終戦と開戦2
続きです。
私が思うに、レーザーポインターは死の宣告だと思います。
勝手な一言
「どうしてウソをつかせようとするんですか?」
詠み人 給食を「まずい」と言って怒られた正直小学生
第二章 終戦と開戦2
パンっ――これで四人目。
近衛兵を失った要人も四人であり、生への執着心ルーレットが一人追加で始まる。
「やめろ……」
近衛兵さんの一人がなにやらぼやいているが……聞こえないふり。
俺はハンドガンのモードを変えながらも、近衛兵を失った四人の要人相手にレーザーポインターを合わせたり、合わせなかったり。
要人も他人に照準が向けば『行け』と命じ、自分に照準が合えば『行くな』と叫ぶ。
「や、めろ!」
「おちつけ」
情緒不安定になってきた近衛兵さんを、別の近衛兵さんが落ち着かせようとする。
聞こえないふりは、ここで止めよう。
「落ち着いたところでどうにもなりませんよ」
要人の一人に照準をぴたりと合わせておきながら、俺は軽く言い放つ。
「俺はだれも逃がす気はありませんから、落ち着いているひまなんてありませんよ」
俺を放っておけば全滅確定。
やるならばこれ以上の犠牲が出ないうちに、素早く俺を取り押さえたほうが良い。
「近衛兵は守るのが仕事ですが……正直言って、的ですよ」
王族や貴族の盾になる近衛兵は仕事に忠実だけど、周到にハンドガンに光学照準器を準備してきた相手にとっては、動かない的でしかない。
白兵戦で相手を排除する力は充分にあっても、半端な距離からの射撃ではお手上げだ。
俺は近衛兵も王族も貴族もだれも逃がす気はないのだから、ご決断はお早めに。
「チクショウ!」
「このバカ!?」
一人の近衛兵が全滅を意識したのと同時に飛びだし、もう一人の近衛兵は飛びだした同僚を叱責しながらも、それしかないとタイミングを合わせて飛びだす。
良し、飛び出してくれた!
俺は近衛兵の話を聞かないふりをしながら、ハンドガンのモードを変更した。一度の引き金で一発の弾丸が飛び出す単発式から、一度の引き金で三発の弾丸が飛び出す連射式。
恐怖と苛立ちで近衛兵が飛び出してくるのは充分に予想できた。
しかしいきなり飛び出してきた相手の額を、的確に狙うのは無理がある。
ならばお喋りを駆使してあえて飛び出させ、連射式のハンドガンを撃ち込めばいい。
人間界に高度な防弾技術はなく、近衛兵の鎧でも当たれば痛いじゃすむまい。
「ぐっ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
一人は空気を吐きだすように倒れ込み、もう一人は悲鳴を上げながら倒れた。
最初に飛び出してきた方は、右肩に一発、胸に一発、喉に一発当たっており、右肩は貫通し、胸は急所を外れたようだが、喉の一発が致命傷だ。
合わせて飛び出してきた方は、腹に二発で、一発は外れたらしい。
腹に当たった二発の弾丸は貫通していないものの、内臓に届いているのは確実だ。
戦闘不能は明らかだが、それでも俺は改めて光学照準器を生きているほうへ向けた。
パンっと、単発式による止めの一発を撃ち込み、これで残りの近衛兵は一人だけ。
俺は残りの一人に銃を向けようとしたが……おやおや、これは珍しい。
「銃使いはきみだけじゃない」
最後の一人の近衛兵が手にしていたのは、普及がまだ進みきっていない拳銃だ。
あの形状は回転式……リボルバー……だけどあれは……。
俺はとっさに頭を庇い、近衛兵は引き金を引く。
バウゥン!
俺のハンドガンとは違い、近衛兵の拳銃は大きな破裂音と火花を散らした。
頭を庇った俺だけど、当たったのは身体の中心。
光学照準器をもっていない近衛兵はセオリー通り、身体を狙ったようだ。
俺は撃たれた衝撃で後ろに吹っ飛び、仰向けで倒れた。
「きみの銃はかなり特殊なようだが、我が軍の科学を舐めてはいかん」
勝ち誇るような近衛兵さんだけど……なるほど、かなり痛い。
かなり痛いけど……これなら普通に殴られた方がダメージは大きいだろう。
「いってー……」
何事もなかったように、ではないけれど、俺は上半身を起こして見せた。
拳銃の銃弾が当たって無事ですむわけがないと、近衛兵さんは大慌て。
「急所に外れたか!」
普通なら急所じゃなくとも致命傷なのだが、それでも近衛兵さんは再び俺を狙い撃つ。
俺は両手を握り、両腕でがっしりと頭部だけをガードする。
バウゥン! バウゥン! バウゥン!
