一日目其の三「早くも崩れ始める旅」
ネサンの町…それは昔読んだ物語に出ていた世界観そのものだ。見渡す限りの光景色。これでもデスアランド連邦五大都市に指定されていないのだから驚きだ。駅もこれまでとは桁違いの広さだ。地下3階から地上5階まで超大型ショッピングセンターといっても間違ってはいない。
「どうするの、この駅で済ます?どこか行く?」
「補給時間は一時間、残念ながら遠出する時間はなさそうだ。」
「それもそうね。この駅のできるだけ高い階で景色でも眺めながら食事を頂きましょ」
「あぁそうだな」
駅の5階はフードエリアとなっていておよそ30店舗が立ち並んでいた。なになに…和食にレストランに、中華店にお好み焼き。なんでもありと言ったところか
「どうする菊川?どこか食べたい店あるか?」
「個人的にはこのネオンパスタなんか食べてみたいけどあなたに合わせるわ」
「素直じゃないな~。じゃ、ネオンパスタに行くか」
「まあ、あなたがそう言うなら行きましょ」
全くこいつは天性のツンデラだな。横から見ると菊川は意外と美人だ。こんな子と旅できるなんて俺は幸福者だなぁ…
おっと失礼醜いところを見せてしまったな。なんて売れる本の主人公たちは言うんだよな。恥ずかしさなんて言葉、頭の中にないんだろうな
ネオンパスタは名前通りパスタ専門店だった。俺はミートパスタ、菊川はサラダパスタを頼んだ。こういうところが意外と女子だ。二人の間に会話はなく食事は淡々と進んだ。
そして食後━━━━
「どーすんだ?菊川。まだ列車入れるようになるまで30分もあるせ」
「そうね、少しだけど町でも見に行きましょうか。ちょうどそろそろ衛兵交代式が行われるはずよ」
「おお、あのテレビでよくやるやつか」
「あれはクロノス帝国東都のものだけどね」
「あぁクロノス帝国か」
クロノス帝国と聞いて良いことは思い浮かばない。この国は現在世界協調を目指して活動するG7内のアレストロス民主主義国を始めとするとする世界協調派と冷戦関係にある帝国主義国だ。この帝国派の下にはデスアランド連邦も属している。彼らはこれまでに大型爆弾実験や人体実験を強行し、世界的に孤立している。この二国はいずれも軍事大国のため、世界平和協定の破棄を目指しているという噂もよく聞く。とにかく俺はこれから先も好きにはなれないだろう。
「昨日もクロノス帝国は大規模軍事演習を国境近くで行ったようよ」
「全くやめてほしいな。俺たちの門出の日にそんなことするなんてな」
「なんだかそのうち戦争が起きる気がするわ」
「そりゃねーだろ。G7内で世界平和協定の破棄の票を過半数は集められねーよ」
「そんなこと分からないわよ。今は保持派だけど王政派の2ヵ国が寝返ればそれで過半数よ」
「王政派か…たしかに戦争好きの王になっちまえばそんなこともあるかもな。でも王政派の2ヵ国は決して仲が良い訳じゃないんだから両国が同時に寝返るのは考えにくいだろ」
「まぁそれもそうね。しばらく心配は要らないでしょうけど」
「今は新大陸の進出戦争で一杯だからな」
この新大陸はおよそ20年前に見つかった大陸で多数のモンスターが生息している。平和の時代が訪れた10年前から本格的に調査が行われ、今は戦争が協定によりできないため、ここの調査で派閥通しは争っている。
目の前の大門が突如として開き、50人ほどの衛兵が行進してきた。ようやく交代式スタートか。改めてみるとどうしても彼らが人には見えない。衛兵たちは機械的に直進と右折・左折を繰り返し、最後は2メートルにもなる槍を突き上げそれを回してフィナーレを遂げた。全くかっこいいが今は町の防衛よりこっちが本業になってるんだろうな…なんて思う。
