潜入1
続きです。
魔王の娘の名前と主人公のやり方にピンと来る方、たぶん正解です。
勝手に一言
「子供が単純であれば苦労はない。
単純じゃないから愛おしい」
詠み人 魔王城教師
第一章 潜入1
今日の午後二時……ダムシアン王国中央公園にて、一人の女性の公開処刑が行われる。
罪状は、魔王の花嫁となり魔王の娘を産み育てたこと。
当初奥方様は、魔王に攫われた娘でしかなかった。無理やり花嫁にさせられた哀れな娘でしかなく、魔王が討伐された時も奥方様は救出されたと伝えられた。
しかし魔王が討伐された後、魔王とその花嫁には娘がいると発覚した。
奥方様は娘の存在が発覚した後も、娘について語ることはなかった。
奥方様から得られる情報はなく、利用価値のなくなった奥方様の公開処刑が決まった。
そして各国の国王と民衆たちが厳重警戒で見守る中、中央公園の隅々まで見渡せるように高く設けられた処刑台に、演出として花嫁衣装を着せられた奥方様が上がっていく。
肉体的にも精神的にも疲弊しているはずだが、それを花嫁衣装でごまかしている。
魔王の花嫁とはいえ、ボロボロの女性を処刑しては民衆に同情されかねない。
だから丁寧に扱い、美しく処刑することで、奥方様への同情心を押さえ込む。
俺はそんな奥方様の姿を見ながら、昔のことを思い出す。
***
母さんと一緒にやってきたのは悪名高き魔王の城。
魔界に君臨し、魔族を統べり、人間界にまで手を伸ばした魔から生まれた王様。
しかしそんな魔王と俺の母さんは知り合いであり、とくに魔王の奥方様とは大親友だ。
大親友なのは良いことだが、面白いのは魔王と母さんと奥方様の種族的な関係性。
なんと俺の母さんは魔王と対をなす神々の一柱であり、魔王の奥方様は人間の女性だ。
「お腹が、また大きくなりましたね」
奥方様は自室のベッドから上半身だけを起こし、話しかけてきた母さんに対し大きくなったお腹をさすりながら嬉しそうに微笑む。
「もう少しで、私たちの子供が生まれるわ」
奥方様は妊婦さんでもあり、お腹の中には魔王の子供が宿っている。
「うーむ……」
俺は母さんと奥方様の様子を見ながら、軽く首をかしげた。
俺も子供なりに、子供がどうやって生まれるのかは知っている。
しかしなんて言いますか……会うたびに奥方様は妊娠している気がする。
「無邪気な子供のように訊きますが……実際にご懐妊が速くありませんか?」
会うたびにもそうだけど、結構な頻度で魔王夫妻から家族が増えたと報告がくる。
他人様の家庭とは言え家族が増えるのは喜ばしいことだが、さすがに早すぎると思う。
「無邪気なガキが訊くことではなかろう」
そして俺の質問に答えるわけでもなく、俺の頭をガシガシと乱暴になでまわす巨漢の物体のような存在が、このお城の主でもある魔王だ。
「すみませんね……ですが、無邪気だろうが邪だろうがガキだろうが魔王だろうが、雄として生まれたからには生命の神秘を避けて通ってはいけません」
子供のすべてが無邪気なわけじゃないし、子供のすべてが疑問もなく生きているわけじゃないのだから、俺みたいなやつも一人や二人いたっておかしくもない。
それでも魔王は『くそ生意気な』と、俺の首根っこを掴んでひょいっと持ち上げた。
「娘相手だとできないことを、ユーヤくんにしてあげたいのよね」
奥方様は弄られる俺よりも、茶目っ気のある魔王様のほうが可愛らしく見えるようだ。
こんなごつく、こてこての魔王様を愛せるのだから、奥方様も器が広い。
「その口ぶりからしますと、お腹の中の子供は女の子ですか?」
魔王にいい感じに弄られている俺をよそに、母さんが奥方様に訊ねていた。
「ええ……十五人目の娘よ」
あっさりと慈愛に満ちた微笑みを保ちながら言いますけど、十五人って相当だよね?
