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公平に異世界転生する  作者: 黒猫
幼年期
6/10

勉強します

院長に弟子入りして、一週間がたった。と言っても、この一週間は誇張なく、本当に文字の勉強しかしなかった。


「では、今日も昨日の続きじゃ」

「はい」


この世界の文字はアルファベットに似ている。違うのは、階級によって使う文字が違うという点だけだ。農民や百姓が使うのは普遍文字で、貴族や王族が使うのは修飾文字。普遍文字はほぼアルファベットと変わらない。Aの横棒が張り出しているとか、Qは串刺しになっているとか、そういった違いしかない。その一方、修飾文字はアルファベットの面影すら危うい。なんと表現したらいいのか……こう、なんかくるくるしている。正直俺にはどれも同じにしか見えない。


「ダメじゃ、ダメじゃ。それが修飾文字かえ?」

「……くっ」

「阿呆、もっとくるくるさせるのじゃ!」

「……わからないです、師匠」


弟子入りしたわけだから、院長のことは師匠と呼んでいる。

文法は英語とほぼ同じで、特に習得するのに問題はなかった。普遍文字はアルファベットとの違いさえ覚えれば簡単だったので、すでに母さんよりも綺麗にーー全く難易度はないわけだがーー書くこともできる。

現在苦戦しているのはいかにして修飾文字を識別するかだ。

王族や貴族専用とはいえ、覚えて損はない。というより、将来俺がこれを使う可能性は高いだろうと思う。

なぜなら、俺は冒険者になるつもりだからだ。

冒険者ーーこの間までトレジャーハンターか、と思っていた職業はだが、なんと元冒険者である院長によると、全く違うらしい。

街や都会には冒険ギルド、というものがあって、そこで冒険者たちは仕事を斡旋してもらうのだとか。

その仕事というのが、薬草採取や魔物討伐など多種多様にあるらしいーー魔物討伐か。やはり転生者でなくとも魔物は倒せるのか。

言い方は悪いが、強くなるのには最も手っ取り早い職業だ。それに魔物討伐をすることでレベルも上がる。一石二鳥だ。

魔王を倒すのには最適な職業だ。フェアもそう考える可能性が高いので、そうなった時は精一杯サポートするつもりだ。

そして冒険者にはランクというものが存在し、それはSランクからFランクまである。S、A、B、C、D、E、Fの順で高く、Sランクは国王とすら対等に話せるという。さすがにSランクになれるとは思ってないが、まだ開花していない固有スキルや一歳の時点でかなり魔力があることを考慮すると、いい線までは行くはずだーーいや、行かないとわがままを言った神に申し訳が立たないな?


「ほれほれ、手が遅れてるぞえ?」

「はい、申し訳ありません」


おっと、いけない。

俺は余念を排除して、修飾文字各百回の書取りに専念するのだった。





「では、また明日のう」

「はい、今日もありがとうございました」


診療所の戸口から手を振る院長に一礼し、帰り道に着く。帰り道と言っても歩いて五分かからないが、なんとこの間ステータス板を見たら、HPが10から11に増えていた。俺は歩くことによって体力が増えたという解釈をしている。こんな幼いうちから筋肉トレーニングをするのは良くないだろうから、適当に暇なときに跳ねたり歩いたり走ったりしている。

家に向かう途中、何人か村人が話しかけてきた。外出をしないがためあまり姿など知られていなかった俺だが、最近は院長と診療所で勉強することで知られてきている。物珍しさからか、わりと可愛がられている。


