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戦争人間  作者: ジュリー
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メディア戦略5

続きです。

エルフ少女の過去を取り出し、戦争人間の象徴とも言える戦闘機で編集します。

そして作り出されるのが、現実世界でも一種の兵器として使われる代物です。

勝手な一言

     「俺の『筋肉』は未だに成長期」

                   詠み人  筋肉妖怪

 第六章 メディア戦略5



 エルフ少女の記憶をシンラで編集して映像化する。

 俺とシンラは精神リンクしており、俺が眠っている時もシンラはエネルギーがつきない限り編集し続けてくれる。

 高性能戦闘機は、高性能コンピューターを搭載している。

 そして形になった映画を、ハンニバルとヤシャ相手に上映してみた。

 まず基本情報としてあるのは、エルフ少女の名前と年齢。

 名前はショーティア=マクレディ。年齢は五十四歳。

 五十四歳と言う年齢はエルフの中ではかなり若い方で、人間なら十代前半。

 世界大戦どころか人魔戦争の時から人間たちによる迫害を受けており、ついには住んでいたエルフの村を人攫い集団が襲撃してきた。人間にとってエルフの村はそれこそ金脈のようなものであり、人攫いたちは村に住んでいたエルフたちをこぞって攫って行く。

 ショーティアは両親と一緒に村を逃げ出したが、隠れ潜むために両耳を切断。

 それから安全な国へと亡命するため、船に乗り込むも正体がばれてしまう。

 逃げ場のない船の上で両親ともに捕まり、傷物のエルフは値打ちが下がるため父親は奴隷取引の『間引き』により斬殺。死体は海に捨てられた。

 船に乗せられている間、母親は船員たちの嬲り者にされ、幼いショーティアはその手のマニアどもの観賞用として船に飾られた。

 船から降りると改めて奴隷取引が始まり、親子ともども遊郭に売り飛ばされた。

 見世物にされ、嬲られ、触られ、舐められ、舐めさせられ、奪われ……心身ともに疲れきり、飽きられたと言う理由で母親だけが転売された。

 ショーティアは母親が抜けた損失の穴埋めだと言いがかりを付けられて、扱いはさらに酷いものへと落ちていく。

 そんな扱いを受けているなか、遊郭に人間の強盗が押し入った。

 遊郭の店主は殺され、金品を奪っていく強盗だが、奴隷も金品の一つであり、ショーティアを含めて遊郭の商品が根こそぎ持って行かれた。

 強盗たちの奴隷の扱いは遊郭よりもひどく、ショーティアも気晴らしで何度も暴行を受けた。

 暴行を受けてさらなる傷物になったショーティアは、強盗から奴隷商に転売されるときに値切られ、どこかの傭兵部隊の世話係として買われた。

 世話係と言うのも真っ当なものじゃなく、朝は雑用に費やされ、傭兵たちの身体を洗うために一緒にお風呂に入れさせられ、全員洗い終えれば傭兵たちが寝るまでの相手をさせられた。その時に酔った傭兵がショーティアの左目を突き刺した。手当てすれば治ったかもしれないが、傭兵たちはショーティアを放置し、左目は腐り落ちた。

 傭兵部隊が撤退すると、ショーティアは再び奴隷商に売られた。

 傷物の傷物は高く売れず、値切られたショーティアは買われて売られての繰り返し。

 買われて、傷物にされ、売られて、買われて、傷物にされ、売られて――負の連鎖。

 雪国で犬小屋のような狭い部屋に五人の奴隷を詰め込まれ、五人は身を寄せ合うように温め合ったが高齢の人間奴隷が死んでしまい、ショーティアはその時の主人に死体を捨ててこいと命じられた。ショーティアは自分よりも大きな人間奴隷を山に運び、凍った地面を砕くように穴を掘り、人間奴隷を埋葬した。死体を埋葬したショーティアが主人のもとへ戻ると、死体を捨てるのが遅いと言われ、暴行を受けて食事も抜かれた。

