表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公平に異世界転生する  作者: 黒猫
幼年期
9/10

Sランク冒険者スリー

試したいことと言っても大したことじゃない。Sランク冒険者襲来の際、気になったことがあったのだ。あの時フェアはあんなに近くにいたにも関わらず、コルトンから漏れ出す魔力に気がつくことができなかった。異変には気づいていたようだがーーそれが魔力であることに気がついたのかは分からないが、コルトンからだと気がついていなかったのは確実だ。

実を言うとフェアが生まれてから、俺はろくに魔法の練習ができていない。今のように庭で別々になって、というのは度々あったが、その都度フェアに気づかれやしないかとビクビクして練習に身が入らないでいる。

だが、今回の件でフェアの魔力を感知する能力はかなり低いことがわかった。これなら少しぐらい奔放に魔力を使ってみても気づかれないかもしれないーー最悪、バレたらバレたでそこまで困りもしないというのが正直な思いだ。

そもそも同じ転生者がいると、フェアが動きづらくなるのではとの考えから隠していた。しかし、コルトンの件で、フェアは俺にすら及ばないとなるとーーもうバラしてしまって、俺が効率のいい魔力の扱い方を教えたほうがいいんじゃなかろうか……ーーフェアの魔力の多さではそれはただの時間の無駄か?

いや。

考えているだけじゃ埒があかない。

今、フェアは庭の裏側にいる。つまり、例え魔力に気づいたとしても、ここまで来るには一分、二分はかかる。さっきは颯爽と手を振り立ち去ったかのように描写したが、あくまでフェアは颯爽と手を振り這い去ったに過ぎない。

まずは微量な魔力で試してみよう。


「……耳風」


盗み聞きの風魔法を唱え、発動させる。フェアに触発されて始めたが、声に出すと自分が何の魔法を使っているか、より強く意識することができていい感じだ。


「フレイム!」


フェアの声が聞こえてくる。懸命に練習しているようで何よりだ。

今の所気づかれる様子はないな。


「フレイム〜……ハァ……」


所詮は零歳児。懸命に練習して間もなく、疲れて息切れしたようだ。それで休めばいいのに、フェアはそれから独り言を呟き始めた。趣味が悪いと自覚しつつ、盗み聞きを止める気は全くない。


「あれがSランク冒険者ぁ?Sランクホストに改名すりゃいんじゃねーの。マジさぁ、強くてイケメンとかただのリア充じゃねーかよ。主人公かお前はよー」


そのうちフェアもなるだろうに……。


「まぁ、主人公っつったら、にーさんが一番それっぽいんだけどなー……」


は……!?


「イケメンっ……かどうかは知らんけど、父さんの顔的に悪くはないだろー?あと頭クッソいいし。俺が一歳の時なんだっけなぁ、たぶんクソ漏らしてピーピー言ってたし」


同じく。なんだか申し訳ない気持ちになってくるな……ーーこれ、何度目だ?


「あと、決定的なのが髪だな。赤い髪とかただの主人公。父さんの遺伝か……」


む。俺はそれを聞き、照れ気味に自分の赤い髪を触った。アルと同じ色だ。真っ赤な紅。

この髪色が色とりどりな世界で、親子だと示す同じ髪色は少し複雑で、嬉しい。


「俺は神に前世の顔ベースにって頼んだからなぁ。遺伝とか関係ねーわ。ぶっちゃけ普通に頼まないほうがイケメンだったよなぁ〜!」


深いため息を吐くフェア。全く魔法に気がつく気配がない。


「微風」


風を起こすだけの魔法だが、それでも魔力によるものに変わりない。俺はそれをフェアの周りに起こした。


「つか、フレイム飽きたわ……。中級使いてーなぁ……」


全く気にも止められていない。

今度はフェア自身に微かに吹きかけてみるーーフェアはフレイムカッター!と呟き始めた。何も発生していないようだ。


「くっ……」


もっと強く吹きかける。ついにフェアは微かに反応した。


「今日はやけに風が……不穏な風だぜ……!」


大丈夫か?俺は弟の頭が心配になった。

体に魔力がまとわりつけば、さすがに気がつくだろう。もはや気がつかれることが目的になっているが……。


「瞳風」


空気中に魔力を発散し、支配下におく。そしてフェアの位置や体の動作を探るーーフェアは両手と片足を上げて、


「ゴットフェニックス!」


と叫んでいた。

うちの弟が狂った……。

どうなっているんだ。何をやっても気がつかないぞ!?


「凝気!」


空気の手!


「風刃!」

「微雷!」


ーー鈍いにもほどがある!!


風刃に至ってはすぐそばの木を切り裂いたんだぞ!?

フェア、お前はずっと出もしない技の名前と意味のわからんポーズを展覧しているだけか!?


