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戦争人間  作者: ジュリー
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第五章 奴隷少女1

続きです。

魔王の娘二人と人間界へやってきますが、やっていることは物騒だけど基本的に楽しくやっています。

勝手な一言

  「素晴らしい! 最低なきみたちなら最高の子供が作れる!」

                 詠み人  小作り相談所

 第五章 奴隷少女1



 ヴァージルとリノアを連れての人間界。

 人間界の危険度はハンニバルも承知しているはずだが……ヴァージルとリノアに俺の護衛をさせたいのか、それとも癇癪を起こす前に妹を俺に押しつけたのかもしれない。

 まあ俺としても、血の気の多い魔王の娘がじっとしているとも思っていない。

 勝手に動き回られるよりは、俺の眼の届く範囲においておく方が安全だ。

「厄塚と厄災の海ってこんなふうに繋がっているんだね」

 シンラの同乗者として乗り込んだヴァージルが、厄災の海の航海を初体験した。

 魔王とは言え、厄災の海は管轄も性質も違うので単独の航海は難しい。

 だから先代魔王が作った人間界とのルートを使えば良いのだが、シンラに乗ってみたいという理由で、わざわざシンラの乗船してきた。

「厄災の海もそうだけど、人間界に来るのも初めてだね」

 シンラの同乗者として乗り込んだリノアが、人間界を初体験した。

 先代魔王は何度か人間界へ攻め込んだが、娘たちを連れていくことはなかった。

 人魔戦争終戦後に視察や物資調達に向かう娘もいたが、それだって戦闘力が高くて精神的にも成熟している娘に限られている。

 ヴァージルとリノアは戦闘力があっても精神的にムラがあり、目先の衝動にかられて目的を忘れ遊び始めてしまう可能性が高い。

 保護者同伴でなければハンニバルも許可は出すまい。

「でもさ、ここって山の上空?」

「雲海って言うのかな……雲が下に見える」

 今回使用した厄塚は高い山の山頂付近に建てられたものだ。

「東洋では、山は神の座する場所と言われている……だから神様は降臨しやすい」

 世界中で祀られたり恐れられたりしている神様は多いが、母さんが厄神として人間界に初めて降臨したのは東洋の霊峰。

 厄災の海で生まれた母さんを厄神として恐れ祀ったのが東洋の国だったため、山に建てられた厄塚は厄神にとって絶好の降臨地となった。

「さて、観光にきたわけでもないし……おまえたちにも手伝ってもらうぞ」

 遅かれ早かれ血気盛んな若い現代魔王たちが動くことは、俺にも予想できた。

 このまま霊峰を回っているだけじゃ、リノアとヴァージルはすぐに飽きる。

 飽きて暴走する前に、ガス抜き感覚でハンニバルや俺が動かした方が良い。

「お手伝い?」

 リノアが首をかしげるが、人間界視察の名目は俺のサポートだ。

「別に良いけど、ボクは台風しか作れないよ?」

 ヴァージルは人差し指をぐるぐる回し、風と雨と雲を作り出す。

「シンラのコックピットでそんなもん作るな」

 シンラが最高水準の戦闘機だとしても、内側で台風なんて作られると一気に崩壊する。

 ヴァージルもそこまでバカじゃないから、すぐに台風を解除した。

「台風も良いけれど、とりあえず買い物を手伝ってくれ」

 荒事になるかもしれないが、今回の人間界での活動はむしろビジネスが主体だ。

「お買いもの?」

