表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公平に異世界転生する  作者: 黒猫
幼年期
5/10

弟よ

弟の名前は、フェアレス・デルタ。

黒い瞳に黒い髪をしたかわいらしい赤ん坊だが、その中身は転生者。

いくつだかは知らないが、少なくとも十は超えているだろう。挙動が明らかに知性あるものだ。

母乳を飲む時の挙動不審な点や、オムツを変えられている時の様が一年前の自分を見ているようだ。

ちなみにまだ俺も寝ている時は尿意をコントロールできないため、オムツは外れていないが、もう慣れた……。

魔力を見る限りこの転生者はチーターをもらったようだ。当たり前だな……。俺のようなバカがそう何人もいるわけがない。

普通に考えて俺はこの転生者に協力を申し込むべきだがーーどうしたものか。

この転生者もきっと魔王打倒の使命を受けてきたのだろう。その力もきっと持っている。俺の力など微々たるものであるので、協力を申し込んだところで大した助けにもならないだろう。逆に日本人気質で遠慮や配慮をされてーー髪が黒いし、神の言い分からそうと暫定しているーー足を引っ張るかもしれない。そう考えると、転生者であることは隠して、陰ながらにサポートをするべきだろうか。

まだ転生者は転生して間もないし、俺も成長したとはいえ、一歳だ。

考える時間はたっぷりある。

……それにしても、弟は可愛いな。


「あー、あー」

「フェアー、お兄ちゃんだよー」


中身が転生者でも、弟が可愛いことに変わりはない。

初めて憧れていた兄弟ができたんだ。喜ばなくてどうする。敵でもないし、可愛がって問題なんてあるわけがない。


「いないいないばあー、ばあー」

「お、フェイかー。もう立派なお兄ちゃんだなー」

「あ……、うん」


父親が、部屋に入ってきた。

俺は思わず目を逸らした。この前感情的に怒鳴ってしまったのを思い出し、少し気まずく感じた。

父親は気にしていないようで、俺の隣にやってきてフェアを覗き込んでいる。


「あの……えっと、この前、怒鳴っちゃって……ごめんなさい」

「え?……ああ、全然気にしてないよ。謝る必要なんてないのに」

「でも、父親に怒鳴るのは……いけないことだから……」


育てられている恩を仇で返す行為だと、父さんに教わった。俺の正しさは、すべて父さんに育てられた。


「……お前は、俺を父さんと呼んだことは一度もないな」


父親は、寂しそうに言った。


「っ……」


俺は目を伏せた。

気づかれていただろうとは思っていた。既に俺がこの世界に生まれてから一年が経っている。四ヶ月には母さんと呼ぶことができた。日常会話もできるようになった。

……それでも、父親を父さんと呼んだことは一度もない。

俺の父さんは、この人じゃない。俺を男で一人で育ててくれたあの、もう二度と会えない父さんだ。

母親は、いたことがなかった。だから、簡単に受け入れられた。ずっと心の底で求めていたものでもあるから。

でも父親は違う。俺は転生して、葵公平からフェイガーデン・デルタになった。でも、この人格は葵公平のもので、今の俺は相変わらず葵公平のままだ。世界が変わっても、俺が今まで経験したことや感じたことは変わらない。

