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戦争人間  作者: ジュリー
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魔王の娘たち6

続きです。

主人公と娘たちの昔話ですが、他人の話を聞かずに動くタイプの娘たちとの思い出は、基本的に痛い思い出がメインです。

よい遊び相手だとしても、人間の子供にとっては魔王の娘にじゃれ付かれるだけでも命がけかもしれません。

それと、後書きにどうでもいい話が載っていますが、スルーしてくれても構いません。

勝手な一言

    「知らないうちに賞金がかかっていました」

                   詠み人  無罪のツチノコ

 第四章 魔王の娘たち6



 厄神の息子対魔王の娘……この戦いは()(もの)、なんてわけがない。

 厄神の息子と言っても俺は人間だし、魔王の娘だってハンニバルが弱いだけ。

 ヴァージルは戦闘タイプの魔王のようで、人間の俺では手におえない。

「まおーの鉄拳を受けてみよ!」

 ヴァージルの重たい右ストレートが、俺の腹に直撃。

「うげぇ――」

 直撃してすぐに俺はゲロった。

 厄災に耐えきれずにゲロを吐くことなら良くあるが、殴られての嘔吐は久しい。

 俺は腹を抱えてダウンしているのだが、ヴァージルは畳みかけてくる。

 倒れている俺にヴァージルは踏みつけるような蹴りを入れてきたが、俺は口の中の嘔吐物ごと息を止め、転がりながら離れていく。

「うっぷ……まっずぅ」

 吐しゃ物を吐き散らせば良いものを、俺は息を止めたものだからそのまま飲み込んだ。気持ち悪くて吐きだそうとしたものを飲み込んだのだから、気持ち悪さは半永久的だ。

「うぇ、きったね」

 ヴァージルも俺の吐しゃ物を見て若干引いていた。

 気持ちは分かるが、おまえが原因でゲロったのだからその反応はひどい。

 とはいえ、良く分かった。

 大人しくダウンしても、普通に攻撃されて殺される。

 ならばこちらも、戦闘スタイルを変えよう。

 俺は気持ち悪さを残しつつ、立ち上がってヴァージルと向き合う。

 これ以上ダメージをくらうわけにはいかない……先手必勝で行こう。

「すぅ――」

 俺はゲロ風味の息を吸い込み、ヴァージルも俺の次の攻撃を警戒している。

 息を止めての打ち合いは殴り合いの基本――だが、

「あっ――」

 無酸素運動での殴り合いでヴァージルに勝てるなら、最初からそうしている。

 無酸素運動での殴り合いじゃ話にならないのなら、小賢しい手を使うのみ。

「あれは天空の城――」

 俺は右人差し指をあさっての方向へ向けて叫ぶと、ヴァージルは簡単に釣れた。

「まさか伝説のラピュ――たっ!?」

 ヴァージルから痛恨の油断を誘い出した俺は、普通なら絶対に当たらないビックパンチをヴァージルの横面に叩き込んでやった。

 クリーンヒット! からの、たたみ込み!

「おりゃりゃりゃりゃ――!」

 ビックパンチをきっかけに、ほぼ無防備のヴァージルをひたすら殴りつけた。

「このヒキョーもの!」

「ケンカに卑怯もクソもあるかボケ!」

 だいたいここは機械工学研究所の中だ! そもそも空なんて見えん!

 ヴァージルが叫び、俺も叫び、後は揉みくちゃになってお互い倒れ込む。

 倒れ込んでからも俺たちは寝技を決めようとしたり、関節と取ろうとしたり、力の限り暴れまわる。

 最初から子供のケンカのような殴り合いだが、今は小動物のケンカだ。

 噛みつかれたので引っ掻き、抓られたので引っ叩き……原始的なケンカが続く。

 そしてヴァージルは男相手に禁じ手を炸裂。

 暴れ回った偶然の結果だろうが、ヴァージルの膝蹴りが俺の金的に直撃。

「ぐおっ!?」

 ケンカに卑怯もクソもないが、だからと言ってそこは絶対急所なんだぞ!