「はぁ……」


ため息をつき、冷静を取り戻す。よく考えたら、丁度いいじゃないか。これで毎日フェアに怯える必要がなくなったわけだから。不安になる察知能力だが、そこに俺の存在意義があるのかもしれないな。


さて、久しぶりにステータス板でも開くとするか。正直最近はあまり進展を感じなかったもので、開く意欲が湧かなかったのだ。あと、フェアに見られたらという恐怖が常に付きまとっていたのもある。


「ステータスオープン」


フェアにかけている耳風と瞳風は解除せずに、呪文を唱える。

何ヶ月ぶりになる透き通った不思議な板と対面する。

---------------------------------------------------------------------------

Name フェイガーデン・デルタ

Age 1

Level 1

MP 560/600

HP 20/20

Skill 風魔法 Level 3 雷魔法Level 3

SpecialSkill ⁇

---------------------------------------------------------------------------

思った以上に伸びていない。魔力が50増え、雷魔法のレベルが一上がっただけだ。いや、体力も若干だが増えている。それ以外は代わり映えなしか。

わかっていたことだ。

それよりも、魔力が40減っているのは、先ほどフェアに試したせいだろうが、もしかして魔法に消費する魔力は全部同じなのか?


「微風」


最初にフェアに試したように、感じるかどうかもわからない風を吹かせる。魔力は2減った。

その次はもう少し強く、強くと試していくうちに、同じ微風でも使う風の量で減る魔力が違うことがわかった。


「凝気」


空気の手ーー厳密には空気の塊だがーーこれもまた、使う風の量で魔力が変わるようだ。

もしかしたらと思い、検証してみると、つまり使う風の量で魔力が決まり、それが凝縮されていようといなかろうと関係ないらしい。

凝縮するのは技術に含まれるということでいいらしい。

ふむ、では少量の風をうまく使うのが強くなる近道か?


「……あれ」


ふと、ステータス板をみると、さっきより魔力が1減っていた。

なんで?

わけがわからず首を捻っていると、不意に耳にフェアの声が入ってきた。もちろん直にではなく、耳風で……そういえば、最近は耳風を常時発動させるくせがついていた。このくらいならフェアも気がつかないだろうと思って、実際全くの杞憂なわけだが。

耳風を常時発動させても魔力は減っていなかった。ということは、いま発動させている瞳風が原因か?

瞳風の発動を止め、そのまま時間の通過を待つ。


「……」


何も起こらなかった。いや、減ってはいないがそもそも減少の頻度もわからないわけで。

瞳風を再び発動。大まかにカウントを取る。フェアはなぜか右腕を抑えていた。怪我をしたのだろうか、血の匂いはしないが……。あとで聞くわけにもいかないし、さりげなくチラっとみよう。

おおよそ三分が経過し、魔力が1減った。つまり、瞳風の発動には三分で1必要?

いや、まだ耳風が残っているか。

不安に思いながら解除すると、三分後、魔力が1回復した。

つまり耳風、瞳風それぞれが魔力が三分に1必要で、魔力は大体三分に1回復すると。

そこまで考察し、なんてお得なんだ!と思った直後、風の量で魔力は変わる法則を思い出した。若干がっかりしつつ、距離でどれだけ消費魔力が変わるのか、検証を続けた。





「二人とも〜、そろそろ中入ってね〜」

一時間かそこらしたら母さんが呼びに来たので、検証をやめて室内に入る。フェアがなかなか来ないので、呼びに行ったらなぜか片目を抑えて呻いていた。


「フェ、フェア!?どうしたの、怪我でもした!?」


腕はまだしも、目はシャレにならない。


「ううぇえ!?な、なんでにーさん……あ、あああ、ご飯だね!今いくよ!」

「じゃなくて、目は……」

「目、目に……あれ、スズメバチが入っちゃって……」

「馬鹿ーー!」

「間違えた!フェア間違えた!てんとう虫!」

「えええ……」


俺は引き気味にフェアを眺めた。

無事なら構わないんだが……目にてんとう虫が入って大丈夫なのか?

いくらなんでもありえないが、じゃないとあの世にも奇妙なポーズは説明がつかないしな……フェアは俺が思ったより底がしれないのかもしれない。


「まあ、母さんがそろそろ家に入ってって」

「はーい」


そういえば腕は。

……何もない。ただの赤ん坊のふっくらとした真っ白い腕だ。

最近弟の行動がイマイチ理解できないのが悩みの種だ。


寝室にて、【魔法学】を取り出すべく、フェアがベッドの下に潜り込んだ。【魔法学】は戻ってきたが、フェアの綺麗だった服は失われた。いや、今思えばそんな綺麗でもなかったな、庭で散々遊んだんだから。いや、言い訳はしない申し訳ありません。


