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姫様見参  作者: さん☆のりこ
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姫様の受難~1

久々の投稿です、よろしくお願いいたします。

 「きゃぁーーー 姫様!!」


 侍女の絹を裂くような悲鳴が、まだ夜が明けきらぬ空に響き渡った。


挿絵(By みてみん)


すわ何事かと慌てて不寝番の騎士達が姫様の部屋の扉を蹴破り雪崩れ込んだが・・肝心の姫様の姿は何処にも見当たらず、ただ侍女が座り込んでいるばかりだ。

侍女が震える手で指さす先には開け放たれたバルコニーが有り、其処には誰の人影も無く静寂が広がっている。

・・恐る恐る下を覗き込んだ騎士達が見たものは。


あらぬ方向に手足や首が折れ曲がった、姫様の哀れな御姿だった。



     *****



『姫様も内心では、この婚姻を嫌がっていたのだろうでよ』


『いくら政略結婚と言えども30歳も年の離れた、狂気の皇帝と噂される男の元へ嫁がせるのは、やはり無理があったのだろう』


『しかもあの皇帝は今まで何度も正妃を迎えているが、みな早世させていると言うではないか・・何をされるものだか解ったものでは無い、姫様が恐れ忌避するのも無理からぬ事だ。しかも後宮で権力を握っているのは、子飼いの側近達に縁がある側妃達ばかりなんだろう?』


『王にしたって、この婚姻で真に和平をと望んでいる訳では無いのだろう?姫が早世すれば帝国に願い事をしやすくなる、それを狙っているとの噂もあるが』


『これでは姫様が世を儚く思うのも無理からぬ事よ』


政務に係っている国の重鎮達は、まことしやかに姫の不幸を噂しあっていた。



 美しく心優しいアトモスヒィア王国の姉姫様は、政略結婚で長い間争いが続いていた敵国から嫁いで来た母を持ち・・その母とも姫が幼い頃に死別してしまっていた。

その死因に後ろ暗い話が有ったかどうかは深い闇の中であり、姫は有力な後ろ盾のいない不遇な境遇のままに、隠される様にこの国で生きて来た。

その王妃亡きあと後妻に収まったこの国の有力な公爵家の令嬢は、姫の後見を引き受ける事を良しとせず、姫を冷遇して来たのは周知の事実である。

立場の弱い姫はいずれ降嫁させられるか、他国に嫁がされるものだとは思われていたが。よりにもよってあの<ブライトネス皇国>とは・・王妃の嫌がらせなのか。

これでは人身御供の様なものだと家臣達は話し合っていた。




しかし、その姉姫が儚くなってしまった以上、この政略結婚を成就させる為には後妻の王妃の産んだ、更に年若い妹姫が狂気の皇帝と婚姻しなければならない。

国家間の約定はすでに効力を持って進められて居るのだから、今更後戻りは出来ないのだ。


 これに反発したのが妹姫の母、公爵家出身の後妻である現王妃だ。


「私の大事な姫を、あのような蛮族の地の狂気の皇帝に娶せる事など有ってたまるものですか!神官を呼びなさい、あの姫の怪我を癒すのです、怪我の跡など修復なさい!ドレスで隠れて見えない場所などどうとでもなるでしようよ!」


神官達は儚く達なった者の癒しなど行なった事は無かったのだが、王妃の命令に逆らう事も出来ず、どうにかこうにか組織を修復し傷口を縫い合わせる事には成功した・・がしかし傷口は酷く盛り上がり、姫の魔力の属性<水>の影響なのか、盛り上がった傷口は水色の線が広がり体中にひび割れが出来たような有様になってしまっていた。こんな状態で果たして婚姻など出来るのだろうかと、癒しを手掛けた神官達の心は重かった。


そんな状態ながら身体は如何にか修復する事は出来たが、姫の魂は既にこの世界の神の御傍に旅立ってしまっている。神の御傍に渡った者を現世に呼び戻す事はご法度だ。・・そのような禁忌に手を染める事は、流石の王や王妃も憚られた。




「王よ、この世界の神の掟に触れる事は出来ませんが、異世界の魂には制限が無いのでは有りませんか?のう、神官長よ・・そうであろう?」


急に話しかけられた神官長は、グッと言葉に詰まった。

確かに此処アトモスヒィア王国には異世界伝説が有り、大昔の魔術師が異世界から無垢な魂を呼び寄せ、この世界の闇を晴らしたと言う話が遺されている。

子供のおとぎ話の様な物で、皆半信半疑で苦笑いする類のお話だ、まともな大人が真面目に話す内容では無い。

神官長は内心呆れながら、


「異世界で今まさに死に直面している様な魂なら、此方に呼び寄せても救ってやった事にはなりますから、感謝する事が有っても文句を言われる筋合いは無いでしょうが・・それが出来ればの話ですが」


そう話した・・あり得ない話をしても無意味だと思いながら。

しかし王妃は


「どう思う魔術師長?」


神殿とはある意味ライバル関係に有り・・犬猿の仲である魔術師に話しかけた。


王妃は当代の魔術師長は禁忌も恐れぬ、魔術に掛けては異様とも思える探求心を持った男だと知っていた・・陰でこっそり援助もして来た間柄なのだ。

全身黒尽くめの装いで、長い前髪で目も見えない不気味な、若いんだか老けているんだか、チョッと見では解らない魔術師長はボソボソと返事を返した。


「神殿の隠し通路の奥に、禁忌の術ばかりを集めた閲覧禁止の封印されし書庫がありました。そこに有った古代魔術の文献には確かに魂の召喚術の記載が有りましたが・・何しろ古い文献で魔法陣も抜けが多く作動するかどうかは未知数です・・」


神官長がギョッとした顔で魔術師長を睨む、神殿は神官たちの領域だ、いつの間に潜り込んだのだこいつは!


