舞踏会~1
お洒落は心の武装(`・ω・´)
舞踏会の前には貴婦人たる者、熟さなければならない事が沢山有るらしい。
お風呂に入って隅々まで念入りに磨き上げられ、その後は良い香りのするオイルで侍女達に焼肉の下ごしらえの如くに揉み込まれ<マッサージとも言う>され、ムダ毛も剃られてツルツルのピカピカ・・となるまでが第1段階だそうだ。
しかし、この段階で早くも姫様は躓いていた。
お風呂のお湯を貰いに行った侍女が帰ってこないのだ、多分王妃の邪魔が入って難航しているのだろう。
・・まぁその方が良いのだが、彼女達はまだ姫様の身体に走る<ひび割れ>の事を知らないからだ、変な噂が立たない為にも隠しておけるならその方が良い。
「チャララッチャラ~~ン、洗浄の魔術具~~」
スライム型の便利魔術具からグッズを取り出し、自慢げにアニィがしているが・・別にあんたの手柄では無いと思うがな?
赤紫蘇の貸してくれた便利魔術具で綺麗サッパリと潤いを残して洗われ、ビューティー姫様に変身だ、このところのマシに成った食事と脳天気な中の人達の御蔭か以前よりは元気そうになっている。
その後、流行に沿った化粧を入念に施され、髪を複雑に結い上げるまで・・が第2段階。
何と!メイク道具も<赤紫蘇>が貸してくれていた、なんでこんな物を持っているんだろうアイツは?不思議な奴だと思いつつ、アニィはかなりの量の化粧道具を取り出していく。
メイク道具を見てJKが俄然張り切りしだした、私がやるやると五月蠅く言う。
何でもお気に入りのゲームを舞台化した2・5次元?(何だそりゃぁ)では、イケメンの俳優様たちが、まるでゲームの中から飛び出して来たような美少年キャラに変身しているんだそうだ。元々の顔立ちが良いのだろうがメイクの仕事も凄いんだとかで、お気に入りのキャラ風に再現するとか何とか、手に負えないほど興奮している。
「お化粧って楽しいものなんだね、土台が良いと映えるものね~。メイクさんの仕事とか出来たらなぁ~夢だけどさ・・よし!出来た!」
何でも髭剃り風のメイクなんだとか・・髭剃り?なんだそりゃ?姫様は髭なんか生えてないぞ?
何だか訳がわからないのだが、確かにメイクは目を強調していて可愛い感じがして良かった、姫様に似合っているだろう。
これなら王家の奴らの鼻も明かせるってなモノだ、ザマアミロだ!
最後には総重量10キロは有りそうな衣装を、どっこいしょとばかりに装甲強化服さながらに着付けて行く。
・・重労働だね大変だ、ご苦労様と労いたい。
それでも十二単なんかよりは余程軽いんだろうけど、かなり体に(腰に?)負担がかかるのは避けられない。コルセットは見当たらなかったから、細すぎる姫様のウエストにさらし状に布を巻いて腰を強化する。今日は立ち続けないと成らないので、腰が安定しているだけで随分と楽になるだろうと、腰痛には一過言有るらしい婆がそう言っていた。
今日のイベントは慢性的な栄養不足で、未だ体調が優れない姫様には、かなりの苦行になるだろう。
「申し訳ありません、お湯を貰おうと厨房に行きましたところ、今日は大量にお湯を使う方が多いとの事で分けてもらえませんでした」
「あ~~」
舞踏会の為に地方から集まって来た貴族が増えた為に、今王都はインフレ状態らしい、薪等の必需品が大量に貴族の屋敷に運び込まれているらしく王城でさえも品不足なのだそうだ。
まぁ平民達は温泉を利用して暮らしているから影響は少ないだろうし、儲け時と思って稼いでいるのかもしれないが。
それにしても、王城に温泉を引き込む設備が無いのはどう言う訳なのだろうか、此処を開け渡さなければならなかった、無念にも去らざるを得なかった敗者達からの純粋なる嫌がらせなのだろうか。
こと温水に関しては、平民の方が贅沢な暮らしをしているかもしれない。
風呂も毎日入っているようだし、貴族の方が臭かったりして?
