モノクロ 頑張る!
(◎_◎;)
姫様が悪い男共に攫われる、ほんの少し前の時刻。
突然現れた不気味な見た事も無い魔獣相手に、騎士達は苦しい戦いを強いられていた。。
「ぐわあぁぁーーーっ」
本日の王城は彼方此方で悲鳴が上がっている、今の悲鳴は騎士の1人が発したものだった。
魔術師長の「魔獣が現れた」の言葉に、側臨戦態勢に入ったのは良いが、肝心の魔獣が動き回っていて中々見つからず、やっと遭遇した時には王城の中をかなり荒らし回られた後だった。戦いの相手は<ギナウメツヤ>と言う魔獣で、奇怪な姿と面妖な臭いを発している化物だ。
騎士達は魔獣を十重二十重と取り囲み、剣や弓で攻撃を仕掛けているが捗々しくない、魔獣の皮膚はドロドロとした粘液に覆われていて剣も効かないし弓矢も弾いてしまうのだ。
「くそぅ!歯が立たん!!」
「おい、魔術師共、後ろに引っ込んでないで攻撃しないか!こいつには物理攻撃が効かん、魔力で攻撃してくれ」
騎士団長は魔獣の粘液を浴びて鎧を変色させながら叫んでいた、部下の騎士がやられたのかまた悲鳴を上げている、騎士達はもうボロボロだ。
それでも魔術師達は後衛から動こうとしない。
「騎士団長、この魔獣は魔力を餌にしているものだ。我々が攻撃すると返って魔獣が活性化してしまう、済まんがそっちでどうにかしてくれ」
「そんな魔獣聞いた事が無いぞ、いい加減な事を言うな、戦うのが怖いのかヘタレ魔術師共が、日頃の偉そうな態度はどうした!戦え!」
神官と魔術師は仲が悪いのが周知の事実だが、騎士達とも連携が上手くいっていない。彼ら魔術師のプライドが高すぎてエリートぶっているせいなのか、それとも単なるコミ障と脳筋の相性の悪さなのか?
「あれは確かに魔力を餌にする魔獣な筈だ、希少な生き物で我が国や近隣諸国には生息していない筈なんだが、一体どこから湧き出て来たんだ・・」
「知るか!どこからだってそんな事は今はどうでもいい、攻撃できないなら囮になって中庭に誘導しろ、城内でこれ以上暴れられたら城がもたん!」
自分達が囮になるなど心底嫌だが、このまま傍観している訳にも行かない。
モノクロはまだ新人でたいして魔力の強くない者を数人選んで偉そうに命令を出した、師長だから確かに偉い事は偉いのだ。
「お前達、あの魔獣の前に行って囮になれ、奴を引き付けて中庭まで誘導するんだ。中庭に連れ出せれば、窓から石を落とすなど遠くから攻撃ができる。
この一戦の勝利はお前達の尊い行いに掛かっている、張り切って行け」
新人で魔力の強くない者達は内心『酷ぇ』と思いながらも、魔力の強い怖い上司には逆らえないし、殺気立った騎士達の視線も恐ろしい。
仕方なしにだが、囮の人数が複数なので自分が災難に当たる確率は低いだろう・・などと楽観的に思いなおして前に進んだ。
中庭まで何回か角を曲がって約50メートル程か、どうにかなるか・・子供の頃にしか走った事など無いけれど・・やるしかない!!
覚悟を決めた魔術師達は邪魔なローブを脱いで走る体制に入った。
しかし、魔術師のローブは自らが発する魔力を遮断し、周囲に不快感を与えないようにする<制汗剤>の様な役割をする、気配りの一品でもあったのだ。
ローブを脱いだ途端目も無いはずの魔獣が彼らを振り返り、獲物を見つけたとばかりに棘を逆立ててロックオンした。吸盤の様な口から涎の様な粘液をダラダラと垂らし、頭を振り上げてズオオオオォオッと半立ちに立ち上がり、毒蛇の様に体をしならせ攻撃態勢に入ってきた。シュゴーシュゴーと吐く息も生臭く、異様なその姿は見る者を震撼させる。
「きゃぁーーーーー!」
新人で(以下略)の男たちは、思いのほか可愛い悲鳴を上げると脱兎の如く走り出した。インドアの仕事で普段から筋トレなどしていない彼ら魔術師だが、命がけのダッシュはそれなりに速かった・・筈だが。
ビュッ!
