飯の恨みは大きいぜ
美味しい食事は人類の希望、明日への活力(*´▽`*)
「姫様、これはいったい何の騒ぎですか」
2度目ましての騎士団長様がお出ましだ。
今は去る事・・昨日の話だが、始めましての召喚の時の事だ。
ブチぎれた王様の命令で<中身がアニィ>の姫様を拘束せんと掴み掛かり、恥ずかしくも返り討ちに合い瞬殺されてしまった騎士団長様が顔に青筋たてて喚いている。
ちっ、あんた五月蠅ぇんだよ。
睨みつけてやれば、悔しそうに顔を歪め二歩後ろに下がる、どうやら学習能力は有るらしい過分な警戒を有難う。騎士団長は、どうもこの(アニィ㏌)状態の姫様はお好きではないらしい、可愛い女の子の乱暴口調なんてギャップ萌えしても良いところだと思うのだが?
周囲のモブ騎士達もオロオロしているばかりだ、外見は華奢な姫様なのだから、どうにも手を出しにくいのだろう。
通常ならば触るどころか、目も合わせられない立場のお方なのだから。
お前ら頭が高い!控えおろう!!なんちゃって・・アニィはどうやら調子に乗っている様だ。
何の騒ぎだぁ?見りゃぁ解るだろうよ、お姫様はなぁクッソ拙い冷めたお肉を焼き直しておられるのだ。
「こんな冷えた、味もしないクッソ不味い肉なんか食えるかって~の」
仕方が無くお姫御自らお料理してやっているんだ、各々方申し訳なく思え。
そうブッキラボウに言い放つとアニィはまたまた焼き直した肉をひとつ口に入れた、ムグムグ、堅ぇ肉だなぁ~おい。
「その様な灰掻きを使って、手づかみなんて・・まあ汚い」
とかギャラリー達から文句が聞こえて来る。
うん?この灰掻き自体燃やしてから使っているから、熱で消毒になっているでしょうよ。大丈夫、大丈夫~問題ない。
そうこうしているうちに騒ぎに気が付いたのか、騎士達から少し遅れてモノクロも駆け付けて来た、姫様の姿を見て絶句してアワアワしている。
此方では胡坐の習慣は無いのかな?姫様の細い生足が組まれていて、神秘に包まれているその奥が見えそうで見えない<アニィが加減をして、奴らをからかっているのだが>
・・目線がそこに固定されているぞ、助平野郎共めが。
モノクロは暫く絶句して、酸素の薄い池の鯉の様に口をパクパクさせていたが。
「姫様・・いやキャリ殿?キャリ殿はどうした・・まさか貴様は」
「キャリ殿?あぁキャリさんの事か、あの人此処の不味い飯が食いたくないからって、無理やり俺を起こしたんよ・・代わりに食えってさ。俺達が食わないとお姫の体が弱ってしまうらしいぜ?あんた知ってたか」
怒られるとウザイから、アニィはキャリさんのせいにして誤魔化した。
「食事が不味いだと?」
モノクロは心底不思議そうな顔をして、どう言う事だと侍女たちに目線を向けた、侍女達は居心地が悪そうに俯いている。
「なぁ、このマズ飯が此処の世界の食事の普通なのか?冷えていて味もしねぇし量も少ない。おいモノクロおまえこの国は飯が美味いとか言ってたよな、これ食ってみろよ・・あんたの舌はこの肉が美味く感じるのか」
アニィはまだ焼き直しも味付けもしていない、冷えた肉を皿ごとモノクロに突き付けた。さあ食えと、さあ!さあさあさあ!!
