姫様の異変
おおじょうの中はおおさわぎ( `ー´)ノ
「何だ、何が起こったのだ!」
魔獣から逃げている最中で有りながら、膨大な魔力がはじける様に爆発した感覚に思わずモノクロは立ち止り辺りを伺った。
「また魔獣が現れたのか・・いや、違う。
この魔力は人の物だ、一体だれが」
悠長に立ち止まって考えていて良いのだろうか、はたして魔獣が待っていてくれるモノだろうか?気になる事が発生すると其方に意識が向いてしまい思考が停止するのがモノクロと言う男だった。
感覚を研ぎ澄まして謎の魔力を拾おうと、立ち尽くしているモノクロに影が差した。
魔獣が追い付いて来た・・
しかし、その影は何時まで経っても動く事も、襲ってくる事も無かった。
魔獣はその重たそうな体をそらして上半身を立ち上がらせると、吸盤の周囲に有る髭?棘?をヒクヒクと動かしながら何かを探っていた。
先程モノクロも感じた魔力の残滓を探っているのだろう、新たに美味そうな魔力を嗅ぎ取れば、この黒い男の魔力などとても喰う気になれないのかもしれない。
確かにモノクロの魔力では美味でくも無いのだろう、何か黒っぽいしドロドロしているし、こう見えて魔獣は味に五月蠅いお方の様だ。
そうして、僅かな時間静止していた魔獣だったが。
突然モノクロに背を向けると違う方向に進み始めた、お前にはもう用は無いとばかりに。
新たな美味しそうな魔力の主を狙うと決めたのだろう、足をワサワサと動かし、扉や柱などをなぎ倒しながら突き進んでいく。
「どこに行く気だ、まさか・・さっきの魔力を追う気か?
・・・・・・・姫様?」
モノクロは考える。
この王城に自分以上に強い魔力を持つ者など居なかったはずだが、只一人だけ魔力を測ろうにも測れなかった人物がいた。
あの姉姫様だ、彼女は王城の奥に隠される様に育てられていたから、家臣たちにその姿を見せることも無かった。当然受けるべき魔力の検査も、その必要は無いと生前の王妃様に拒否されていたと、先代の魔術師長が話していた様に記憶している。
「魔力無しの噂は・・偽りだったのか?」
決死の覚悟をして逃げていたのに、突然魔獣に見向きもされなくなって、少しばかりプライドが傷ついたモノクロだったが、今度は逆に魔獣の後を追い駆けて走り出していた。
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=時は少しばかり巻き戻り、モノクロと魔獣が仲良く立ち尽くしている頃=
ぶち壊された王妃の衣裳部屋にいたもう一人の魔術師<赤紫蘇・スライム状態>も、尋常ならざる魔力の異変を感じ取っていた。
【お前達の仲間で、魔術を扱える者がいたのか。一体姫様に何をやった!魔力を封印している筈の戒めが吹き飛ばされたぞ!】
「いや?俺達の力なんて粘土を捏ねるとか、チュウと友達になるとか?そんなもんだぞ」
アニィは不満げに口を尖らせた、冤罪だ、俺らは悪くないですぅ~。
JKの特技は未だ解らないし、キャリさんに至ってはピコピコハンマーだ、情けなくて赤紫蘇に伝える気にもなれない。
【とにかく一刻も早く姫様を合流し、この城から脱出するぞ】
姫様に何らかの異変が有ったのならば、其処にいる3人もヤバイ事になっているはずだ。とにかく急ごうとアニィとJKは頷き合うと、短い埴輪の足を一生懸命動かして走り出した・・って、ところでどこに向かえば良いのかぃ?この2人、やはり似た者同士なのかもしれない、考える前に体が動き出す単細胞生物か?
