第二章 終戦と開戦1
続きです。
二章が始まります。
ちょっと嫌な気分になるかもしれません。
勝手に一言
「ご主人様、ご注文はなんですか?」
詠み人 人間界メイド喫茶定員
第二章 終戦と開戦1
普通なら階段からテラスへ直行なんてなく、その間に扉の一つでもつけておくはずだ。
しかし簡易テラスにそこまでは望めず、階段とテラスをカーテンで仕切っているだけ。
王族や貴族が使うと言っても、実用性重視なのは否めない。
だからテラス周りの警備に力を入れていたし、頑丈な鉄格子までこしらえていた。
だけどテラス周りを警備しているのも、鉄格子を守っているのも、兵士も騎士も親衛隊も所詮は人間であり、人間はどう足掻いても完全完璧になれやしない。
人間が作った防壁であれば、同じ人間が越えられないわけがない。
魔王の娘を含めた魔の者には当てはまらない、人間相手の盲点と言えよう。
「ホント、人間ってメンドクサイ生き物だと思いません?」
俺はカーテンを無造作に開け、いろいろな説明と経緯を凝縮した一言を言い放つ。
突然の闖入者に、真っ先に反応したのは最終関門とも言える近衛兵。
テラスには近衛兵が七人おり、七人はテラスにいる七人の要人に合わせた数だ。
対魔王軍のために組織された、通称討伐軍と呼ばれる人間の軍隊を作り上げた七つの王族と貴族であり、魔王討伐のために勇者を求め、奥方様の公開処刑を決めた連中。
面喰っている要人七人とは違い、近衛兵はすぐさま守るべき対象の前に出る。
「そうですとも……近衛兵ですからね、侵入者が入り込んだとしてもすぐ排除には向かわず、まずは主を守るために前に出る。先手必勝は兵士や騎士がやるものであり、近衛兵はむしろ護衛対象を守る盾のようなものです。ホント、正しい対応ですよ」
彼らが優秀な近衛兵なのはなんとなく分かる。
俺と戦って勝てる自信があったとしても、なるべく護衛対象から離れない。
勝てる自信があったとしても、万が一勝てなかった場合、要人を守る者がいなくなる。
勝つことよりも重要な、要人護衛は近衛兵にもっとも求められるものだ。
確実ではないが、近衛兵が攻撃に移るのは護衛対象の安全確認がすんでから。
確実ではないが、それでも一瞬の有余ができると判断したから俺は普通に入室した。
「鉄格子にカギをして、鍵穴も詰めておきましたから……逃がしませんよ」
鉄格子を鍵穴まで潰して閉めておいたのも、俺にとっての敵を入らせないためのものであり、獲物を逃がさないためのものだ。カーテンも、ちゃんと閉めておいた。
「逃がさないって?」
「きみはいったいなにをしたいんだ?」
いろいろな疑問をぶつけてくる近衛兵たちだが、返答よりも重要なことが始まった。
テラスの向こうで、奥方様の罪状が読み上げられている。
「魔王の花嫁になり、娘たちを産み育てたことは……どれほどの罪なのでしょうかね?」
愛した相手と結婚し、子供を作って育てることは、むしろ当然のことでしょう。
魔王は人間にとって脅威なのは認めるが……夫婦の営みや生活まで罪だとは思わない。
「まあ、良いですよ。認めますよ。俺も人間ですから、自分たちにとって悪と判断した相手に与した相手を悪と断じて捌くのは、むしろ当然なことですからね」
直接関与したわけじゃなくとも、手を貸したことで罰せられることもある。
魔王の花嫁なんて言われてしまえば、人間にとっては極刑ものなのだろう。
俺に魔王や奥方様への心情があるように、人間には魔王や奥方様に対する都合がある。
俺の心情で、他人の都合を否定するなんておこがましいマネはしない。
「質問に答えろ! 貴様はなに――」
パンっ――発砲音とともに声をあげた近衛兵の額を、一発の弾丸が貫いた。
「ハンドガンとはいえ、片手で撃つものじゃないな……反動軽減を考えよう」
前半は組み立てるだけで終わった、ハンドガン最大の見せ場がここだ。
俺は細身なほうで、腕の筋肉だって標準よりちょっと上ぐらい。
ハンドガンは片手で操作できるように作られているが、実際に片手で撃てるかと言えば微妙だ。両手で支えるように撃たないと、関節は外れずとも、腕はしびれる。
「射撃の訓練はちゃんとつんでいますが……本番で外すとシャレになりませんから、しっかりと照準器を使わせてもらいます」
光学照準器から赤いレーザーが放たれ、次の標的を定める。
近距離でも外す時は外すし、相手の額を的確に撃ち抜けるほど銃の名手じゃない。
ならば的の大きな身体を狙うのがセオリーだが、仕留めるには頭を潰すのが一番だ。