 激痛に耐えきれない俺は思わずヴァージルにしがみ付く。

「ひゃぁ!?」

 半泣きの俺に対し、ヴァージルも妙な声を上げた。

「どこ触ってんだこのヘンタイ!」

 どこを触っているかなんて悶絶中の俺に分かるわけもないが、それでもヴァージルは金的とは違う禁じ手を使い始めた。

 ドパンっ! っと、一瞬なにが起きたのか分からずに、俺は吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされたが地面に叩きつけられることもなく、風と水と雲の渦に飲み込まれた。

 風と、水と、雲の渦は、ヴァージルを中心に機械工学研究所をかき混ぜていく。

 風使い? 水使い? 雲使い?

 父親とは違い、娘たちは一つの能力に特化した存在……複数の能力は扱えない。

 だけど、複数の性質をもつ一つの能力だったとすれば……説明がつく。

 この娘……魔王の九女、ヴァージルの能力ってまさか……。

「……台風……」

 暴風を呼び、雨を叩きつけ、雲で空を覆い、世界中を渦でかき混ぜる。

「くらえ! (しゅう)(らい)〈ゲリラタイフーン〉」

 ヴァージルが専用の呪文を唱えて発動させたのは、瞬間発生した突発台風。

 風が鋭い! 雨が痛い! 雲が視界と呼吸を奪う!