「フェイ、勉強会の帰りかい?こんな小さいのにえらいねえ」

「う……ううんー……偉くない……かなー」

「そんなことないさー、ほら、イチゴあげるよ」


おばさんは収穫したばかりのイチゴを二つぶくれた。


「あ、ありがとう!……ます」

「ます?」

「あ、いや、なんでもない……よ!じゃあ、僕帰り……るね!」


俺はそそくさとその場を離れた。

そう、俺は迷っていた。いったい、おばさんたちには使ったほうがいいのか、よくないのか……敬語を。

院長は師匠の立場だから当然敬語で、家族の場合、上級階級でもあるまいし敬語は普通に考えて使わないーー可愛げを出すために幼い口調を使ってはいる。

だがその中間に当たるおばさんたちはどうすればいいのだろうか。

敬語を使えば距離があると思われそうで、でも使わなかったとして不愉快になる人もきっと存在する。

うええ……こんなくだらないことで悩んでいる場合じゃないんだがな……。


「フェアー、兄さんが帰ったぞ」

「あら、フェイくんおかえりー」

「かえいー」

「……母さん」


また待ち構えていたのか。

母さんはどうしてもこの三百メートル弱が心配でたまらないらしい。

心配してくれるのは嬉しいが、このくらいの距離だったら問題はないと思われる。

そもそも診療所に行くとき送るのもやめてほしいんだ。帰る時は時間がまちまちだから迎えに来ないが、行く時はどんなに断ってもついていくと聞いてくれない。

俺が心配をかけているという状況に気持ち悪さが止まらないな……。

母さんに逆らって迷惑はかけたくないが……強くなるためには時間を持て余せない。


「だってー、フェイくんまだ一歳だよ?危ないよぉ」

「大丈夫だって、母さん」

「むう」


母さんは俺の頬に手を伸ばして引っ張った。


「むにー」

「いひゃい……」


母さんに解放された後は、フェアに文字を伝授した。


「わかる、フェア?Aはこう……」


二日前、普遍文字をだいたい学び終えた後からフェアに教えてきた。普遍文字はもう完璧だろう。見てすぐに書くことができたから、フェアの中身は少なくとも中学生以上か。

もう完璧と言ってもフェアは目立つことを恐れてか、時々わざと間違える。俺というわりと賢目に見える一歳児もいるし、そこまでしなくてもいい気はする。

いや、そもそも羊皮紙にインクが書きにくいのか。この世界では紙、と言っても地球にようになめらかなものではなくゴワゴワしたものだが、それはとても高価らしい。羊皮紙ですら他の生活用品に比べて割高で、うちに一枚もないのが納得というものだ。

それがどうして診療所には大量にあったのか俺にもわからないが……毎日いくらでも持って帰っていいと言われているので助かっている。


「おお、フェア、上手だよー」

「やぁーい」


修飾文字はまだまだマスターしていないし、教えられるのはだいぶ後になりそうだ。

俺はため息をついて、羊皮紙に修飾文字の書き取りを開始した。

しばらく、部屋には羽根ペンのカリ……という音だけが聞こえていた。母さんは台所で野菜の枝取りだ。

なんども試みたことだが、修飾文字のくるくる具合に法則が見えない……。まるで誰かの適当な落書きのようだ。

いや、それはアルファベットも同じか……。アルファベットも最初は見たことのない字だったのだ。暗記するしかないな……。

ん?


「にー、にー、ほー」

「本……?僕に読んでほしいの?」

「うん!」


いつの間に手に取ったのか、フェアは一冊の本を持っていた。普遍文字で書かれていた。


「……【魔法学】?」


普遍文字を学ぶ前からなんだろうかと気になっていたが……こんな題名だったのか。猛烈に役に立ちそうだな。フェアも転生者として気になったのだろう。


「これを読みたいんだね、わかった。でも、フェアはもう自分でも読めるよね?」

「あ、あ〜!」


今更赤ん坊のふりをするフェア。いや、もう色々遅い……。俺もフェアも一歳と零歳の知能じゃないのはもう誤魔化し切れないぞ……。

フェアも俺をおかしいと思わないのか?あまり幼児と接触したことはない俺でも、一歳でこんなはっきりとした受け答えができる幼児はいないと思う……。それとももうばれてるとか……?


「まあ、フェアじゃこの本は重いよね」

「あい!」


俺でも重いのは変わらないがな。見た所五百ページはありそうだ。

居間の食卓の周りの俺やフェア用の高い椅子は、自分で登れても、フェアはのせられないため、寝室のベッドに座って読むことにした。

本を開くと、最初に作者の言葉があった。作者の名前はサイタニア・クレーデン。


「えー、まず最初に言っておく?この本は猿でもわかるように作った。諸君がこれを猿に読み聞かせようが、ガキに教育しようが構わないが、一つ忠告しよう」


口悪いな……。子供の教育にむしろ悪いんじゃないか?