「ハンニバルお姉ちゃんたちにお土産でも買うの?」

 ビジネスの話を詳しくしたところで、この二人は興味あるまい。

「土産を買いたいのなら付き合うが、まずは金を稼ぐ」

 ビジネスも土産も、まずは金がなければ始まらない。

 母さんやハンニバルたちへの土産なら自腹を切っても良いけれど、わざわざ人間界の戦争ビジネスに自分の金を使う気にはなれない。

「手っ取り早く(はした)(がね)を稼ぐ方法があるんでね」

 がっつり稼ぐつもりはなく、治安が悪いからこそ片手間で稼げる方法がある。

 俺は片手間で稼ぐプランを練りながらシンラを走らせた。


 ***


 シンラは戦闘機であり、得意分野は殲滅と破壊。

 空襲により地上部隊を殲滅し、空爆により要塞を破壊するのであれば大きな脅威だが、今回はビジネスなのでシンラの戦闘力は目立ちすぎる。

 なので、山の(ふもと)でシンラから降りて治安の悪い荒野を歩く。

「人間界って空気が軽いよね」

 ヴァージルが空気と一緒に身体も軽くなったようで、飛んだり跳ねたりしている。

「ミャン姐やミヤビの言った通り、魔力の濃度が薄いのね」

 リノアの方は空気の軽さの理由を言い当てた。

 魔界のように纏わりつくほど強力な魔力が空気中にないため、人間界の空気は軽い。

 軽過ぎて船酔いみたいに酔うことがあるらしいが、ヴァージルは重力から解放されたようにはしゃぎ、リノアも軽くストレッチをしただけで馴れてしまった。

 良くも悪くもこいつらは肉体派の感覚派……環境適応能力は、十五姉妹の中でも高い方だ。

 人間界の空気に馴れさせるために歩かせたのだが、完全に杞憂だったな。

 後はぶらつきながら財布を待つだけだが、そんなに時間はかかるまい。

 こんな荒野を男一人に少女二人……絶好のカモは絶好のカモを見つけたと歓喜しよう。

 そして絶好のタイミングで、カモがやってきてくれた。

 世紀末でもないが、無法地帯には大抵『ヒャッハー』と叫ぶモヒカンがいる。

「男一人に、女のガキ二人」

「オヤジ、女の方は上物だぜ」

「服も高そうだし、金目のもんもたんまりありそうだ」

 実に俺好みのヒャッハーたちだ。

 残念なのは、モヒカン頭がいないことだな。

「あっ、人間だ」

「でもなんかバカっぽい」

 ヴァージルも珍獣のような人間を発見し、リノアが率直で無礼な感想を述べた。

 ヴァージルもリノアも、俺や奥方様以外の人間を生で見たことはない。

 厄まみれの俺は例外として、奥方様を基準にすると、ここの連中は普通に汚い。

 魔王の娘たちから見れば低俗な人間どもだが、俺から見れば商売道具になりえる。

「三流品だけど、端金には丁度良いだろう」

 三流のヒャッハーは全部で八人……とりあえず、五人ぐらいで良いかな。

 値踏みしていると、ヒャッハーの一人が下卑た笑みを浮かべながら近づいてきた。

 年寄りだが身体付きは良く、周りの連中が道を開けたのでこいつが(かしら)だろう。

「このおじさん知り合い?」

 いちようヴァージルに確認されたが、俺は軽く首を振る。

「知り合いじゃないが、こいつらは人攫いだよ」

「人攫い?」

 リノアが首をかしげるが、魔王には理解しがたいだろう。

「この辺りは敗戦国の領土だ……だから盗賊まがいの連中が、旅人や戦災難民を襲って身ぐるみ剥いで、身体の方は奴隷商に売りさばく。子供は奴隷として教育しやすいから多方面に売れ、頑丈な男は鉱山や土木産業に売れ、綺麗な女は娼婦として売れる。特にヴァージルやリノアみたいな美少女ちゃんは、需要が多いから高値で取引されるんだよ」

