再開
次話の投稿は少し遅くなるかもしれません。
それから木田とは一度も会っていない。メアドも交換していたけど一切やりとりしていない。そりゃあんな別れ方したら当然か。木田が言っていた、これが最後とかいうのに本当になってしまったと今更ながら思った。
「あー。明日は朝からバイトかー」
田中は金曜になると決まってこの言葉を言う。
「辞めちゃえば」
という自分のこの言葉も田中のこの発言に対して毎回使ってる。
「そうは言っても金が無くなるし…」
といって嫌々ながら続けている田中は少し大人だなと思う。自分は足りなくなれば親から貰っているあたり、まだまだ子供だなと思った。
「あ、ちょっと忘れ物。」
そう言って新道が今きた道を走って戻って行ったので
「了解。先に歩いてる。」
と告げて田中と2人で歩き出した。
この大学は広く、未だ学内を出れていない。ちなみに、大学から最寄りの駅まではスクールバスというものがあるので、それで移動している。後ろから新道の声がかかったので2人して振り返る。
「早かったな」
と言うと、
「全力疾走したからな。」
と言いつつ自分の忘れた実験で使う冊子を見せてきた。これが無いと実験が受けられず、その分の実験を休みの日にやることになる。
「危ない忘れ物だったな。」
と言い、前に向き直った時、目の前にいた人物を視界に捉えて体が一瞬にして止まった。向こうも動きを止めてこちらを見つめている。木田だった。
「木田…」
他に何かを言おうにもうまく言葉が出てこない。木田は何も言わず、再び動き出した。そして自分の横を通り過ぎて、自分と反対の方向に歩いて行く。
「知り合い?」
自分の様子を見た田中が聞いてきた。
だが自分は
「ん、別に」
さして知らない感じで答えた。木田からは構わないでほしいといったようなオーラみたいなものを感じた。自分も他の2人と木田とは反対方向にまた歩き出す。
「身体固まってたぞ」
新道が笑いながら言ってきた。新道にも見られていたらしい。
「いや、ちょっと攣った。」
何を言っているのか自分でも分からない。
「向こうの人も止まってなかった?」
今度は田中が聞いてきた。木田のことを言っているらしい。
「攣ったんじゃね」
うん、絶対違うね。
「攣るの流行ってるのか?」
と田中が笑いながら聞いてきたが、新道もまだ笑っている。
「最近よく攣るんだよな。」
自分も笑いながらの返答になってしまう。
「それはお気の毒に」
田中がまったく気の毒に思ってなさそうな顔で言った。というか、もう3人とも笑っている。それからしばらく笑いながら歩いていたので、スクールバスの列に着く頃には腹が痛くなっていた。列に並びながら木田が歩いて行った方を見る。距離があるが、まだ歩いているのが分かった。何故木田がこの大学にきているのかなど、疑問は他にも沢山あったけれど、せっかく会ったので少し話したかった。でも、木田はきっと話したくない。その気持ちは分かる。卒業式の日にあんなことを言ったのだから。言われた自分もそりゃびっくりしたけど、引いたりはしなかった。むしろ、大切に思ってくれているんだなと感じ取り、少し嬉しくなった。ただ、木田の自分に対しての感情は八割型、恋愛感情だろうと思う。でも、一応木田に確かめたい。そう思うのは違っていてほしいと思うからだろう。でもきっと恋愛感情。でも違うかもしれない。いや、きっとそう。でも、もしかしたら…
「おーい久瀬。乗らないのかー」
そんな事ばかりを頭の中で考えていたら、新道の声でいつの間にかバスの前まで来ていたことに気付いた。自分も乗ろうと足を上げたが、こんな考え事ばかりは御免だし、木田とは一度しっかり話をしたいと思った。なので、
「すまん、俺も忘れ物してたわ。2人は先に帰ってくれ」
と言って木田が歩いている方に走って行った。少しして、後ろの方から
「分かったー。じゃーなー。」
という新道の声が聞こえた。
「木田!」
木田の少し後ろまで来て名前を呼ぶ。
木田は驚いた顔でこちらに振り返る。そんな木田に自分はあの時の木田の台詞を使う。
「お茶でもしてかね」
そう言った自分に木田は
「パクリかよ」
と笑って答えた。