姫様の危機
(。-`ω-)
「赤紫蘇てめぇ、俺様達をいい様に使いやがったな!こうなる事を知っていてあの化物を仕込んでいたのか」
アニィが怒ってスライムに怒鳴りつけた。
「お姫の母ちゃんの形見を取り返す手伝いを買っては出たが、あんな化け物を出して城の者を攻撃するとか、人死にが出るような事に加担するつもりなんか断じて無かったんだぞ!」
アニィは向こうの世界では盗んだバイクで走り出しそうなビジュアル(ファッション的に?金髪に染めているし)をしているが、至って常識的で法令を順守する平凡な猫好き勤労青年なので、人が怪我をする様な荒事は苦手だし嫌いだった。
高校生の頃の一時期、悪系仲間に誘われそうになった事が有ったが、本心ではその手のヤンチャは嫌だったので家の者が怖いから・・と情けない言い訳をして断ったものだった。
悪系の仲間も「お前んちの父ちゃん爺ちゃん、半端ねぇからな~」と、変に納得と同情をされ悪の道に誘う事も無かったのだ。悪と言っても単車を乗り回し、ご近所の安眠を妨害し、肉体派公務員の方々のお手を煩わせるくらいのものだったが。
《十分良くない・暴走駄目絶対!!》
家族が揃って早寝早起きの家なので、夜中にゴソゴソ帰ってきたら教育的指導が入る、そりゃぁ厳しく入る。・・それから誤解が有る様だが、一番怖くて強いのは母ちゃんだ。
悪い事をしでかしそうになると、耳の奥から母ちゃんの戒める幻聴が聞こえて来る気がするのは少し病的だろうか。母ちゃん顔向けできない様な事はするまいと、そう思いながらアニィはこれまで生きて来たし、それは異世界に来たとて変わらない。
【あんな化け物が仕込まれていたとは、僕だって知らなかったんだよ。
姫様の母君の形見の宝飾品の石は、宝石をまねて作った魔石・・要するに魔術具だ。敵国にたった一人で、好きでもない男の花嫁になる為に乗り込んで行かねばならなかった愛娘の為に、優れた魔術師でもある国王陛下が用意したものだ。
素晴らしいじゃないか、知っているかいあの魔獣の事を】
「知る訳ねぇだろ!早くどうにかしろよ」
【あの魔獣の名前は<ギナウメツヤ>あの吸盤の様な口で獲物に貼りつき魔力を吸うんだ、大丈夫枯渇するまで魔力を吸い尽くされても死にはしない、魔力を持たないただの人に成り下がるだけだ。あれは魔力を感じ取り何処までもしつこく追い駆けて行く、それも強い魔力を持つ者を駆けて狙ってね・・今頃はこの国の愚王に目を付けているはずだ、あぁ目は無いんだけどね
・・くくく・・はははは・・はぁはぁはぁはあ・・】
『赤紫蘇の奴って、けっこうヤバイ奴だったのだろうか?』
アニィは今頃になって自分の判断に不安が生じて来た、此処にキャリさんがいて、あのはっちゃけた赤紫蘇の様子を見たら怒髪天の勢いで怒り出しそうだ。
『赤紫蘇はお姫至上主義で、俺らの事など使いっパシリの消耗品くらいにしか考えて居なそうだ』
遅まきながらアニィは赤紫蘇に警戒心を出し抱いた。
「お姫は大丈夫なのかよ」
【姫様の魔力は生まれてすぐに母君に因って封印されているはずだ、多すぎる魔力を宿す女性は面倒な運命に翻弄されやすいからね。姫様の母君も身に宿す魔力の多さを狙われてこの国に嫁がされて来たんだ、それだけ魔力と言う力は貴重で手に入れ難く、生まれた子供にさえも遺伝し難いものなんだよ。
さぁ、君たちは魂だろ。肉体や空間の制約は無いはずだ、姫様に宿っている者と連絡を取ってくれ。姫様を迎えに行かねばならない】
「そんな事したことは無いけどな・・
おーい、キャリさん・婆・チー聞こえるかー。聞こえたら返事してくれ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「聞こえないみたいだぞ、返事なんてないけど」
【そ・・そんな・・ばかな・・】
Blueのスライムが顔色を変えたのか、濃い紫色に変色した。
「あっちは舞踏会の最中だったんだ、人が大勢いて魔獣騒ぎでパニックにでもなったら、体の弱い姫様なんぞ煎餅にされちまうぞ」
【センベイ・・?】
「踏まれてペッちゃんこって事だ」
【!】
********
その頃、姫様は煎餅にこそなっていなかったが、敵か味方かイマイチはっきりしない者達に囲まれて絶賛逃走中だった・・・お姫様抱っこでである。
『お姫様抱っこ!本物のお姫様でお姫様抱っこ!!』
キャリさんは感激に打ち震えていた、自分の人生ではありへんイベントだ。
小さな頃熱を出して病院まで運ばれた時は車からオンブだったし、幼児の頃親にハグされて以来スキンシップが乏しい人生だったのだ・・いや?別に?