「決して馬鹿が読むことだけは許さない。なぜなら、それは大惨事に繋がりかねないからである。魔法は神の恩恵であると同時に身を滅ぼす諸刃の剣でもある。才能ありしものはそれを栄光へと繋げ、馬鹿は己を滅ぼす。魔法を使いたければ、自分の奥深くに眠っているその力を理解しなくてはいけない。私は自分の力を過信し、身を滅ぼした者を幾度も目にした。悪党が読むのは構わない、傲慢な金持ちが読むのも構わない。だが、誰が読もうと、馬鹿が読むことだけは許さない……」


……猿は馬鹿じゃないんだろうか。


「つまり、猿でもわかることをわからない愚か者じゃ魔法使いにはなれないってことだね」

「あーい」

「続きは、まず……基本知識だね」


目次の最初にそれを見つけ、早速目を通す。


「魔法は、四つの元素を元としている。それは風、水、火、土、の四つで、それに付属して雷や氷などの魔法を使う者も存在する。そして、この世には精霊というものが存在し、大気に漂っている。それぞれが何かの属性を持っていて、魔法使いは己の魔力のみを使って、精霊を通して魔法を使うか、精霊の魔力を借りて、直接魔法を使うかの二種類に分かれている。後者が使う魔法は精霊魔法と呼ばれ、精霊の魔力を借りられるため、通常よりも強力な魔法が使えるが、限られた少数にしか使えないため精霊魔法の使い手は大変貴重である」


つまり精霊が魔力を魔法に変換してくれるんだな。俺が今まで魔法が使えたのも精霊がいたからなのか……。

だが四つの元素かーーこれは科学の知識を持っている地球人だからわかることだが……俺は風魔法を使って空気を操ることができる。

空気の中には水滴が漂っているというのは常識だ。俺はそれを操ることはできないのか?

それに火は燃えるのに酸素が必要だし……魔法で無から出しているにしても、もしかしたら酸素を消したら燃えなくなったりしないだろうか……。


「この世界には四つの種族があるが、獣族、人族、魔族、精霊族の中でも、精霊族が精霊魔法を最も得意としている。次に獣族、人族、魔族の順だ。精霊は自然の力であるため、自然に近ければ近いほどその力を発揮できる。精霊族は大精霊の子孫と言われ、ドワーフやエルフもその内である。精霊と対話することすらできる才能の持ち主も時々現れるそうだ。獣族は獣の子孫、人とほぼ変わらない姿の者もいれば、獣そのものの者もいる。彼らは自然を愛し、獣を友とする。魔族は魔王を王とする邪悪な種族で、先ほどは得意とする順で書いたが、正確には奴らは全く精霊魔法を使えない。精霊は神の眷属であるため、魔神の眷属である魔族は忌み嫌われているのだ」


神!?魔神!?

なんだそれは……いきなり出てきたぞ。神にはあったので存在は疑わないが、魔神ってなんだ……。

魔王を王とする魔族が眷属だと?とんだ黒幕じゃないか。


「ちなみに神に魔神は、どんなに頭の螺子が飛んでいても知っているはずなので省略する……はあ!?」

「かえお!」

「全くとんだ基本知識だ……えーっと、彼らが得意とするのは闇魔法である。精霊が持っている元素は四種だけなので、つまり奴らは全く精霊の力を借りず、直接魔力を魔法に変換しているわけだ。それができるのは四つの種族の中で最も魔力が多い魔族だけだ。次に多いのは精霊族で、その次に人族、最後に獣族だ。獣族は精霊魔法が二番目に得意と言ったが、それはあくまで使いやすさの問題だ。実際には精霊魔法が使えるほど魔力の多い者なんて一握りにも満たない。ただ、身体能力で言えば四つの種族中随一で、魔族すら叶わない。逆に精霊族が、特にエルフ族が最低で、体力や耐久力がクソである」


