一日目其の二「果てなく続く鉄道」
老人の作る野菜料理は予想以上に旨かった。産地に近いこの地の料理なんだから勝手に野菜やソテーなんかで新鮮さで攻めてくると思ったが、実際はスープに始まり、炊き込みご飯、野菜揚げ、煮物、大根ステーキと、なかなか調理を加えたものだった。
特に大根ステーキは斬新な味だった。甘辛ソースに3日間漬け込んだ大根は石焼きされることで、その味が凝縮。本当の肉にも引きを取らない和風ステーキだった。何より驚いたのはその食感。肉の食感とはまるで違うのだが、口に入れた瞬間とろけ、今まで食べた中で断トツ1位のステーキだった。これで1000円なんだから笑ってしまう。もちろん全ての料理込みでだ。
老人に礼を言い、俺たちは再び駅に戻りウンディーネ鉄道に乗り先を目指すことにした。店を出る直前、老人は俺たちに1つずつ紙を渡した。その紙には「冒険者登録票」と書いてあった。これは、冒険者が冒険者ギルドに渡すことである程度の装備やアウトレット用具を支給してもらえるチケットだ。何でも老人も昔、妻と冒険に出ようとした矢先妻が亡くなり、使い余していたそうだ。
「おい、菊川この近くに冒険者ギルドはないのか?」
「こんな田舎にあるわけないでしょう。ある程度の都市にしかないわよ」
「じゃあウンディーネ鉄道の路線上である町はあるか?」
「私が来たことあるのはこの町までだから知らないわよ。でも乗り換え出来る駅がある町まで行けば何かしら冒険者ギルドがある町まで行けるんじゃない?」
「ああ、そうだな。少し調べてみるか」
少ない所持品の1つの電子通信機を取り出した。これは液晶型の電話で仲間との通信の他、自分にあったデータを買うことで、カメラになり、メモ帳になり、辞書になる。俺の場合はこの辞書に当たる「search media」というデータを買っている。このデータは様々なことを調べることが出来る代物で、この運営会社「ARRK」に情報を売ることもできる。初期ダウンロード費が1万円、あとは月1000円となかなか高めだが一冊5,6万円かかる辞書を買うのに比べたらましだ。それにこの1000円は情報を売ることによって帳消しにすることもできる。中には大量に情報を売り、生計をたてる情報屋なんかも存在する。
これによるとウンディーネ鉄道はこう記載されていた。
━━━━━━━━ウンディーネ鉄道━━━━━━━
ロッドランド・エーデルランド・デスアランド連邦の3つの国を通る鉄道。デスアランド連邦に所属する23の国を1つに繋ぐために今から40年ほど前に作られたアクアス鉄道に10年前に世界大戦が終結したことでロッドランド、エーデルランドが追加され、成立した。総距離は2000キロにものぼり世界的に有名である。この鉄道を元にしてG7(世界主要七政権)の1つのデスアランド連邦政府が成り立っている。現在この列車が結ぶ主要な駅としては、ロッドランド首都「ロッドシティー」、エーデルランド首都「エーデルタウン」、デスアランド連邦西首都「水都アクア」、デスアランド連邦中央首都「中都アラン」らデスアランド連邦東都「セキレイズ」などがあげられる。
「って感じだな。どうする?どこ行く菊川?」
「ここからまたエーデルランドの方に戻るのもあれだしこのままデスアランド連邦を横断しましょうか」
「って言ったって今日中に横断しきるのは無理だぜ。いけて水都アクアまでだろ」
「次の便に乗ればアクアにはなんとか日が変わるまでにはつけそうね」
ちなみにこの「search media」は菊川の電子通信機にもダウンロードされているようだ。
「到着予定時刻11時38分か。それ逃すと次のは1時回るしちょっと体に悪いな。なんとか次のに乗ろう」
「ええ、出発まであと15分、少し急ぎましょ」
そう言うと菊川は走り始めた。大きなリュックを背負っている少女とは思えない速さだ。彼女の家もおそらくどこかの富豪の家だろうが一体何を習えばこんなに運動神経が良くなるのだろう。
俺は軽くとばし菊川をおいかける。