「あっ!」
侍女達が息を飲んで、思わず止めようと手を上げ前に進み出ようとして騎士に阻まれている。
あの女達はマズ飯を提供していた自覚がある様だ、何が姫様の好物だ・・舐めやがってクソが。
この食事に何か・・眉間に不満そうな皺を盛大に寄せて、モノクロは肉の破片を一つ摘まむと口に入れ
「ふぐぅっ!」
咀嚼する事も吐き出す事も出来ずに、口に入れたままカチンコした。
魔術師長は盛大に冷や汗をかきながらも貴族としての対面を保ちつつ、怪訝そうな顔で眺めている騎士団長に、あんたも食べろ道連れだ!とばかりに皿を差し出した。
団長はモノクロより豪快に肉を掴むと、躊躇なく口に放り込んで「カッ!」と目を見開いた。流石に肉体労働系の騎士と言えどもお貴族様だ、一度口に入れたものを吐き出すような無作法はできず・・鵜の様に飲み込む事で始末を付けていた。
一方文系のモノクロは騎士団長の様に飲み込む事も出来ずに、(肉片が大きすぎるから・・かと言って噛むと、何とも言えない生臭さが口に広がるから無理、もう涙目で無理)頬袋を持つ齧歯類の様に頬を膨らませて誤魔化していた、非常に可愛くも無い絵面である。
「これはどう言う事だ、おい其処の侍女説明しろ!」
騎士団長の怒りに、オロオロを通り越して青い顔をした侍女達は震えながらも言い訳を口にする。
「このお食事は王妃様の御指示で、下働きの者の残りをお出しする様にと・・私達は嫌だったのですが、ご命令では仕方なく。でもでも、姫様はこんなお食事でも仕方がないとご理解下さり、貴方達の責任では無いと仰って下さっていました」
自分達には罪は無く、姫様も納得していた事だと保身に走っている。
王国の姫様が残り物の残飯を食べて命を繋いでいたとは、お可哀想を通り越して立派な虐待行為だろう、余りの仕打ちに騎士達も言葉が出ない。
そんなギャラリー達の驚きと困惑を余所に、姫様は焚火で肉をリメイクし食事を続けている・・・モグモグ。
「なぁ、おっさんよぉ。騎士ってのは剣とか振り回す肉体労働系な仕事だよな?そのアンタらがこんな食事を続けていたらどうなると思う、味も塩気も無いマズ飯をずっと食い続けろと強制されていたら・・あんたら身体持つか?」
「いや、如何に我々でも、このような食事を続ければ体調を崩し健康を損ねるだろう」
「だよな?これ・・体を弱らせるって事に関しては、弱い毒を食わせ続けているのと一緒だぜ。体に必要な栄養を与えないんだ、緩慢足る殺人だと言っても間違っちゃいないだろうよ」
「うむ」
「そんな!」
侍女たちが悲鳴を上げる、私達はその様なつもりは無く、命令で仕方がなく従ったまででと言い訳を繰り返している。騎士達に睨まれて怯えながらも、侍女たちは髪を振り乱して首を振って潔白を叫ぶ。
あれ?この世界は いいえ=頷く なのね?
ウンウンと頷いているから、どうも罪を認めている様に見えてしまう。
ややっこしいな、どちらにしてもギルティだ。
「いくら王妃に命令され仕方が無かったとしてもだ、隠れてコッソリ普通の飯ぐらい、いくらでも運べただろうによぉ。あんたらその努力をしたか?面倒臭がって放っておいたんじゃないか。お姫の苦境を知りながら、傍付きの侍女ともあろう者が、率先して自分の主人の命を縮めていただなんて・・大した忠義だなぁおい、見上げたもんだぜ風呂屋の煙突?あんたら王妃と同罪だ・・姫様をお慕いしていたとか、どの口が言うんだかフザけんな馬鹿野郎だ」
「そんな事有りません、私達は誠心誠意姫様にお仕えしたいましたし、お慕いしておりました」
侍女は自分達の落ち度を認めたくないのか、涙ながらに言い募る。
『でた!泣けば良いってモンじゃないでしょうよ。ほんと何処の世界でもいるのよね、涙を使えば誤魔化せると思いこんでいる女って』
キャリさんは女性には何気に厳しい。
キャリさんの声はアニィにも聞こえていたので、おっかない女も十分迷惑なんだけと・・とか思いつつ、はぁ~とウンザリしたように溜息を付いた。
「お前らが慕っていたのは、我儘も言わずに従順で、自分達が扱いやすかった姫様なんだろ?そんなの自分達が仕えるのに都合が良かったご主人様ってなもんじゃないか。大事なご主人様を自分達の都合に無理やり合わさせておいて、私達はお慕いしてました~なんて言葉を使ってくれるなよ、ケッタ糞悪い。忠義と言うのはそんな薄っぺらいモノなのか?心からお姫に忠誠を誓い心配して世話をしていたのなら、こんな体に悪いマズ飯を食わせられるのかってんだ。アンタの身内だったらどうする、食わせるか?親兄弟に食わせられるのか?あんたの良い男にもこの飯を食わせられるのか」
・・・・・・・・・部屋の中に、重苦しい静寂が広がった。
アニィにとって、不味い飯を食わせようとする奴=敵なので容赦が無い。
そんなそんな・・と侍女たちは呟いている。
「そんなにお辛いのでしたら、一言私共に言って下されば」
「出ました!虐めっ子のパシリside理論。
悪事に加担したのは上司のせいなのか?
