姫様の受難~2
ガチャガチャで欲しいものが出て来たためしがない・・(=_=)
姫様らしからぬ荒んだ声音に、召喚の間に居た者達が皆凍り付いた。
「何だぁ此処は?嫌に陰気臭い場所じゃねぇか」
姫様は薄物の衣装も気にせずに、あろうことかドッカリと胡坐をかくと赤味を取り戻した滑らかな頬をポリポリと掻きはじめた、その仕草は完全に粗野な男のそれだ。
「私の言葉が解りますか?」
此処は呼び出した当事者、魔術師長が話しかけるのが筋だろう。
ギャラリー達は遠巻きにして、その様子を固唾を飲んで眺めている。
「何だてめぇ、すかしたカッコしやがって。何のコスプレだぁ、ハロウィンにはまだ早ぇだろうが」
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『召喚できたのは良かったが、どうも柄が悪い者の魂の様だ・・しかも男のようだし、どうやってお帰り頂く(消し去る)か悩む所だ。』
当事者である魔術師長は、物騒な内心はおくびにも出さずに慇懃に尋ねた。
「私はアトモスヒィア王国の魔術師長のジェリコと言う者です、召喚された魂よ其方の名前を教えてはもらえぬか」
「はぁ?魔術師・・なにぃお前、頭でも沸いているのか、俺は・・」
「ちょっと待ったーーーー!!何素直に名前なんか教えようとしているのよ、ダメダメ絶対駄目だからね!真名で縛って服従させるのは異世界召喚魔術系物語のセオリーでしょうが。脳筋は引っ込んでいて、相手の甘言に乗せられたら隷属・奴隷コース一直線だからね」
いきなり声色まで変えて、あたかも二人の人間が居るかのように話を続ける姫様に、流石の魔術師長も驚きを隠せないでいた。
一人の人間の中に、複数の魂が召喚される事などあるのだろうかと?
「腐女子のゲーマーは黙ってろ、俺様に命令するな!」
「ここどこ~~~お母さん~~、怖いよ~~~」
「極楽にしては面妖な所じゃな、はて・・事故でお陀仏だと思っておったが」
「ちょっと!冗談じゃないわよ、今日は大事なプレゼンが有る日なんだから、こんなところで油を売ってる暇なんか無いのよ。ちょっと!!そこの魔術師だか何だか知らないけど、真っ黒くろすけの人!とっとと元の場所に戻してくれない?こっちだって予定が有るのよ、召喚だか羊羹だか知らないけど勝手な事しないでいい迷惑だわ」
あの淑やかで美しい姫様がまるで人が変わった様に、右を向いたり左を見たり、声色を変えてひとり何役も熟しているかのように大声で話している余りの五月蠅さに眩暈がしそうだ。
召喚の間で事の成り行きを固唾を飲んで見つめていたその他大勢のモブ家臣達は、姫様の御乱心の様子に唖然として・・やがて困惑から徐々に失望へと変わって行った。
あの気高く美しい姫様が、これではまるで無学な行儀作法も知らない平民の小娘の様では無いか、頼むからその麗しの姫様の顔で小汚い言葉を吐くのは止めてくれ・・・と。
「やかましいーーー!」
短気で血の気の多い王がまず切れた、
「王の前で何たる無礼、この痴れ者を拘束せい」
唖然として立ちすくんでいた騎士達が王の喝に正気付いて、命令通りに姫様を拘束しようと動き出した。
「あぁ?やるって言うのか・・テメエら」
「姫様、どうかお許し下さい」
姫様を拘束しようと手を伸ばした途端
「きゃぁーーー、触らないで!この人痴漢です!」
騎士の耳元で姫様が有り得ない特大の叫び声をあげた、やんごとなき姫様が大声を出す事などあり得ない。余りにもあり得ないので2度言った。油断していた騎士達の耳がキーーンとして思わず手が緩む、その一瞬を逃さず白魚の様な姫様の指先が騎士の喉元の急所を狙ってめり込んだ。
グハッ!
王城の中では騎士と言えども軽装備だ、首に一撃を入れられた騎士が苦痛に思わず身体を曲げると、今度は姫様の肘が鳩尾に入る、最後の仕上げは痛みで体を二つ折りにした騎士の後頭部に踵落としが炸裂した。偉丈夫な騎士は堪らずその場に倒れ伏し伸びてしまった、可哀想に口から泡を吹いてピクピクしている・・合掌!
モブ家臣達が思わず息を飲んだのは、騎士を瞬殺した姫様の戦闘力にか、はたまた薄物の衣装からチラリと覗いた優美な脚線美せいなのかは・・定かではない。
「弱ぇな、今度仕掛けてきたら目ん玉潰すぞ?あぁん」
「何オラついてんのよ、あんたチンピラ?」
「違いますぅ~、ちゃんと肉体労働で稼いでいる勤労青年です~。
税金だって年金だって社会保険料だって会社から天引きされてます、ちきしょう俺の金返せ。俺様が強いのは趣味の総合格闘技のジム通いのせいなんです。お前こそ生意気な女だな、ションベン臭ぇJKかぁ」
・・・非常に下品な人物だと言う事は良くわかった。
「儂を無視するな、儂を誰だと心得る」
無視された王は怒り心頭だ、ブルブル震えていて血管に悪そうだ。
「え~とぉ・・無駄にキンキラな衣装が痛い、初老のコスプレおっさん?」
「ここここ・・・こここ・・・・こここ・・・」
「なに?ニワトリ?」
「こんな無礼者の魂など要らん、さっさと殺してしまえ!」
まぁ何て事しょう、ワザワザそっちから呼んでおいて・・その言い草は。
苦労してこの日を迎えた関係者一同は心の中でそう思ったに違いない。
「王よお待ちください、体だけは・・その姫の身体を傷つけては婚姻に差し支えます。魔術師長!魂だけを殺めるのだ、身体にはこれ以上傷ひとつ付けてはならん!はようせい!!」
そうは言われても、魂だけ殺すのにはどうすれば良いのか?魔剣で切れるのか?