弾数制限もあるためそれなりの賭けになるが……勝つ確率を上げるための光学照準器。
俺の立ち位置から半円形に並ぶ七人の要人と七人……六人の近衛兵。
俺との距離はみんなだいたい同じだが、それでも俺と言うよりも、テラスから抜け出せるカーテンに近いほうから消していくのが効果的だ。
今度はしっかりとハンドガンを両手で押さえて――パンっ。
照準器は照準器でも、光学仕様のレーザーポインターに従い弾丸が近衛兵の額を貫く。
「貴様!」
仲間が二人やられたことにより、近衛兵の一人が飛び出そうとしてきた。
しかし俺はすぐさまそいつに向けて銃口を向ける。
相手が飛びだすよりも速く俺は銃口を向けられるし、なによりも彼らには恐怖がある。
「ぐっ」
近衛兵は銃口を向けられてすぐ、その恐怖によって足を止めてしまう。
「銃口を向けられるだけならまだしも、レーザーポインターによりどこを狙われているのが確実に分かってしまう。狙われているのが分かってしまうと、動きも鈍りますよね」
光学照準器の効果はここにもある。
光学照準器にあてられた相手は、次に撃たれるのは確実に自分だと自覚してしまう。
銃列によって対軍を相手にする場合はたいして役に立たない機能だが、少数相手であれば光学照準器のレーザーポインターは無言のプレッシャーとなる。
「逆に言えば自分でない他人が狙われている場合は、自分は絶対に狙われていないってことですけど……それが分かっていても、なかなかできませんよね」
俺は光学照準器の弱点のようなものを語りながらも、三度引き金を引く。
小さな音にもかかわらず、王族や貴族を守る屈強な近衛兵が簡単に死んでいく。
一人の犠牲者で俺の持っている武器が銃だと知り、二人の犠牲者で光学照準器の恐怖を知り、三人の犠牲者で光学照準器の弱点を知ったが……それはそれで織り込み積み。
「ひっ」
自身の近衛兵を失った要人の一人へと光学照準器を向けた。
だれが狙われているのか、この場にいるだれもがこれで分かってしまう。
「だれが死んでしまうのが分かったのであれば、みなさん動かないことをお勧めします」
ここにいる七人の王族と貴族は、討伐軍や勇者を組織した人物たち。
現場で魔王軍と戦ったのは討伐軍であり、魔王を討伐したのは勇者のパーティーだ。
仮にただのお飾りだったとしても、七人の王族と貴族が死ねば討伐軍は統率を失う。
それでも近衛兵が四人いれば、俺を取り押さえることは充分に可能だろう。
もちろん、レーザーポインターで狙われている相手は確実に死んじゃいますけどね。
そして狙われているのがだれなのかが、自分や周りの人間たちは理解できてしまうからこそ、そこには困った弊害が出てきてしまう。
その弊害の一部を表に出すために、俺は近衛兵を失った別の要人へと照準を移す。
「まっ、まて、まってくれ!」
狙われている証でもある赤い光に当てられ、慌てふためく要人。
「今なら抑えられる!」
「行け!」
自分が狙われているわけじゃないと、近衛兵に指示を出す要人。
「はやくそいつを――うひゃっ」
三人目の近衛兵を失った要人へと照準を移すと、さっきの勢いはどこへ行ったのやら。
自分じゃなければそれでいいと……我が命の可愛さよってね。
「実に、人間らしくて良いですよ」
この生きることへの執着心は、俺は決して無様だとは思わない。
だけど早く判断したほうが良いのは事実だ。
ルーレットのように近衛兵を失った要人へ向けていた照準を、一気に近衛兵と向ける。
要人が死ぬのであれば私が死ぬと、一瞬で覚悟を決められる人間なんて滅多にいない。
できたとしても、狙われている本人と、狙われていない仲間との連携は、そんな状況をあらかじめ考慮した訓練が必要であり……そんな訓練を近衛兵はしていない。
要人を守る訓練はしていても、だれかの犠牲を強制して犠牲を踏み越える訓練なんて、やろうともしないだろう。近衛兵のそんな心理状態を考慮して行動すれば、近衛兵たちが動き出す前にレーザーポインターを額にもっていくことは可能だ。
しかも照準器が着弾点を照らしてくれるので、俺は無駄弾を恐れず引き金を引ける。
パンっ――これで四人目。
だんだん主人公の本性が出てきます。
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ちょっと嫌な気分になるかもしれません。
ついでに一言
「一番かわいいのを頼む」
詠み人 天界どや顔のあいつ