それで自分は手を汚していないつもりなのか?
お辛いと言え?馬鹿言っちゃいけねぇよ、信用も信頼もしていない相手にそんな事が言えるかよ。
お前らは侍女として仕えているつもりでも、お姫からは認められてなんかいなかったんだろな、王妃の手先・・そのまんまだもんなぁ・・」
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アニィの話を苦い思いで聞いていた者が魂の中にもいた、キャリさんである。
キャリさんは社畜だったので侍女たちの気持ちも理解できた、組織のトップである王妃に逆らう事など恐ろしくてとても出来ないであろうと。
特に筆頭の侍女は姫様と王妃の間に挟まれて、さぞかし苦労して来た事だろう、中間管理職の悲哀か・・何だか私と似たような境遇だね。
『そう、仕事の苦情が直に私の所まで上がって来る事は無かった・・だから上手くチームを動かせていると思っていたし、実績も上がっていて皆だって喜んでいた。
でも・・それならどうして私は車の前に放り投げられたのだろう?
リーダーとして認められていなかった、チームの仲間・一員じゃ無かったのか・・私に一言、相談する気も起きなかったのか・・部長の手先と見られていた?』
どす黒い暗黒の思いが魂を染めていく・・私は悪くない・・私は悪くない・・私は悪くない・・私は悪くない・・。
「まったく、あんたら自分がされて嫌な事は人にもしてはいけませんって、保育園でちゃんと習わなかったのかなぁ?俺様なんかちょっと手が滑って、虐めた気がなくてもモヤシを泣かせたら、母ちゃんの鉄拳制裁が待っていたものだがよぉ」
『自分がされて嫌な事・・』キャリさんの魂に言葉が滲みる。
「モヤシってには綽名でよぉ、色白の線の細い大人しいチビっ子だったんだ。近所のパン屋の跡取り息子でなぁ、俺様に売れ残ったパンをおやつにって良く分けてくれた良い奴だった。小・中は学校が一緒だったから用心棒を買って出たもんだった、おかげでモヤシにチョッカイを掛けるアホはいなかったがな。売れ残りでもアイツの家のパンは美味かったぜ、パンの耳をよぉ、揚げて砂糖をまぶしたのが・・これがまた美味いんだ。高校は違う学校に成っちまって疎遠になったが、俺様が夜遅くモヤシの家の前を通ると、小母さんが声を掛けて来てパンをくれたっけ。飯は食べているか?ちゃんと食べろって言ってさ・・まぁ、飯はそのぐらい大事なもんだって事だ。モヤシの奴元気かな・・調理学校を卒業して実家のパン屋を手伝っていたけど、アイツの作るカツサンドは超美味かったんだよなぁ。ちくしょう・・もう一度食いてぇ」
ギャラリー達はアニィの話は半分も理解できなかったが、彼の食にかける情熱と不満は感じ取っていた。
アニィはまだブツブツと言いながら、残りの肉と萎びた野菜、カチカチのパンをまとめて炒め始めた。脂身の多い肉から良い具合に脂が滲みだして、それなりに良い香りが出て来た。
ギャラリー達に背中を向けて<赤紫蘇>から貰った塩を振る。フ~ンフフ~ン鼻歌なんか出ちゃったりして、基本的に食べていれば機嫌がいい男なのである。
おしっ!・・まぁまぁ食える、我慢できる範囲。モグモグ。
「なぁ、気になったんだけど、お姫が亡くなったってのは・・本当に自死なのか?こんなマズ飯を平気で食わせる様な使用人とか、要するに周りには敵が沢山いたって事だろ?この城には。・・もしかして、お姫って殺されちゃったんじゃねぇの?」
ザワッと狭い室内が鳴動し、騎士達は剣に手を添えている。
「そんな!私達は・・・」
「あんたら姫様が落ちる所を見たってわけ、止めもせずに?」
「いいえいいえ、私達はご就寝の準備の為に此処の部屋を空けていましたから・・準備をしている時に不穏な音が聞こえたので、私一人が部屋に戻り・・バルコニーの窓が開け放たれているのを見たのです。不振に思って外に出て、見回しましたが・・誰もいないので・・下を・・見たら・・」
「フ~ン、でも使用人通路を使えば、誰でもこの部屋まで隠れて来られる訳だし。あんたら誰かに頼まれて手引きでもしたんじゃ無いの」
そんなそんなと、侍女は赤べこの様に首を振っている、ここまでくるとロックのヘドバンだ。明日首が筋肉痛になっていても知らないよ?
