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〜第2現場〜メンバーもブラック

 私の名前は五十嵐まりか。20歳。職業は声優アイドルです。

 今日は遠く宇都宮のライブイベントを終え、ステージ裏でひとり、ぐたーってなってます。

「おっ、お疲れだね」

 そう言って缶を差し出してくれたのは【グランドリームス】のメンバーの関口いつきだった。

「あ、いつきありがとう」

「ふふ、いいってことよ」

 ごくごく……ぶっ!!

「ナニコレ?」

「宇都宮特製、『餃子のタレ』よ」

「……なんでこんなの差し出したの?」

「いやあ、せっかく宇都宮来たんだし」

「じゃなくて、なんで餃子を食べているわけでもない心身疲れてそうな人に対して缶コーヒー差し出すみたいに差し出したの?」

「……ごめん」

 そう言っていつきは缶コーヒーを飲みながら隣に座った。

「今日のライブもキツかったね」

「この寒い中、脚丸出しの衣装でずっと待たされたし、その後の特典会もそのままコートも来ずにだもんねえ」

「今日の特典会のチェキのポーズ要求がヤバかった」

「ああ、ヤバいのはいつもでしょ」

「いや、肩車で撮った」

「肩車?ああ、素の太ももがファンの頭を触るからヤバいねえ」

「違う」

「え?」

「私が下になって肩車させられたの」

「……なんで?」

「最近レスリングの名コーチが教え子に訴えられた事件があったから、その教え子が昔オリンピックで金メダル取ったときのポーズを再現させて欲しいって言われて」

「うちらのファン、ほんと時事ネタ絡めてチェキ撮るの好きだよねえ」

 いつきは大爆笑する。そして私は、そっと切り出した。

「あのさあいつき、私【グランドリームス】やめようと思って」

「……ふーん。そういえばさあ、右腕にサイコガンを仕込んだ県知事の話なんだけどさあ」

「すんなり流さないで!!けっこう重要な話しようとしてるんだから!!」

「……、うむ」

「私たち、【日本一新人声優グランプリ】受賞して、【グランドリームス】始めてから何年になる?」

「もう2年だねえ。そろそろ2周年ライブやるみたいだし」

「え、そうなの?」

「あれ、まりか知らなかったの」

「うん……。私、メンバーの中でも特に軽んじられている気がする」

「2周年、場所は【ディファ開開あけあけ】だね」

「結構大きいところじゃん。大丈夫なの?」

「1000人入れるって言ってるね」

「そんなに入らないと思うんだけど」

「うん、だからね、チケット売るために色々やってるよ。10枚買ったら私たちと鬼ごっこできる券、20枚買ったら私たちと隠れんぼできる券、30枚買ったら私たちとドロケイできる券がついてくるらしいよ」

「なぜに特典が子どもの遊び?しかも枚数とファンの旨味が全く連動していない」

「ちな50枚でフルーツバスケットよ」

「……はあ、いつき、私やっぱりこの事務所やめるわ。なんか、お金にがめつい……のは商売としてしょうがないかもしれないけど、加えて計画がてきとーでいいかげんなんだよねえ」

 私は深く深く息をついた。

「ねえまりか、この2年間私たちいろいろやってきたよね」

「……うん」

「念願のアニメで声優もできたしさあ」

「【うざサメ】ね」

 【うざサメ】は私立うざサメ高校に通うラクロス部の少女たちが、何気なくも楽しく、珍妙な日常を過ごし、最終的にはグラウンドの真ん中に埋まった謎の石板を巡って古代文明と対立するアニメだった。

「放送はMXだけだったし、しかも5分枠だったけど嬉しかったなあ。お父さんもお母さんも喜んでくれたし」

「そうだねえ、あれは私も嬉しかったなあ」

 はじめて私の声がテレビから聴こえてきたとき、震えるような感動があった。

 テレビアニメから聴こえてくるのは、いつも有名な声優さんの声だったから。

 それが自分の声が聴こえてくるのがむずがゆいよいうな嬉しいような、変な感覚に包まれた。

 正直人生で一番輝いている思い出だ。

 あまりに人気が出なくてBlu-rayが出せず、クラウドファンディングで無理やり出そうとするも、3000円しか集まらずにぽしゃったアニメだったとしてもだ。

「はは、まりか、もうちょっと頑張ってみようよ」

「え?」

「こんなさあ、だめだめな事務所のだめだめなアイドル活動でもね、きっと未来のための何かになってる。私そう思うんだ」

「いつき……」

「よし、頑張って、夜のステージもこなすぞい」

「はは、また特典会もあるぞい」

 私はいつきと笑いあった。


 翌日、関口いつきの【グランドリームス】卒業と、所属事務所スーパードリームエンターテイメントからの退所が発表された。

 理由は「学業に専念します」だった。

「……お前がやめるんかい!!」

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