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戦争人間  作者: ジュリー
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魔王の娘たち2

続きです。

基本的に第四章は戦争人間と魔王の娘たちとの絡みがメインです。

勝手な一言

     「基準は私の好みです」

                詠み人  魔女が持つ女好きな鏡

 第四章 魔王の娘たち2



 意識が戻ってから二度寝して、目が覚めると身体は重いが、頭はだいぶすっきりした。

 思考が回り始めると、そこで改めて『母さんとのやりとり』は夢だったと思い返す。

 そして……俺にそんな夢を見させたのは魔王の娘の一人であり、たぶん俺に夢の中だけでも安心してほしいという計らいだろう。

 しかし夢は夢であり、現実は残酷なものであり、奥方様は処刑され、俺は瀕死の重傷により魔王城で治療中だ。

「肩甲骨と胸骨の骨折。血管および筋肉の断裂が複数。内臓も破裂し、腹部の切り傷と風穴から腸が飛び出していたわよ。直撃はしていないけど、脊髄と骨髄にもダメージが及んでいた。骨折も断裂も破裂も酷いけど、脊髄か骨髄が破壊されていたら死んでいたわ」

 若干キレ気味に俺のカルテを読み上げている女医さんは、きっと俺が患者じゃなければ殴りかかっていたことだろう。

「緊急手術をされていたのには驚いたが……ミヤビ先生には感謝しているよ」

 ミヤビとはこの女医さんの名前であり、魔王夫妻の十一番目の娘。

 背中で束ねられた夜空のような髪に、黒真珠のような瞳。紅色の唇に白い肌。健康的にくびれた腰と、発育の良いお胸のお肉。白衣に右眼の片眼鏡は実に知性的。

 七番目の娘であるリノアよりも年下だが、肉体的にも精神的にもミヤビの方が上だ。魔王の娘たちは成長速度が異なり、妹らしい姉や、姉らしい妹なんてざらにいる。

 これは娘たちの能力や個性によるものであり、魔王夫妻のどちらの血を色濃く受け継いだかにも左右されるらしい。

 ミヤビは俺よりも年下だけど、俺より大人っぽいのでミヤビ先生と呼ぶこともある。

「術後は良好なようね」

 診察結果をカルテに書き加え、とりあえず後遺症その他の心配はないらしい。

「さすが、医療と医術を司る医学魔王……ミヤビ先生にはホント、感謝しないと」

 ミヤビは魔王の娘の中で、医療術に特化した能力をもっている。

 医を学び、医を研究し、医を実践し、魔界の医学を発展させていく。

「まあ俺が死んだら、ミヤビ先生は俺を嬉々として解剖するだろう」

 ミヤビ先生はお医者様だが、それ以前に魔王様でもある。

 医学の力及ばずに俺が不慮の死を迎えたとしても、ミヤビは医学の力を底上げするために不慮の死の原因を見つけ、次の医療に生かそうとする。

「まさか、涙を流しながら解剖するわよ」

 ミヤビ先生は嬉々として解剖はしないが、それでも解剖はするってことだな。

「ユーヤくんは友人だからそれなりに情はあるけど……研究や手術の訓練をするには、人形よりも新鮮な遺体を解剖して学んでいくほうが効率的よ。道徳的観点から言えば効率なんて不適切だけど、医学の発展には解剖と生物実験はどうしても避けられない」

 ミヤビ先生の言っていることは、俺は理解しているし納得もしている。

 綺麗事で医学は発展せず、魔界の医者たちは生きた者をまずは救うべきだと訴えた。

 魔界では生前の契約やご遺族の許可があれば医学の研究や訓練のため、解剖や移植は比較的簡単に行われている。ミヤビが高い医学の知識と技術をもっているのも、解剖や移植や研究などの経験や密度の成果と言えよう。

 とはいえ、ミヤビは医学に従事しているだけで、医学を信奉しているわけでもない。

「俺は涙を流しながらの解剖でも良いけどよ……奥方様は治したんだろう?」

 ミヤビは医者として奥方様を調べ、ちゃんと綺麗な状態に治したはずだ。

「まあ、ね……ママは生前に臓器提供の契約をしていた……だから私は、ママの身体から移植と研究に使える臓器を取り出したよ」

「自分でやったのか?」

「ええ……ママの身体を解剖するなら、私がやってあげたかったの」

 ミヤビもずいぶんつらい選択をしたものだ。

 奥方様が移植と研究に自分の遺体を提供したのも、なんとなく奥方様らしい。

「取り出されたママの臓器は、各所研究機関や病院に送り届けたわ……医学の中でママが生きていると考えれば、私は医学魔王で良かったと思う」

 ミヤビが悲しそうに、それでも少し安心したようにつぶやく。

「でもね……ユーヤくんが命がけで取り返してくれたママの遺体を解剖したのは、ユーヤくんの意思に泥を塗る行為じゃないかって、思わなくもないのよね」

 ミヤビは俺に気を使っているようだが、それこそ気にする必要性は皆無だ。

「それが奥方様の意思であるのなら、俺が口を挟むのはお門違いだよ」

 俺はただ、奥方様のご遺体を娘たちに返したかっただけだ。

 奥方様のご遺体が娘たちの手で葬られるのであれば、俺はなにも言わない。

「臓器を取り出したとはいえ、ママの身体は綺麗なものよ……シリコンで身体に厚みを作って、手術痕は綺麗に消して、お風呂で綺麗に洗って、みんなでママのお洋服を選んで、ママをお化粧して、パパとママの寝室で眠っているわ」

 あまり話したくはないかもしれないが、俺も奥方様のその後は気になっていた。

 正直俺からはふりにくい内容だったのだが、ミヤビが察してくれて助かった。

 助かったから、これ以上は喋らなくても良い。

「母さんは……俺の母さんはどうしている?」

 ママつながりってわけじゃないが、俺は俺で自分の母親のことが気になる。

「厄ママはいつも通りにしているわよ……厄ママも息子が甲斐性なしで相当まいっているはずだけど、母親として子供たちの前で取りみだしたりはしない」

 ミヤビの話を聞いて、俺はさすが母さんと若干ため息をついた。

 いつも通りで安心なのだが、息子のピンチにいつも通りはどうだろう、って気分だ。もっとも、母さんが取り乱してしまえば魔王の娘たちにも影響が及ぶだろう。

 こんな時だからこそ、母さんは俺や娘たちのために大人でいる必要がある。

「厄ママに会いたいのなら、元気になって自分の足で会いに行くことね」

 それも一つの親孝行の形だと、ミヤビは先生として言いたげだ。

 まあ確かに、弱々しい姿を母親に見せるのは、息子として悲しくなる。

 男子なら母親の前だからこそ、ビシッとしないとダメだな。

 これは俺の、息子としてのささやかな意地だ。

実を言いますと、この作品は前半と後半でだいぶ評価が分かれています。

前半は処刑から始まるショッキングスタートやスリリングな戦いが評価されていますが、第四章からは「期待外れ」や「賛否が分かれる」と辛口評価をいただきました。

ついでに一言

     「毒りんごは食べ飽きました」

                詠み人  鏡に愛された美女

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