警備の不備を匂わされ、カチンときたのか騎士が口をはさんで来た。
「しかし!我々は姫様の部屋の前の扉と使用人通路の扉、両方の警備をしていましたが、その様な不審者は目撃していませんし、異常な物音も聞いてはおりません」
騎士達が断言する。
「ふ~ん、扉はね?じゃぁ窓は?その時は窓は施錠していなかったんだろう。バルコニーからなら部屋に余裕で入れるよね」
侍女が我が意を得たとばかりに叫んだ。
「此処の塔の窓まで上がって来られるのは、魔術師しかおられませんわ!」
皆の目が一斉にモノクロに向く、この人禁忌の実験をしたがっていた。
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数秒間の気まずい沈黙の後、モノクロが突然正気付いた。
「何で!私を犯人扱いしているんですか!私では有りませんよ!私はずっと魔術師の館で実験していましたから、助手もいましたからね、証人になってくれるでしょう、違いますから!」
立て板に水の言い訳って・・かえって怪しい・・・。
日頃の行いのせいか、どうもモノクロには信用が無いみたいだ、マッドサイエンティストの看板を背負っているからだろう・・自業自得の様だ。
「姫様の事故の後、ここの現場で魔力の残滓を探しましたが、そんなもの有りませんでしたよっ!」
叫んだモノクロの口からさっきの肉片が飛び出したが、彼はさりげなくベットの下に蹴りこんで誤魔化した、ベットの下を汚すな。
肉はチュウ達なら食べるかもしれない、たとえモノクロの頬袋から出た物だとしても。
『ふっ・・モノクロの奴キレてやがる・・・』
姫様の関係者達の人間関係に、微妙な波紋が広がったがいい気味だ。
不味いモノを食わされたアニィのちょっとした可愛い嫌がらせだ、精々お互い疑心暗鬼で腹を探り合えばいいのさ。
不味いモノを食わせる奴=すなわち敵!なのだから仕方がない。
騒ぎは延々と続いていたが、五月蠅いのキャリさんの一言で全員が部屋から蹴り出された。
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深夜・・警備の騎士を残して寝静まった丑三つ時。
魂は眠る事も無くミーティングをしていた、今日集めた情報の交換だ。
「それにしてもぉ~、さっきのぉアニィは痛快だったねぇ~。あいつらを~やり込めてぇ~いるのを見てぇ~、少しだけ胸がスッキリしたよぉ~」
「俺様に惚れるなよ火傷するぜ、悪いが俺様は飯美味女好きだ」
「けっ、何をおっしゃるこのオッサンは、オッサンはパスだからぁ~JK的には。青少年保護条例ってぇ~知ってるぅ~?手を出すなよぉ~捕まるよぉ~」
「オッサンゆな・・俺様はまだ前途の有る若者の括りに入ってんの」
穏やかな話し合いの途中に、キャリさんの鋭い指摘が・・
「ねぇアニィ君、あんな長いセリフの知識を何処で覚えて来たの?
あなた一人で考えられた筋書きでは無いでしょう、誰かの入れ知恵が無ければ知り得ない情報も有ったし?それにあの塩やスパイスは何処で手に入れて来たのよ・・隠さないでキリキリ話しなさいな。ホウ・レン・ソウは大事でしょ」
どうやら異世界に行っても、アニィは<ホウレンソウ>と怖い上司からは逃れられないらしい。
休日は投稿をお休みします・・・ストックが少ないので(´Д`)
良い休日をお過ごしくださいませ(*´▽`*)