……人間はすべてにおいて平均だなぁ。


「ここまでが魔法を使う上での基本知識だ。というより、常識だ。わからないところがあったら、さっさとこの本を閉じて絵本でも読むがいい……だってさ」

「つづきー」

「ん、わかった。次は、初級魔法だって」


次のページを開くと、変な円が印刷してあった。中に妙な文字が書いてある。普遍文字でも、修飾文字でもない。


「なんだこれ……これは、初級魔法の魔方陣である。魔法というのは唱えても発現させることもできるが、書いて発現させることもできる。もちろん唱えた方が手っ取り早いが、魔方陣に比べて威力が落ちるのは否めない。さらに、初心者は呪文では魔法を使えない場合が多く、それに比べて魔方陣は魔力を込めるだけで確実に魔法を使うことができる。そのため、見習い魔法使いは、まず魔方陣を書けることができるようになるのが課題だ。ちなみにこれは、火魔法の初級魔法、フレイム。間違えると暴走して爆発すると忠告しておこう……だってさ」

「え、ええ〜……」


フェアはドン引きしていた。俺もした。

爆発するのか……。


「これは呪文唱えた方が安全じゃない?呪文は……フレイムだって。そのまんまだね……」

「うん……」


フレイムと唱えたら火が出るのか……?いや、俺は火魔法のスキルがなかったから微妙だな。


「ふ、ふれいる……う?」


フェアは呂律の回らない口で呪文を唱えた。

うわ、馬鹿!

俺は慌ててフェアの口を塞いだ。勢いをつけすぎて、フェアがベッドにひっくり返って頭をぶつけた。

うわ、慌てすぎた……。魔方陣よりは安全かもしれないものの、それでも危険なことに変わりない。

特にフェアはまだはっきりと発音できてないからなおさらだ。


「フェア、ダメだよ!危ないだろ?」

「にーのが、きけんだともう……」

「ごめんなさい!」


確かにベッドじゃなかったら危険だったな。まだ赤ん坊だとつい忘れてしまう。


「とにかく、魔方陣は間違えると暴走して爆発するんだよ?呪文も間違えたら暴走して、破裂するかも……。フェアはまだはっきりと発音できてないだろ」

「……くっ」


フェアは苦悶の表情でベッドを小さな拳で叩いた。気のせいかなんだかわざとらしい。


「……じゃあ、僕が試してみるよ」

「!」


そんなに悔しいなら、と代わりを申し出てみたら、フェアは目を見開いてブンブンと首を振り始めた。


「だめだ!」


自分もやろうとしたじゃないか……。

ん、だとすると俺が転生者だというのはまだばれていないのか。いくら賢くとも一歳児が魔法を使おうとするのは、常識を持っていれば止めようとするだろう。


「まあ、魔法なんてまだ僕たちには早かったんだよ。まずは大きくならないとね」


フェアはコクコクと頷いた。

と、その時、居間から母さんの呼びかけが聞こえた。


「フェイくーん、フェアくーん、ご飯だよー」

「はーい、今行くねー」

「あいあーい」


返事をして、ベッドから降りる。フェアはまだ歩けないから、這い這いするその後をついて行く。当たり前だが俺もフェイを抱っこできないから……。


居間に入ると、アルがすでにいた。食卓についている。


「フェイー、フェアー、俺がいなくて寂しかったかー?」

「え?……うん」

「ごあんー」

「えっ……アルくん泣いちゃう……」


寂しいぞー、とアルが頭を撫でてきた。何度もやられているがなんだか慣れなくて、くすぐったい気持ちだ。フェアはそんなことないらしく、ごあんー、と楽しそうだ。アルが幼児用の椅子にのせてくれた。


しばらくして母さんが食卓につき、晩餐が開始された。

今日は雉のアロエ和えとタヌキとキツネの肉入りチャーハンーー味付けは砂糖でーーだ。果たして美味しいのか俺にもわからない。

しばらく料理を見つめる時間を過ごしーー毎日恒例の光景だ。母さんは目でも楽しみたいのね!と喜んでいるーーそれから雑談を交えながら食事を始めた。

アルが最近はどうだと聞いてきたので、色々近況を報告して、院長に弟子入りしたメリットをアピールした。

フェアが嫌がるだろうと思って、フェアが文字を習得したことや魔法学の本を読んだことは言わないでおいた。本については母さんもアルも嫌がりそうだし。

ついでに、院長に弟子入りしてから、毎日あの透明な石を拾うことも。色は黄色や緑、赤など様々だ。あんまり拾うんで母さんがそれ用に箱を設けてくれた。綺麗なので毎日出して眺めているーー母さんが。

