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十六夜旅行記  作者: 眼鏡界の足軽
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一日目其の四「第1回被害者集会前編」

pm9:00 ネオン領内



「どうやらしばらく出られないようだな菊川」



「そうね。まさか旅の一日目にこんなことが起きるなんて思わなかったわ」



「ところで何時だっけ?あれ」



「あぁ被害者集会ね。あと2時間後にネオン中央議会よ」



被害者集会。それは事件時現場に現場にいた人全員が集まり、情報提供などにより政府に賠償金を求ようというものだ。正直一般人の俺らが政府に言論で勝つなんて無理だと思うが。



ちなみにネオン中央議会は今とりあえず政府によって強制的に滞在させられているこのホテルから徒歩20分ほどだ。




俺たちの間に言葉は言葉は言葉は少なく、お互いに考え事をしていた。いや、ついさっきの暴動がフラッシュバックしているのかもしれない。目の前であんなに人が死んでいったのはさすがに始めての光景だったからな。俺だって強がっているが本当は怖い。暴動の皮切りは自分の玉砕作戦だったことを思い出すと政府に殺されるんじゃないか…なんて考えてしまい足が震える。




そんな震える俺の足にそっと手を当ててくれたのは菊川だった。



「大丈夫。私たちは被害者なんだから」



「あ、ああそうだよな」



俺の返事は明らかにいつもの1/2ほどしか声が出ていなかった。

この静けさが耐えられず俺はテレビをつけた。どの局に回しても先程の暴行ばかりだった。そしてどこの局も右上に「まもなくアレストロス民主主義共和国大統領、記者会見」のテロップが張られている。いつも思うがなんでこの国はいちいち全ての事件に干渉してくるのだろう。世界協調実現のため。そう言ってしまえば話は終わるがなにか俺には裏があるような気がする。コメンテーターのいかつい男性が「正義がねーんだよ!帝国派は!」と熱弁している途中、唐突に画面が切り替わる。画面の中心には例の国の大統領、ナチスフラノが立っている。どうやら記者会見の始まりらしい。







「全世界のみなさん、こんばんわ。今日は世界にとって許しがたい一日となってしまいました。デスアランド連邦ネオンに置いてまた人と人が争ってしまったのです。まず我々の使命はネオン政権と国とで戦争状態に突入させないことです。そして何よりデスアランド連邦中央統治政府には被害者でありながら、勇気をもって愚直な衛兵に立ち向かった彼らに多額の賠償金を払うべきである。そう、例えば一人あたり1000万円。さらに親族や友人が亡くなった人。重症を負った人にはそれぞれ上乗せして1000万円ずつ払っていくべきだろう」




言ってくれるねえ、ナチスフラノ。俺は傷も負ってねーし親族もなくなっちゃいねえ。それでも1000万円も貰えるなんてなかなか域な計らいだ。もちろん彼の目的はその先。つまり賠償金支払いによる国家財政の崩壊だろう。勿論、俺たちにはどうでもいいことだが。会見は続く。



「そこで我々は数十分前、デスアランド連邦代表と電話会談を行い2日後の11月18日に水都アクアにて裁判を行うことになった。勿論議題は賠償金を払うか否か。裁判官には中立である王国派から立ててもらうことになった。そのため我々は先程、デスアランド連邦ネオンに我が国の国家弁護士を向かわせた。必ず勝利する。会見は以上だ」



短くもインパクトのある発言だった。7大国の1つの財政を破綻させると同じく7大国の1つが発表したのだから、今頃株式市場は大混乱に陥っているのだろう。




「すごい会見だったわね、雫くん」



「ああそうだな」



でも、何かがおかしい…。アレストロスが本当にたった数千人のために国家弁護士を派遣するのか?絶対にもう一歩踏み進んだ所に本当の目的があるはずだ…。




「どうしたの?雫くん?気難しい顔して」



「いやちょっと考え事」



「やっぱりあなたも引っ掛かってるの?」



菊川の声が急に変わる。目付きも心なしか変わったようだ。



「これまでアレストロスが国家弁護士を他国のために使ったのはミヤンマ独立テロやアルゴ1,5テロなんかの国家がらみのテロ事件のみ。そしてこの後ミヤンマ帝国とアルゴ連邦は賠償金の支払いによる財政破綻で崩壊している」



