姫様の願い~2
「姫様、今度の土の日に舞踏会が開かれます。
姫様が御輿入れで祖国を旅立つ前に、国中の貴族達が姫様にご挨拶する為に集うのだと伺っております」
堅い感じで慣れない敬語を使うこの女の子、ごく一般的な茶色の髪と目を持つ地味な感じなモブ子ちゃんなのだが、一応貴族の男爵令嬢で姫様の新しい侍女さんなのだった。
不味い飯を運んでいた不忠の侍女達(王妃の推薦で仕えていたそうだ)がリストラで総入れ替えされ、今は中立派の騎士団長の一族に仕えている下級貴族の令嬢達が姫様の御世話に付けられていた。まぁ2人しかいないのだが・・この人数が多いのか少ないのか、その辺は定かでは無い。
全体的に茶色系の色合い子と小麦色の子・・この国の下級貴族には良くある配色なのだそうだ。
令嬢と言っても貧乏貴族の三女と四女なので、自力で結婚相手をGetしなければならない身の上の子達だそうで、王城の中に初めて入れてかなり嬉しいらしい。
ふつうの貧乏貴族達は跡取り息子とか、器量良しでイケそうな娘しか王城に寄越さない。何故ならば、衣装代や各種付け届けなどで、王城に近づくと無暗やたらと金がかかるからだそうだ。鬼門扱いされている所が笑える、誠に世知辛い話である。
ちなみに貧乏貴族の跡取り息子様以下、その他大勢の子供達は商人になったり、医者や神官・魔術師の道に進むほか、王城で侍女や文官・武官としてサラリーマンになるなどして自活の道を探さねばならない。モノクロ魔術師長は高位の貴族の3男らしいので上手く就職できた口なのだろう、まぁ魔術ばかりに傾倒して貴族的ファッションは学ばなかったようだが。
モノトーンも良いよね、無難だし冠婚葬祭何でもOKみたいだし。
さて、新しい侍女ちゃん達、どういう人選なのかは知らないが、人柄も良くて気は利くが貴族的知識は皆無の様だ。お上りさんよろしく王城の中をきゃーきゃー言って歩き回っている、お化け屋敷みたいで面白いそうだ。勿論働く事に何ら抵抗は無く、掃除洗濯とキチンとこなしてくれている。
食事だけは不満が有るようで、実家の田舎の方が野菜も肉も鮮度が良く美味しいらしい。田舎娘は肉の解体や加工も熟すそうで何とも頼もしい限りだ、この話を聞いてからアニィは早く城を出ようと五月蠅いが、姫様の願い<お母上の形見の宝石>を取り戻すまで動けない。騎士団長が暗躍し、城の中をくまなく探してくれているようだが、後宮の中は手を入れ難いから捜査は中々進まない様だ。
勿論、埴輪の<婆&JKコンビ>もチュウ達に乗っかって王城中を探し回ってはいるが、チュウ達は餌探しがメインなので下働き達の元ばかり行きたがり調査は難航している、好意で乗せて貰っている手前あまり我儘も言えない。厨房とか下働きのエリアに有る隠し通路等は良く覚えた二人だった。
まぁそんな感じで、以前より気安い雰囲気の中でnew侍女たちは姫様に馴染んでくれている。彼女達は王城に登城した事も無かったので昔の姫様を知らない、それも今回採用された理由らしかった。
「武闘会!」
「はぃ~お約束~、舞踏会ですぅ~」
新任の侍女達は、姫様は他の王族の皆様から疎遠にされているので独り言が多いと説明を受けていた。初めは驚いたが、今はもう慣れたものだ。
「姫様!王妃様から素敵なドレスが贈られてきました!」
嬉しそうにピカピカの笑顔で報告して来るnew侍女シスターズ、良きかな良きかな、君たちはそのまま素直に汚れなく生き抜いておくれ。
「王妃って、あの牛女かのぉ?そんな気が利く様な御仁には見えなかったけどのぉ」婆は懐疑的だ。
どれどれと、木箱に入れられているドレスとやらを覗くと。
大量の布は見えるが、何処から頭を突っ込んだらいいのか解りかねる形状だ・・なんだかデロリとしていてカーテンみたいに見える。裾を激しく引きずる仕様のようで、これでは城内を雑巾がけをしているのと変わりが無かろう?現にドレスの裾の方は汚れていてボロボロだ。
「何だぁこりゃ、中古品じゃないのか?なんか趣味が悪い色だな、それにえらく薄汚れたビラビラが沢山付いているな」
「ビラビラ言うな!一応レースなんだろ~けどぉ~ユーズド感が半端ないねぇ~。激しくお直ししないとぉ~大きすぎるよぉ、姫様が二人はいりそうだぁ~」
「この時代は染料と言っても自然由来の物しかなかっただろうから、鮮やかな発色を求めるのは無理なんでしょう・・何で染めたのかしらね?くすんだ黒の様な茶色の様な・・血だったりして」
「やめてー」
しかしお直しと言うが、これでは一度縫製を解いて作り直した方が早いかもしれない。ビラビラ・・レースも黄ばんでいて、このままではとてもじゃないが使えない。そこはかとなく面妖な香り・・匂いが漂って来る、あの牛女王妃の匂いか!