その話に差し掛かった時、アルは腕組みをしながら言った。


「ああ、あの石か。結構綺麗だよな。街に持って行ったらいい値段で売れたりしないかな……」

「だーめ、あの石は院長先生の幸運で手に入ったんだよ?売ったら幸運が逃げちゃう」

「ふーん……あの石がねー」


アルはどうでもよくなったのか、そういえば、と話題転換した。


「最近狩人連絡網にある噂が流れててな……森の奥に女の子が住んでいるっていうんだよ。しかもその女の子っていうのがまるで貴族の令嬢みたいな綺麗な子らしくて、昔この森で死んだ女の子の亡霊じゃないかって……」

「ええ、大丈夫なの?あなた」

「ただの噂さ、俺は一度も見たことないしな」


アルは肩をすくめた。やけに様になっている。

母さんもそれで安心したようで、それから話題はドアの立て付けの悪さに移っていった。

最近寝室のドアが開ける度にぎいぎいうるさいのだ。


夕飯が終わったらーーちなみに味はよく認識できなかった。毎度のことだーーアルは皿洗い、母さんは風呂の用意だ。

風呂の用意と言っても家の隣に大浴場があって、そこに行く準備というだけだが……。

村中でそこしか体を洗える場所がないので、夜になったら村中の人が集まる。無料というわけでなく、何らかのものと物々交換だ。文字もあるし、まさか通貨がないなんてことはないはずだが……生まれてこのかた金というものを見たことがないぞ。アルがさっき売ると言っていたが……。


「じゃあ、アルくんは置いて、先に行こ、フェアくん、フェイくん」

「うおーい!?」


母さんは本当に置いていった。

大浴場は見た目はとてもオンボロだ。もちろん中身もオンボロだ。

ここでは俺とフェアは女湯に入ることになっている……アルが一度抗議したが母さんに黙殺された。

性欲なんてない体だが、気まずさは消えない。

大浴場と言っても裕福な村でもないので、熱湯が入っている大きな桶が一つだけ置いてあって、そこに交代制で係員が立ち、水を小さな桶に分け与えてくれる。その水で体を拭けという訳だ。

そして周りで沢山の半裸の女性が体を拭いている現状だが、珍しいからって寄らないでくれ……。可愛いからってつつかないでくれ……気まずいんだ。フェアはいつも目を瞑って体を拭かれている……あれ、うす目で周りを見回しているぞ……。

いや、気にしないことにしよう。目を閉じるのは不安なんだろう、きっと。


大浴場から出ると、アルも出てくるのが見えた。こっちは三人だった分手間取ったからだろう。

すぐそばに家があるというのに、なぜか二人は子供の奪い合いを始めた。最終的に母さんがどうしても不安だといってフェアを譲らなかったので俺がアルと手を繋ぐことになった。俺もアルだとフェアを落とすか潰すかの二択しか見えなかったのでホッとした。

手が痛いが俺が犠牲になることでフェアの命を守れるんなら本望だ……。


「何だろうな、フェイの目が達観した老人みたいになってる……」


家につくと、母さんはまずすでに睡魔との戦いに負けたフェアを寝室に寝かせた。俺はもう少し【魔法学】を読んでみたかったが、母さんの目の届くところで読む訳にはいかなかったし、そもそも光源がないので読みようもなかった。

こんな時、フェアが起きていればなぁ……ーーいや、使う訳ないだろ。

だいぶ眠気で頭が鈍っているようだ。俺は目を閉じた。






翌朝、誰かの大声で目を覚ました。


「大変だーー!!ゴ、ゴブリンの大群が攻めてきて殺されたぞ!!」

「はぁ?」


……は?

ん?いや、何の話だ……?

そもそもゴブリンってなんだ……?殺されたぞ?


……ーー誰かが殺されたのか!?


意識が一気に覚醒した。


「大丈夫なの!?」


大声の主ーー確か隣りの隣りの……、いや、それはいいとして、その青年は酷く狼狽している様子だった。

そのゴブリンとやらのせいだろう。彼は突然の大声に驚いてうええっ、と声を漏らしたが、すぐに気を取り直して叫んだ。なぜか興奮した顔持ちだ。


「Sランク冒険者が来た!!」


……なんだと!






そろそろ更新速度を遅くしますが、一週間に一話はあげるつもりです。

これからもよろしくお願いします。

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