子沢山なのも悪いことじゃないのですが……それとは別に引っかかりを覚えた。
「十五人目の娘って……十五人全部が女の子だったのですか?」
魔王様に首根っこを掴まれながらも、今度は俺が奥方様に訊ねてみた。
「そうよ……私の夫は出産予定日が近くなると、私とお腹の子を心配してキョーコとユーヤくんを招くのよ。特にユーヤくんがくるのを、この人はとても楽しみにしているわ」
「それは違う。私はキョーコを友人とし、そして子育てに対する妻の理解者であると信頼しているだけだ。もっとも、キョーコが育てているわりに息子は性根が腐っていた」
「この人は、ユーヤくんの話になると必死になって弁明するのよ」
やっぱり奥方様は魔王様が可愛らしい。
魔王様も奥方様にそこまで言われると、とうとう『むぅ』と口ごもった。
娘は可愛くとも、息子も一人ぐらいは欲しかったようですね……もっとも……。
「俺は魔王の息子になるつもりは、一ミクロンたりともありませんよ」
俺は厄神様の息子であり、魔王夫妻とは家族ぐるみの付き合いでしかない。
「気が合うじゃないか、私もおまえみたいな息子などごめんこうむる」
魔王は吐き捨てるようにしながら、つまみ上げたままぶんぶんと俺を揺すった。
扱いは乱暴に見えるが、これでも魔王は相当手加減している。
その気になれば、俺みたいな小僧など揺すっただけで吹っ飛ぶ。
他人の父親にこんな扱いを受けるのは俺としても不本意だけど、奥方様が出産間近になると魔王とはいえ男にできることなんて、心配のあまりパニックになるだけ。
奥方様を安心させるために俺の母さんを頼り、出産に対してなにもできない己の憂さを晴らすために同じ男の俺を弄りまわすだけ。
「生まれてすぐに捨てられて拾われた、不幸中の幸いの俺が言うのもなんですが……」
「あら、自分の人生に対してずいぶんと皮肉るわね」
ここにきて始めて、奥方様の笑顔が微笑みから苦笑いへと変化した。
だけど皮肉だとは思っていませんので、ご心配なく。
「魔王様はしっかりと父親をやっていると思いますよ」
「――っ!?」
魔王の眉がピクリと動き、やがて俺を揺するどころか振り回し始めた。
「照れ隠しですかね?」
「私の夫は、とても可愛いのですよ」
母さんも奥方様も楽しそうでなによりですが、さすがの俺も気持ちが悪い。
しかし、まあ……父親はともかくとして、俺は俺で魔王と奥方様には救われている。
捨てられて拾われた俺の種族は、まさかまさかの人間だ。
悪神が現れるとされる山の中に捨てられてしまった俺は、まさしく生まれたてほやほやだったから、血縁関係にある父親も母親も顔も名前もなーんも知らない。
そしてその山に降臨したのが、悪神の一つとされる厄神の厄包境子様。
山の中に現れる悪神がキョーコ様と言うよりは、むしろ厄まみれで捨てられていた俺に厄災の神様として引き寄せられたらしい。
厄神は厄まみれの人間の子供を厄災ごと拾い上げ、自らの子供として育ててくれた。
そんな経歴を持つ俺からすれば、人間の女性を妃に迎え入れ、ご懐妊するたびに心配しまくっている姿を見ると……こんな俺でも、魔王と奥方様は立派な夫婦だと思う。
「あなた、さすがにユーヤくんの顔が真っ青よ?」
「むっ」
限界を悟ってくれた奥方様は魔王を止めてくれたが、俺のおめめはぐーるぐる。
トイレはどこです? ちょっと吐いてきますんで。
「キョーコ、一つだけお願いをしてもよろしいですか?」
「私にできることなら、なんでも言ってください」
奥方様と母さんがなにやら話しているようだが、俺の方は内臓からいろいろと込み上げてくるのでそれどころじゃない。
「――ええ、もちろん、いいですよ」
魔王から解放され、目が回って足取りの妖しい俺を母さんは抱き抱えてくれた。
立っているよりも圧倒的に楽なのですけれど……よそ様の夫婦の前で母親に抱き抱えられるのは、さすがに恥ずかしいからやめてください。
なんてことを考えていた俺だけど、母さんはゆっくりと俺を奥方様へと渡す。
母さんに抱きかかえられるのも充分に恥ずかしいですけれど……他人の母親にこうやって抱きしめられるのも、充分に恥ずかしいからやめてください。
