第三章 奥方様のご帰宅1
続きです。
第三章は主人公と勇者のパーティーの対決がメインです。
勝手な一言
「自由を愛しすぎて自由に呪われた」
詠み人 住所不定無職
第三章 奥方様のご帰宅1
これで魔王の娘たちにはさせられない、復讐と俺の個人的な終戦開戦宣言が終わった。
さて、ここからがメインミッション……奥方様を奪還する。
公開はともかく、処刑は奥方様が娘たちを守るために望んだこと。
だが奥方様の亡骸を、これ以上晒させはしない。
ガシャン! 大きな音とともに、テラスへと駆けあがってくる多数の足音。
テラス前の鉄格子が壊され、騎士やら兵士やらが大慌てで上ってきたのだろう。
「貴様か!? 貴様がやったのか!?」
「罪人らしき少年を発見!」
「確保せよ! 抵抗すらさせるな!」
後ろが騒がしいけれど、俺はさっきからずっと奥方様の亡骸をみている。
処刑台に張り付けられて両脇から槍をさされた状態……七人の指導者を吊るしておいてなんだが、今の奥方様の姿を見れば魔王の娘たちはブチギレルだろう。
しかし復讐心に駆られて人間界を襲うと、また人魔戦争が始まってしまう。
そうならないためにも、奥方様を即時奪還して魔王城へ帰宅させよう。
「シンラ――ミッションコード『奥方様のご帰宅』を発動せよ」
中央公園を巡回しているドラグナーやスカイランナーよりも、さらに上空で待機している俺の分身が、目を覚ますように動きだす。
俺とシンラはリンクしており、俺の目はシンラと繋がり、シンラの目は俺と繋がる。
黒くて深い赤色は暗朱と呼ばれる厄災の色。洗礼されたフォルムは人間たちのもつ従来の飛行船とはかなり異なり、小さくて形もシンプル。翼と胴体はつなぎ目がなく一体化され、まさしく一つの塊から削って作り上げた彫刻のようだ。
目を覚ましたシンラは、そのまま一気に俺の元へと急降下してきた。
「気をつけてください」
目の前に現れたシンラに対し、俺の後ろにいる連中は大慌てだろう。
しかしあなたたちにそんなひまはない。
俺は潜入と暗殺を得意としているが、シンラは殲滅と破壊を得意としている。
「シンラは密集した相手を簡単に皆殺します」
シンラは厄神に育てられた厄子が、厄災と科学技術から作りだした戦闘機。
人間界の飛行船は浮かんで動くだけの代物が多く、完全に長距離移動用だ。
人間界に存在しない戦闘機は、搭載されたガトリングの銃口を俺の後ろへと向ける。
ズガガガガ――鼓膜に響くガトリングの咆哮。
俺の後ろに何人の兵士や騎士がいたかは知らないが、密集していれば皆殺される。
そしてガトリングの咆哮以上の、人間たちの悲鳴があちらこちらで上がった。
「ドラグナー隊! スカイランナー隊! あの化け物を落とせ!」
処刑の合図を出した討伐隊の隊長が叫んでいるが、この騒ぎの中ではドラグナーやスカイランナーにその命令は届いていないだろう。
それでも、自分たちよりもさらに上空から飛来してきたシンラに向かってきた。
シンラの全長は七メートルほどで、ドラゴンの大きさは約倍ある。
翼をもった人間のスカイランナーはともかく、ドラゴンの巨体ならシンラを潰せよう。
しかし大きさだけで性能を計ろうとすれば、それは大きなダメージを生み出す。
シンラはガトリングを放ったままサイレンを鳴らす。
小さな音だが、人間に無害でもドラゴンにとっては耐えられないほど苦痛な音だ。
『グラァァァァァ!?』
シンラに近づいてくるドラゴンたちは、まるで錯乱するように方向感覚を失う。
騎手の命令を聞かず、グラつくように飛び回り、やがて飛ぶこともできずに墜落。
するとテラスの下にいた民衆たちは、そのドラゴンの巨体に潰されていく。
密集した町でドラグナーの使用など、守るはずの民衆を巻き込むだけだ。
墜落したドラゴンは泡を吹きながら暴れ転がり、ガトリングも殲滅完了と停止した。
俺はそれを確認してからシンラに乗り込む。
シンラのコックピットはシャボン玉のような作りであり、俺の意思一つで出入り可能。
このままテラスから処刑台まで飛んでいきたいが、なかなかうまくはいかない。
なんと、シンラのサイレンに耐え抜いたドラゴンがいた。
方向感覚を失いふらついてはいるが、それでも主を落とさずにこちらを威嚇している。
白銀のドラゴンは神として伝説にもなっている。大きさは十メートル弱で、伝説として語られているにしては小ぶりだが、実際はこんなものだ。柔らかそうな白銀の翼や、すらりとした肢体や尻尾は、力加減一つで鋼以上の強度を誇る凶器となる。
そしてそんなドラゴンを仕えさせているのは、勇者のパーティーの一人。
龍姫、ステラ=ブレット=フリードー。
深紅の髪と整った小顔には、アイスブルーの瞳と桜色の唇。
スレンダーな身体を包むのは、高位のドラグナーだけが装備できるドラゴンスーツ。
武器として使用しているのも、ドラゴンランスと呼ばれる神槍。
討伐軍ではドラグナー隊を率いる隊長でもあり、ダムシアン王国のお姫様でもある。
お姫様と言っても側室の娘であり王位継承権はない。ドラゴンを駆る姫で龍姫だ。
そんな龍姫様は、ふらつくドラゴンを制御しながらもドラゴンランスを構えていた。
「いいとも……俺とシンラの本領を見せてやろう」
俺はパイロットで、シンラは戦闘機で、どちらも独立で動くが、一心同体が基本だ。
ハンドルもボタンもないシンラのコックピットには、三つの突起物がある。
背中から頭にかけて歪曲した突起物に腰を降ろし、二つの丸い突起物に両手を置く。
空中静止しているシンラを飛翔させると同時に、龍姫もドラゴンで付いてくる。
処刑台付近で戦うと、奥方様の亡骸まで巻き込んでしまいかねない。
この混乱でそんな余裕もないだろうが……討伐軍が奥方様の亡骸を運び出す可能性もなくはないから、龍姫には早々にご退場願おう。
森羅と名付けられた戦闘機は戦争人間の象徴です。
初戦はドラゴンVS戦闘機であり戦争人間VS龍姫。
どちらが勝つのか……続きが見たいですか?
ちょっと嫌な気分になるかもしれません。
ついでに一言
「本国一のイケメン?
福沢さん家の諭吉様に決まっている」
詠み人 とある島国の銀行総裁




