メディア戦略3
続きです。
ユーヤはエルフ少女を連れて夢游魔王エルムの夢世界へ向かいます。
どうでもいいことですが、エルフとエルムでは一文字違いで呼びづらいと思いましたが、個人的にエルムと言う響きが好きなので採用しました。
最終的には個の力ですよね。
勝手な一言
「背中に『亀』こそ最強の原点」
詠み人 頭を打った異星人
第六章 メディア戦略3
意識が沈む――と、自分でも良く分からないうちに夢の中だ。
夢と言っても、俺の夢じゃない。
「ゆーやー」
空には太陽があり、四方はヒマワリに囲まれていながらも、床はフローリングの空間。フローリングにはぬいぐるみやらトランプやらボードゲームやらが散乱し、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような印象を受けた。
そんなぐちゃぐちゃの空間で、俺に向かって手を振っている少女が一人。
現実だと夢遊病でふらふらとしているが、夢の中だと元気な夢遊魔王エルムだ。
現実では眠っているエルムが、夢の中では元気溌剌な駆け足で俺に飛びついてきた。
「だぁー」
良い笑顔で迎えてくれるのは嬉しいが、女の子なのだからもう少しお淑やかになろう。
そんなことを考えて見たが、俺もエルムに甘えられるのは嬉しいから不問だ。
俺はエルムを抱きかかえて『たかいたかい』をすると、エルムも歓喜した。
「俺を招いてくれてありがとう」
「うん」
俺がお礼を言うと、エルムはますます上機嫌になる。
ここはエルムの夢の中であり、エルムは能力範囲内で眠っている相手を判別して自分の夢へと招くことができる。能力範囲はエルムの成長に比例して大きくなり、現在はだいたい魔王城の居住区を範囲内に収めることができるらしい。
姉妹や厄神母子が眠っていると、エルムは自分の夢へと招いて遊びをねだる。
もっとも夢の中でエルムと遊びすぎると、招かれた側は寝ているにもかかわらず疲れてしまうため、たまにハンニバルに怒られてしまうこともある。
そんな事情もあり、エルムは範囲内にいる相手の眠りの質も操れるように訓練した。
十分の睡眠で八時間の睡眠を補えたり、眠りの浅い姉妹を熟睡させたり、逆に寝起きの悪い姉妹の眠気を奪ったりもできる。エルムに頼めば不眠症とは無縁の快眠が約束され、しかし悪用すれば悪夢にうなされることも睡眠が奪われることもある。
現代魔王の特徴として、極端なほど偏った能力は単純な戦闘力より性質が悪い。
一方で本体は眠っているため叩き潰すのは簡単であり、単純な戦闘力で言えばハンニバルよりも寝ぼけている分低いと言えよう。
魔王にはあるまじき貧弱さだ。
そのあたりも含めて、現代魔王は極端な能力者の集まりだ。
ちなみに、四年前に俺が魔王城に入院していた時、母さんに起こされて奥方様の出産に立ち会う夢を見たが、あれはエルムが俺の願望を夢にして見せてくれたものだ。
せめて夢の中では穏やかにという、エルムなりのやさしさだろう。
もっとも、目が覚めた時の喪失感は半端なかったが……今よりも幼かったエルムにそこまで望むのは難しい。
「ユーヤは遊んでくれるの?」
エルムについて考えていると、エルムはいつものように遊びをねだる。
「いっぱい遊んであげるけど、お願いを聞いてくれないか?」
別に交換条件ってわけじゃないが、やってくれると俺としても嬉しい限りだ。
エルムが嫌ならさせる気はないし、だからと言ってエルムを無視はしない。
お願いはお願いとして、俺はエルムと遊びに来た。
「お願い?」
エルムは俺に『たかいたかい』状態で首をかしげていた。
お願いはお願い、遊びは遊びだけど、エルムは交換条件の意味すら知らない。