服装に興味が無く、ドレスに何の知識も無いアニィでさえ酷いと言う程の代物だ。しかして侍女たちは揃いも揃って貧乏貴族の娘達なので、こんな着古したドレスでも凄い凄いと騒いでいるし、とても相談できる様な感じでは無い。
「今日は何の日ぃ、ふっふ~~」
「? ・・・今日は木の日で御座いますよ姫様」
「舞踏会は?」
「土の日・・明後日で御座いますね」
「直す暇もないじゃん!!]JKが悲鳴を上げる。
そこまで姫様が嫌いなのか、あのクソ王妃!キャリさんも内心で呻いた。
『こんな悪趣味のサイズの合っていないドレスを着せて、大勢の貴族の前で恥をかかすつもりなのか。糞根性悪いな、そんなに姫が憎いのか・・憎いんだろうな。女子的には1:9で負けているものな。1ポイントは王妃と言う肩書だが、それも実家のごり押しで手に入れた空虚なモノなんだろう、噂では王と王妃の中は冷え込んでいるらしいし・・噂スズメ達の言う事だが』
はてさてどうするか、魂会議の開催だ。
魔法使いのお婆さんもいないので、古びたドレスが新品に蘇る事も無い。
店子としては大家の姫が馬鹿にされるのは面白くない、実際馬鹿にされたり中傷を受けるのは自分達魂達だしな。
「JKさん、あなた裁縫は?」
「家庭科は3でしたぁ~、提出物は~すべてぇ~母親が作ってくれていましたぁ。提出日のぉ前日にぃ泣きついていましたからねぇ~、相手に断る余裕を与えないのがぁ~コツですぅ。キャリさんは?」
「・・非常に不本意ながら似たようなモノね」
「ですよねぇ~街に出れば安い既製服がぁ~わんさかぁ有るのにぃ、今更手作りとかぁ~訳わかんない~。道具や小物を集めるのってぁぇ~結構お金がかかるしぃぇ~、既製服の方がぁ~安いしぃ~かっこが良いしぃ~メイドインチャイナでしたけどぉ」
『言い訳なら腐るほど話せる、言い訳させたら日本一と親に言わしめた娘、それが私JK様なのだからな』
「当然の様に出来ない・・と、チーはまだ家庭科は習っていないか」
「家庭科?・・生活の授業は有りますけど」
何それ、私そんなの知らないとキャリさんが騒いでいる、授業の内容も世代間でかなり違う様だ。省庁の名前も変わり、仕事も改善しているのか改悪しているのか解らないが。
「婆ちゃん、婆ちゃんなら裁縫できるだろう」
「目が長禄でなくてのぉ、もう細かいもんは良ぅ見えんのだわ」
「使うのはお姫の目なんだけど・・・」
「ハサミも針と糸も無くて、どうするんじゃ?」
「あー」
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侍女達に赤紫蘇から貰った<便利魔術グッズ>を見せる訳にはいかない、ここは御退場願おう。
ダンスの練習をしたいからと、騎士団から誰か借り受けて来るように侍女達に指令し使いに出した、道に迷うだろうから良い時間稼ぎになる事だろう。年若い侍女達は憧れの騎士団・・そんなにカッコ良いとは思えないが・・に行けると喜んで出発して行った。
その間に大体のデザインを話し合う、この世界のファッションはロミジュリ頃の感じだから、其処から大きく外れなければ大丈夫だろう・・露出度も低いし丁度いい。
御洒落がしたい盛りのJKは結構張り切って意見している、裁縫嫌いで縫えないくせに。キャリさん婆ちゃんは関心無しでスルー、チーは楽しそうに聞いていた。
肝心のダンスの練習はチーと(若くて運動神経が良さげだから)、対貴族用の会話の練習でキャリさんが行く事になった。キャリさんはマナー講座で習得したお嬢様の振舞いを実践して来ると言う。
・・・そうか頑張れ、逃げたなあんた。
程なくして騎士のお迎えが来て、姫様と侍女たちが連れ立って出かけていった。
「お前は行かなくて良いのかよJK」
「だって~ドレスのリメイク~するんでしょう~、どんなデザインに~仕上がるか~気になるじゃない~。アニィに~任せたら~子供の頃に読んだ~~~デレラみたいなドレスに~なるぅ~?」
図星だったからグッと詰まるが、穴雪だって知ってるぞとアニィは不愉快そうに言う。
「何々、その不愉快そうな顔!もしかしてデートで穴雪見たとか?それで、その後振られたとか?悲しみの黒歴史とか」
「速攻で突っ込むな!ってかお前、語尾伸ばさないでも喋れるじゃないか!鬱陶しいからもう語尾伸ばすな!デートじゃない、親戚のガキを押し付けられて映画館に連れて行ってやっただけだ!」
不愉快な思い出は、ガキんちょにやれポップコーンを買えとか、喉が渇いたジュースが飲みたいだとか、我儘放題に強請られた挙句、ズボンにジュースを零されて周囲の者に<お漏らし疑惑>の目を向けられたりした事だった。
その後もおもちゃ屋に連れ込まれて、似合いもしないのに(アニィは気の良い男なので、年少の者に辛い事実は告げない、あと数年もしたら現実の壁にぶち当たるであろうからと)キャラのドレスを買わされたり・・給料日前だったのにだ!