なんてことを考えていた俺だけど、奥方様は優しく俺の背中をさすってくれた。
気分の悪さが緩和されていく。
「ユーヤくんは人間だけど、キョーコだけじゃなく、私や夫にとっても大切な存在よ」
とても嬉しい事を言ってくれる奥方様ですが……なんだか悲しそうですね。
それに妙な話ですけど……俺は人間なのに、人間に抱きしめられるのは初めてですね。
それはおそらく、奥方様も同じだと思う。
人間である奥方様は、人間の子供をこうやって抱きしめたことはないだろう。
しかもその状態を静観しているのが、厄神様と魔王様ときている。
なんともふざけた絵面だが……奥方様は優しい笑顔を向けながら俺を解放してくれた。
魔王に振り回された吐き気もすっかり良くなったが……やっぱり悲しそうですね。
***
囚われの奥方様を横目に、カバンを背にして人間で溢れていた中央公園から離れる。
「人間は人間が死ぬところをそんなに見たいのか?」
群がる人間たち相手にそんな皮肉をつぶやきながら、俺は中央公園から多少離れた警備兵の詰所にたどり着く。
魔王の娘たちの襲撃に備え、人間たちは王立中央公園を厳重に警備している。
地上には騎士団を中心に中央公園を囲み、空にはドラゴンを駆る竜騎士と、背中に翼をはやした人種のスカイランナーが忙しなく旋回している。
地上も空も兵士や騎士が目を光らせているが、こいつらは致命的な間違いをしている。
兵士や騎士を束ねる小隊長たちは魔に反応する『対魔の鈴』を携帯しており、魔に属する者が近づけば鈴がなる。これなら魔に対する襲撃なら、すぐに気づけよう。
それはそれで必要だが『対魔の鈴』は魔に反応するだけで、人間には反応しない。
俺がすんなりとダムシアン王国に潜入できたのも、王都の中心にある中央公園にあっさりと入りこめてしまったのも、ようするに俺が人間であり、ノーマークだったからだ。
もちろん、人間による妨害も想定はしているだろう。
しかし公開処刑で大勢人間を集めてしまえば、一人一人のチェックは甘くなる。
だから俺は何食わぬ顔でゆっくりと詰所を監視し、手頃な相手を見繕う。
手頃な相手はすぐに見つかった……人間の性と言うべきか、人間が溢れていると、静かな場所を求めて人気のない裏通りに入ってしまう人間が、十人に一人はいるものだ。
特に今回の処刑のように緊急徴収された、練度の低い若い兵士にはその傾向が高い。
見張るのも人間なら、詰所も人間であり、右も左も人間だらけで気が滅入る。
数分で良いから一人になりたいと思ってしまう、その気持は分からなくもない。
「でも、うかつ過ぎだよ、あんた」
声をかけると兵士さんは振り返ったが、その時にはもう遅い。
俺はジャケットから香水用の小型スプレーを取り出し、兵士さんの振り向くタイミングに合わせて振りかけた。小型スプレーに入っているのは香水なんかじゃなく、即効性の麻酔作用があるクロロホルム原料の麻酔薬。吸い込めば眠ったように意識を失う。
意識が落ちた兵士さんはその場で倒れ、俺はさらに建物と建物の隙間へと運ぶ。
人目がないのを確認してから兵士さんの、甲冑から下地から剣から盾まではぎ取る。
俺はそれを着こむわけだが、甲冑の下にはこの日のために作った手製の鎖帷子。
鎖帷子でも編み込まれているのは、小さく軽くて頑丈な太さ3ミリのワイヤー。
さらに両腕に締金付きのバンドを、七枚ずつテーピングのように取り付ける。
そして両腋、両内股、両膝、両肘、両足首にサポーターとして鉄器を仕込む。
擬態した器具を下地としてあらかじめ作っておき、身につけから鎧を着込む。
「あとは、顔面をもらいます」
そう言って俺は、カバンの中からプラスチックの折箱を取り出す。
折箱に入っているのは、七本のメスと十二本の針と小さなノコギリと小さなドリル。
俺の使った速効性の麻酔薬は、意識を奪い、痛覚神経をマヒさせる作用がある。
十二本の針を兵士さんの首回りや頭に刺し込み、後頭部の頭蓋骨と背骨を繋ぐ関節部分に小さなドリルを当ててコリコリと掘り込む。
するとあら不思議……首関節が曲がり込み、刺し込んだ針にそって頭蓋が浮き上がる。
俺はその浮かび上がった隙間にノコギリを入れ、首回りの硬めの皮膚と筋肉をぐるりと回すように切れ目を入れた。
