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戦争人間  作者: ジュリー
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第四章 魔王の娘たち1

続きです。

新しい章に入ってようやく、ヒロインっぽい魔王の娘たちが出てきます。

勝手に一言

     「マッチョを売って大儲けしました」

                  詠み人  マッチョ売りの少女

 第四章 魔王の娘たち



『ユーヤ……起きなさい、(ゆう)()

 身体が重くてだるいなか、聞こえてくるのは俺のよく知る、とても優しい母さんの声。

『ほら、早く起きないと魔王に怒られちゃいますよ』

 魔王が、怒る?

『何人目の子だったかしらね……また女の子が生まれるそうよ』

 そうだ……魔王と奥方様の子供が生まれるから、俺たちは立会人として呼ばれたんだ。

 奥方様が出産する時は、いつも魔王は産屋の前をうろうろしているから、鬱陶しいからって理由で俺が相手をさせられる。

 出産前の男の『大慌て』は、子供とは言え同じ男じゃないと晴らせないらしい。

『ん? ユーヤはまだおねむかな?』

 どうにも気だるい俺に対し、母さんは軽く笑いの入った声をかけてくれる。

『おきる、よ……かあ、さん』

 ちゃんと起きないと……いつまでも、母さんに起こされているのは恥ずかしい。

 それと、母さんに『ありがとう』って言わないといけない。

 母さんが俺を拾ってくれて、育ててくれて、名前をくれたから、俺は助かったんだ。とっさに自分の名前を相手に叫んだらね、ちょっとだけ相手が動きを止めたんだ。

 母さんが名前をつけてくれなかったら、きっと俺は奥方様のご遺体を……あれ?

 今日は魔王夫妻の出産予定日なのに……なんで、奥方様の……?

『――母さん――?』


 そして意識が別の方向へと活性化されていくときに、母さんとは違った声が頭の中にぼんやりと浮かんできた。

「もうすこし、ねむっていてもいいよ」

 それは……まるで俺を労わるようなものだった。


 ***


「――母さん――?」

 重たい(まぶた)がようやく開いたと思ったら、そこに母さんはいなかった。

 俺はふかふかのベッドに寝かされており、身体の重みと気だるさで動くのも億劫(おっくう)だ。

「ごきげんよう」

 声が聞こえて、俺はぼんやりとしたまま視線をさ迷わせた。

「だけど、私はユーヤのママになった記憶はないよ」

 意識がぼやけていたのだが、声の主を視界にとらえた瞬間に一気に活性化。

「リノア!?」

 結んだ長髪は上物で柔らかな質感を誇り、わずかな風や動きで揺れている。水分を含んだ瞳は透明度が高い。幼い顔つきにプラスし、スレンダーな身体付き(主に胸部)はまさしく未成熟な少女。クリーム色のワンピースに、水色の飾りリボンが良く似合う。

 そしてリノアは、魔王夫妻の七番目の娘。

 どうしてリノアがこんなところにいるのかと疑問に思ったが……良く見りゃ、ここは魔王城の客室……俺が魔王城に泊まりにくる時に使っている部屋だ。

「シンラくんに感謝するのね」

 軽く混乱中の俺に対し、リノアの説明が始まった。

「ボロボロのシンラくんが、死にかけのユーヤとママを連れて、魔王城まで流れついてきたのよ……人間界から魔界まで、シンラくんは一人でママたちを運んでくれたの」

 なるほど……短い説明だけど、なんとなく状況が理解できた。

 俺は奥方様のご遺体を運ぶ最中に、無様に気を失ったわけだ。俺が途中で脱落しても、シンラは『奥方様のご帰宅』を続行した。厄神専用の人間界と魔界を繋ぐ〈厄災の海〉を、シンラは単機で漂流するように渡り、魔王城までなんとか流れ着いた。

 シンラは〈厄災を運ぶ船〉だとしても、船頭である俺が不在でよくたどり着けた。

 もっともシンラがいなければ、俺はそのままのたれ死んでいただろう。

「シンラは、今どうなっている?」

「ヴィンセント姉様がメンテナンスしているわよ」

「……そうか」

 ヴィンセントは魔王夫妻の五番目の娘。機械全般に特化した発明魔王であり、シンラの設計にもその技術と知恵に助けられた。

 ヴィンセントならシンラを完璧に修復してくれるだろう。

「奥方様は……どうなった?」

 奥方様の話を振ると、リノアの愛らしい顔が苦痛で歪む。

 それでもリノアはそんな顔を見せたくないらしく、すぐに表情を引き締めた。

「帰って来たよ、ちゃんとね」

 言葉足らずの答えだが、それで充分。

 奥方様はご帰宅した……娘たちのもとへ帰ってきた。

「ユーヤが目を覚ましたら、ハンニバル姉様に報告することになっているの」

「そうか」

 十五姉妹全員に報告するよりも、ハンニバル一人に報告したほうが速い。

 ハンニバルの統括能力を使えば、すべての姉妹が一括で理解する。

「ユーヤも、もう少し休んでいて良いよ」

 目が覚めたばかりだけど、全快には程遠い。

 今はまだ、リノアの提案に甘えて魔王城で休ませてもらおう。

 俺は身体中の力を抜き、精神を緩めると、すぐに眠気が襲ってきた。

「ユーヤ……ママを、ありがとう」

 囁くよう小さいけれど、はっきりと聞こえたリノアの憂いがこもった柔らかい声。

「べつに、いいよ……」

 俺が勝手にやったことだ。好き勝手やったやつに、感謝しても調子に乗るだけ。

 だから俺は、何事もなかったように返事を返し、そのまま眠りについた。


前にも伝えたと思いますが、魔王の娘たちの名前にはコンセプトがあります。

私の個人的な趣味趣向ではありますが、いろいろな作品を見てきた私が、悪魔以上に怖いと感じたキャラクターたちの名前です。

もしかしたら作品名が思い浮かび、その名前を使った私に嫌悪感を覚えるかもしれませんが「人間(奥方様)から生まれた悪魔」にふさわしい名前を考えた場合、思い付くのは記憶に残った恐いキャラクター名です。

ついでに一言

     「私の頭巾が赤い理由はね――」

                  詠み人  逞し過ぎる少女ハンター

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