二発、三発、四発と銃弾がかすめていくが、先程の不意打ち気味の弾丸とは違い、今回は身構えることができた分だけ衝撃に耐えられる。
やがて相手の銃声が止む。
俺は改めて立ち上がり、近衛兵に銃を向けた。
しかし想定外……照準器が壊れていた。
「現地で組み立てるために、小型化して強度を捨てたからな……倒れた衝撃で壊れたか」
所詮は組み立て式の外付け仕様だったと……そこは素直に反省しよう。
「なんだとっ!?」
近衛兵さんは弾丸が直撃したのになぜ無事なのかと、それを聞きたいのだろう。
さらにもう弾切れだと言うのに、近衛兵は拳銃の引き金をかちかちと引いている。
「あなたの拳銃はシングルアクション……弾丸を一発撃つごとに手で撃鉄を起こす必要があります。連射する時は開いている手で撃鉄を仰ぐようにするのが一般的ですが、一発の反動が大きいですから、連射すればするほど命中率は極端に下がってしまいます」
片手で実弾射撃の反動に耐えながら、残った片手で撃鉄を戻して再び実弾射撃……なんて繰り返していれば、どんな名手だったとしても確実に照準は外れる。
実際に最初の一発以外、近衛兵の放った弾丸はかすめただけで命中していない。
もっとも全弾命中しても、俺は頭部を撃ち抜かれない限り死なない自信があった。
「それと、あなたの持っている拳銃は完成度の高いハンドガンの、ひな型として考案されたものです。俺の使用しているハンドガンはオートマチック式ですが、あなたの持っている拳銃を進化させたリボルバー式のハンドガンに比べれば……威力は格段に弱い」
これは近衛兵さんにとって驚愕の事実かもしれない。
シングルアクションの拳銃は画期的なものであったとしても、拳銃を近代的ハンドガンへと進化させるためのひな型であり、断じて完成品ではない。
一般兵の鎧は革製だから、革の鎧なら貫通して相手に致命傷を与えることはできる。
しかし問題なのは、俺は鎧の下にもしっかりと下地を着こんでいること。
俺は論より証拠と、一般兵の鎧を剥ぎ取った。
その下に着込んだ下地が、近衛兵さんの放った弾丸を何事もなく弾いていた。
「ワイヤーを編み込んだ、鎖帷子と言えば分かりやすいでしょう」
ワイヤーを仕込んだ下地は防御や防弾のために作ったわけじゃないが、束ねて巨大建造物に使う代物だ。きっちり巻きつけておけば、ひな形拳銃の弾丸ぐらいなら防げる。
「あなたの拳銃と俺のハンドガンでは威力が違う」
光学照準器は失ってしまったが、それでも充分な威力は期待できる。
「さらにあなたの鎧よりも、俺の鎧のほうが防弾に優れている」
パンっ。
ハンドガンの引き金を引くと、弾丸は近衛兵さんの鎧を貫く。
貫くと言っても、鎧を貫くだけで近衛兵さんの生命までは貫けない。
セオリー通りに俺も近衛兵さんの身体の中心を狙い、弾丸は近衛兵さんの胸に直撃。
死にはしていないが、胸部に風穴があいている。
「ごふっ」
近衛兵さんは自分の拳銃を落とし、胸を押さえて両膝をつく。
俺はそんな近衛兵さんに近づくが、肉薄するほど近づきはしない。
相手は死にかけでも、肉薄するほど近づくと噛みつかれることもある。
「約三メートル……この位置なら照準器なしでも外しません。訓練してきましたから」
危ない賭けであればある程……確実に、安全に、安心してやらなければならない。
そして俺は引き金を引き、パンっと音とともに最後の近衛兵さんの頭部を破壊した。
ハンドガンの残弾は残り三発……七人の近衛兵を倒すのに、十二発なら上出来だ。
近衛兵を無くしたとはいえ、相手は要人七人……残弾数の公表はしない方が良いな。
「さてと……」
銃口をさ迷わせるように要人に向けながら、俺はカーテン前の定位置へと戻る。
「両手を頭の上にあててうつ伏せになってください……逃がす気はありませんが、強制的に俺にやらせるとロクなことにはなりませんから、相当痛い思いをしますから……できれば、従っていただくとありがたいのですが……どうでしょうか?」
物騒なことを懇切丁寧に頼んでやると、一人二人と、要人たちは俺の指示に従う。
命は惜しいが痛いのも嫌だって……なんとも人間らしい答えでなによりだ。
人間だから人間を知っている主人公。
人間を知っているから逆手に取る主人公はやっぱり機械っぽい。
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ついでに一言
「思い出せ!
体育の時間で誰にも誘われず、三回連続で先生とストレッチをしたあの屈辱を!」
詠み人 反骨心で成功したジェントルマン