プロローグ
友人と二人で学校帰りに通学路を歩いていた時だった。
俺達の前を一匹の黒猫が横切った。いや、それが不幸の前触れなんだとかいう迷信でどうこういうわけではない。問題はその後だった。車道に出た黒猫に、勢いよく突っ込んでいくトラックが見えたのだ。
考える前に体が動いた。世界がまるでスローモーションのように、遅くなった。
猫に向かって走る、走る。しかしまるで体が自分のではないみたいに、もどかしいほどにその速度は猫に追いつかない。
キキーーーッと、トラックのブレーキ音が遅れて聞こえた。
俺は、猫を抱いたまま転がり、転がって、そのまま意識を失った。
パチリ、と目を開けると、そこは知らない天井だった。
だが、少しオタク趣味の友人のよく言っていた異世界転生などではなく、辺りを見回すと、そこは病院のようだった。友人が言うには、トラック転生がその手の定番らしいので、まさかと思ったのだが。
さすがに夢の見過ぎというものだろう。
体は少しだるいが、問題なく動くようだ。手を見ると、ちゃんと俺が今まで生きてきた16年分のシワが刻まれている。
おそらく、猫を抱いて転がった末、ガードレールにでもぶつかったのだろう。
少し軽率だったな。だが、俺の座右の銘は、自分にできることはするべし、だ。
死んだ父さんのものを受け継いだに過ぎないが、俺はこれに恥じない生き方をしたいと思っている。
「へ〜、いい子だねぇ〜」
「!?」
突然、病室の隅から声がした。男とも、女とも、老人とも、幼児とも言える、不思議な声だった。
俺は、それを聞いた瞬間、意識が遠くなるのを感じた。
意識が途切れる前に見えたのは……。
黒い……猫……?
それが俺の今世での、最後の記憶だった。
主人公の一人称を僕から俺に変更