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戦争人間  作者: ジュリー
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奴隷少女2

続きです。

意外かもしれませんが、主人公は基本的に無法者ではありません。

その国の法律は守りますし、税金だって払いますし、合法のものとで行動します。

奴隷ビジネスも、奴隷商売が合法の国を選んでやってきました。

感情的には奴隷制度に反対な主人公ですが、合法であれば利用します。

だって合法的に動いている以上は怪しまれても捕まりません。

裏を返せば、これは危ないことをするために必要な、安全対策の一つです。

勝手な一言

      「俺の覚悟なら、すでにできあがっていた」

                   詠み人  反逆アッサシーノ

 第五章 奴隷少女2



 ヴァージルとリノアが人間界の空気に馴染み、人攫いを攫えば荒野に用はない。

 襲われやすい荒野から、まだ街道としてかろうじて機能している道を進む。

 この街道は人攫いの商売相手も利用しているため、商売を成り立たせるためにも最低限の暗黙のルールがある。

 奴隷商を襲ってしまいましたでは、奴隷の買い手もつかない。

 そんな街道を、俺たちは五人の人攫いを鎖につないで歩かせる。

「やめてくれー!」

「すまない……」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 人攫いたちは、悲鳴のような奇声のようなものをあげている。

 奴隷を従順にするために暴力を使う場合もあるが、それにはそれなりのやり方がある。

 五人の奴隷に順番制で鞭を持たせ、順番制で鞭打ちをすればいいのだ。

 一人に鞭を持たせて四人を監視させ、時間がくれば別の奴隷に鞭を持たせて四人を監視させ、それを順番に繰り返して行けば逆らう気力を無くす。

 鞭を打たれた奴隷は鞭を打つ奴隷に不信を抱き、鞭に打たれた奴隷が鞭を持つと鞭を持っていた奴隷を容赦なく叩き、そして容赦なく鞭を打たれた奴隷が鞭を持つ番になるとさらに容赦なく鞭を打ち……これを繰り返して行けば、奴隷同士に不信感を抱かせつつ、鞭を打つことと打たれることの恐怖により心が折れる。