それにしても自国の姫様がお湯ひとつ満足に使えないとは、この不憫枠の姫様、何処に嫁いで行っても此処の環境よりはマシなのかも知れない。
「申し訳御座いません、なんとお詫びをしたら良いのか」
城で働く下働きの者達がすべて前王国から残留している民ばかりとは限らない、当然進駐軍の王族に付いて来たお抱えの者達も数多くいる。そんな訳だから下働きの者達の中でも派閥の力学が有る、何か特別に便宜を図ってもらう為には、それ相応の付け届けが必要らしいのだ。田舎からやって来たばかりで、まだ年若い彼女達ではその辺の事情は解らなかったし、顔も売れていないから姫様付きの侍女だと思われていなかったのだろう。
「大丈夫だよ洗浄の魔術具が有るからね、もう湯あみは済ませたし、準備は万端いつでも来いやぁ状態だよだよ。
でも洗浄の魔術具はね<と・あ・る貴族の御曹司>から秘密裏に頂いたの、だから内緒なのよ、わかる?誰にも言っては駄目なの。下さった方にご迷惑をかけるからね」
確かに物持ちで魔術師の<赤紫蘇>は貴族のボンボンの出身に違いない、ただこの国の貴族で有るかどうかは解らないだけだ。
思わせぶりに声を押さえてヒソヒソと話すと、侍女達は頬を上気させてブンブンと首を振る・・首を横に振るのが肯定なんだよねこの国では。
・・紛らわしい事この上ない。
ついでとばかりに侍女達もマルッと洗浄してピカピカにしてあげる、魔術具に慣れていない侍女達は目を輝かせて喜んでいる。
・・これ、アウトドア用品らしいけどね。
小さな事で恩を売っておくのは重要だ、不憫姫には味方が少ないのだから。
騎士達は男なので美人な姫様には好意的だが、職を蹴ってまで姫様に味方してくれるとは限らない。赤紫蘇と名付けられた謎の男も、何処まで信用して良いのかまだ解らない情報が少なすぎる。
『味方の振りをして裏切る奴もいるからね、誰とは言わんが・・』
皆を守る為にも、自分がしっかりとしなくては・・と、無駄に力が入っているキャリさんだ。
さて、この洗浄の魔術具と言うグッズは、皮脂に必要な油分を残して、汚れや不純物だけを綺麗に取り除いてくれる・・大変な優れものなので非常に助かっている。
化粧品が手に入らない今、それでもお肌の調子が良いのはこれの御蔭だ。
自給自足これ大事、生き物は自分の体を健やかに保つ為の工夫を自然と宿しているものなのだ・・若いうちはな・・肌が水を弾くうちは大丈夫。
お肌の曲がり角を逆ハンドルで急激に曲がった後は・・経済力がモノを言うがな?お高いんですよ、その手の物って・・500円未満から~ウン十万円の超高級品まで、幅が広すぎると思うぞ化粧品って。
この女子メンバーで美容に興味を持ち、エステに通った事が有る人物は皆無だった。キャリさんはお金は有ったが時間が無く、婆に至ってはエステより整体で腰痛緩和の方が大事だったそうだ。
意外な事に、アニィは総合格闘技の試合の前に、お客様に見苦しくない様にと脱毛に行っていたそうだ。選手としてもツルツルの身体の方が技が掛かり憎くて良いらしい、油まで塗り込んでツルツルさせ、相手に捕まれない様に細工をして顰蹙を買った選手も居たそうだが・・アニィは1回戦1ラウンドで無念の敗退なので毛の処置の有効度は解らないが。
「貴方達も舞踏会に出るんでしょ、衣装はどうするの?そのまま侍女のお仕着せで出るの」
聞けば舞踏会に出るような、晴れ着は持っていないのでこのお仕着せのまま後ろに控えているつもりでいると言う。若いお嬢さんがそれはではどうかと思うので、こんなお古で良ければどうぞ?と数点しか無いが姫様のドレスを進めてみた。
「宜しいのですか、わぁ嬉しいです」
輝くような笑顔で燥ぐ侍女達、うん可愛いね。
こんなお古でお古な趣味悪ドレス、以前のキャリさんだったなら
「馬鹿にしないでよ」と、怒り狂っていた事だろう。
けれどもこの世界では、布は未だ人力でパタパタパッタンと織られているのだ。
衣装は貴重品でおいそれと手が出る物では無い、平民で衣装を自分の為に新調出来るのは一生の内に2度くらいなものなのだそうだ。
無事に成長できた成人のお祝いの時と、人生のピーク?結婚式の時だ。
後はお古を知り合いから貰ったり、中古品を業者から買ったり・・借りたり。
街道や町外れに追い剝ぎが出るのもその為らしい、衣服は貴重品どんな襤褸でも金になる・・以上、異世界アルアルでした。
まぁ中古と言っても洗浄しているから綺麗だし、染色の色も戻って新品同様だ。