日本人に生まれ育てば、普通ハグなんざぁしないものだし?
別に寂しくなんて無かったやい・・ふんっだ。
自分を抱きしめている逞しい腕とその温かさに、つい・・人間って恒温動物なんだなぁ・・などと、色気の無い事を感じてしまうキャリさんだ。
「どちらに向かうのですか、この道で城の外に出られるのですか」
周囲の護衛も腕の主も姫様の質問に答えてはくれない、押し黙って何か不穏な雰囲気を醸し出している。
通路をじっと観察していた婆が口を開いた。
『この道は使用人の通路じゃ、このまま進めば使用人専用の通用門に向かうと思うがなぁ。多分山側の方に抜ける道じゃろうて、このまま城を抜け出して山道にでも行くつもりなのか』
『怖いです・・いつも見かけている騎士の人が一人もいません』
婆とチーも状況の異常さに不安を抱き始めていた、これは拙い状況だな・・キャリさんは内心焦りながらも務めて冷静に男に話しかけた。
「止まって下さい、私付きの騎士を待たなければ。きっと私を探して困っているはずですから」
抱かれている腕をペシペシと叩いて自己主張してみる、このまま連れ去られたらアニィ君やJKと離れてしまうし、流石に不味いだろうそれでは。
しかし周囲を固めていた護衛の男の一人が、馬鹿にした態度で言い放った。
「口を閉じていろ、舌を噛んで痛い思いをしたくなければな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あらやだ・・・・
さっきまでの慇懃な態度は何処に行ったのかしら、やっぱり男なんて信じられない。こんな美少女に対してその態度、モブ相手だったらどれだけ横柄だろうか。
『怖いです・・怖い・・怖い・・』
「私はお願いしているのでは有りません、命令しているのです、止まりなさいこの国の姫としての命令です」
ブッアッハハハハァァァーーーー
周囲を囲んでいる男たちが一斉に吹きだした、心底愉快そうに、とてもじゃ無いが姫様を王族として認めて尊重している態度ではない。
『王妃派以外にも姫様を邪魔に思う派閥が有る訳か、帝国に出奔している王弟派とか言う奴らかしら』
『怖いです・・怖い・・助けて・・たすけ・・』
周りを囲む人の中でも人相が悪い、凡そまともな貴族には見えない様なゲスイ男が馬鹿にしたように話し出した。
「あんたは自分の心配だけしてればいい、殺す気は無い・・人質は大事にしなければな、身代金を生み出す大事な玉だからよぉ」
「これだけ上玉なら良い金になる、あんたの爺さんがケチ臭いしみったれなら、あんた自身に稼いでもらう事になるかもしれんがな」
『なにこの小悪党感は、こいつら貧乏貴族のアホな小倅の集まりなの?どさくさに紛れて姫様攫って大金でも稼ぐつもりなのかしら。人身売買が合法なのよねこの世界って、ほんとサイテー』
『じん・・しん・・ばいばい・・・?』
いやぁぁぁぁああああああああああああーーーーー
『チー、どうした落ち着きなされ』
『チーちゃん?』
チーは学校の推薦図書で昔の奴隷制度・ルーツの本を読んだばかりだった。
キャリさんの不用意な発言で、我慢していた恐怖心が抑えきれずパニックが起こしてしまった。婆が必死に呼びかけ、落ち着く様に諭すが、とてもそんな言葉を聞き入れられる心理状態では無い。
『ひっ・・なんなの・これ・・』
チーの怯え慄く魂が分裂するように破裂し、膨張しながら姫様の身体の隅々まで広がっていく。魂の絶叫と爆発・・そんな感じだろうか。
キャリさんと婆は増殖した魂に押し流されて、姫様の心の奥の方に押し流されてしまった。
「な・・なんだ!」
「うわっ、なんだこいつ!」
姫様の身体が陸に上がった魚の様に男の腕の中で跳ね回ると、カッ と目も眩むような光が身の内から放たれた。男達は驚き、思わず姫様を放り出しそうになったが、僅かながらの胆力を総動員して踏みとどまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「何だったんだ今には、魔力なのか?」
「この姫は魔力無しの出来損ないと聞いているぞ、そんな力は無いだろう」
姫様の手が何も見えない真っ暗な空間に向かって、助けを求める様に伸ばされる。
「助けて・・皆・・お願い・・たすけ・・て・・」
男達は殊更に姫様の身体を拘束すると、脂下がった顔で下卑た声を掛けた。
「諦めな、助けなんざぁこねぇよ、まず俺らがお相手して作法を仕込んでやる、楽しみにしておけよ・・・あん・・・?」
「なんだ・・・何の音だ?」
狭く明かりも乏しい使用人通路で、闇に包まれている遠くの方から、何かが走ってくるような音が聞こえて来た。
ドドドドドドドドド・・・・・・・・
「なんだ、何が起きている、まさかここまで魔獣が来たのか」
慌てる男達の近く、足元に茶色い絨毯の様な物が迫った来た。
「ぎゃぁああっ!」
(◎_◎;)