それなのに!あの悪魔の様な我儘なチビ製造責任者・母親である従姉妹の奴は<有難う>の一言の礼もなく
「女慣れしていないあんたには、家の天使ちゃんぐらいが丁度良い練習になったでしょう」とかぬかしやがったのだ。
何が練習だ、俺様はロリでは無い!断じて違う・・つるペタよりは、やや隆起が望ましいけど。あんまり巨乳だと困る様な気がする・・自信のない男にありがちな?・・ごく一般的なささやかな希望を持っている健全な異性感を持つ男なのだ。
これで根に持たない奴は菩薩の心を宿す善人なのだろうが俺は違う!
それ以来極力従姉妹・娘との接触は避けて来た、正月とか隠れていたのにお年玉を毟り取られたがな、アイツらは確かに悪魔だ。
強面を目指しているアニィだが、残念な事に、何故か子供に懐かれ舐められている・・不憫なキャラだったようだ。その従姉妹とガキンチョは彼の葬式で号泣していたのだが、そんな事など異世界に居る現在、知る由も無いし嬉しくもなんともない。
「さて、此方にご用意いたしましたのは、洗浄の魔術具で御座います。赤紫蘇から貰って来たんだ、お姫の衛生状態を凄く心配していたからな・・風呂要らずの優れものらしいぜ」
初日に風呂を用意され入ったが、それは姫様が色々と激しく汚れていたからの特別の処置だったらしい。あちらでも中世ヨーロッパでは、風呂に入る習慣が無かったらしいから、それほど驚くような事でも、格別な意地悪でも無かった様だが・・風呂は大事だ・・。
「はいこれに小汚いお洋服を入れますと・・まぁ!ビックリ驚きの白さに」
「あぁ~、染料まで落ちた?全部白・・と言うか」
「生成りの色じゃな、一応絹糸で出来ていたのか・・虫食いが酷いの」
「まぁ生地は沢山有るから、どうにかなるんじゃね?」
白だとウエディングドレスみたいになるねと、楽しそうなのはJKだけである。
壁土を婆が操って姫様の等身大のトルソーを造り出し(体の中に入っていたからサイズは良く解るらしい)布を被せる、立体裁断とか言うと尤もらしいが、パターンなど作れないので実物に布を当ててダーツを取って要らない部分を取り去り丸みを作って行くしかないのだ。余分な布地はアニィがシャコウの中に入り、家具の取っ手等の金属をハサミに変えて裁断している。縫い付けるのには糸が無いため熱によって生地を溶かし圧着している、イメージは建設現場の溶接に近い。
「ほぉ・・器用なものだのぉ」
結局ドレスはほぼアニィが一人で作った、JKは五月蠅く口だけ出していただけだし、婆は石壁からボタンを造り出し熱心に磨いている、泥団子の様に不思議な光沢が出て来た。
「定番のウェディングドレスって感じより、ビクトリア朝の頃のドレスみたいだね。少し流行の先を行ったかな?露出度は低いけど・・まぁ最初のカーテンよりは十分良いと思うよ」
JKはかなりご機嫌だ、満足のいく出来だったらしい。
姫様の身体には青いひび割れが無数に入っているので肌は晒せない、露出が少なくてすんでちょうど良かった、見た目には特に不自然な感じはないだろう。デザイン的には首も肩もすべて覆われているので、少々息苦しい感じだが、思えば前の世界の服はドレスと言えども開放的だったな。体の線を惜しげもなく晒して、男達を魅了したものだが・・少数のスタイルの良い女性の話だが。
それにしてもレースの糸が太いせいなのか・・なんなのか、レースなのに繊細な感じとはいかず・・漁業で使う網の様な形状が非常に惜しまれる、これで何を絡め捕れと言うのだろうか。
アニィはそれを腰から裾にかけてヒダの様に流しているのが・・なんなのか・・これって斬新なのか?定置網なの?何が掛かるの捕獲するの?
