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戦争人間  作者: ジュリー
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終戦と開戦4

続きです。

第二章の終戦と開戦はここまでです。

勝手な一言

   「キノコとタケノコは戦うことを強いられているんだ!」

                     詠み人 カカオの民

第二章 終戦と開戦4



 美しい花嫁衣装に着飾れていた奥方様は、処刑台に縛られたままうなだれていた。

 そして罪状が読み終わると、二人の死刑執行人が処刑台へと上がっていく。

 これで処刑台にいるのは奥方様と死刑執行人と……勇者のパーティー。

 本当なら奥方様の処刑は勇者の手により執行される予定だったが、そもそも勇者はアルベルト王同様に公開処刑には反対していた。

 女性への死刑執行なんてできやしない。

 それでも討伐軍の宣伝として同席命令が下り、処刑台に上っているのだ。

 ここから確認できる勇者のパーティーは三人。

 一人は()(あく)、ザンガ=ブライアン。

 胸当てと肩当てだけの軽装だが、隆起した筋肉は下手な鎧よりも頑丈そうだ。彫の深い顔は堅い石像のようであり、右頬の切り傷と顎の打撃による痣は激戦の歴史そのもの。身長も高くて身体付きも大きく太く、背中には二メートル近い重剣を背負っていた。

 ちなみに偽悪はザンガの称号であり、ザンガは一昔前まで賊を襲う賊だった。

 賊を相手に賊行為をしていたザンガは、いつしか(にせ)(もの)悪人(あくにん)と呼ばれた。

 二人は聖女、ソフィア=メルティ=フランシス。

 不死鳥の絵が金糸によって施されたローブに、鈍器としても使える銀色の杖。輪郭の整った顔つきに、ワイン色の長髪は素晴らしくマッチしている。女性にしては身長が高い方だと思うが、女性特有の丸みを保ちながらも凹凸のある身体付きは女性そのもの。

 最後にいるのが勇者、リオンハート=ラックフォード。

 銀色がかった黒髪は短くまとめられ、顔つきはまだ幼さを残している。幼さを残すと言っても、勇者の年齢は十七歳だから相応だろう。身体付きはむしろ華奢に見えるが、筋肉が良質で絞り込まれているのも分かった。

 装備している武器は、魔王を討伐した聖剣だ。

 十一歳で魔王討伐のために勇者となり、仲間を集めて十六歳で魔王を討伐。

 囚われの身とされていた奥方様を連れて魔界から凱旋したのも、勇者たちだ。

 勇者のパーティーは他にも二人いるが……一人は(りゅう)(ひめ)としてドラグナー隊を率いて中央公園を巡回中、もう一人は療養中だと確認している。

 勇者のパーティーの確認が終わると、いよいよ奥方様の処刑執行だ。

「愛するものの名前と顔だけを思い浮かべてください」

 処刑された経験はないが、処刑する相手を見て死ぬより、愛するものを想ったまま幕を閉じたいと思うから、アルベルト王たちにそれだけ伝えた。

 たぶん奥方様も、頭の中にあるのは恐怖じゃなくて、十五人の愛娘たちのことだろう。

 もし奥方様の思い浮かべる人物たちの中に、少しでもいいから俺の存在を望んでしまうのは、きっと弱い俺が抱くお門違いの高望だ。

 そして処刑の準備は終わり――処刑の合図が討伐軍の軍隊長により下された。

 二人の死刑執行人は処刑用の長槍を持ち、奥方様の左右から一気に突き刺す。

 それと同時に、俺も実行する。近衛兵たちの遺体を乗せた台車で一気にテーブルの傾斜を駆け上がり、そのままテラスから突き落とす。

 近衛兵たちの遺体を乗せた台車を重りにし、ワイヤーが引っ張られてそれぞれ座っていたイスから、テラスの外へと飛び出す。

 ガシャンっと、ワイヤーがいったん引っかかるが……それは必要な動作だ。

 近衛兵たちを乗せた台車がきつく固定されたままだと、七人の指導者たちはテラスから飛び出すものの、ワイヤーで首が切れてしまい、それだと首なし死体になってしまう。

 だから台車が七人の指導者を引っ張り、ワイヤーが締まる瞬間の、首を絞める反動で台車が浮き上がり、再び落ちる瞬間、台車に乗せていた近衛兵たちが滑り落ちるのだ。

 七人の頸椎の頑強性と台車の重さを考えれば、首と胴体が切り離されることはない。

 そしてワイヤーはそれぞれのイスともつながっているため、テラスから七人の指導者が飛び出し、まるで垂れ幕のように七人の指導者たちの首つりがさらされる。

 テラスから落ちてきた七人の近衛兵と、テラスに吊るされた七人の指導者。

 奥方様の処刑で沸くはずの会場だったが、処刑台と一緒に用意されていたテラスから飛び出してきた惨状に、どう反応していいのか分かっていない。

 魔王の花嫁処刑への歓声か、七人の指導者暗殺への悲鳴か……迷いが見える。

 俺はテラスの壇へと飛びあがり、両手を広げてアピールする。

「魔王の討伐および魔王の花嫁の死により、人魔戦争の終戦を宣言する!」

 突然の終戦宣言だが、別に突然だとは思わない。

 人魔戦争は魔王と人間が始めたものであり、魔王の娘たちは不関与。

 魔王の娘は健在だが、魔王夫妻の死で人魔戦争の本戦は終結したと言って良い。

 人魔戦争は間違いなく人間たちの勝利だ。

「そして宣言する!」

 しかしそれで終わってしまうほど、人間は無欲じゃない。

「人間の人間による人間のための戦争――世界大戦の始まりだ!」

 人魔戦争は人間の勝利によって終結した。

 だけど次の戦争はすぐに始まる。

 その宣言は、人間でもある俺がすると決めていた。

 魔王が討伐され、奥方様が処刑されてすぐ、俺はその場で宣言すると決めていた。


人間は学びます。

戦争が終わると、次はもっとうまく戦争をしてやろうと学びます。

すべてがそうでは断じてありませんが、悲しい現実として存在します。

続きが見たいですか?

ちょっと嫌な気分になるかもしれません。

ついでに一言

   「キノコとタケノコは我々の知らないところで親密だ」

               詠み人 某大企業からの内部告発

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