そして今度はメスを取り出し、皮膚と筋肉の隙間に滑り込ませて行く。
一本、二本、三本と首筋からメスを入れ、顔の内側から下半分を切り取った。
今度は脳天からノコギリで切れ目を作り四本、五本、六本とメスを滑り込ませる。
最後に七本目のメスでぐるりと回すと、哀れな兵士さんの頭部の皮がはがれた。
頭からすっぽりと被れる、兵士さんの生マスクが完成した。もちろん、血は拭きとる。
俺ははぎたての生マスクを被り、自分の骨格に合わせるように詰め物をしてから、抜き取った針で余分な皮と下地を繋ぐ。
繋ぎ目を甲冑で隠せば、ちょっと顔が膨れてしまっただけの兵士さんの出来上がり。
そしてカバンから二本の酒瓶を取り出し、空のカバンは哀れな兵士さんに被せる。
兵士さんに変装した俺は裏通りから表通りへと向かい、民衆を案内するように再び中央公園へと向かう。兵士が親切に民衆の相手をしていれば、他の兵士たちも怪しまない。
俺は兵士の仕事をしているふりをしながら、各国要人たちのビップ席を確認。
そこは処刑台から二十メートルほど離れたテラスであり、処刑を見渡せる絶好の高台。
護衛は主力騎士団の親衛隊であり、せっかく変装しても一般兵では入れてくれない。
まあ、それはそれで構わないけどね。
目星はとっくについていたし、公開処刑を連中が決めた時から計画は練られていた。
公開処刑なんてしてしまうから、祭りでもないのに不用意に人間を集めてしまう。
公開処刑だろうがなんだろうが、人間が集まれば、それを目当てに集まるのが商人。
急造の組み立て式テラスと、親衛隊の配置と、テラスの出入りも確認できた。
後はつなげるだけだ。
最初に接触するのはお祭りだと勘違いした、民衆相手に商売する商人。
「おっちゃん、お酒をありったけくださいな」
人間が集まれば不用意に露店ができて、酒場でもないのに大量の酒売りが現れる。
気持ち良く騒ぎたいのであれば、酒を飲んで理性を取っ払うのが一番だ。
「あんちゃん、あんた未成年だろう?」
思ったよりもまともなおっさんだが、厳しい国柄でもないのでがみがみ言わない。
それにすでに二本の酒瓶を俺はもっており、商人としては客から奪うわけにもいかないので、俺は適当に言い訳をすれば良い。
「先輩たちが酒を持って来いってさ。この人だかりで、飲んでなきゃやってられないとか言い出して、しかも『新入りは先輩の命令を聞くものだ』ってさ。まったく、俺はパシリじゃないっつーの。いつか騎士団に入って、あの連中を顎で使ってやる」
適当な言い訳からの、先輩が新入りに言いそうな命令と、新入りの愚痴からの野望。
どれもありがちだからこそ、商人は怪しむより先に面倒になる。
長く商売をやっていれば、鬱憤の溜まった新入りの面倒臭さは良く知っていよう。
「そうかそうか、あんちゃんも大変だな」
案の定、商人は早々に未成年と言う疑問を棚上げし、酒を用意する。
それなりに金はかかるが、それは特に問題ない。
哀れな兵士さんの持ち金のすべてをつぎ込めば、露店の酒ぐらいなら大量購入可能だ。
持ち金が足りなければ自腹を切ったが、哀れな兵士さんが小金持ちで助かった。
「お酒運ぶのに、その荷車も借りていい?」
お酒を用意してくれた商人のおっちゃんに、貨物用の荷車を要求する。
おっちゃんも酒を大量購入した俺が、一度に大量の酒が運べないと理解している。
「構わんよ。どうせ酒はもう完売だしな」
小物やつまみはともかく、メインとなっているお酒がなくなってしまえば荷車は場所を取るだけの代物だ。後で返してくれれば良いと、おっちゃんは普通に貸してくれた。
手持ちの酒を荷車の中心に置き、大量のお酒と一緒にしっかり荒縄で縛っておく。
そして次はテラス周りを守っている騎士たちの元へと向かう。
しかし当然のように、騎士たちは一般兵のテラスへの侵入は許してくれない。
「ここから先は騎士団のみ通過可能だ」
「用件がないのであれば持ち場へ戻れ」
二人の騎士さんはテラスの出入り口をがっちりとガード。
そこで俺は生マスクをつけた状態で、軽く愛想笑いを浮かべた。
「騎士団ではありませんが……キッチンからお酒の追加注文がありまして」
組み立て式のテラスだが、普通の炊き出しよりも大きめなキッチンが付随している。