「美しいわね、ライトアップともあっていて」
「そうだな…」
俺たちが駅に戻ろうとした瞬間だった…
ここから俺たちの旅は崩れ始める。まだ一日目なのに
「うわぁぁぁ!なんだあいつら!人を無差別に刺してるぞ!逃げろーー!」
遠くから一般人の悲鳴が聞こえる。まさか…そんなありえない。今は平和の時代だ。他国が攻めてくるなんてありえないし、あったとしてもこの大国デスアランド連邦を攻めれる国なんて限られている。と、なればテロ集団…
民衆がパニックになり、四方八方に走り戸惑う。
「雫くん、私たちも早く逃げましょ」
おっ、初めて名前で呼んだな!なん
て思っている時間は残念ながらない
「ああ急ごう」
人混みの中を俺たちは走り抜けた。殺戮集団がどこまで迫っているのかは分からないが悲鳴が近づいているのは確かだ。そしてそれは終末の悲鳴だ。一体誰がこんなことを…
俺は人混みの中で菊川にばれないように刀を腰に帯刀させる。もちろん俺一人であの集団をどうにか出来るだなんて思っていないが。ところであの50名にも及ぶ衛兵たちは何をしているんだ。彼らが奮戦してればこんなに易々と進撃はされていないはずだ。
20メートル程先に衛兵が立ち、「こっちだ!こっちに走れ!」と右手を回しながら誘導している。
「なんとか避難場所が確保されたようね」
「いや待ってくれ…何かおかしいと思わないか」
衛兵が奮戦してるとは思えない進軍スピード、そもそもこの内陸部の町に殺戮集団が簡単に侵入できるはずがない。そして極めつけはあれだ。右に誘導しているが右側のストリートを進むと先程の広場に戻っていくはず。俺は迷わずに刀を抜いた
「まて!その衛兵、殺戮集団のグルだ!考えてみろ衛兵の手招きがないと殺戮集団が侵入することは出来なかったはずだ!」
「え、ええ雫くん?」
抜刀したまま衛兵に突進し刀は衛兵の腹を貫いた。
「き、貴様、何をしている?」
衛兵は大槍を上に振り、そのまま下に突き下ろそうとしている。あぁ俺の人生もここまでか…ありがとう俺。楽しかったよ俺。静かに目を閉じる。
1,2,3…あれ死んでない?恐る恐る目を開けると目の前では民衆たちが衛兵を押し倒し、ボコボコにしていた。衛兵の顔は血だらけですでに虫の域だ。
「坊主!教えてくれてありがとな。考えてみればそりゃそうだ。あいつら殺戮集団とグルだったんだ!」
「衛兵の槍をうばえー!」
「武器庫に押し入れー!」
「やつらに復讐をー!」
そこからは血みどろの戦いだった。もはや民衆に逃げるという考えはなく殺戮集団に挑み続けた。もちろん死者は大量に出た。それでもネオンの民たちは自分の町を自分たちで守り抜いた。この事件は後に「ネオン英雄反逆」と呼ばれると同時にこの後平和の時代が終わりを告げるのだった。
ちなみにウンディーネ鉄道は事件勃発直後に町を走り去り、俺たちはネオンの町に滞在する他なかった。
ちなみにこの事件の直後、デスアランド連邦中央統治政府は世界に向けて会見を行う。内容を要約して言えば「ネオン王国衛兵部隊は重大な裏切りを起こした。決して許せないことだ。よって我々はネオン王国衛兵隊長を死刑にする」という内容のものだった。まるで決まっていたような台詞だったがそんな証拠はないため、反論なんて出来ない。夜中にアレストロス民主主義共和国がデスアランド連邦に抗議文を発表し、政府の政府の関与の否定を否定した上に民衆に多額の賠償金を渡すことを請求するもデスアランド連邦はこれを無視した。
世界協調派と帝国派の対立はさらに鮮明になっていった。