敬愛している父さんを忘れ、他の人間を父親として扱えるわけがない。この人は、単に俺の遺伝子上の父親に過ぎないんだ……。

父親は、きっと本当に俺を自分の子供として愛してくれているのに、俺はそれに応えない。父さん、と呼んであげることも、しない。

父さんと呼んでしまったら、この人を父親として扱ったら、もうあの人を父さんだと思えなくなる気がする……。


「……ごめんなさい」

「……何の事情を抱えてんだろうな、お前は」


……何の事情も抱えていない。だだの、くだらない意地だ。

正しさや公平さを語りながら、俺は何て矛盾しているんだろう……。


「あぅー、あー」

「おー、可愛いなぞー。あばばばばばー」


フェアは、このシリアスな空気を読んだのか、突然ぐずりだした。

しまった、この会話で、俺も転生者だとばれてしまっただろうか。何しろものすごい力を持った転生者だ。生まれながらにして言葉を解してもおかしくない。


「……そうだ、じゃあこれからは、名前で呼んでくれないか?呼ぶとき困ってただろう」

「……は?」


フェアをじっと睨んで悩んでいたら、父親は突然名案を思いついた、というように顔を輝かせた。

名前を呼ぶ……か。


「うん……、それでいいなら。ありがとう……」

「やった。じゃ、アルって呼んでくれよ。知ってるだろ、アルフィールド・デルタ、俺の名前だ」


いや、知らなかったぞ。何しろ母さんはあなた、としか呼ばないからな。

……アルは心が広いな。こんな父とも呼んでくれない子を責める素振りも見せない。

絶対に、魔王を倒さないとな。


「あぅー!」


そのために、フェアをサポートできるだけ強くならなくては!





---------------------------------

Name フェイガーデン・デルタ

Age 1

Level 1

MP 550/550

HP 10/10

Skill 風魔法 Level 3 雷魔法 Level 2

SpecialSkill ??

--------------------------------

うーむ……。魔力はかなり増えたと言っていいだろう。この一年で400増えている。

アルを基準にするとだいぶ多い方だとは思う。なぜこんな成長しているのか……。俺は神の好意を拒否したはずだが……。

神の祈りが物凄く効いたということなのだろうか。それとも本人が知らないだけで、母さんがすごい魔力を持っているとか……いや、ドラマでもあるまいし、流石にないか。わからないものを考えても仕方ない。

HPは赤ん坊のときと何ら変化がない。

MPは使えば使うほど増えたので、恐らく俺がHPを減らしたことがないのが原因だろう。MPをHPまで使うほど減らさないよう、注意深く使ったからな。

練習する時は、必ず20は残すようにしていたおかげで、かなり使う魔力の量のコントロールに長けてきていると思う。

そして、雷魔法に比べて風魔法をよく使うので、風魔法はLevel 3まで上がり、雷魔法はLevel 2と、1レベルしかあがっていない。どうやら風や雷を使う技術にともなってレベルが上がるようだ。

レベルが上がっても技術に変化はないので、これはただ単に表示が変わるというだけのようだ。

固有スキルじゃ相変わらず謎に包まれている。俺のレベルも、魔物を倒さないと上がらないようで、一のままだ。

強くなるためには、さらに何をしたらいいだろうか。

魔法の練習はもちろんこのまま続けるが、それだけでは足りない気がしてきたな。

だが、一歳の体で魔物退治はさすがに無謀だ。

とすると未だ10のHPを何とかした方がいいな。HPは体力を表している。疲れて体力がなくなったからって死ぬとも思えないが、何が起こるかわからない世界だ。警戒してそんは損はないだろうーーが、それだけをしているわけにはいかない。

単純に考えて、体力は成長につれ増えゆくものだ。しかし、零歳のときと比べて一歳となった今かなり体力が増えているはずが、数値は変わっていない。一体、どういうシステムなんだろうか……。

先立っての課題は、まずHPの減り方を調べるとしよう。

どう調べるかというと、特に心当たりがあるわけではないが、とりあえず家から出て、村を回ってみようかと思う。

実を言うと、俺は生まれてから家の外を見たことがあまりない。母さんが一人で外に出ることを許してくれないのだーー一歳児であることを考慮すると当たり前である。たまに母さんが庭で洗濯物を干しているところについていって、見渡すと普通の農村のようだ。子供がはしゃぎまわっているのも時々見かける。

母さんは最近、フェアを産んで間もないせいで、疲れやすくなっているーー今も、フェアの隣に横たわって寝ている。

母さんの体がよくなったら、一緒に村を散歩しようと誘ってみよう。





フェアは、早速魔法の練習を開始したようだ。

夜中、母さんやアルが寝静まった後ーー寝室は一つなので、四人家族同じ部屋で寝ているーー虚空を見つめて何かをぶつぶつつぶやいたと思ったら、突然空中に明かりが出現したのだ。

何の魔法かは知らないが、魔法であることに間違いはない。

ステータス板に呪文類はないはずだが、一体何を見て魔法を唱えたのだか……。もしかして、人によって表示されているものが違うのか……?