魔術師長は有能そうな仮面をかぶったまま、内心では途方に暮れていた。
この場合、神の名の基に封印すれば良いのだろうか?
霊の類は神官の領域なのではないだろうか?そう思って魔術師長は神官長の方をチラ見したが、鼻で笑われて目を逸らされた。
=お前が始めた事だ、始末をつけるまで精々苦労して働け=
そう・・言っている目だ。
手を貸す気持ちなどサラサラ無いらしい、神官と魔術師の反目は周知の事実なのだ。
お互いに難問(嫌なお仕事)を押し付け合って、睨みあっていてどうする事も出来ない、時間だけがジリジリと過ぎる。終いには姫様の中に居る子供?が焦れて泣き出してしまった。
「お母さんーー、どこーー怖いよーー家に帰りたいーー」
子供の甲高い声で泣かれると、さして広くも無い召喚の間の石造りのアーチ型の天井に反響して、耐えがたい騒音・・高周波となった。
「いやぁぁぁーーーーあーーんあーーーんあーーん」
どーして子供の泣き声と言うのは鼓膜をベコベコと言わせるのだろうか、幼い子供の声で泣かれると拘束しなければならない騎士の心にも迷いが生じる。
その時だった。
「お待ちくださいませ!」
騎士の肉壁の隙間からまだ年若い侍女が躍り出て来た、その顔は涙で濡れ声も震えている。
「私は姫様の御世話を担当していた侍女のルチアと申します、あの日・・姫様から目を離したばっかりに、姫様に取り返しのつかない傷を負わせてしまい、ずっとずっと悔いておりました。私がもっと姫様の御心に寄り添ってさえすれば、このような悲劇は起こらなかったのにと・・・」
涙ながらの女性の登場に、姫様(中身いろいろ)も、取り囲む騎士達もフリーズして動けなくなっている。
「魂の皆さま方、姫様はまだその体の中におられるのでしょうか?姫様の魂は何処にいらっしゃるのでしょう、どうすれば私は姫様に許して頂く事ができるのでしょうか」
「あーーなんだぁ、俺は難しい事は解らねぇ」
「まぁ、あんたには無理だろうね」
「お前いま俺様の事を馬鹿だと思っただろう、馬鹿って言う人が馬鹿何ですぅ」
ガキの喧嘩か・・・・
「はぁ~~~、もういい!」
先程元の世界に戻す事を要求して来た声が割って入って来た、この声の持ち主はまだ話が通じそうな理性的な言葉を話す。
「先ず大事なのは現状の情報の収集と分析でしょう、魔術師長と言ったかしら?あなたがこのプロジェクト責任者なのでしょう?詳しい説明を聞きたいわ。何の必要があってこのような禁呪の様な事をしでかしたのか、キッチリ説明して貰いたいものね。あんた達のプランに協力するかしないかはその説明の後にさせて、此方としても非人道的な事案に協力する気持ちは更々無いのだから。
それから、ルチアさんとか言ったかしら・・此方も慣れない事ばかり起きて疲れているの、休める部屋の用意を頼みたいのだけれど」
「ルチアちゃん、腹も減っているから食事の用意も頼むな、俺は肉が有ると嬉しい」
突然仕切りだした、落ち着いた声音の女の登場に取り敢えず周囲はホッとした。
どうにか言いくるめて、ブライトネス皇国との婚姻を承諾させなければならないが、豪華な衣装に宝石など見せ付ければ所詮女などアッサリと言う事を聞くだろう。狂った皇帝と言っても好皇妃殿下になるのだ、女と生まれてこれ以上の誉れは無いだろうから。
王妃は姉姫の身体が損なわれなかった事に心底安堵していた、政略結婚を成立させ条約を結ぶ事は大事な妹姫を守る為にも必要な事だ、気に食わない魂だが何とかブライドネス皇国に姫の身体を送り出すまでは生かしておかなければならない。
「承知いたしました、魔術師長である私がこの世界の道標となりましょう。
つきましては、今お話されている貴方様を、今後どうお呼びいたしたら宜しいでしょうか?」
「・・・バリキャリと呼んで下さい」
「アラサーの間違えじゃねえぇの?」
その言葉は彼女にとって無礼だったらしく、何処からともなく現れた、不思議なミンカ色のハンマーの様な物で姫の頭頂部が叩かれた。
ピコッ!
ブックマーク有難うございます( *´艸`)
ご期待に沿えると良いのですが(;´・ω・)頑張れ婆!