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戦争人間  作者: ジュリー
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魔王の娘たち3

続きです。

この話は基本的につなぎですから、さほど重要ではありません。

勝手な一言

    「にんにくの卑猥な形を見ると、恥ずかしくて死んでしまう」

                     詠み人  純情派吸血鬼


 第四章 魔王の娘たち3



 普通なら全治六ヶ月ぐらいが妥当な大怪我だったが、ミヤビ先生の科学的医術と魔法的医療を合わせた複合医学により、まさかまさかの五日でほぼ動けるようになっていた。

 そして奥方様の不在中、魔王城に滞在していた母さんと久しぶりに自宅へと帰った。俺たちが自宅へ帰ったのは、奥方様の埋葬式の準備のため。

 埋葬式の準備も俺が寝ている間に終わっており、喪服を取りに戻ったのだ。

 俺の家……と言うよりも、厄神の住処は魔界でも人間界でもなく、厄災の海だ。

 神様は人間や魔族とは違い、存在理由や定義や概念そのものが違う。例えば冬の神様は季節が冬ならばどこにでも存在し、水の神様は水さえあればどこにでも住みつける。

 そして厄災の神様である(やく)(づつみ)(きょう)()は、厄災そのものと言えよう。

 神様の定義はとても曖昧でありながらも、とても膨大にして巨大でもある。

 それが厄災の神様となれば天災から人災まで、それこそ死、飢餓(きが)(えき)(びょう)、戦争なんて生物が生きている限り、世界が回り続けている限り確実に存在している。

 ある意味において、厄災ほど場所も規模も問わないものはない。

 そして厄災について語る場合、それは広大にして底なしの海に例えられる。

 純度百%の原厄(げんやく)が集まり、集まった原厄が魔界や人間界へと溢れていき、他世界で発生した厄災が川のようにまた流れつき、原厄として溜まり厄災の海が誕生した。その厄災の海に存在し、その厄災の海を管理しているのが、俺の母でもある厄神様だ。

 さらに厄災の海を渡れば魔界や人間界を始めとした、厄災のある他世界へ航海できる。

 厄神は厄災を操る性質上、神様の中でもチート的な能力のように思えるが、厄神様は厄災の海を管理しているだけで支配しているわけじゃない。

 海に例えられているのも、厄災は海へと流れなければ永遠に消えることはなく、海から厄災が溢れなければ、いずれ世界中で厄災がダムの決壊のごとく氾濫するからだ。

 厄神の子供とは言え俺も人間だから詳しくは分からないが、厄災は冷静に恐がって対処するものだと教わった。厄災に対して傲慢になると一発で終わる。

 厄災の海の成り立ちは人知の及ぶところではないが、そんな厄災の海には厄災に携わる存在が住まう島もある。厄災全般を扱う厄神様はもちろん、侵入者を彷徨(さまよ)わせる(まよ)い神、厄落としや厄払いで流された悪鬼などが住んでいる。

 ちなみに俺は厄子として流されてきた扱いであり、人間であることを除けばそこら辺の悪鬼と境遇は変わらない。

 まあそれはともかくとして、久しぶりの我が家で喪服に着替える。

(ゆう)()、これを魔王夫妻の墓前に供えてくれ」

「ハンニバルは優秀だが、娘たちはまだ若い」

「なればこそ、我らは支えようではないか」

 喪服に着替えて家から出ると、どこで聞きつけたのか、ご近所さんが集まっていた。みんながみんな魔界での魔王夫妻のご不幸を嘆き、残された娘たちを案じている。

 厄災の海にまで流されてくるような連中だが、厄まみれでも全員が敵意むき出しの絶対悪じゃない。親しい知り合いが亡くなれば、当然のように悲しみますし、嘆きますよ。

 そしてご近所さんたちが俺の家に集まっていたのは、埋葬式に参列する俺に魔王夫妻への香典やお供え物を渡すため。

 みんなが用意した供物は同じもので、一人につき一本の、ヒマワリの花。

「奥方様の好きな花……みんな考えることは同じなようですね……」

 俺は少し呆れたような、それ以上に圧倒されて感動すら覚えた。

 別にみんなで話し合って決めたわけじゃないだろう。

 ただ奥方様の好きな花を、埋葬式に添えたいと一人一人が考えついただけだ。

 事実、魔王城には大量のヒマワリが送られていた。

 ヒマワリは一人につき一本であり、地位や立場に関係なく一人一本のヒマワリ。

「別に、不思議なことじゃないわよ」

 そう言ってやってきたのは、厄災の海を統べる俺の母さん。

 無雑作に伸びた長い髪と整った顔つきをした女性。身長は低めだが長く細い手足と、くびれた腰と、厄災のつまった胸を強調したプロポーションはさすが神様と称えていい。

 そんな自慢の母さんも、やっぱり一本のヒマワリを携えていた。

「人間をもっとも嫌っているのは神でも魔族でもなく、人間だっただけよ」

 意味深なことを言う母さんだが……それはそうかもしれないと、俺は納得した。

 人間である奥方様を殺したのは人間で、人間である奥方様の死を悲しむのが神と魔族。

 奥方様を娶ったのが魔界を統べる魔王様で、俺を引き取ったのが厄災の神様で、その事実を考慮するに、魔族や神様は戦争をしたからと言って人間を拒絶したわけじゃない。

 にもかかわらず、奥方様は人間に処刑され、俺は人間に捨てられた。

 なるほど、母さんの言う通り、人間をもっとも嫌っているのは人間だな。

「ヒマワリは墓前に供えるわ……悠夜も、受け取ったヒマワリを(しん)()で運びなさい」

「はい」

 そして俺と母さんはヒマワリをすべて受け取り、埋葬式へと向かった。

主人公の育った環境と境遇のためか、主人公は少々マザコン気味です。

ついでに一言

       「相手の尻を嗅いでしまうのは許してくれ」

                     詠み人 本能派狼男

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