いや、重要なのはそこではなくーー魔力がこれほど違うとは思わなかったな……。

一目見てすぐに感じることができた凄まじい魔力。母さんもアルも魔法を使ったことがないのでわからなかったが、どうやら魔法使いは他人の魔力を感じることができるようだ。

自分の魔力と違って、おおよそしかわからないが、それでも凄まじさだけは肌で感じることができるーー今も隣で魔法の練習をしているしな。

それ自体は大変立派な行為だとは思うーーひとつ、気になることがある。

なぜだかフェアは、魔力を使い切ろうとする傾向がある。MPを使い切ったらHPを使うことになるのを知らないんだろうか。彼のHPの数値を知らないので何とも言えないが、危険な行為であることに変わりはない。

だが、どうして伝えよう……。まだ俺が転生者であると伝えてもいいのか決めていない。

何とか、さりげなく伝えるか……。




「ねえ、母さん。魔法って、どういうものなの?」


翌朝、早速母さんに、棒読みにならないよう聞く。

隣で、フェアがこっちに注意を向けるのを感じた。


「えー、なあに、また?フェイくん、魔法に興味あるの?」

「うん!」


母さんは仕方ないなあ、という風に笑った。


「あのね、魔法っていうのは、魔力を使って発現させるものなの。魔力は教会に行ったら測ってくれるのよ。たくさんあったらすごい魔法使いになれるかもね。でもね、魔力を使い切っちゃダメよ。すっごく危ないの!死んじゃうかもしれないのよ」

「へー!そうなんだあ!!気をつけるね!」


言いながらちらっとフェアを横目で眺めると、何やら決意した顔をしていた。何を決意したんだろう……。これで、わかってくれればいいんだが。





その夜から、フェアは慎重に魔法のコントロールをし始めた。よかった。


「うー……ん?これはどうすれば……」


ふと、幼い声が聞こえてきた。フェアの声だ。

おお、懐かしき日本語じゃないか。


「つーか、こういう場合ってなんか貴族とかに生まれるのがセオリーじゃねーかな。三男とかさ」


そうなのか?異世界に転生するのにもセオリーがあるとは知らなかった。一体どこで知ることができるんだろう。


「シャイン、シャイン、シャイン……つ、つまんねー」


シャインという名前の魔法なのか。 光の玉を出すだけに見えるが、目くらましなんかに使えそうだな。

口に出すのは癖か?敵がいた場合予測されてしまうんじゃ……でも、イメージしやすくなるかもしれないな。今度試してみよう。


「はぁー……」


そして夜は更けてゆく。フェアはまだ幼児にも満たない年齢だ、一時間ぐらい魔法の練習をしたら、疲れ果てたのかすうと寝てしまった。俺もその頃には半分夢の中のような状態だったのですぐに意識を飛ばした。



「まー、ぱー」

「はーい、ママよー」

「パパだぞー」


フェアはヨタヨタと四つん這いで、手を広げている母さんとアルに向かっていった。

それぞれがベッドの両側にいて、どっちにフェアが行くのか競っているそうだ。

子供か!と言いたいところだが、正直俺もかなり手を広げてフェアを向かい入れたい。

フェアが生まれてから一カ月が経った。ますます可愛くなっていく弟に家族三人ともすでにぞっこんだ。


「あー……」


フェアは両親を交互に見比べ、困ったように眉をしかめた。どっちに行ってももう一人が拗ねるのがわかりきっているからだ。


「……あぅ!にー」

「……!?に、兄さんだぞ!」


フェアは向きを変え、俺に向かってきた。

お、おおお……!感激だ。

俺はなぜだか前世では子供に怖がられてばかりだから、弟ができて、あまつさえ懐かれるなんてされたことがなかった。いや、懐くというより、休戦地帯扱いかもしれないが……。


