王城の迷路
置いて行かないで~(;´∀`)
「プランを立てろ、不測の事態に備えてA・B・Cプランと複数用意するのが常識だ、それが出来ない奴を無能と言うのだ」
キャリさんの耳の奥には聞きなれた上司の叱責が響いていた、厳しかった部長、直属の上司・・彼に無能と思われるのが悔しくて、ただひたすらに毎日頑張った来たように思う・・プランは大事なんだとさ。上司の意向こそキャリさんの守るべきプランで、社会の常識で生活の規範で、自分を構成するすべてだった様に思う。
ところがこの異世界と来たら、後生大事に守って来た常識は通じないわ、前前前世時代の規模の発展具合だわ、魔術なるモノまであってプランなど立てようも無い環境だった。状況を分析しようにも、魔獣?そんなモノあちらの世界には居ないから判断のしようもないではないか。
この世界に迷い込んでしまった異世界人の中で、只一人の常識人で有ろうと自負しているキャリさんは迷いに迷っていた、今後のプラン・・進退についてである。
この世界で生きていく為には、何を選択するのがベストなのか。
飯が不味いと言うだけで、魔獣が生息している言う城の外の世界に出て行って、果たして生きて行けるのだろうか。
このまま大人しく帝国に嫁に行った方が、まだましな生活を送れるのではないか・・と。
『自分達でどうにかせにゃあかん』
婆さんは偉そうに講釈をたれたが、プランを聞くと返事も無い・・ノープランなのだ。言うだけだったら誰でも偉そうな事を言えるわい!
素晴らしい公約を掲げても、具体策が無ければ絵に描いた餅で有る事は何処の世界だって同じだろう!!
怒りが湧き上がる心を如何にか鎮めようと、深呼吸を繰り返していたら突然目から火花が飛んだ。
「いった~い、目から火が出るって本当だったんだ」
ことわざを舐めてはいけなかった、言葉には真実が含まれているものらしい。
変な事を実感していると、身体が通路に投げ出されている事に気が付いた。
見ると姫様を置き去りにして、チュウ達が壁の穴の中に逃げ込んで行くではないか。
姫様を背に乗せていたカピバラさん達は己の体高しか頭の中になかったらしい、姫様の身体は大きすぎるから当然が如く穴に入る事など出来ようが無い。
尻餅を付いた姿勢で運ばれながら、そのまま壁に激突してしまった様だ。
「あのぉ鼠ども・・まぁ仕方が無いか。
頭小さいものね、脳ミソが少ないもの・・馬鹿なんだよ!!」
命の恩人にえらい言い様では有るが、痛かったので様でつい口が滑ってしまった・・申し訳ない。
人攫いの男達とは距離は離れたみたいだが、この場所は人間的には行き止まりだ、何処に進めば逃げられるのか見当もつかない。
どうにか立ち上がろうとするが、身体の弱っている姫様は相当お疲れの様だ、膝が笑ってガクガクして生まれたての子ヤギの様である。
「この娘さんの身体は相当弱っているのぉ、何処かに逃げ延びられたら儂が健康体操を教えてやらねばならん、足の丈夫さで健康寿命は変わるからのぉ。椅子に腰かけてスクワットから始めにゃぁの」
「うん、婆さん取り敢えず逃げる事から先に考えようか」
痴呆が進んでいるのか、これが素の状態なのか解らないが、婆のボケ発言にはイライラさせられてしまう。キャリさんは老人と係わる事が少なかったので、どう扱って良いのかも解りかねているのだ。
『後期高齢者相手に怒っても仕方がない、耄碌してんだから、状況が把握できてなくても仕方がない、冷静に冷静に・・優しく辛抱強く対処しなければ・・』
体ごと異世界に来ていたのならば、いま確実に胃がキリキリと痛んで胃薬を飲んでいる事だろう。此処に胃が存在していなくて本当に良かったと、キャリさんはつくづくとそう思った。
胃潰瘍とは割と簡単にストレスで出来上がってしまうものの様なのだ、会社の健康診断では毎回潰瘍跡が見つかって産業医に注意されていたものだ。
注意すべきは自分なのでは無く、上司と会社の勤務体制と福利厚生では無いだろうか?世の中とは誠に理不尽なモノである。