魔王の成長速度は個々によって違うが、それでもエルムは十五姉妹の十三女の幼いお子様だ。
「……エルムの近くにさ、もう一人寝ているやつがいるだろう?」
「うん、いるよ。厄ママでもお姉ちゃんたちでもないから、そっとしてある」
無差別に招くとハンニバルに怒られることを、ちゃんとエルムは学んでいる。
少なくとも、知らない相手をいきなり招くようなことはしない。
「そいつもここに呼んでくれないか?」
「そのひともエルムと遊んでくれるの?」
「んー……遊んではくれないかな」
今のエルフ少女では、夢の中に招いたとしても遊べないだろう。
ちょっと残念そうなエルムだけど、それでもエルフ少女を夢の中へと招く。
エルフ少女が俺の隣に現れると、エルムも俺の手から離れてエルフ少女を観察。
エルフ少女は夢の中でも通常通り『私を買ってください』とエルムに乞う。
「エルムは買わないよ?」
首をかしげながらエルフ少女に答えるエルムは『変なの』と笑う。
エルフ少女の心が壊れていることに、エルムは気づいていない。
「ねぇ、痛くない?」
心が壊れていることは気づかないが、肉体が壊れていることは見れば分かる。
夢の中でも、現実世界での身体はしっかりと反映されている。
「わ。たし、を。か、てくだ。さ。い」
「あははっ、エルムは買わないよー」
想像はできていたが、こいつらの会話は基本的に成立しない。
「エルム」
埒のあかない会話に、俺が見切りをつけて改めてエルムを呼ぶ。
「なぁに?」
「このお姉さんの夢を取り出せるかい?」
脳から記憶をうんたらと説明したところでエルムには分からず、単純に夢を取り出してほしいとお願いしたほうが混乱も少なく理解も早い。
「できるよ」
「じゃあ、やってくれるかな?」
「あーい」
エルムは元気よく両手をあげ、エルフ少女に夢の世界で生み出した数匹の蝶を飛ばす。
「蝶夢〈夢綴り〉」
エルム専用の魔法により、蝶はエルフ少女に止まり、まるで蜜でも吸うように羽を閉じたり開いたりしている。
エルムは『チョウチョ♪ チョウチョ♪』と歌っていた。
エルムのこの魔法は夢を綴るものであり、蝶で相手の記憶を保存する。
蝶で記憶を綴られているエルフ少女は、夢の中にもかかわらず眠りにつく。
俺はエルフ少女を抱きかかえるようにして、ゆっくりと横にさせる。
現実でも寝ている相手を夢の中でも眠らせる……なんとも不思議なエルムの夢世界だ。
エルムの綺麗な歌声を聞き、一通り歌い終わってから俺はパチパチと拍手した。
エルムは俺の拍手に答えてパジャマの裾をあげて一礼し、にっぱりと笑う。
「お姉さんの夢を綴るにはもう少し時間がかかるみたい」
エルムの歌は終わっても、蝶は未だにエルフ少女に止まったまま。
「長生きさんなんだねー」
詳しい説明をエルムに求めるのは無粋だが、ようするにエルフ少女は長寿で有名なエルフの特徴通り、見た目通りの年齢ではないらしい。
人間のように見た目で年齢を判断してはいけないと、これは魔王にも言える。
「じゃあ、お姉さんが起きるまで俺と遊ぼうか」
「やったー!」
夢の保存が終わればエルフ少女も目を覚ます。
それまでエルムといっぱい遊ぼう。
そしてエルムはおもちゃ箱な部屋からオセロを拾う。
俺は床に座ると、エルムは対面ではなく、俺の膝の上にちょこんと座る。
若干遊び難いが、俺が合わせれば良いので、俺とエルムはオセロを始めた。
映画制作のためにエルフ少女を連れてきたわけですが……なぜこの子でなければいけないのかは、現代社会の問題を考慮すれば想像がつくかもしれません。
ついでに一言
「額に『肉』こそ王者の証」
詠み人 牛丼超人