俺がテラス周りを確認したのは、テラスに付随している施設を知るためでもあった。
午後二時に処刑が始まるとはいえ、気の早い王族や貴族は昼食時にやってくる。
公開処刑は討伐軍の功績でもあるため、公開処刑を見ながら酒だって飲む。
そんな王族や貴族のために、大きめなキッチンは必要不可欠だ。
「酒の追加注文だと?」
「そんな話は聞いていない」
妖しむ騎士さんたちだが、そんな話は聞いてないのも当たり前だ。
俺が勝手に持ってきたってのもあるが、なによりもあなたたちは騎士様なのだから。
「騎士団の方々に、わざわざキッチン事情なんて報告しませんよ。騎士様たちにお酒を用意させるなんてできませんし、しかしテラスにお酒を運ぶのであれば酒屋や奴隷に任せられません。ですから、私のような一般兵にお酒を運ぶように命じられたのです」
王族や貴族の護衛についている騎士たちが、酒を運ぶために持ち場を離れるなんてマネはできない。ならば騎士ではなく、雑用に向いている一般兵にさせるのが妥当だ。
報告がなかったのは、ようするに騎士たちの仕事じゃなかったからと理解できる。
そして仕事中の騎士たちに話しかけることにも、ちゃんと意味がある。
「これ以上入れないのであれば、騎士様たちに運んでもらうことになりますが……」
俺がそんな言葉を口にすると、騎士さんたちは表情を曇らせた。
「バカ言え。警戒中に持ち場を離れられるか」
「ですよね……俺みたいな雑用兵士とは違って、騎士様たちの持ち場は重要ですから」
騎士さんたちの答えに対し、俺は相槌のように答えを返す。
俺が変装している一般兵と、護衛騎士とでは任務の重要度はまるで違う。
一般兵は任務中でも雑用をやらされることもあるが、それは主な任務が住民案内や見回りなど、ある程度代えの効くものだからだ。しかし護衛騎士は王族や貴族をまさしく護衛する任務についているため、そう簡単に代えは効かない。
俺は持ち場を離れても代えのいる一般兵だが、任務中の騎士は持ち場を離れられない。
同様の理由で、騎士さんがキッチンへ赴き給仕を呼びに行くこともできない。
そんな時のための雑用兵士が俺なのだ。
「仕方ない……荷の確認と、おまえの顔を見せろ」
それもまた当然の対応であり、俺は大人しく荷車と顔を見せた。
一人の騎士は荷車を確認し、もう一人の騎士は俺の顔に『対魔の鈴』を近づけた。
荷車の酒は当然本物であり、俺は人間なので『対魔の鈴』はもちろん鳴らない。
「おまえ、顔が少し腫れてないか?」
生マスクの歪みに気づかれたが、それは織り込み積み。
「この人だかりで、結構揉みくちゃにされるんですよ……お酒を運んでおいてなんですが、特に悪酔いしている酔っぱらいは暴れますね。酔っ払いとは言え、市民を力尽くに押さえ込むわけにもいきません。基本的に、殴られてから押さえ込まなければいけません」
異敵であれば問答無用で取り押さえることも可能だが、酔っ払っているだけの市民を国に仕える兵士がいきなり取り押さえることはできない。
あくまで被害が出てから、公務執行妨害で取り押さえているのが現場の現状だ。
「なるほど……確かに、相手が市民ではこちらから押さえるわけにもいかないか」
「酔っ払っていようが殴ってこようが、市民を守るのが私の仕事ですからね」
同情してくれる騎士さんに対し、これが一般兵士の仕事なのだとため息交じりに報告。
「妖しいものもないし、『対魔の鈴』も反応なし」
「ふむ……良いだろう、通ってよろしい」
二人の騎士さんたちのチェックをクリアした。
「ただし、念のため剣と盾は預からせてもらう」
「盾って武器ですか?」
「立派な鈍器だ」
「あー……そうですね」
そんなやりとりをしながら、俺は哀れな兵士さんからはぎ取った剣と盾を差し出す。
魔王の娘たちはだいぶ先まで出てきませんが、名前の由来はいろいろな作品に出てくる人間から生まれた悪魔です。
偏見が入っていますが、彼女たちの名前だけでも私は怖いです。
続きが見たいですか?
ちょっと嫌な気分になるかもしれません。
ついでに一言
「人間は不完全な生き物だ。
だから人間の作るプログラムも不完全だ」
詠み人 人間界プログラマー