潰瘍の跡は社畜の勲章・・そんな勲章欲しくも無いが。
「取り敢えずそこに有る扉の中に隠れようか?何か使えそうな物が有るかもしれないし」
「使用人通路に有る扉は倉庫が多い、倉庫の中には別の道に通じる扉も有るはずだぁな」
婆とキャリさん二人が姫様のセンターに収まったので、不気味な独り言が復活してしまっていた。ブツブツと声色を変えて喋る危ない人の様だ、まぁ誰も見てはいないが。
扉は幸いにも施錠されていなかったが、つまるところたいした物は置かれていない部屋の様だった。
それでも2人は何かないかと物入の引き出しを開けて探索する、暗くて良く見えないのでキャリさんが人差し指を立てて
「ライト」
と唱えてみればお約束の様に灯りが輝いた。
前にやってみた時にはできなかったのに・・少し不思議に感じたが、今は有難いので深く考えないようにする。
ハサミを見つけた婆が、突然スカートを捲り上げるとジョキジョキと下着を細長く切り始めた。
「靴を脱いでこの布切れを足に巻き付けろ、そんな踵の高い華奢な靴ではよぉ走れんからな」
「布だけでは強度が足りない・・干し肉みたいなものが有るわ、堅いしこれを靴底にしましょう」
黙々と作業を続ける二人だが・・・。
「以外ね、食べ物を粗末にするなとか怒りだすと思ったのに」
「用が済めば洗って食べれば良い、大したことではない」
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「ねぇ、お婆さんもこの城を出て行くのを支持しているの?なんの保証も無いのに」
「此処におっても保証などありゃしないだろ」
「でも」
「攫われかけたし、また命を狙われるやもしれん」
婆はしゃがれた声を殊更に低くして話す。
「それにだ・・あんたが考えて素晴らしいプランとやらを立てたとしてもだ、それに従う家来はこの城には居ないだろうよ。この娘の存在は悲しいくらい軽いものだ、今娘の周囲に一人の騎士もいないのが答えよ」
「何とか交渉して」
「交渉と言うのは対等の相手か、格下の相手にしか通じないものじゃないのかね?此処ではこの娘は格下な立場だ、話し合いなのでは無く懇願や哀願と受け取られるだろうよ。
キャリさんあんたは社会人として立派に働いて、人を動かす術も知っているのだろうが・・此処ではあんたのやり方は通じんじゃろう。
いい加減腹を括ったらどうじゃ、泥水をすすり草を食み、血反吐吐いても人として誰にも干渉される事無く自由に生きていくのを望むのか。
それとも冷たく柔らかい檻の中で、あれこれと命令されながら家畜の様に生きていくのか」
「なっ!」
ほら行くぞ、気持ちが決まらないのなら隅に引っ込んでおれ邪魔だ。
そう言うと婆㏌姫様はどっこいしょと立ち上がった。
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使用人通路は狭く暗く、大変複雑な構造をしている。
王城の部屋の天井が高い為に、その裏側に有る使用人通路は途中に中二階を挟む事で階段の勾配を緩くなるように設計されていた。
その中二階ごとに扉が有り、様々な方向に行ける様に工夫されている、王城の室内を取り巻く蟻の巣穴の様なものだろうか。
「とにかく今は野獣から逃げるのが肝要じゃて、奴の気配から遠ざかるぞ」
「気配が解るの?」
「いやな振動が有るじゃろう、たぶん野獣じゃ右下の方から感じられる」
「魔獣だけど」
下から感じるならば上に逃げるしかないのか?姫様は階段をえっちらおっちらと登っていく、上に上り詰めてしまって魔獣が追い付いて来たらどうする気なのだろう・・キャリさんは不安を口にしたが。
「埴輪の二人組がどうにでもするだろうよ」
あの2人を信頼するとは・・。
婆さんは場当たり的の楽観主義者で、破滅衝動が有るボケ老人に違いないとキャリさんは思った。
次回、老害パワー炸裂か?!