アニィのようにスライム型魔術具に直接突っ込む様な無茶をしなければ、あそこまで激しく色落ちする事も無かった様だ。魔術具を握って<この位で>とイメージを膨らませてから、発動させる物らしいのだが、その辺の加減が難しい。
王妃から贈られたのは、お婆さんが着る様な地味なこげ茶色の嫌がらせドレスだったし?今の生成りの色の方が断然良いけれど何事も程々が肝心って事だ。
生まれ変わった(元の原型は全然残っていないが)ドレスを見て牛母子がどう思うのだろうか、楽しみな様な怖い様な気がする。
一応今夜の主役は嫁入りするこの姫様なのだから、お客を放っておいて食事している訳にも行かないだろうし、ダンスの一つも踊らなきゃいけないだろう。
腹が減っては戦は出来ないとばかりに、厨房へ軽食を発注する事にした。
侍女には偉そうじゃない感じの下働きの人に頼んで、姫様からのほんの気持ちだと、余った網レースを差し出す様にと指示し持たせた。
これで食事がGetできると良いのだが。
あれから食事は騎士団経由で寄越されるようになり、初回よりは随分と改善されたが飯マズな事には変わりなかった。
あちらの世界の母国並みの食事を・・と望む方が無茶振りなのだとは重々解ってはいるが、悲しいものだぞ・・衣・食・住・・で、どのランクを落としたくは無いかと問われれば、食と答える人が圧倒的に多いと思うがな?如何なモノであろう。
侍女がいない間に今夜のミッションの役割分担について話し合う、王妃や妹姫・・その他の侍女や下働きが手薄な(後宮に仕えている者も舞踏会の手伝いに駆り出されるそうだ・・チュウ曰く)今夜、後宮に潜り込んで姫様の母上の形見を探し出し回収する予定なのだ。
消去法で行くと、たぶん王妃の衣裳部屋の秘密の宝石箱の中にブツは有ると思われる。此処まで調べるのに大変苦労したのだが・・宝石箱の中身に菓子なんぞが入っていたら、それこそ怒りで我を忘れそうだ。
「俺様は男と踊る趣味は無いからな、シャコウに入って捜索に向かう」
「はい!私も捜索が良い。コッチの貴族の男は面妖な髪型しているし萌えられないもん、お宝発見の方が面白そう」
こんな状況でも己の面白さを追求する、JKってかなり神経が太いのかもしれない、作業用の鋼鉄入りザイル並みに。
「こっちの貴族の男の人ってカツラなんだろうけど、バッハみたいなミニコロネを横にして沢山付けた感じの髪型なんだよね。まじウケル~!騎士団の人は普通の長髪・ちょんまげなのに、なんでなんだろう?会場に行って笑いが止まらなくなったらヤバいし。まじヤバいから遠慮する」
JKは語尾を伸ばさなくなったが、これはこれでムカつく話し方をする女だった。
「こりゃあ女性の髪型も期待が持てるってなモノだよね、船を頭に乗せるのか、はたまた1メートル位積み上げるのか?」
一人で喋って一人でウケて笑っている、姫様の人格が疑われそうだ。
「この人、目鼻立ちがハッキリしているから、メイクが映えて良いのだけれど、顔色が悪いからもう少し明るく見せたいところね、もう2段階ほど明るめのチークや口紅が有ったら良かったんだけど」
「赤紫蘇の奴でも其処まで気が回らなかったのかな?元気な頃の姫様仕様何じゃないのか。男に化粧の事は解らないからなぁ、唇噛みしめてホッペ・パーンすればよくね?」
「ヒドッ!」
酷くてもそれしか方法が思いつかない、姫様色は血色が悪いので幽霊の様に青白く見えるのだ、是非髪を前に垂らして前傾姿勢で歩いてほしい。
「ホッペ・パーンなんて、何処の元気ですかー!の人だよ」
「戦いに行くんじゃないから、闘魂は必要ないと思います」
年下2人組はそう言うが舞踏会は心の武闘会、貴族連中がこの不憫な姫様を手加減して扱う訳が無い。
「じゃぁ婆は、お若い2人のフォワローゥに入ろうかの」
チーを心配して婆が名乗りを上げた。
チーはダンスをする為には必要な人材だが、如何せんまだ幼過ぎる。
貴族達から心無い扱いをされたら、どんなトラウマになるか解らない。
まだ子供のチーに見せたくない・聞かせたくない様な場面になった時に、素早く姫様から退避させるつもりなのだろう。
お優しい事だ・・だが皮肉を言われてイチイチ反論し口喧嘩になったり、パニックを起こされたりしたら収集が付かなくなる。
婆の提案にキャリさんは頷いた・・適材適所な配置だろうと。
顔を優しくマッサージして血色を良くする、何もしないよりマシだろう。
「髪型はポニーテール!これだけは譲れないぞ」
アニィが騒いでいる、これだけって何なんだ。
ドレスを作っていたのもアンタだろうよ、趣味全開のフリフリドレス。
それにしてもだ、男って何でポニーテールが好きなのか、人気投票で常に上位に入っている髪型だろう?