凝り性なアニィは端切れをクルクルと巻いて、まだ薔薇の花なんか作っている、アクセサリーが無いから飾りの代わりなんだそうだ。案外文句を言いながらも尽くす男なのかもしれない、アニィよ・・一番舐められるタイプだとJKは思った。
その頃、ダンスの練習は何故か騎士団の練習場で行われていた。
音楽室とかホールとかの貸出許可が下りなかったらしい、きっと今頃牛母子が付け焼刃とばかりにドスンドスンと足音を響かせて練習しているのだろう。彼女らにまともに足を踏まれたら骨折するかもしれない、足の甲は急所の一つだから・・それが技なのか、なかなか侮れぬな牛母子。
騎士団の練習場は広いのは良いが、下が土なので靴の踵が(ヒール程結構なものじゃない)めり込むのが厄介だ、それでも体重の軽いチー(頭脳)×姫様(体)のコンビは勘も良く上手に踊っている。
『たいしたものね、若いって良いわね』
自分の体が思う様に動かなくなって来たと自覚してからウン年、キャリさんは易々と踊る若い体を羨ましく見ていた。練習場にたむろしている非番の騎士達もウットリとその様子を眺めている、次は自分と踊って欲しいと・・下心が見え見えだ。音楽はビオラの様な楽器をハンサムな騎士が奏でている、高位の貴族出身なのか中々筋が良い。
傍から見ていたら夢の様な光景だ、こんな華やかなイベントは自分の短かった(婆さん比)人生にはなかった。踊ったのは何年くらい前だろう、中坊でオクラホマミキサーを運動会の時に踊った時以来か。
クルクルとパートナーを変えて踊るあのフォークダンスは、好きな子と組むまであともうちょっと!みたいな可愛らしいドキドキが有ったものだ。
目の前で丁度曲が終わって好きだった男子に<セーフ>と言われた、あの日の悲しみと屈辱は今でも忘れてはいないがな。
『私だって、踊りたい訳では無かったんだよ!けっ』
常に学年テストでトップを競い合っていたあの男の子、文武両道でサッカー部のキャプテンで、中坊でありながらリア充だった。
ライバルとして認められている、肩を並べて切磋琢磨しているのだと思っていた、そんな事が嬉しくて勉強を頑張っていたんだっけ。
『馬鹿みたい・・』
ムカついたから偏差値測定テストでは全国1位を取って(同点で1位は沢山いたのだが)奴を突き放してくれたんだわ!
その後、私は大学の付属高校に進学して、奴はサッカー推薦で雪国の名門校に国内留学して行ったんだがな・・高校サッカーでは良い所まで行った様で、テレビのニュースで活躍している姿を見たっけ。その後プロになったと風の噂で聞いたけれど、Jリーグで活躍している話は聞いていない。
『・・・あえて言わせて貰おう、ザマアミロと!』
何がセーフだ、自意識過剰のリア充めが!!
姫様がお相手の騎士に何やら話しかけられて、驚いた様に目を見張り・・花が咲いた様に笑った。
若い美しいお嬢さんが笑うと、本当に花が咲いた様に周囲が輝いて見えるんだなぁ・・古の言い伝えは誠であった。
姫様は決して幸福な人生を過ごせて来た訳ではなさそうだが、自分に無い物を沢山持っている・・ギフトとはよく言ったものだ。生まれながらに持っている人と言うのは確かにいるのだ。
私がこのまま姫様の中の人になったとして、その美しさを褒められても。
それは私が褒められた訳でも何でも無いんだよなぁ、そんな虚しい賞賛は要らない・・。
そう強がっていながらも、イケメン騎士達に囲まれて華やいでいる姫様を見ていると、仄暗い何かが下っ腹の方から湧き出して来るのが抑えられないキャリさんだった。
誰の胸にも宿る黒歴史・・婆の歳になりますとね、当時の関係者の事は「もう亡くなっただろうし~」と無かった事に出来ますよ(/ω\)過ぎた事はさっさと忘れましょう♪