 奴隷に不要なのは互いへの信頼だ。

 一緒に仕事をするためにチームワークが必要な場合は多いが、奴隷という極限の生活を共にしていると奴隷同士に連帯感が生まれてしまう。

 連帯感は互いへの馴れ合いと信頼を生み出し、逆らうときも一緒に逆らう。

 そうならないために、自分たちで自分たちを監視させ、自分たちで自分たちに鞭を打ち、自分たちに対する不信感を植え付けておくのだ。

 そうしておけば逃げようとしても『おまえだけ逃げる気だな!?』と、勝手にもめる可能性が高くなり、結果として奴隷は逆らわなくなる。

 ここでお互いへの信頼なんてものがあると『俺はいいから先に行け』と言う、自己犠牲理論が生まれかねない。

 単純に考えればこちらは三人で、相手は五人で、その気になれば一人か二人は逃げられよう。

 しかし自分たちへの不信感がそれを許さない。

 だから同じ人攫いの仲間にもかかわらず、彼らはもう仲間を信じていない。

 もともとは寄せ集めの烏合の衆であり、リーダーの統率なしではこんなものだ。

「これって銅貨?」

 そして俺が奴隷たちから信頼を消している最中に、ヴァージルは人攫いから手に入れた人間界の通貨を手にしていた。

 赤茶色の(しゃく)(どう)製のコインを弾いたり嗅いだりしている。

「あまり質が良くないですねぇ」

 リノアもヴァージルが遊んでいる銅貨を手にし、手触りを確認している。

 魔界でも銅貨はあるが()(がた)製法なので手触りも均一であり、製造番号がふられているため偽金対策もできている。

 通貨としての質を考えれば、魔界の方が優れているだろう。

「人間界にも鋳型製法はあるが、それは銀貨や金貨に使われる場合が多い。一般的に使われている銅貨は、比率を合わせた銅板をくり抜いて作った粗末品だよ」

 今後のためにも、二人には人間界の通貨に対する説明を軽くしておく。

 人間界の通貨は基本的に金貨、銀貨、銅貨が主流。

 もちろん、金が高くて銅が安い。

 国や地方によっては紙幣も使われているが、世界共通通貨がこの三つだ。

 金貨は貴族や金持ちが使うものであり、銀貨は嗜好品や贅沢品に使われる場合が多く、銅貨は食料品や日用品など一般市民の多くが多岐にわたって使うものだ。

「あっ、銀貨見っけ」

「こっちにもあった」

 銅貨の他にも銀貨があったらしい。

 全財産かどうかは知らないが、手持ちで銀貨が数枚あればたいしたものだ。

 金貨が一枚でもあれば褒めてやったが……人攫いをしているような連中が現金を溜めこむとも思えなかったので、売っちまって現金を補充しよう。

「銅貨と銀貨は何枚ぐらいだ?」

 財産確認のために、ヴァージルとリノアがいじっている通貨の枚数を訊ねた。

「銅貨五十七枚に銀貨十六枚、かな?」

「まって、銀貨一枚挟まっていたから全部で十七枚だよ」

 報告を聞いて、まあそんなもんだろうと思った。

 とりあえず、当面の滞在費と目的物の購入代にはなるだろう。

 そしてヴァージルとリノアの話し相手をしながら、頭の中で人間界滞在に対する見積りを細かく計算して行く。

 なんだかんだで、戦時中は物価が高いので困りものだ。

 足元を見られないように、むしろ足元を見るつもりで臨まなければ、あっという間に俺たちの方が破産する。

 プライベートや土産物であれば俺も喜んで自腹を切るが、こんな戦災ビジネスに自腹を切る気は毛頭ない。


 そんなこんなでやってきたのは、無法地帯ではかなりマシな薄汚い町。

 戦火を逃れた町ではあるが、敗戦国の町なので人間の落差が激しい。

 敗戦国の住人は肩身を狭くし、戦勝国の住人は人身売買を含めた奴隷商売を合法として行い、敗戦国でも戦犯とされた住人は家族諸共商品として陳列している。

「汚い町だな」

 ヴァージルは平然と町を侮辱する。

「仕方ないよ、だってみんな目が死んでいるもの」

 リノアは平然と町の住人たちを侮辱する。

 しかし二人の意見はだれもが賛同するだろう。

 賛同しないものがいるとすれば、ここよりも汚くて死んでいる場所の出身者だ。

「自由時間はあとで取ってやるから、今はついてきてくれ」

 ヴァージルとリノアを自由にさせるのもリスクはあるが、ハンニバルの統括決定には二人とも従うはずだ。

 少なくとも魔王だとばれるような行動は取るまい。

 多少俺からも条件をつけるつもりだが……今はやることをやりたい。

「なにすんの?」

 人攫いを捕まえてやることなんて一つなのだが、ヴァージルは深く考えない。

「人間売るのは良いけれど、当てなんてあるの?」

 リノアの方はまだ賢い。

「当てってほどでもないが……この町の中心街は奴隷市だ。一概に奴隷商と言っても買い専門と売り専門の業者がいる。まあ、両方やるやつもいるが……それはともかく、買い専門には肉体労働用に腕力と体力のある男性を欲する業者もいる」