 風と雨と雲にかき混ぜられた俺は、人生を振り返る前に悟りを開けそうだ。

 ああ……台風に巻き込まれた人間は、なんとも小さき生き物だろう。

 俺は最後の足掻きとして手を伸ばすが、その手を掴むものは――いた。

 ヴァージルの台風に対して逆回転のエネルギーの渦が、ヴァージルの台風を相殺。空中で渦が消えたため俺は地面に落ちるはずだったが、そこで俺の手を掴んでくれた。

 俺をその手で救ってくれたのは、だれよりも俺が敬愛している厄災の神様。

「母さん」

 ホント……俺がどうしようもない状況に放り出されると、母さんは俺を拾ってくれる。

「やめなさい、ヴァージル!」

 そして響くのは、母さんとは違う大人の女性声。

 その怒声とまでは行かないものの、それでも『怒っています』的な叱り声。

「ママ」

 台風が相殺されたヴァージルは、奥方様の登場についていけずに呆然。

 そして俺は母さんの手により、台風通過後の機械工学研究所に着地。

 経緯はともかく……子供のケンカも度が過ぎれば大人も介入するってことだ。



 介入と言っても子供同士の勘違いだから、誤解が解ければお互いに謝罪するだけ。

「うちの娘たちが大変なご迷惑をかけてしまい、まことに申し訳ございません」

 奥方様が大きくなったお腹を押さえながら母さんに頭を下げる。

「こちらこそ、うちの子が御無礼を働きまして、まことに申し訳ございません」

 母さんは奥方様に負担をかけないように、奥方様の姿勢をサポートしながら謝罪。

 一方、親たちの苦労など知らない俺を含めた子供たちは、実に打ち解けやすい。

(やく)(づつみ)(ゆう)()……ホントに厄ママの息子さんだったんだね」

「厄ママに子供がいるのは知っていたけど、ママと同じニンゲンだったんだー」

 リノアとヴァージルは反省しているようだけど、立ち直りも早い。

「そっか、二人とも厄ママの子供が人間だって知らなかったっけ」

 ヤシャは他人事のようにつぶやく。

 リノアとヴァージルが俺を厄神の息子だと信じてくれなかったのは、厄神の子供なら当然神様の一種だと思い込んでいたためだ。

 しかし俺は純度百%の人間であり、神の子だと言っても信憑性は低かろう。

「だからって、いきなりこれはねーだろう」

 俺はボロボロでびしょびしょの身体を擦りながら愚痴を言う。

 ボロボロで地味に痛いし、びしょびしょなので若干寒い。風邪引きそうだ。

「「ごめんなさーい」」

 そこは素直に謝るリノアとヴァージル。

 洒落にならない事件に巻き込まれたようなものだが、この二人にも悪気があったわけじゃなく、ヤシャがさらわれたと勘違いして襲ってきたのだ。

 いろいろと言いたい事はあるが、母さんと奥方様が示談したなら別にいい。

 この後、リノアとヴァージルは奥方様に叱られ、俺は母さんに叱られる。

 ならば俺たちが言い争っても、いろいろと余計に痛くなるだけだ。

「謝るのなら、ヴィンちゃんにも謝ったほうが良いよ」

 ヤシャの言葉と一緒に、俺は機械工学研究所を改めて見回す。

 台風の通過により、研究所内は雨水と瓦礫でぐちゃぐちゃにかき混ぜられた状態だ。研究所の破壊はほぼヴァージルが原因なのだが、俺も連帯責任が問われるだろう。

「ヴィンセントに対しする命乞いを考えよう」

「「はーい」」

 ヴァージルとリノアもそのことをすぐに悟ったらしく、俺の意見に賛同した。

 土下座は確定だとして――と、ヴィンセントを鎮める方法を考えていると事件が発生。

「きぃっ、きちゃい、ました!」

 奥方様がお腹を押さえてその場に座り込んでしまう。

 きちゃったって……なにが?

「ユーヤ! 魔王を呼んできなさい! 陣痛が始まったわ!」

 母さんが声を荒げ、奥方様の身体を支えて少しずつ移動させる。

 ちょっと……じんつーって、陣痛ですか!?

 突然の陣痛で大パニックな俺だが、パニクっているのは他の娘たちも同様。

「リノアはお医者さんを呼んでくる!」

「はひっ」

 そんな娘たちにも母さんは声を荒げて指示を出す。

「ヤシャ、一番近いベッドのある部屋はどこ!?」

「研究所の端っこにヴィンちゃんの仮眠室があります!」

「そこまで移動させるから、ヴァージルは手を貸しなさい!」

「あいっ」

 母さんが娘たちをまとめて数時間後……緊急出産を余儀なくされた奥方様はヴィンセントの仮眠室を産屋とし、母さんの手により胎児は無事に奥方様から取り出された。

 母さんの対応によって生まれた娘は、奥方様の願いで母さんが名付けることになった。

 ヤシャと同じく東洋系の名前が付いた娘とは……和名で(みやび)と書く十一女のミヤビだ。

 このミヤビ誕生をきっかけに、魔王一家と厄神母子の親交は強くなった。


どうでもいい話ですが、医療関係のドラマでよく見る「責任は俺がとる」的な発言についてどう思いますか?

私は、この発言にはとても興味深いものがあります。

患者の命が常に付きまとう医療現場において「責任は俺がとる」って、患者の命に対してどんな責任の取り方があるのでしょうか?

医師免許の返還ですか? それとも警察相手に事情聴取ですか? 遺族と弁護士さん相手に示談ですか? 所属病院の上層部の処分任せですか?

それで、人間でもある患者の命に対して責任が取れるのですか?

たいていの場合はドラマなのでうまく行ってしまいますが、私は「責任は俺がとる」と言える、医療関係者が考える命に対する責任の取り方を是非とも知りたいです。

もっとも、「責任は俺がとる」というセリフは患者に向けたものじゃなくて、現場に居合わせた部下たちに対して「お前たちは俺の指示に従っただけだから、責任に問われることはないから安心しろ」と言う意味合いで言っているのでしょう。

それを考えると、私の言っていることは本当にどうでもいい話です。

どうでもいい話なのですが、やっぱり気になってしまうものです。

そういう見方をしてしまう私にとって「責任は俺がとる」ってセリフは、興味深いセリフであると同時に、命の現場にいる医療関係者がそう簡単に言っていいセリフではないと思います。

まあそれでもやっぱり、ドラマの話なので、心底どうでもいい話でした。

ついでに一言

       「心の友よ、私も無実だ」

                   詠み人  逃走者ビックフット


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