「そうか!それだ。アレストロスの目的はデスアランド連邦の財政破綻だ」



「つまり私たちは利用されるのね」



「全く世界協調派なんてよく言ったもんだぜ、協調反対は全部崩すすもりのくせにな」



「ええ、まぁこれでアレストロスが本気で来ることが分かったわね。それなら心強い限りだわ」



それから数分後俺たちはホテルを出て、ネオン中央議会に向かった。ホテルを出てすぐの路面電車に乗り20分ほどでついた。



━━━━━被害者集会━━━━━


「同胞よ呼び掛けに応じてくれてありがとう!私の名前はサテネ!被害者集会の会長を仮にやらしてもらっている!」



議会中央に躍り出たのはサテネという高身長の若者だった。特徴としてはとにかく声がデカイ。この議会にマイクなしで声を届かせるなんて化け物だ。



「みんなもニュースは見たと思うがアレストロスの国家弁護士が味方してくれることになった!そこでだ!今回の集会では出来る限りの情報提供及び裁判席に座る4人を決める!」



ここで席を立ち上がったのは白髭を抱えた老人だ。なかなか筋肉があり良い体をしている。



「まさかだとか思うがあんた、自分とその隣に立っているお友だちと副会長、そしてあと二人!なんて言わねーよな?」



「僕たちは代表だ!僕らが出た方が良いに決まってる」



「てめえは大バカ野郎だな。4人だ、たった4人に現場にいただけの無意味なのを2人も入れてどうすんだよ。まず最初に襲撃を受けたやつらから1人。それから衛兵が反逆者だと気付いて攻撃し始めた連中から1人。で、戦地の全線で戦った奴から1人。後は同情を誘うために親族も恋人が多数亡くなったやつだろ」




「しかし…それでは統率が」



「あんまなめてんじゃねえよガキ。ここにいるのは自らの意思で国家に抗おうとしたやつらだ。てめえみたいな奴の指揮がなくても一丸となることはできるんだよ」



「ふ、ふざけるな!じゃあ投票だ!民主主義に行こうじゃないか」



明らかにサテネは動揺していた。声も依然として大きいが震えている。副会長の黄緑の髪をしたチビがマイクを使い、語りかける



「で、ではサテネ及び僕の会長・副会長解任に賛成の方はご起立を」




結果は火を見るより明らかだった。全会一致で賛成。二人を除く全員が勢いよくたった。ここで老人が声を張り上げる。



「これが現実だ!ガキ!」



黄緑の髪をしたチビは最前列の席へと退き、サテネはすぐ後ろの入場してきた通路を通り走ってその場から逃げてしまった。

会場に歓声が立ち上がる中、30代ほどの1人の男が席を立ち上がり、議会の中心に走ってきた。その男は黄緑の髪をしたチビが使っていたマイクを手に取ると



「先程の老人を被害者集会、議長にすることに賛成の方は起立をお願いいたします」



と、声を張り上げた。結果はもちろん全会一致での賛成だった。ちなみにその後老人…否、議長のご好意によってこのおじさんが副議長に任命された。



議長の名前はガラナミ。鍛冶屋を営んでおり、デスアランド連邦「水都アクア」に住んでいる生産屋の友人に会いに行く所だったそうだ。



副議長の名前はブルドック。サッカーのデスアランド連邦リーグ内の「アルデンロファイターズ」のキャプテンで、ネオンの料亭で記者と会談中に事件が起き、巻き込まれた。




どちらも人柄が良さそうで集会は和やか、かつ、俊敏に進んでいき2時間ほどで情報収集は終わった。そしてとうとう裁判席に座る4人を決めるときが来た。

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