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姫様見参  作者: さん☆のりこ
13/30

焚火は危険です

 自習を続けていたら、侍女に夕食の時間だと告げられた。


この世界は1日2食取るのが習慣の様で、昼頃にお茶と少々の軽食が出る。英国のお茶の時間の様だがあれほどは美味しくない、飲み物は紅茶ではないし得体の知れない色のハーブティだ。


 太陽の運行に合わせて生活しているこの世界の人々は、日の上がる前に活動を初める、朝食は早いし(王族で有る姫様はそれでも遅い方だが、多分7時頃?には食べている様に思う)夕食は本当に夕方に振る舞われるのだ。

昼食が軽いから十分お腹は空いてはいるのだが、余り早い時間だと落ち着かない気分だ・・社畜だからな。

その後暗くなれば平民はサッサと就寝する、明かりを灯して夜の時間を楽しめるのは、ホンの一握りの階級の人々でそれが特権なのだろう。

眠くならない魂としては暇でしょうがない、昨晩も他の皆を慮って静かにしてはいたが神経はピリピリと起きていたように感じる、何故だか疲労感も少ないのだが。


『お化けって夜暇だから出て来るのかしら、それとも昼は生きている人間が忙しすぎて、お化けを見つける暇も無いのかしら?』



くだらない事を考えていないと心が折れそうだ、食事ってほんと大事、意識したことは無かったけれど・・ほんと大事。2回言っちゃうほど大事。


『また食事タイムか・・』

キャリさんは心底ウンザリしていた。


朝食は、皆出払っていたから仕方がなく頑張って食べたのだ、砂を噛むような食事を文字通り体験するとは思わなかった。まだ発酵とかの知識が進んでいないのか、イースト菌を使っていないパンは(たぶんパン・石膏ではない)恐ろしくボソボソしつつジャリジャリとして堅かった。


『向こうにもナンとか平べったいパンとかは有ったけど、こんな感じじゃ無かったよね。中央アジアのパンも美味しかったしなぁ。

この前の会社の親睦会は中央アジア料理のレストランでやったのだ、派遣の幹事の女の子が中央アジアの漫画に凝っていたからチョイスしたそうなのだが。・・肉の串焼き美味しかったよなぁ、焼き飯も美味しかった・・何て名前の料理だったっけ。

あの派遣の子は仕事の出来は最悪だったけど、レストランのチョイスとかは面白かったんだよね、生まれながらの幹事って感じで気配りも良かったし・・ほんと職種を間違えていたと思うわ』


夕食は是非他のメンバーに代わって欲しいと切に思う。

自分は決して食いしん坊な人間では無いはずだが、それなりに食事を楽しみにしていたのだと、今更ながらキャリさんは自覚した。


あぁ・・何もかも懐かしい・・。

いつも仕事が押していて終電近くで帰るアラサーの娘の為に、母親はいつも直ぐに食事が取れる様にと<チンすればOKな支度>を整えていてくれていた。

実家の深夜のダイニングで、家族を起こさない様に気遣いながら、1人静かにチン飯していても十分に美味しかった。

お母さんのご飯・・あぁ白いご飯に明太子とか、お豆腐のお味噌汁に青ネギを沢山散らして食べたい。無い物ばかり食べたくなる、好物が何気に庶民的なメニューな所が泣けてくるが。

あれだね?どんなお金持ちの人でも、故郷を遠く離れて食事に不自由すれば食べたくなるのは日常でいただいていたメニューだろうね。

キャビアとかシャンパン、フレンチとかでは無いだろう。

昔TV番組で世界の最果てに住む日本人に会いに行って、朝食<ご飯に味噌汁、焼鮭に納豆とか>を料理人さんが作って食べさせる企画が有ったが、出演していた最果て人の皆さん・・かなりの確率で涙ぐみながら食べていた。


『・・気持ち解るなぁ・・故郷の味って奴』


大げさだと思った、あの日の傲慢な自分を殴ってやりたい気分だ。




気が進まずノロノロとテーブルに向かえば、椅子の足元のクロスに隠れる様に、遮光器土偶が手を振っているのが見えた。いつの間に帰って来たのだろうか、ピョンピョンと跳ねて何気に楽し気だ・・自分は面白くも無い話を延々と聞かされていたと言うのに。

自分で勉強関係の雑事を買って出たと言うのに、理不尽にもキャリさんは腹を立てていた、ジロリと土偶を睨むと。


「チェンジで」

「・・はぃ?」


アニィはチェンジの意味を勘違いした様で、コソコソと立ち去ろうとするのでキャリさんは土偶の首根っこを摘まみ上げると(以外にも柔らかかった、縫いぐるみの様だ)テーブルの上に乗せた。土偶に顔を近づけると。