「おい菊川、こんなにとばさなくても間に合うだろう。このペースは食後の体に良くないぜ」
「甚だしい嘘を休み休みにしなさい。体に良くないわりには汗もかいていないし、息も上がっていない。随分と余裕そうね」
「昔から汗はかかない体質なんだ」
俺は苦し紛れの嘘をついたが、彼女はこちらを一瞬振り向いたあとさらにスピードをあげた。
結果俺たちは行き15分かかった道をわずか5分で走り抜いてしまった。俺も菊川も水分を取りながら列車を待った。
間もなくして駅内アナウンスが響き列車がホームにかけこんできた。昼間のウンディーネ鉄道は先程とはうってかわり人で一杯だった。二人ともそれぞれ席をとるのでいっぱいで離ればなれになった。全く降りる駅を決めてなければ冒険のパートナーが出来てから僅か1000秒ほどで別れることになるとこだった。俺の隣に座るのは乗ってからずっと居眠りを続けるおばあさんで周りを見ても暇潰しなんかなさそうだったのでしょうがなく電子通信機の「search media」で水都アクアのことでも調べることにした。
━━━━━━━━━水都アクア━━━━━━━━━
旧ラッセルウォーターランドの首都。約50年前のデスアランド大合併の際にラッセルウォーターランドが連邦に吸収され、今はデスアランド連邦5大都の1つである西都に指定されている。この都はすぐ近くにあるラッセル湖の水を大量に引き、町中に水路が引かれ、中央に世界一大きな噴水がたてられている。ちなみにその幻想景色より世界的に有名な観光地になっており、現在はデスアランド連邦中央統治政府より多額の支援を受けている。
ふむ。なかなか有名な都市なようだな…ってこんなことを聞きたいんじゃない!宿!飯!これがあるかどうかだぜ。
あわてて俺は検索欄「水都アクア」に@飯・宿を付け足す。2,3時間ほど調べていると値段、品質ともに良い宿は見つかったが飯は量が多過ぎてどの店を選べばいいのか検討もつかない。
しょうがない…菊川にも相談してみるか。もちろん列車内で通話なんか出来ないため、メールデータ「friend talking」を使い問いかける。
dear菊川夏希
水都アクアについて調べたところ宿は良いのが見つかったが飯屋が多過ぎて分からない。調べるの手伝ってくれないか?
from赤崎雫
すると数分後菊川から「到着は11時よ!コンビニくらいしか空いていないわ」と返って来た。考えてみれはそれはそうか。少しがっかりしていると次は向こうから連絡がきた。
dear赤崎雫
それよりも宿はあなたの言うところではなくここの方がいいわ。あなたの言うところはろくな口コミがなかったわよ
from菊川夏希
なるほど…でもそこも朝飯がまずいって口コミが多数あったぞ。俺はそれをメールに書き、菊川に返信する。
そんな宿決め戦争が小一時間ほど続いたのち結局「please hotel」もいうリゾートホテルに泊まることになった。飯も部屋も☆4評価のなかなか良いところだ。勿論値段はそれなりにするが。そして気づけば朝から動き続けていた俺は寝てしまっていた。
うぁぁ。カシャッカシャッ
なんだ騒がしいな。歓声とシャッター音に起こされた俺は乗客が外を眺めている様子を見てとりあえず窓を見てみる。丘の下をみんな見ている。俺も目線を下に向ける。
「すげぇ…」
思わず感嘆をもらしてしまった。ここは光の都と呼ばれる「ネサン」という町だ。俺の記憶が正しければここはデスアランド連邦随一の鉱物の産地でその鉱物故に町には金があり、こうして大規模なライトアップをしているはずだ。
とにかく車窓には遠くに見える山の麓まで光の網が張り巡らされ、テレビや絵本でしか見れないような景色を見ることが出来た。列車は丘を下り「ネサン」の町に入っていく。
ピンポンパンポーン
「まもなくウンディーネ鉄道は燃料補給のためネサンの町で1時間休憩を取らせて頂きます。」
あぁそうだこんな補給休憩もあったな。腹が減ってきたし菊川に連絡してこの町で食事を取るか。そう思った直後に菊川からメールが来た。どうやら向こうもその気らしい…