魔獣の吸盤の真ん中から、舌なのか、はたまた粘度の高いネバネバなのかは解らないが、長い何かが飛び出して来て囮の男の背中にビチャッと張り付いた。
此処に異世界人のメンバーがいたら、カメレオンの舌の様だと感想を漏らしたかも知れない。不幸にも囚われた運の悪い男は、そのままズルズルと引きずられて魔獣の傍まで運ばれてしまう。どんなに暴れても背中のねばねばは取れず、その恐ろしい姿に周囲の者は誰も手を出す事もせず硬直している。
「いやだー助けてくれーー、師長ー!」
モノクロとしても助けてやりたいのはヤマヤマだったが、この魔獣に魔術を放てば魔力に変換され吸収され餌とされると・・魔獣図鑑(最新版・高かった)に書いてあった。
これ以上魔獣を元気にさせる訳にはいかない、かと言って自らがローブを脱ぎ捨て凶悪な獣の前に躍り出る程の<男気>はモノクロには無かった。
「わあぁぁぁ~~」
魔獣は舌の様な物をスルスルと体内に格納して、吸盤を ウニョン と広げると、獲物のその頭を キュッポン と吸い込んだ。
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頭を咥え込まれた気の毒な囮で新人(以下略)の男は、手足をバタバタさせて抵抗しているが、頭だけで吊り下げられている状態なので如何ともしがたい。
「魔力を喰うと言ったが、あれで喰っているのか?」
「本にはそう書いて有った、魔力は吸われるが命には別条はないと」
あまりに異常な光景に固まっていたギャラリー達だが、騎士団長が最初に正気づいた。
「あれでは首つり状態では無いか、窒息するか首が伸びて死んでしまうわ。おい、誰か倉庫に行って油を持って来い!あんのぉ化物、焼き殺してくれるわ」
「此処では延焼してしまう!」
「だったらお前が囮になって奴を中庭までおびき出せ、油は中庭に面した2階まで運ぶんだ早くしろ」
モノクロと騎士団長が喚き合っていたら、背後で落下物がひしゃげる音が響いた。魔力を吸収されつくした男が、魔獣に ぺっ されて床に叩きつけられたのだ。
恐る恐る振り返ると、生贄の子羊の様な男は気の毒にも体中粘液でベトベトとなり、息が有るのか無いのかもはっきりとはせず、白目をむいて横たわっていた。
・・・それになんか臭い、凄く嫌な光景だ。
「くっ!」
魔術師長に周囲の者達の視線が突き刺さる。
どうにかしてくれと自分を見つめる目にモノクロは遅い覚悟を決めた・・本当は嫌なんだけど、指揮官が最初に突っ込むってあり得ない・・等と思いつつ。
「この化物!お前の餌は此処にいる!喰えるものなら喰ってみろ!」
カッコよくセリフを決めてローブを脱ぎ捨て走り出したモノクロに は~い♡ ばかりに魔獣が後を追って動き出した、無数にある足がザワザワとウエーブの様に動き、ノソノソと方向転換をしつつモノクロの後を追う。方向転換をした後は速かった、無数にある足を滑らかに動かしすべる様に獲物を追っていく。やはり腐っても師長だ<魔力>が多く質も良いのだろう、滅多に味わえないご馳走を目指して魔獣もひた走る。
モノクロは時間を稼ごうと、途中に有る角を不必要に曲がったり、無駄に階段などを上り下りして魔獣の勢いを削いで行った。どうやら魔獣は直線距離には強い様だが、曲がったりバックしたり上り下りが下手らしい。
「ぜぇーぜぇー苦しいーー」
象牙の塔に籠り切って、趣味の禁忌の魔術の復活にうつつを抜かしていたモノクロは体力が無かった。
『魔獣辞典を読んでおいて良かった、逃げる方法はこれで有っている様だ・・しかし・・はぁはぁ・・あの魔獣があんな長い舌を持っているなどとは記述には無かったぞ、出版元に抗議と情報を寄せねばなるまい。これは新発見だ、私の名前も紹介者として辞典に載るだろうか』
モノクロは命の危機にさらされてなお、自分の名前が有名なるだろうか・・とか、案外生臭い事を考えていた。ポジティブなのだろうか?いや危機感の足りない男なのだろう。
モノクロと魔獣が立ち去った後、ようやく息が付けた騎士達は次の行動をとり始めた。
《魔獣・バーベキュー作戦》である
「よし、俺達は2階に上がるぞ。燃えそうな古い家具や襤褸をかき集めるんだ」
騎士達もガチャガチャと音を立てて動き出した。
「早道になる使用人通路を使え!」
「奴の先回りをするぞ」
城の中はもうてんやわんやの大騒ぎと化していた。
(;´Д`)