「わ・た・し・は!食事を代わってって言ってるの!」


チェンジで立ち去るなんて、何を想定していたのよアンタ。

いやそのあの・・と歯切れが悪いアニィだったが、その辺は男の矜持に引っ掛かるようなのか話そうとはしなかった。とっとと変わって!のきつい声に、アニィはあたふたとシャコウから抜け出し姫様のセンターに収まった。キャリさんはまだ姫様の身体の中だが、中心部を外れて隅っこでリラックスモードになっている。


『おっかね~』


思えばアニィの周囲にいた女性は、母親を筆頭におっかない女ばかりだったのだが・・猫のサクラ♀だってアニィを弟扱いしていたし。アニィの怖い女性の範疇に、彼の葬式で号泣していた<仕事関係の女性>が入って居るのは間違えのない事実であろう。



 さてと・・と、アニィが気を取り直してテーブルを眺むれば、代わり映えしないメニューと堅そうな肉が冷えた状態で鎮座ましましている。




姫様はウゥーンと何やら腕組みをして考え込んでいたが、やにわに髪をグシャグシャとかきむしると。


「これはいかん!」


と叫び、やおら立ち上がったと思ったら、座っていた椅子を蹴りの一発でバラバラに破壊した。グワシャッ!!



    *******



「姫様どうぞお止めください」


泣きそうな声で侍女たちが姫様の背後をオロオロと動いている、近づこうとはしない・・怖いからだ。


姫様は厳重に施錠されているはずの窓を何故だか易々と開け放ち、壊した椅子を拾い上げるとバルコニーに出てなんと焚火を始めたのだ。蹴りの一発で粉々に粉砕された椅子はもともと古いもので、艶出しのニスも遠の昔に剥がれ、木の乾燥も進み壊れやすくなっていたと思われるが・・それでも女性の腕力で壊れる様な代物ではない。侍女達には姫様が突然、凄い怪力を発揮した様に見えた事だろう。


しかし、これはちょっとしたコツが有って、わりかし簡単に誰にでもできる技なのである。蹴るのと同時に床に叩きつける事で、さも凄い力で破壊した様に見せかける、一種の脅しのデモンストレーションなのだ。ギャラリーにバレない様に、蹴りで目を引き付けながら同時に叩きつける所が難しいのだが。

アニィは中高時代交友関係が無駄に広かったので、その様なDQRな技も先輩に教えてもらったいた。似たような技でビール瓶を手刀で一刀両断するのが有るが、あれはテコの原理を使って地面で割っているのだ。土の上では出来ないぞ、アスファルトか石畳をお勧めする。


でも良い子は決して真似をしない方が良い・・中学生だったアニィは、意気揚々と家でこの技を披露してゲームソフトをおねだり?しようと考えたところ、親父と爺に鼻で笑われ逆に返り討ちに遭い絞め上げられたと言う黒歴史が有るのだった。家族全員が脳筋の筋肉男だと言う事を失念していたアニィの可愛い失敗だ。爺も未だに現役の鳶職人だからか力が無駄に強いのであった。あの爺さんは死ぬ気など無いのだろうよ・・と近所の人に言わしめている様な羅王なお方なのだ。

アニィが逆らうなど百年早かった・・合掌!




 姫様がその様な狼藉を働いているのを見たことも無かった侍女達は、蹴りと粉砕された椅子を見て、ただただ震えあがっていた。

王妃様と妹姫様はヒステリーを起こしてよくモノに当たっていたが、椅子とか家具など重い家具の破壊は無かったからだ。

精々食器を投げつけるとか、ハンカチを引き裂くぐらいだったから・・それが貴族女性のスタンダードと思っていたのだ。


あぁそれなのに、それなのに・・。

お優しく物静かで、使用人にも辛く当たらない淑女の鏡の姫様が・・。

侍女たちは立ち上る煙が目に沁みるだけではなく悲しみの涙を流していた、バイオレンスには慣れていないらしいお上品な事だ。


 ドレスを捲り上げながら胡坐をかき、モウモウと煙を上げパチパチとはぜる炎に、暖炉の灰掻き(鉄製)に肉を乗せて温め直している姿は女山賊の様に見えなくも無い。

どうやって火を付けたのかは侍女達には見えていなかったが、アニィは姫様が持っていた<魔力>によってミニファイヤーを発動させ火を起こしていた。




「わぁ~焚火だぁ~、懐かしい~黒歴史の再来だぁ~」


JK達が帰って来た、魂だけがフワフワと寄って来た、埴輪の身体はベットの下に隠してある様だ。



 JKは高校受験の前に己の腐った煩悩をお焚き上げして清い精神に回帰しようと、それまで書き溜ていた漫画(親には見せられない画風のもの)を裏庭のドラム缶で焼こうと思い立ったのだそうだ。焚火をする時に注意しなければならないのは風の向きと強さ、それに足元にいざという時の為に使う消火用の水を張ったバケツであろう。まだ中2でほんの子供(中2はそれほど子供では無いと思うが)だったJKは、風向きなど頓着する事も無く、マッチで新聞紙を燃やして火種とし原稿を(自由帳の例のアレ)を破きながらくべて行ったそうだ。