「ごめんって、フェア……」

「次からはにーさんが取ってよね」

「もうしません……」


フェアの責めるような目が痛い。俺は小さくなりながら、次はもっと手前に置こう、と反省した。


しばらく手の労働を繰り返すと、母さんからご飯の合図があった。ここからでもわかる悪臭……いや、香ばしい匂い。今日は豪勢だな……。


「……」

「……」

「……」

「……?」


恒例のショウタイム。母さんは嬉しそうに首を傾げていた。

イノシシの干し肉のバジルとブルーベリー和え、胡椒とミルク味の野うさぎの肉揚げ。これに加え、蛇のぶつ切りスープ、か……。


「……すごく、美味しそうだね」

「ああ……」

「うん……」

「え、やだなぁ。そんな褒めても何も出ないよ?」


嬉しそうな母さんに、俺はそれしか言えなかった。


いつもながらとてもオイシイ晩餐を終え、就寝の準備をする。今日は銭湯のない日だ。

うちも裕福なわけではないので、一週間に二回か三回行くだけだ。アルは返り血を浴びている時も合わせて。と言っても、返り血を浴びるほど追い詰められるのは稀で、フェアが生まれる前一度見たときは、母熊に遭遇したらしい。

さて。

どうしたものかーーコルトンのあの言葉は俺に向けられたと考えていいはずだ。問題は行くかどうか、だ。向こうが殺す気なら俺は確実に死ぬが、さすがに呼び出しといてそれはない……はず。

やろうと思えばこの村の住民全員殺せるような実力の持ち主だ。夜中こっそりーーなんてことはない……だろう。


「んん〜……」

「どしたのー?」

「なんでもないよ」


ダメだ、どうしても語尾が曖昧になる。一体、どうしたものか。


「寝るよー」

「あ、そうだねっ……」


消灯。

一旦、身の安全は置いていこう。よく考えると、指定された時間や場所があやふや過ぎる。

まず深夜というのが何時かもわからん。

この世界の時間概念は地球と全く同様だがーーさすがに、偶然というわけでもあるまい。神の言っていた、俺より前にきた転生者が持ち込んだと睨んでいるーー一口に深夜と言っても、時間の範囲は広大だ。十二時か、二時か、それとも他の時間か。

それよりもさらにわからないのが森だ。どこにあるのかぐらいは知っているが、行ったこともない、森というのだからそれなりに広い、待ち合わせには最も向かない場所だ。

そもそもコルトンはなぜ俺にこんなことを言ったのか。やはり、魔力に気づいているそぶりを見せたのは痛感の誤りだ。Sランク冒険者だから、転生者に接したこともあるだろうし……。

なんてこった……。

と、心の中で唸っていると、ポツリと母さんが言葉をこぼした。


「……ねえ、アルくん。気にすること……ないんだよ」

「気にしてねーよ……」


……?


「それならいいけどぉ……別に、コルトンさんと対決するとき全然役に立たなかったからって、落ち込むことないよ?」

「落ち込ませてるのはお前だぁ……」


くすくすと笑って、母さんはアルに擦り寄った。そのまま顔をアルの首筋に埋める。

……いや、待って、待って。


「ねー」

「んー……」


母さんは甘えた声を出して、アルの鎖骨に人差し指を這わせた。アルはくすぐったそうに身を……いや、待て、やめてくれ。

小さい頃もあったが、あの頃はまだ赤ん坊だったんだ。体力がそれなりについて、夜も頑張れば起きれるようになってしまった。この意識がクリアな状態で両親の睦みあいなんて冗談じゃない。

かといって無理矢理中断も良くないな……ーー耳風。

音が消える。思った通り、音を伝えることもできれば、遮断することもできるようだ。

これで目さえ瞑っておけば万事解決だな!


ーーーー『深夜、森で待っていますよ』


そうだったな……。

密かにため息を吐く。

そろそろ九時か?

さすがにまだいないだろうーー俺は、母さんたちに聞こえないように、瞳風、と呟いた。

これで森を探れるか、試してみようじゃないか。

まず、見てもいないところに魔法を発動させることができるのかというとーー結果から言うと、できた。

魔法で作った風は作った俺に伝わり、それによっていつもの村の通り道を通っているような感覚を覚えた。

もちろん、無音かつ無色の世界だがーー。


「!」


いた……!

森の入り口のすぐそばに、コルトンが立っている!

本当に来ているのか……!

コルトンは木に寄りかかって、腕組みしていた。顔を俯かせていて、髪が風で揺れている。

俺は動悸が速くなるのを努めて抑えながら、決断を迷っていた。行くか、行かないかの二択だ。

本当に待たれているとなると、行かなくてはいけないという日本人気質が首をもたげるが、こればかりは……。

自分の優柔不断を恨みながら、頭を発熱させていた時。


「……?」


コルトンが、口を動かしている。誰かと話しているのか?まさか、仲間か?

だとしたら、なんとしてでも聞かなくてはならない。惜しいが、瞳風は解除、耳風発動。二箇所同時発動はきついが、絶対にこっち(防音)は外さない。

さて、なんて言っているのやら。


「ハァ……私、これでもSランク冒険者ですよ。こそこそと様子を伺うぐらいなら、早くおいでなさい。それとも、出にくい理由でも?」


……思ったより大分バレている!!



もしかしたら……作者の文はくどいんでしょうか。

来週は大分忙しいので、更新はできないかもしれません。申し訳ありません。

それと、600アクセス突破しました。ありがとうございます。

ステータスにレベルがないのに気がつきました。追加しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