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〜第1現場〜マネージャーがブラック

 私の名前は五十嵐まりか。20歳。職業は声優アイドルです。

 今日、事務所のマネージャーさんに呼ばれて急きょ事務所にやってきました。

「あの、マネージャーさん。今日のご用件は何でしょう。もしかして新しいお仕事ですか」

「そのもしかしてだよ」

「うわぁ、やったぁ!!で、どんなお仕事なんですか?アニメですか?ゲームですか?あ、朗読劇だと嬉しいです」

「いや、グランドリームスとしてのライブだよ」

「……やっぱりアイドルとしてのライブですかあ」

 【グランドリームス】というのは私が所属している声優アイドルグループのことだ。

「なんでそんなに嫌そうな顔をするんだ?グランドリームスはファンもしっかりついている立派なアイドルグループじゃないか?」

「あのお私、元はといえば、声優志望で、この事務所がやっていた【日本一新人声優グランプリ】に応募して、奨励賞をいただいて声優として事務所に所属することになったんです。だけどフタを開けてみれば突然、同じく【日本一新人声優グランプリ】で賞をとった他のコたちとアイドルグループを組まされて、そのアイドル活動ばっかりで、全然声優としての活動をやらせてもらっていないので」

 少しマネージャーをにらんでみる。

「あぁそのうちね。で、今週末、宇都宮でライブだから?」

「宇都宮?」

「あぁ知らない?宇都宮は栃木の県庁所在地で餃子が有名だよ」

「いや、宇都宮ぐらい高卒の私でも知ってますよ。問題は、何で急にそんなところでライブをやることになっているのかってことです」

「いやあ、宇都宮でサブカルチャーフェスがあるらしくてね。自治体の人が『ノーギャラでも出ます』って広告見て、連絡してくれたんだよ」

「……ちょっと待ってください」

「何?」

「『ノーギャラ』ってどういうことですか?」

「ああ、一円ももらわないってことだよ」

「意味は知ってます。高卒の私でも。問題はその『ノーギャラで出ます』って広告が何なのかってことです!!…………何ですかマネージャーさん、パソコンの画面なんか見せてきて」

 パソコンの画面に映ったのはユーチューブの動画。そこにはグランドリームスの曲のPVが流れていて、メンバーのひとり、佐々木由衣のナレーションが入っていた。

『私たちグランドリームスは、もっと自分たちを高めるため、あらゆるイベント、学園祭、対バンにノーギャラで出演します』

 屈託のない声。

 私は思わずキーボードを拳でぶっ叩いた。

「何言ってんのよ、ユイユイ」

「というわけだから」

「というわけだからじゃないですよ。これもう配信しちゃってるんですか?」

「うん」

「……マジかあ」

「あと、ちょっとだけどMXにもこのCM流れるから」

「お前、なんてことしてくれてんだよ!!ショボいけどあそこも地上波テレビだぞ!!」

 ついマネージャーさんをお前呼ばわりして胸ぐらを掴んでしまった。

「いやあ、五十嵐くん、覆水盆に返らずだよ。もう、流してしまったものは流してしまったんだからさ、大人しく色々なイベントに出よう」

「……」

「いやあ、それにしても宇都宮楽しみだなあ」

「なんでそんなにテンション上がっているんですか。まだ私行くって言ってないんですけど」

「実はさあ、僕の初恋は小学校3年生の頃だったんだけどさあ、そのコがさあ、小学4年生に転校してしまったんだよ。その先がなんと宇都宮なんだよ。もしかしてそのコに会えるかなあって思ってさあ」

「すんごいどうでもいい理由でウキウキしているとこ申し訳ないんですが……とりあえず、週末は無理そうなんです」

「は?なんで?それじゃ僕絶対カヨちゃんに会えないじゃん」

「バイトのシフトが入っているからですよ。給料全くくれないどこぞの事務所のせいで、土日もがっつりシフト入れないと食ってけないんですよ」

「いやあ、そこをなんとかね。ホラ、これで宇都宮の美味しい餃子食べさせてあげるから」

「これ◯将の割引券じゃないですか。しかもこれ期限切れてるし。ああなんかもう……、わかりました。なんとかしますよ。バイトのシフト代わってもらって」

「ありがとう。やっぱり五十嵐くんはイイコだな」

「……」

 私はムカッ腹が立った。

『イイコ』

 この悪徳事務所のマネージャーさんにいつもそう言っていいように使われる。

 逆らってこんなダメダメな事務所は出て行きたいが、それはできない。

 なぜならこんな私をオーディションで拾って声優にしてくれた唯一の事務所だからだ。

 これは、夢に繋がるひとつの道。

 だからどんなに酷い仕打ちをうけても、ここに残りたいと思ってしまう。

「で、その日なんだけど、朝9時に宇都宮の餃子の像の前集合で」

「現地集合ですか!!片道2時間超ある場所なのに!!」

「大丈夫。Suicaが使える駅だから」

「何が大丈夫なのか分かんないよお」

「そしてさあ。五十嵐くん、喜んでほしい。なんと今回、予算が出て、帰りの交通費は支給できることになってるから」

「……行きも支給しろよ!!」

 私の声は事務所中に響いた。

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