「浄化されろぉ~私の煩悩~、高校にぃ受かりますようにぃ~清純なぁ~女子高生とぉ~成れますようにぃ~」


メラメラと燃える紙片・・その手のアーッが燃えて行く様子は、まさに腐女子の呪いの儀式の様だったと言う(本人談)・・そして彼女の煩悩は火の付いた紙片となり、風に舞い上げられ付近に飛び散り・・裏庭の畑の枯れた雑草に引火したのだった。

・・これはもう、煩悩火祭り大祭である。


「私の叫び声にぃ~お爺ちゃんがぁ~気が付いてぇ~、ホースで水を撒いてぇ~消そうとしてくれてぇ~。まぁ消えたんだけどねぇ~時間はかかったけどぉ・・結果的には焼き畑農業って~のぉ?

拙かったのはさぁ原稿の燃え残りがさぁ、なんかそう言う時に限って少ない濡れ場(嘘だけど、ほとんどそれだけだけど)のシーンが生き残っていてさぁ・・あ・・濡れてるだけに?」


煙が凄かったから町中にさぁ有線放送で緊急警戒が流されるし、息せき切って消防団が駆け付けてくるしで、エライ大騒ぎになってしまったのだと言う。

・・その後、両親と共に近所の家と消防団のメンバーの皆様に、菓子折りと一升瓶を持って謝り行脚したのだが、これぞ正しく黒歴史に他ならない。

高校生になった今でも、近所の小母ちゃんは顔を合わせるたびに話題にされるし・・一生言われ続けるのは間違いのない事だろう、地元は話題が少ないしねぇ。


・・今は彼女の葬儀の事で話題が持ち切りなのだが、幸いな?事かJKは気が付いていなかった・・


因みに、例のヤバい燃えカスは竹箒で集めて、穴を掘って埋めて証拠隠滅を図ったのだ・・その上に小さな石を置いて乙女の煩悩の墓と名付け朝に夕に拝んでいたりした。

その御蔭か何なのか、無事に高校に合格し進学出来た今、煩悩は元気よくムクムクと復活してきて、趣味は更に再生強化され秘密のノートは友人の間を回覧中なのは話した通りだ。


『心の奥に秘めた趣味と言うのは、どんな迫害を受けようと決して消滅しないものなのだ。きっと良い歳を小母さんになっても・・婆になったとしも、隠れて似たような事をしているであろうよ』

JKは確信していた。




「経験からぁ~言わせてもらうとさぁ~煙を上げるとぉ来るよ~」


そう、どんな組織にも非常事態に対処する者が居るものである。

JKの地元では消防団の皆さんだし、此処の世界では<騎士>達がいる。




アニィはコッソリとギャラリーの死角を突いて、焼き肉に何かを振り掛けた・・たちまち香り立つエスニックな刺激、そうカレー粉の様なかぐわしい香りが。


「傭兵をしていた人の本を昔読んだ事が有ったんだけど、臭かったり不味かったりする食い物しかない時には、カレー粉を使うのが一番なんだってさ。匂い消しにはなるし食欲を刺激するからって、結構似てるしイケルだろこの匂い」


「へぇ~、意外だぁ~アニィでもぉ本なんか読むんだ~」


「おまえ何気に失礼な奴だな、飯場なんかにいると楽しみなんか無いからな。俺酒飲まねぇしさ、現場監督とかが置いていく本とかを読むわけよ。エロは無いぞ、面倒が起きると面倒だからな。だから渓流釣りの本とかさ、マタギ列伝とかさ・・サバイバル的な読み物が多い訳」


馬鹿げた無茶をさせない為なのか[山関係のオカルト本]も置かれていたが、アニィは決して読もうとはしなかった。アニィの怖いモノは<怒る女性>と<お化け>である。


・・アニィは今、自分自身がお化けに近い存在である事に気付いていない様だが・・




一口ぱくりと食べて、ウンウンと頷き

「まぁ、これならどうにか食えるか」と呟く。




するとドカドカと大きな足音をさせて、JKの予言通りに、お約束なのかイケメンの騎士達がやって来た。

まぁ~♡とJKのみが喜んでいる、騎士の顔を見比べて✖算を考えている様だ。異世界に飛ばされて直ブレる事のない乙女心、腐女子としては天晴な心意気である。


「姫様、これは一体何の騒ぎです」


鉄板なのか、パツ金青目の色男が声を荒あげて寄って来た。


「あぁ☈ 何か文句あっか」


アニィが凄むが、残念なことに姫様はソプラノの可愛らしいお声の持ち主なので、迫力の方はイマイチの様だった。


むかし昔、家の五右衛門風呂で悪い点数のテストを燃やしたのは婆です(*´ω`*)

燃えカスを粉々にしないと、点数が浮かび上がっているのでご用心。

証拠隠滅は最後まで!(≧▽≦)

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