JKは苦い記憶を思い出して嫌な気分になった、幼い頃の黒歴史。
ポニテに憧れるのは、なにも少年男子(アニィはガキ扱いだ)だけでは無い、女子だって好きな髪型だ・・が、あれほど髪質を選ぶヘアースタイルも無いだろう。
直毛で固く、尚且つ太くて量も多いとなったなら・・それはもうポニテでは無く、似て非なるモノになってしまう。
鬱陶しいのを我慢して、頑張って伸ばした髪を憧れのポニテに自力で結い、意気揚々と小学校に繰り出した、まだあどけなかった当時のJKに悲劇が起こった。
同級生の馬鹿っ垂れ男子に<忍者・忍者>と囃し立てられ「お前を切る!」とか言われて追い駆け回されたのだ。非常に不愉快な思いをしたので高校生になった今でも根に持っているくらいだ、ムカつく事に今でも奴とは同じクラスだったりする。もげろ!
『忍者って何さ!
だってばよっ!の人達にポニテのキャラなんかいたっけ?』
不思議に思いつつも傷心のまま帰宅したチビJKは、居間でお茶をしていた母親とお婆ちゃんに、本日の不思議な出来事を話して聞かせた。
すると二人は顔を見合わせると「あ~~」と、間抜けなカラスの様な声を出し、お爺ちゃんの蔵書の中から漫画を持って来て見せてくれた。
・・往年の忍者漫画。
「昭和かよ!」
昭和の名作、白黒アニメにもなった<抜け忍>の物語り。
確かに髪型は似ていたが・・職業選択の自由ぐらい与えてやれよ!
厳しいな忍者の世界・・暗いよな昭和の少年漫画。
髪は速攻切って、それ以来ベリーショートのオンザ眉毛なのである。
「それでな、髪の先端だけ縦ロールに巻いて・・」
「髪が柔らかいから巻きやすそうだけど、それにしたってコテとか無いと出来ないけど」
「任せろ」
アニィはドレス作りに使ったハサミを変形させて、何やらコテの様な物を作っているが・・
「あんた、それってパンチパーマに使う大きさなんじゃないの?」
「うえっ、もしかして生前はパンチさんでしたか?御見それしました」
コテとか、パンチ用しか見た事が無かったらしい・・再現失敗だ。
「それ4倍くらいの大きさに拡大したら良いと思います、ピアノの発表会の時にお母さんにやって貰いました、ポニーテールのふんわり毛先・縦ロール」
「うわ、お嬢様・・本物のお嬢様が此処にいる」
「え~別に家は普通でしたよ、私電車通学でしたし。クラスのお金持ちの子は車で送迎されていましたから」
「あ・・あたしも、電車乗り遅れた時は送迎して貰ったもん!『爺ちゃんの軽トラだったけどさ』」
「そんな事どうでも良いからさ、早くポニテにしようぜ。それで、これ飾ってくれ俺様の力作」
布で作られた薔薇はレースで囲まれ、いつの間にか青い鳥の羽とかが添えられていて、確かに綺麗だった・・脳筋の男が作ったとは思えないほどの繊細な出来だった。
・・でも・・何かヤダ。
・・・・なんでだよっ!
会場に行く準備だけで早くも疲れてしまい、前途多難を感じるキャリさんだった。
髪が多くてお悩みのお嬢様方、婆になりますと髪質も柔らかくなりますし、量も少なくなるから大丈夫・・って、遅すぎるわ(´゜д゜`)