【遅い!乗れ!!】
見ると赤紫蘇色をしたスライムが小さなドラゴンの様な生き物に変身し、2人の前に舞い降りて来た。
凄いぞスライムドラゴンだ、見かけはスルスルとしていて半透明で、チョッとばかり強度が気になるが致し方ない。
JKの埴輪<鷹匠のジョウ>のケツを持ち上げスライムドラゴンにヨッコラショと乗せる、それだけで小さな背中は満席になってしまった。
「飛べ、俺は足にしがみつくから」
【落ちても拾っている猶予は無いからな、しがみ付いていろ!姫様の魔力はこっちの方向だ】
赤紫蘇はアニィのシャコウを足にぶら下げて飛び上がった、小さなスライムドラゴンの何処にそんな力が有るのか?かなりのスピードが出て背中にしがみ付いているJKが叫んでいる。
「ウッヒャァァァアアアァァ~~~~」
絶叫系の乗り物も真っ青な乱高下だ、飛行機だったらシートベルトのランプが付いて客室アテンダントも席に座っている事だろう。
城内は避難する貴族や使用人などでごった返していたが、赤紫蘇スライムドラゴンは天井近くを飛んでいるので邪魔される事無く飛んでいった。
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捕食者と救援のナイト?達が向かっている最中、姫様の周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
男達が聞いた無数の足音、流れる様に迫って来た茶色の絨毯はチーのお友達<チュウ>達だった。
無数のチュウ達は男達の足元から這い上がり、背中と言わず頭と言わず、体中に取り付いて鋭い歯と爪で男達を攻撃し始めたのだ。
姫様を抱ていた男は顔面にチュウの直撃をくらい、振り払おうと姫様を抱いていた両手を思わず離してしまった。
『うわぁ、落ちる!』
落下の衝撃を覚悟したが、思いのほか柔らかいクッションに着地した。下を見たら大きなモフモフがその背中で姫様を受け止めていてくれていた。
「うぉう、これはカピバラさん?」
元の世界の動物園で見かけたカピバラさんより数倍大きな個体だが、確かに齧歯類の様だ・・チーのお友達の仲間なのか。
カピバラさん達は尻餅を付いたままの姫様を背中に乗せて、脱兎の如く逃げていく、鼠なのに脱兎と言うのもおかしな話だが。
「女が逃げるぞ、待て・・痛い痛い痛い!」
「よせ馬鹿!服の中に入り込むな、あぃたたたた・・・」
「うわぁ、ズボンはやめてー!きゃぁーーーー!」
『チーちゃん助かった、有難う』
『ちー、頑張ったな、恐かったな大丈夫か?』
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チーちゃんの返事が無い、それどころか周囲に気配までない。
『チーちゃん、何処?大丈夫なの、返事をして』
『姫様の奥の方に潜り込んでいる様だのぉ。
幼い子供には怖い体験だったし、あの爆発的な激情と、身体の奥深くから溢れ出て来る魔力?の刺激は強すぎたのじゃろうて、たぶん深みで眠っているんだろう』
『こんな時に眠る!?ありえない!』
『こんな時だからこそだ』
大昔、まだ婆が国民学校の学童だった頃、国は戦争をしていた。
毎晩の様に空襲警報が発令され、婆達は防空壕の中で息を潜めていたものだ。
飛行機の低い爆音に恐怖を感じ小さくなっていると、何処からか寝息が聞こえて来る・・スゥスゥとそれは穏やかな寝息だ。
こんな時に肝の太い人が居るものだと感心したが、婆の父親に話すとそれは違うと言う。
『人間は余りの恐怖に直面すると、意識を手放して眠ってしまう事が有るのだと、自分の心を守る手段なのじゃろうといっていた。恐怖の感じ方も人それぞれ、耐性も違う、幼いものなら弱くて当然じゃろ』
『そんな馬鹿な』
『馬鹿でも何でも、チーは当分目覚めないじゃろう。幼い子供が頑張ってこの危機を突破したのじゃ、此処からは儂ら大人がどうにかせんとな』
『どうにかって?』
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『ノープランかい!』
キャリさんは叫んだ。
防空壕の話は婆の母親(存命中)の体験談です、目指せ100歳だ!