「その業者さんにこの人間たちを売るの?」

「まあな」

 軽く説明してやるとリノアは納得。

 ヴァージルは捕まえた人間たちの鎖を引っ張ったり、抓ったりして遊んでいた。

 ヴァージルのほうが『他人の話を聞かない病』は深刻なようだ。

 それならそれで俺の方が合わせていくほうが利口だな。

「ヴァージル、そいつらの鎖を引っ張って連れてこい」

「はーい」

 良い返事を返したヴァージルは人間たちの鎖を引っ張り、俺の後についてくる。

 町の中心部にまで連れて行くと、そこには鎖と檻が参列していた。

 鎖に繋がっているのは人間で、檻の中にいるのは人間で、鎖に繋げているのは人間で、檻の中に放り込んでいるのも人間だ。

 活気のある市場だが、売っているのも売られているのも主に人間だ。

「生臭いし、鉄臭い」

 リノアは鼻をつまんで顔を曇らせた。

 生臭いのは不衛生な人間の臭いで、鉄臭いのは鎖と檻にはびこる(さび)の臭いだ。

「ダメだなぁ、これぐらいヴィンセントお姉ちゃんのオイル臭より全然マシじゃないか」

 リノアの表情が面白いらしく、ヴァージルは大笑いする。

 油や金属の臭いなど、機械を受け持つ発明魔王ヴィンセントの研究所に溢れている。

 ヴィンセントの発明品をおもちゃ感覚で悪戯していたヴァージルからすれば、この程度の臭いなんて気にもしない。

 リノアもヴァージルと一緒に悪戯していたのだが、それでも馴れはしないようだ。

「不快な臭いではあるからな……とっとと用件を済ませよう」

 俺もリノアの気持ちも分かるから、長居は無用だ。

 奴隷を買ってくれる業者を探しにふらふらと歩いて行く。

 多種多様の奴隷たちの中には、人間以外の人間もちらほらと見て取れた。

 人魔戦争まではかろうじて人間だったのに、世界大戦では正式に魔物扱い。

 人間界ではもともとそれ以外の人間を奴隷にしている国や地域は多かったが、世界中で完全に合法化されてしまい人間につかまれば一生奴隷だ。

 それでも敗戦国の人間奴隷より、それ以外の人間のほうが稀少種族なため高額だ。

 もっともそれ以外の人間のほとんどは傷物であり、完全に割引価格。

 傷物でない稀少種族の奴隷は、高級奴隷商などでしか扱っておるまい。

 目的物は奥の方へ行かなければなさそうだが……まあ、今は処分が先だな。

 奴隷市を回っていると、俺の目的に見合った買い専門の奴隷商を見つけた。

 荒野開拓のための肉体自慢を求めており、捕まえてきた連中にぴったりな条件。

 奴隷を売りたい旨を店主である中年のおっさんに告げると、おっさんは五人の男たちの値踏みを始めた。

 これでも荒事を生業としていた連中であり、体力と腕力は充分。

 しかも身元なんてあるわけもなく、あったとしても証明なんてできない荒くれ者。

 買ってしまえばいくらでも代えの効く消耗品であり、使い物にならなくなったとしても遺族などに与える保証金などいらない。

 まさに奴隷としてはうってつけの存在だ。

「いいだろう。仕事を教えるのに調教が必要だが、この体躯(がたい)ならすぐに使えそうだ」

 お目が高いおっさんは、こいつらを買ってくれるらしい。

「さっそく値段交渉だが……おまえさん新顔みたいだが、相場は知っているかい?」

 俺は奴隷の売買なんてしたこともなく、おっさんも俺が少なくともこの地域で商売している人間じゃないと気づいているようだ。

「成人男性の相場は、一人につき銀貨一枚と銅貨五枚ですよね」

「なんでぇ、知ってんのかよ」

 おっさんは少し残念そうだ。

 俺が素人なのはともかく、相場も知らない輩なら安く仕入れるつもりだったのだろう。

 相場も知らないやつが奴隷商に手を出して大損するなんて、良くある話だ。

「ですが、新顔なのは事実なので、一人につき銀貨一枚で良いですよ」

 安く仕入れるつもりの相手なら、こちらも安く提供しよう。

「良いのか? 五人分で銅貨二十五枚は結構な値打ちだぞ?」

 おっさんも俺からの値引きに若干戸惑っていた。

 もちろん、俺だってただで値引くつもりはない。

「正直な話、俺は在庫処理にきただけです。高く売るに越したことはありませんが、在庫を残さないことのほうが重要なんですよ。奴隷とは言え食事を与えなければ死んでしまいますからね。下手に交渉して(こじ)らせるより、叩き売りの方が維持費はかかりません」

 捕まえたのはほんの数時間前だが、こんな連中といつまでも一緒にいる気はない。

「淡泊なお客さんだが、奴隷にエサを食わせるのも金がかかるからな、気持ちは分かるよ」

 共感されてしまったが、まあそれは良いさ。

「それに、銅貨二十五枚分聞きたいことがありましてね」

「おいおい、おいらは情報屋じゃねーぞ」

 在庫処理でもそこまでの値引きはしませんと、俺は愛想笑いを浮かべた。

 おっさんも、値引きはおいしいので本気で断るそぶりはない。

 もっとも奴隷商なら銅貨二十五枚でも聞けない情報は多いが……そこまでは求めない。

「中古の奴隷を売っている業者を教えてくれませんか?」

 奴隷商に奴隷商のことを聞くのは、同業者感情としてはいろいろとあろうが、買い専門の奴隷商に売り専門の奴隷商を訊ねるのであれば、対して気分を害さない。

「中古奴隷? 高級奴隷はともかく、新品奴隷じゃなくていいのかい?」

 気分を害さないどころか、気を使って新品店を進めてきた。

 さすがに俺みたいな若造が高級奴隷なんて買えやしないが、手頃な値段で新品奴隷を買えるお店の目星ならつくらしい。

 先程の銀貨五枚なら、手頃な新品奴隷も買えよう。

「中古が良いんですよ。使い古して安いやつを扱っているお店を、お願いします」

「変な趣味だな……もしかして、中古品の大量買いかい?」

「ちょっと違いますね……中古品から掘り出し物を見つけたいんですよ」

「掘り出し物ねぇ……まあ、銅貨二十五枚も値引かれてただでは帰さなんよ」

 銅貨二十五枚が決めてのようで、おっさんも中古奴隷店をいくつか教えてくれた。

 お店の名前と場所と、たまに路地裏で露天商まがいの中古奴隷店が出るらしい。

 露店の奴隷店は粗悪品が多く、中古ですらないとおっさんは笑っていた。

「貴重な情報、ありがとうございます」

 俺が律義に頭を下げてやると、おっさんも『どういたしまして』と手を振る。

 銀貨五枚で売られた五人組は、怒りと屈辱以上の恐怖の目を俺に向けてきた。

「俺たちを奴隷として売る気満々だったのであれば、俺たちに奴隷として売られてしまうのも自然な流れですよ」

 当然のことを彼らに言い残し、俺はヴァージルとリノアを連れてその場を去る。

どうでもいい話ですが……ここ最近の『一言』には共通点があります。

気づいている方もいるかもしれませんが、私は『あの作品』のただのファンです。

三部で終わってしまいましたが……それでも私は、続きを切に望んでいるだけのただのファンです。

願うだけならいいだろう! と、叫びたくなる時もあります。

心底どうでもいい、私の心情の話でした。

ついでに一言

      「やがて黄金は邪悪を踏み台に君臨する」

                   詠み人  若きギャングスター

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