 こんな無法地帯に俺みたいな男とうら若き少女が歩いていれば、人攫いからしてみればよだれが出るようなシチュエーションだ。

「えっ、私たちって美少女?」

 奴隷の話をしているのだが、リノアは若干照れている。嬉しそうでなによりだ。

「よーするに、このおじさんたちはボクたちを襲うつもり?」

 ヴァージルはいつものように簡潔にまとめてくれた。

 今のところこいつらが俺たちになにかしてきたわけじゃないが、手入れの荒い牛刀に、獣用の投網に、錆びついた()(かせ)()(かせ)……堅気には見えない。

 近づいてきたヒャッハーさんたちの(かしら)は、余裕の笑みを浮かべながら俺の肩に手を置く。

「あんちゃんよ、ちっとばかし援助してくれねーかね?」

「援助?」

 いちよう話にはつきあってあげよう。

 万が一無害なヒャッハーさんだったら、さすがの俺も心が痛む。

「あんちゃんみたいなのを欲しがるカマヤローもいるけど、俺の趣味じゃねーンだよ」

「それは良かった。俺は真正の女好きですから」

 俺はちゃんと男をやっているし、なんなら十五人の娘たちの中に飛び込みたいぐらいだ。

 若干命がけにはなるが……命がけで好きですよ。

 本人たちの前では死んでも言えないけどね。

「男が色を好むのは良いことだ……だから、あんちゃんは身ぐるみで良いよ」

 男は俺の肩に腕を回しながら、剃刀(かみそり)を俺の首元にあてた。

 するとヴァージルとリノアが殺意に似た嫌悪感を放つが、鈍感な連中は気づいていない。

「お嬢ちゃんたちは俺にくれねーかな」

 ようするにこのおっさんは、俺の命を助けてやるかわりに、俺の身ぐるみと二人の少女で取引しようと言っているのだ。

「なあ、悪い話じゃないだろう?」

 おっさんは手入れの悪い剃刀で俺の首元をなぞる。

「ありがとう」

 本性を現してくれたおっさんに、俺は心の底から感謝しよう。

「くぁっ――!?」

 おっさんの表情が、余裕のこもった笑みから苦痛へと変わっていく。

 流れているのは真っ赤な血であり、カチャンと落ちたのは手入れの悪い剃刀。

 おっさんは右手首を左手で押さえながらうずくまった。

 手入れの悪い剃刀で俺の命を握ったつもりだろうが、相手の命を握れるぐらい近づくってことは、自分の命も相手に近づけているってこと。

「ふむ、良い切れ味だ」

 護身用の仕込みナイフだが、手首の血管や腱筋を切り裂くぐらいなら余裕だ。

 手首は落ちなくとも、大量の出血は放っておけば死に至り、腱筋が斬られると手首が繋がっていても指は動かず、なによりも激痛だ。

 俺は激痛でうずくまってしまったおっさんの顔面を蹴り上げた。

 身体全体は無理でも頭が上がり、頭が落ちると同時に顎下からナイフを突き上げた。

 致命傷だけど、念のためナイフをぐりぐりして、しっかりと刃を脳へと突き刺す。

「大丈夫、俺は身ぐるみ剥いで全裸放置なんてマネはしません。あなたからは現金だけいただければ充分です」

 もう聞こえてはいないようだが、それでもしっかりと告げておくのが礼儀だ。

 ナイフを抜き取ると、おっさんはそのまま人生からご退場した。

「こっ、このやろう!」

「おやじ!?」

 突然の出来事に統率を失う烏合の衆たち。

 この手の集団は、最初にリーダーを消してしまえばただのチンピラ集団だ。

「なーんだ、(ぜん)(ころ)オーケーじゃん」

「これが交渉なんだ」

 一方でヴァージルとリノアは通常通りで、安心だけど不安だ。

「こらこら、ヴァージル。全員皆殺しを全殺なんて略すんじゃありません」

 いちいち発想が物騒なのは、魔王としては正解だが、個人的には困りものだ。

 リノアも、俺は交渉なんてしちゃいない。

「ヴァージル、リノア、()っちゃっていいのは二人だけ」

 必要なのは八人中五人であり、一人は退場済みなので、消していいのは二人だけ。

「残り五人は捕まえる」

 俺はこいつら相手に交渉なんてしちゃいない。

 俺がやっているのはただの小金稼ぎだ。

 俺たちをカモだと思って近づいて来たカモをカモるだけの、簡単なお仕事だ。

「捕まえてどーすんの?」

 捕まえる前からそんなことを聞いてくるヴァージルだが、別に不都合もない。

「こいつらのあり金を巻き上げて、捕まえた連中を奴隷商に売りさばく」

 人間を浚って売っている連中を捕まえて売りつけるだけの、簡単なお仕事だ。

「リノアも、商品を手に入れてからが奴隷商との交渉の始まりだよ」

 商品に早変わりしてしまう相手に交渉しても意味はない。

『ふっっっざっけんなー!』

 カモだと気づかされた、ヒャッハーさんたちは奇声を上げて襲いかかってきた。

 それから聞き分けのなさそうな二人のヒャッハーにご退場願い、活きの良い残り五人を彼らが持ち歩いていた手枷と足枷で繋いでやった。

 この手の道具は、その筋の方々と一緒に手に入れるに限る。

 三分もかからない簡単なお仕事で、ヒャッハーさん八人の現金と五人の商品を手に入れた。

獲物を追い回すのが苦手なあなたは、逆に獲物をおびき寄せるにはどうすればいいのかを考えてみましょう。

手っ取り早いのは、獲物が欲しがっているものを餌にすることです。

これは狩りの基本でもありますが……これをもし人間でたとえた場合、堅気じゃない方々によるキャッチセールや、法律に縛られない方々の闇市となるでしょう。

そういった悪徳商法に惑わされ「幸せになれるツボ」などに手を出さないように、皆様もお気を付けください。

ついでに一言

 「バールのようなものって、バールじゃなけりゃなんだってっだ!!!」

                 詠み人  絶対零度の怒りん坊

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