「にー」

「……!」


フェアが俺に抱きついてきた。

柔らかい。赤ん坊だから当たり前か。


「お、おお……?」

「きゃあ、きゃー」


俺はフェアが抱きついてきた重みで後ろに倒れてしまった。

もふん、と布団の中に倒れこむ。

母さんとアルは顔を見合わせて、微笑んだ。


「あら、かわいい〜。フェアはフェイが大好きなんだね〜」

「フェイに負けたかー。……まあ、母さんには負けていないがな」

「聞き捨てならないね。もう一回やったら絶対私が勝つもん」


大人気ないなぁ……。

フェアはこれを見越して俺に向かってきたんだと思う。





母さんはだいぶ元気になってきた。

もうそろそろ村に出て散策しようと頼んでみるか。


「いいよー」


母さんは即答した。逆にこっちが驚いたぐらいだ。


「最近外出てないし、体なまっちゃう。それに、贅肉が……じゃあ、フェアも連れて、お散歩だね」

「やったー」

「やぁーい」


フェアは嬉しそうにはしゃいだ。フェアに至っては一度も外に出てないので、楽しみなのだろう。

母さんはフェアを体の後ろにくくりつけ、俺と手をつないでドアから出た。

今日はよく晴れた日で、散歩日和と言えた。少し暑いぐらいだ。

村の中心には一本道があり、俺たちはそこを歩き出した。

両側はどちらを見ても同じ景色で、俺たちの家の藁葺き屋根や瑞々しい、水田に生えている稲が一面に見える。

しばらく歩くと、村の真ん中に広場が見えた。祭りか何かに使うのか、太鼓がいくつか置いてある。そしてすぐそばにはこの前世話になった診療所があった。

この間は暗くなっていた上に、慌てふためいていたので思い出せなかった。

そうか、ここにあったのか……。


「ねえ、母さん。一回、お礼に行ったほうがいいんじゃないかな」

「え?そうねえ、じゃあ、寄ってみましょ」


診療所に入ると、数人の看護師が椅子に座って話していた。

今日はそれほど忙しくないようだ。

受付が俺たちに気づき、挨拶してきた。


「フェミエルさん、体の調子はどうですか?」

「すこぶる快調です。この度は、本当にありがとうございました」


母さんは深々とお辞儀をした。俺とフェアもそれに続く。フェアは母さんの背に頭をぶつけた。


「当たり前のことをしたまでですよ」


受付はにこやかに応じた。その時、きいとドアの開く音がした。

見ると、診療所の奥のドアから一人の老人が出てきた。ヨタヨタと、見ていて非常に不安になる歩き方だ。関係者なのか?


「まあ、院長!どうなされたのですか?」

「院長?」


俺は首を傾げた。ご老人に悪いが、あまり頼りになりそうにない様子だ。


「フェイくんラッキーだよ!院長先生はね、めったに人前に姿を現さなくて、もし偶然姿を見れたら、その一日中幸運に恵まれるんだって。実は私も何回か見てるんだけど、見た日には必ずあの人がイノシシを狩ってくるの」

「へ、へー」


院長は妖精か何かか?


「うわー、この前見たのは五年前かなあ。全然変わってな〜い」


怖いなそれは……。

……?

なぜか院長はこちらに向かってくる。


「そこの……子や……」

「な、なんでしょう……」


院長はゆっくりと、血管の浮き出た、枯れ木のような手を伸ばしてきた。その手はブルブルと震えている。


「……ん?違う……そうだ、その子じゃ」

「ええ、なんですか?院長先生?」


院長はフェアに目標を移し替えたらしい。正直かなりホッとしているーーじゃない、フェアを守らないと。


「な、何か用でしょうか。院長さん」

「……?なんじゃ、お主は」

「フェイガーデン・デルタです。この子の兄です」

「ほお……お主もなかなか……だが、この子には及ばん……」


院長はフェアの前にーー正確にはフェアを抱いた母さんの前にたちはだかった俺を一瞥し、何かをモゴモゴ呟いた。

なんだ……?