 これが負の連鎖における一つのエピソードだ。

 負の連鎖に落ちて三十年近くたった頃、ショーティアの心を砕く事態が起きた。

 流れ作業で転売されたショーティアの前に、離れ離れになった母親が現れた。

 ショーティアは数十年ぶりに心に明かりがともったが……それも、一瞬だ。

 母親が数十年でどんな扱いを受けてきたのか、ショーティアには想像もできないが、母親の目にはショーティアの姿が映っていない。

 生きているはずなのに、なにを呼びかけても母親はショーティアに反応しない。

 何度目かの呼びかけに、虚ろな母親はようやくショーティアに目線を向けた。

 光の灯っていない母親はショーティアを見て『なん、でも。おもう、し、つ。け。くだ、さい。ご、しゅ。じん、さ。ま』と、その言葉だけを繰り返し喋り始めた。

 母親は娘を認知できず『なんでもお申し付けください、ご主人様』だけを繰り返す。

 壊れてしまった母親の姿に、ショーティアの心が砕け散った。

 変わり果てた母親は、そのまま廃棄物として連れて行かれた。

 逆らうこともなく、初対面の『ご主人様』の命令により、母親は自分から捌かれに行く。

 ばら売りのために自分から解体される母親を見たショーティアの心には、もうなにもない。

 ショーティアは……生きるが、分からない。

 ショーティアはばら売りにされる母親を見ながら、通りすがる奴隷商に乞う。

『私を買ってください』

 なぜ、こんなことを言っているのか、もう分からない。

 生きるが分からず、死ぬも分からず、繰り返される転売だけがショーティアに残った。

 売られても、私を買ってください。買っても、私を買ってください。

『私を買ってください。私を買ってください。私を買ってください――』

 それから十年もしないうちに、ショーティアは廃棄物として捨てられた。


 ***


 ハンニバルの私室を拝借し、スクリーンを張って上映してみた。

 ショーティアの人生五十四年分を二時間にまとめるのはきつい作業だったが、俺と精神リンクしているシンラがうまく仕事をしてくれた。

「映画とは、気分の悪くなる映像演劇のことだっけ?」

「それは誤解だ、ハンニバル。映画は基本的に娯楽であり、情報発信の媒体だ」

 ハンニバルは映画の意味を知っているはずだが、この作品は絵本好きには不快だろう。

「人間の持つ残虐性と非道性は伝わったよ」

「それは正解だ、ヤシャ。この映画のテーマは人間の闇そのものだ」

 ヤシャは基本的にこう言うのも大丈夫だ。

「こんな人間ばかりじゃないと理解はしているが……こんな人間を見ていると、人間であるお母様とユーヤが不憫に思えてしまう」

 ハンニバルが不快になったのは、映画のできよりもそっちの感情が強かったかららしい。

 ともかく、現代魔王の長女と次女がこの様子なら充分な効果も望めよう。

「でもさ、この映画をユーヤはどうする気?」

 ヤシャは首をかしげながら、無線でシンラと繋がっている映写機をつっつく。

「映画を作ったのであればやることは一つだろう」

 ハンニバルとヤシャに頼んだのはただの試写会だ。

「ユーヤのやり方は陰湿だね……剣と魔法で戦う人間に、メディア戦略を仕掛ける」

「さすがハンニバル。統括能力関係なしに頭が良い」

 俺の作ったこの映画が、人間界ではどれだけの問題作かを理解している。

 魔王でも問題作だと分かるのであれば、人間にとってこの映画は兵器に等しい。

「また人間界での活動が始まるけど……今回もヴァージルとリノアを連れて行くよ」

 試写会もそうだけど、ハンニバルに予定を話しておかないと俺も怒られる。

 ヴァージルを置いて行くとボコられるので、今回は自発的に連れて行く。

「たまには私も行きたいな」

 ヤシャがつぶやくものの、ヤシャの同行はハンニバルが認めない。

「ヤシャが人間界へ行くのであれば、最低でもあと5人の妹を魔王城に戻す必要がある。各地で活動している妹たちを、いきなり戻す訳にはいかない」

 ハンニバルはもちろんだが、ヤシャだって十五姉妹の次女であり、姉妹における暗黙の序列として第二位に君臨している。

 ハンニバルは姉妹の中でも優秀なまとめ役だが、忘れちゃいけないのはハンニバルだって魔王としてはまだ若い。

 なんだかんだで、ヤシャはハンニバルがもっとも頼りにしている相手だ。

「分かってるよ。これでもおねーちゃんだから、妹たちに活躍は譲ります」

 ヤシャも感覚派の本能派だけど、姉としての立場は自覚しているらしい。

 俺としても、ヴァージルやリノアはともかく、ヤシャが人間界で自由行動なんてされると大いに困る。

 ここはハンニバルの護衛兼サポートとして魔王城にとどまてもらう。

「ユーヤもヴァージルとリノアを連れていくのは構わないけど、二人にレポートの作り方を教えてやれ」

 ヤシャを連れていくのも大変だけど、それはそれで大変だ。

 二人のレポートは俺も見たが、見事なまでに小学生の作文レベルだった。

「まあ……あいつらも魔王だからな」

 自由気ままに遊びまわるのもあいつらのいいところでもあるが、魔王城は魔界の中心でもある。

 せめて多忙な長女の負担を軽減させる努力はさせた方がいい。

「分かった……まあ、やるだけやるよ」

 あまり自信はないが、ハンニバルも過剰な期待はしないだろう。

「それとヴィンセントとミヤビが、ショーティアについて報告があるそうだ。またエルムを保護したらしいから、仮眠室によってくれ」

 そしてハンニバルからの最後の報告を聞く。

 なにをやっているのかは知らないが、臨床試験の報告だろう。

 俺もショーティアについては無関係でもないので、報告は聞く義務がある。

「分かった。人間界へ行く前に、そっちの方にもよっていくよ」

 俺はうなずき、次の目的地として機械工学研究所の仮眠室へ向かう。

メディア戦略とありますが、よするに戦争人間が人間界に仕掛けるのはプロパガンダです。

奴隷少女の日常をノンフィクションで世界中の人間たちが知ってしまった場合、人間は自分たちの行いに対して何を思うのでしょうか?

あなたたちが食べているパンは奴隷の肉であり、あなたたちが飲んでいる水は奴隷の血であり、あなたたちが住んでいる家は奴隷の骨です。

これは比喩ですが、自分たちの生活がどうやって成り立っているのかを、何も知らない一般市民の方々にも知ってもらいましょう。

自分たちのための犠牲もしっかりと知ってもらって、そこから世界大戦を考えていきましょう。

戦争人間はそれを人間界に叩き付けるために、奴隷少女の記憶を欲しました。

戦争人間のメディア戦略により人間界がどう動くのか?

そしてショーティアは今後どうなるのか?

さて、久しぶりに……続きが見たいですか?

ちょっと嫌な気分になるかもしれません。

ついでに一言

     「究極は『赤と仮面』により完成する」

                   詠み人  宇宙で一人ぼっち

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