう・・自分は部下にかばって貰える程の人格も、カリスマも無かったんだろうが。



即答できないでいる自分に、ゆっくり考えれば良いとアニィがそう言った。


美味しいご飯は明日への活力!

(´・ω・`)美味しくいただきましょうね♡

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