・・・そのまま口をつぐむ魔術師長に王妃は・・・


「其方の事だ、再現実験も既に済ませているのであろう?」


「・・動物実験までです・・ネズミの死体にネズミの魂を入れても、本当に入れ替わったかどうかは解りかねるので、小鳥の魂を入れてみましたが失敗しました・・もともと動物に我々の様な明確な魂が有るのかどうか解りませんし、種別を超えて魂が宿れるのか・・まだまだわからない事ばかりです」


「ちょうど良い機会では無いか、被験者はここで横たわっておる。

禁忌の魔術?気にする事は無い、其方が思う通りにやればよい、これは国の為だ。

結婚が決まっていた姫がそれを嫌い、自死したとブライトネス皇国に知れると国家間の災いの素となる、其方はその火種を消す事をなすのだ。褒められはすれども非難される言われはない。すべての咎は、姫として生まれた責任から逃れて、卑怯にも彼方に渡った一の姫に有る」


倫理的にはどうなのか・・王妃の迫力に、そう口を挟める家臣はいなかった。



    *****



 それから10日の時間が流れ、すべての支度は整えられた。


神殿の最奥、魔力の強い神官や魔術師・高位の貴族達だけが入る事が出来ると言う、埃を被った<召喚>の間が300年ぶりに開けられ異世界人の魂を迎えるばかりになっていた。

禁忌を恐れる重鎮たちは、皆青い顔をして緊張しつつ招集に応じている。


魔石で出来ている召喚台の上には複雑な魔法陣が何重にも施され、何人もの魔術師が魔力を練り上げている・・彼らの表情は、己の命をも削り取られている様で鬼気迫る形相だ。実際、彼らの身体からは大量の魔力が召喚台へと強制的に吸い込まれていて、魔力切れを起こし倒れそうな状態になっている。

選ばれし者しかこの場所に立てないのには訳がある、その意味をいま嫌という程味わっている魔術師達だった。


そんな魔石製の召喚台の上に横たえられている一の姫は、僅かばかりに体を覆う薄物一枚の姿で、体中に広がる水色の傷跡も痛々しく見る者の目に哀れを誘っていた。


「何としてもそれを蘇らすのだ!」


目の下に真っ黒な隈を浮かべ、髪を振り乱している初老の男がこの姫の父王だ。片手に持つ王錫で大理石の床をバンバン叩き、不機嫌も露わに周囲に怒鳴り散らしている。


「ブライトネス皇国との不公正な商品取引条約の是正には、政略結婚の駒・・この者の存在が必要不可欠なのだ・・なに、取り敢えず形を整えれば良いぞ。結婚後に慣れない他国で体調を壊す事はよくある事だし、ブライトネス皇国では他国者の王妃が儚くなった前例が沢山有るのだからな。また死んだところで不思議では無い、それの死因に不自然な所でも有れば皇国から詫び代をふんだくってくれるわ。我が国に不利益は無い」


青熊の様にウロウロと歩き回る王にとって、周りに侍る家臣達の表情など、まるで関心が無いのだろう。どの顔も苦い物を飲み込んだように、沈痛な表情をしていると言うのに。

そう、いま巨大な魔石で出来た召喚台の上で静かに眠る、御いたわしい姫様は家臣達に大層愛されていた。

  

       アモスヒィア王国一の美姫として。


緩くうねる銀色の髪は光輝き、またその御声は小鳥の囀りの様に心地よく、小さな顔は今にも咲きそうな白い薔薇の如く儚げな美しさを湛えていて。どんな者も一目姫様を見たら、その愛らしさに心を奪われずにいられない、神から授けられた様な美貌の持ち主だった。

それだけではなく、お顔以上に性格も大変に穏やかでお優しく、どんな身分の者にでも分け隔てなく丁寧に接し、時に王妃や妹姫の横暴から自らを盾にしてまでメイドや下働きの者を守ってくれるような御方だったのだ。


だから・・この場に居合わせた騎士達などは


『どうか、これ以上姫様が苦しまれる事の無い様・・異世界の魂など召喚できませんように。このまま姫様が煩わせられず、安らかな眠りが妨げられない様にお祈り申し上げます』


・・そう願っていた。



・・どのくらい時がたったのか・・

突然、魔法陣がカッと光り、横たわっていた姫の身体がビクッと跳ね上がった。


   バン  バン  ガタガタガタ・・・バアンン・・


何度も何度も、陸に上がった魚の様に飛び跳ね、召喚台に打ち付けられる姫様の姿に、その場にいるものは恐ろしくて息をするのも忘れるほどだ。


=我々は、とんでも無い事をしでかしているのではないか=


最後に身体全体が目も眩むほどにまばゆくカッと光ると、姫は静かに召喚台に横たわったまま動かなくなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



誰も言葉も発する事も出来ず、ただじっと姫を見つめているだけだったが・・突然何処からか風が吹いて来て、ふわりと姫の髪が揺れ、ゆっくりと舞い上がりやがて落ちると・・姫様がその水色の瞳を開いた。

瞳には光が宿り、命が溢れている様に見える。


「おぉ!召喚は成功したようだぞ!」


「姫様!!ご気分は如何で!」


驚き、喜び騒ぐ人々を冷めた目でチラリと見た姫は。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「なんだぁ?このコスプレ爺どもは・・ダセェ・・」








召喚される魂は選べないと言う、どうやら当代の魔術師長のガチャ運は最悪の様だった。



暗かった前作を払拭するコメディを・・と書き始めましたが、婆の昭和の笑いのセンスに、若いお方は付いて来て下さるのだろうか?(´-ω-`)いやはや・・。

婆、頑張ります!12時に土日・祝日休みで投稿の予定です。

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