「何か、膨大な魔力を感じて駆けつけてみれば……赤ん坊とは驚きじゃ」

「膨大な魔力だなんて……本当ですか、院長先生?」

「嘘は言わんよ……これでも若い頃はそれなりの魔法使いだったのじゃ」

「あら、そうだったんですか?」


母さんは目を丸くしたが、俺は納得した。良く感じれば、薄く魔力が院長を覆っているのがわかる。


「うむ。そのわしが言うのだから間違いない。お主の息子は天才じゃ!」

「そ、そんなに?」

「うむ。これほど膨大な魔力を感じるのはこれで三回目じゃ。一回目も二回目もどっちも有名な冒険者じゃった。これはものすごいことじゃぞ?何しろ、お主の息子は生まれながらにして、世界でもトップクラスの魔力を持っているということなんじゃ!」

「フェアくんが……そんな力を持っているなんて……」


母さんは、困惑を隠せないようだった。

俺はもちろん知っているので驚きは微塵もないが、一つわからなかったことがあるーー冒険者……?

トレジャーハンターのようなものだろうか。


「是非、弟子にとらせてくれい!こんな才能をみすみす見逃すわけにはいかん!」

「で、でもフェアくんはまだ一歳にもなっていんですよ?無理に決まってます!」


おっと、こんなことを考えている場合ではなかったか。さすがに零歳で弟子は無理がある。まだ満足に歩くことすらできないのに。

フェア本人はそわそわした様子で、乗り気に見えるが、いくらなんでも……いや、待て。何もフェア本人が弟子入りする必要がないじゃないか。俺が弟子となって、教わったことをフェアに伝えればいいだけじゃないか。そうすれば俺の技術も上がるし、一石二鳥だ。


「じゃあ、僕が弟子入りするよ!魔法って一回使ってみたかったんだ!」

「フェイくん……!ダメよ、フェイくんだって一歳でしょ?魔法はとっても危ないの!」

「最初の二年で教えるのは理論のみじゃ!いくらなんでもこんな赤子に魔法を使わせはせん!」

「って、だったら余計ダメでしょう!?零歳のフェアくんはもちろん、一歳のフェイくんにそんなの理解できるわけがありません!」

「ぬ……ぬぬぬ……」


院長は悔しそうに歯ぎしりをした。それはそうだな、まっとうな判断だ。

だが、この話をなくされても困る。


「じゃあ、僕、文字習うー!」


いつか習わなくてはいけないものだし、これさえ習得すれば、数少ないが家にある本を読むこともできる。今のままでは絵本すら読めないからな。


「文字なんて私が教えるのに……」


母さんは不満げに呟いた。俺の私事で母さんの仕事を邪魔するわけにはいかないと思い、今まで言い出さなかった。事実、母さんは忙しい。アルは朝から晩まで仕事なので、家事は全て母さんの負担になる。文字を教えている暇なんてないのだ。

母さんもそれをわかっているから、しぶしぶ俺の言葉に頷いたのだった。


「やった」


ガッツポーズをしてみた。






明日の正午から診療所に行く約束をして、家に帰る途中、母さんはずっと俺の説得を試みていた。

家から走れば一分というところに行くのに、そこまで心配しなくても、と思ったが、この一メートルに満たない体を見たら不安にもなるか。なんとか母さんを宥めていたら、ふと道端に何かキラリと光るものが見えた。駆け寄ってみると、透き通った青い石だった。なかなか綺麗だ。


「あら、綺麗な石。早速幸運ね」


院長に会えたという?本当に妖精か何かか?






夕食が終わって、アルが食器を洗っているとーーこれだけ、アルの分担となっているーー母さんが布を一枚持ってきた。何をするのかと見ていたら、なんと水を指につけてそれで文字を書き始めた。紙はないのだろうか。


「ほら、私だって文字かけるよ?」


もちろん読めない。ミミズがのたくったような字だ。この世界の文字はこうなっているのか……。俄然不安になってきたな。


「ん?なんだこれ……ってフェミエルの書いた字か。相変わらず読めないほど汚いなー」

「アルくん黙って」

「はい」


……どうやら、母さんに教わらなくて、正解だったようだ。








200アクセス突破しました。

ありがとうございます。


細かい誤字を修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